第14話 最初の一歩
「いってきます」
アキトは扉を開き外に出た。
初夏の陽光が草木に反射して煌めく。
エリナとルナは玄関の前に立ちアキトを見送った。
「アキト、いってらっしゃい」
「兄に、がんばるの」
アキトは振り返り軽く手を振ると、東側にある村の広場を目指した。
村を南北に走る清流をこえると村の広場が見えてきた。
「待っていたぞ、アキト」
カイトが手を振った。
「ぉ、カイトと同じ黒髪の少年じゃないか、親戚か何かか?」
カイトの右隣にいるスキンヘッドの男が言った。
「いや、アキトはエリナさんのところの遠縁の子だ」
カイトの左隣にいるのっぽの男が言った。
「珍しい黒髪だもんな。カイトの弟だと言われても違和感ないな」
「ははは」
カイトは苦笑いをした。
「こんにちわ」
アキトはカイトに軽く会釈をした。
「来たな、アキト」
カイトはアキトの肩を軽く二度叩いた。
「紹介するよ、アキト」
カイトはスキンヘッドの男を指さした。
「こいつはロイド」
「よぉ、坊主。よろしく」
「アキトです。よろしくお願いします」
アキトは会釈をした。
「こいつはトム」
「アキト、よろしくなぁ」
「トムさん、よろしくお願いします」
アキトは再び会釈をした。
「よし、自己紹介終了だ。俺達三人はこの村の自警団をしている。たった三人しかいないがな」
カイトは笑った。
「では、村長のところへ行こうか」
四人は村長の家に向かった。
◆ ◆ ◆
村長の家の前には人だかりができていた。
「きみたちは北の畑を頼む」
小太りな男は指示を飛ばしていた。そしてカイトに気付く。
「来たか、カイト。今日もよろしく頼む」
男はアキトに気付きカイトに尋ねた。
「この見慣れぬ少年は?」
「エリナさんのところの遠縁の子だ。昨日、エリナさんが引き取っていた」
「アキト、ヤンバさんに挨拶するんだ」
「はじめまして、アキトとお申します。よろしくお願いします」
アキトはお辞儀をした。
「そうか。エリナさんのところの者なら問題ない」
「ヤンバさん、俺達はどこにいけばいい?」
「引き続き東の畑を頼む」
「よし、野郎ども行くぞ」
四人は村の倉庫に立ち寄り、鎌と台車を用意すると小麦畑へ向かった。
陽光に照らされ黄金色に輝く広大な小麦畑。穂が風にやさしく揺られていた。
「では、やるか。アキトは俺が面倒みるからお前たちは刈り取りを始めてくれ」
二人は頷くとそれぞれ両端から小麦を刈り始めた。
「アキト、小麦はこうやって刈り取るんだ」
カイトは見本を示す。
「では、アキト。やってみろ」
アキトはしゃがむと小麦を掴んだ。そして根本に鎌をいれると手前に引いた。
ザクリッ
軽い音がして小麦が茎から分離される。
「おお、切り口といい無駄がない。初めてにしてはなかなかのものだ」
カイトはアキトの背中を叩いた。
「その調子で刈り続けるんだ。俺は少し離れてやるからなにかあったら声をかけてくれ」
「わかった、カイトさん」
アキトは頷くと、小麦を丁寧に刈り始めた。
三時間経過————
アキトの全身が悲鳴を上げている。そのとき後ろから声がかかった。
「そろそろ昼休みだ」
振り向くと村長ヤンバが籠をもってこっちに向かってきた。
そして、それぞれに竹筒にはいった水と黒パンと一切れの干し肉が手渡された。
「アキトくん、初日にしては頑張ったじゃないか。大したものだ。午後もよろしく頼む」
ヤンバはアキトを褒めた。
アキトはぎこちなく笑った。
カイトはアキトに声をかけた。
「あと二時間頑張れ、アキト」
一時間の休憩の後、午後の作業が開始された。
身体が悲鳴を上げている。故郷だったら音をあげていただろう。
だが————この世界では頼るべき大人はいない。
アキトは死力を振り絞り小麦を刈った。
ひとつ、ひとつ、確実に刈った。
二時間経過————
後ろからヤンバの声がかかる。
「お疲れ様、今日はここまでだ」
アキトはやり遂げた。
「では、片づけだ。アキトは少し休んでいろ」
カイトが指示を出した。
カイトたちは台車に刈り取った小麦を次々と乗せた。
「よし、野郎ども村長の家に帰るぞ」
カイトは指で合図した。
アキトは棒になった足でカイトたちの後ろに着いていった。
ヤンバは作業を終えた男達に報酬の小麦の入った革袋を渡し続けていた。
「アキトはよく頑張ったよ」
トムがアキトの右肩を叩いた。
「音を上げぬとは、流石はカイトの弟分よ」
ロイドが左肩を叩いた。
「流石は俺の黒髪仲間だ」
カイトは背中を叩いた。
「よく頑張ったな、アキトくん」
ヤンバはアキトに労いの言葉をかけて革袋を渡した。
「見事にやり遂げたな、アキト。小麦を持って帰ればエリナさんが喜ぶぞ」
カイトはにやりと笑った。
「今日の頑張りが明日の体力を作る!今のアキトに必要なのは体力だ!」
「では、明日も広場で待っているぞ」
「わかった、カイトさん」
アキトは会釈するとカイトらと別れた。
そして、棒になった足でゆっくりと家へ戻った。
◆ ◆ ◆
トントンッ
扉を叩き、アキトは言った。
「アキトです」
扉が開くとルナが足元に抱きついてきた。
「兄に、おかえりなの」
遅れてエリナが出てきた。
「おかえり、アキト」
「ただいま」
アキトが答えた。
「あの、これ…」
アキトは革袋をエリナに差し出した。
「まあ、ありがとう、アキト。明日の朝はこの小麦でパンを作りましょう」
エリナは微笑んだ。
「明日は兄にのパン、兄にのパン!」
ルナは無邪気に喜んだ。
アキトは、異世界テレシアで最初の一歩を踏み出した。
続く
評価やレビューなどがあれば励みになります。
よろしくお願いします。




