第16話 四人の食卓
カイトはアキトの構えを正面から見つめた。
ほう、見たこともない型だが、打ち込む隙がないぞ。
恐らく斬るのために特化した構えだ。
「悪くない————」
カイトは呟いた。
「兄にかっこいいの」
肩車されているルナが目を輝かせた。
「アキト、ここに敵がいると思って攻撃してみてくれ」
「わかった」
アキトは刀を振り下ろした。
一閃。
ビュッ
蒼白いオーラが弧を描いた。
カイトは剣筋を見て思った。
斬撃の型には無駄がない。だが、筋力が未発達のため速度が遅いな。
「では、連続で攻撃してみてくれ」
アキトは頷くと再び刀を振り下ろした。
一閃。
ビュッ
切り返しの二閃。
ブン
型が崩れた。
自重がないため、刀に身体を持っていかれているようだな。
「よし、サネユキはしまっていいぞ」
アキトが頷き、サネユキを鞘に戻した。
カイトはルナを降ろすと大きなリュックから一本の木剣を取り出した。
「この重さならサネユキと変わらんな」
「その木剣もやる。遠慮は無用だ」
「ありがとう」
アキトは木剣を受け取った。
「次は模擬戦だ。まあ、模擬戦といっても俺は受けるだけだがな」
カイトはリュックから長い木剣を手に取ると言った。
「アキト、好きに打って来い」
「お願いします。カイトさん」
「こい、アキト」
カンッ、カンッ、カカン
木剣がぶつかり合う音が響く。
木剣を打ち合いながらアキトは思った。
楽しい、剣を打ち合うことが楽しい、カイトさんと打ち合うことが楽しいと————
しばらく打ち合っているとそれを見ていたルナが言い放った。
「ルナもやりたい、ルナもやりたいの」
二人はルナを見て打ち合いをやめた。
「ちょっと待ってな」
カイトはリュックから小さな木剣を取り出した。
「ルナちゃんの木剣はこれだ。はい、あげる」
カイトはルナに木剣を渡した。
ルナは手を上げて喜んだ。
「ではルナちゃん、俺と勝負だ」
ルナは真剣な顔で告げた。
「ルナ負けないの!」
ルナは木剣を握るとカイトめがけて振った。
ポカッ、ポコッ、ポコン
カイトは三度剣で受ける。
ルナは見様見真似でアキトの構えをした。そして木剣を振り下ろした。
パチン
木剣はカイトのふとももに当たった。
「ぐわぁぁ、やられた」
カイトは後ろに倒れた。それを見たルナは大喜びした。
「やったー、ルナ勝ったの」
アキトはその光景をみて微笑んだ。
夕陽が辺りを朱色に照らしはじめ、涼しい風が草原に吹いた。
そのとき、家の扉が開きエリナが出てきた。
三人に近づくと声を発した。
「みんな、夕食できたから食べに来てください」
「もう、そんな時間か。では俺はそろそろ帰るぞ」
カイトは帰り支度をしていると、エリナが声をかける。
「カイトさんもご一緒にどうですか?」
「え、いいんですか?エリナさん」
カイトがぎこちなく尋ねる。
「もちろんです。カイトさん。是非食べて行ってください」
「では、御言葉に甘えさせていただく」
そして、一同は家に戻った。
◆ ◆ ◆
エリナが大皿をもってテーブルに置いた。
「今日は黒兎の香草焼き串でーす」
といつもの口癖を言ってしまった。
「でーす?」
カイトはエリナを見た。
「あぁ、私としたことがお客さんの前で…ごめんなさい、カイトさん」
エリナは顔を赤らめた。
「あぁ、いやぁ」
カイトは微笑んだ。
「姉ねはねぇ、嬉しいことがあるとその口癖になるの」
ルナは無邪気に言った。
「ルナッ」
エリナは顔が赤っかになった。
アキトはその様子をみて微笑んだ。
心が温かい。
そして配膳が終わり全員が着席した。
大皿には黒兎の香草焼き串。肉の間に焼き野菜を挟まれていた。
そして黒パンと野菜スープが各自の前に置かれた。
奥の席にエリナとカイト、手前の席にルナとアキト。
四人が初めて一緒の食卓を囲んだ。
「いただきます」
アキトが囁くとみんな食べ始めた。
「では、エリナさんの焼き串を頂く」
カイトは豪快に口に入れた。
口の中で塩と香草の絶妙な匙加減が肉の旨みを引き出した。
カイトは目を見開く。
「うまい、ただひたすらうまい」
「エリナさんの手料理は最高だぞ」
カイトは言い放った。
「そうですか、褒めていただきありがとうございます」
エリナは微笑んだ。
「おいちーの、おいちーの」と言いながらルナもパクパク食べている。
アキトも焼き串を口にいれた。
「!」
故郷のスーパーで買った焼き串とは比べ物にならないくらい美味しい。
「姉さん、これは本当に美味しいです」
アキトは言った。
「ありがとう、アキト」
エリナは満面の笑みを浮かべた。
美味しい食事、楽しい会話。四人の笑顔。
いつまでもこの幸せなひと時が続きますように————アキトは願った。
続く
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