第13話 カイト
チュン、チュン、ピィピピィー
小鳥の鳴き声がアキトを眠りから覚醒させた。
ルナはアキトの横でスヤスヤと寝ている。
隣の機織り部屋からなにかを縫う音が聞こえる。
アキトが起きて台所へ向かおうとしたその時、エリナが声をかけてきた。
「アキト、おはよう。丁度よかった。今、服が完成しました」
エリナは完成したばかりの麻の服を手渡した。
「まず、この服を着てください」
エリナは微笑む。
「エリナさ————」
アキトは言いかけた言葉を改め、続けた。
「お姉ちゃんが作ったの?」
「そうです」
「わかったよ。ありがとう」
アキトは礼を述べるとベッドのある部屋に戻り服を着た。
服は少し大きめだが機能美と形式美にあふれていた。
アキトは再び台所へ戻った。
「うん、いい感じです」
エリナはニッコリと微笑んだ。
そして————
エリナはアキトを見て口を開いた。
「お姉ちゃんはアキトにこの世界で初めての仕事を与えます」
エリナは桶をアキトに手渡すと言った。
「この桶に水を汲んで来て下さい」
エリナは台所にある大きな瓶を指さした。
「そして、汲んできたら台所の瓶に水を入れてください」
「昨日の川のところでいいの?」
「はい、そうです」
「わかったよ」
アキトは微笑むと桶を持って外に出た。
◆ ◆ ◆
アキトは歩き清流を目指した。
朝の澄んだ空気が心地よく、朝露に湿った草が風に揺れる。
ほどなく昨日の清流にたどり着くと桶を川に降ろした。
すると————
アキトが桶に水を入れていると後ろから声がかかった。
「おーい、そこの少年」
アキトが振り向くと、両手に大きな桶を握った肩幅の大きい黒髪の青年がこちらへ向かって歩いてきた。
「初めて見る顔だ。少年はどこから来たんだ?」
「・・・」
「あぁ、失礼した。まずは名乗るべきだな。俺はカイト」
「僕はアキトです。エリナさんのところでお世話になっています」
「エリナさんの?」
カイトは首を傾げた。
「アキトはエリナさんの親戚かなにかか?」
「・・・」
「とほほ、同じ黒髪仲間と思ったのに、いきなり嫌われてしまうとは…」
カイトは手を顔に当て肩を落とした。
「だが、俺は諦めんぞ!」
カイトは両手を組み考え、やがて閃いた。
「よし、俺もエリナさんの家に行こう」
アキトはカイトの気持ちの切り替えの素早さに驚いた。
そしてカイトの目を見て話した。
「わかりました。一つだけお願いがあります。エリナさんに危害を加えないと約束してください」
「約束する。そもそも俺はエリナさんを害するようなことはしないぞ」
「約束しましたからね。カイトさん」
二人は水を汲むとエリナの家に帰ってきた。
アキトは扉をあけて家に入った。
「ただいま」
「おかえり、アキト」
アキトは水を瓶に入れながら話した。
「カイトさんが僕について話があるからと外で待っています」
「まあ、カイトさんが?」
「僕も一緒に行きます」
そうして、二人は外に出た。
◆ ◆ ◆
「カイトさん、お久しぶりです」
エリナが軽く会釈をした。
エリナの長い髪が風にやさしく揺られる。
「エ、エリナさん!?」
カイトは驚いた。
カイトがエリナに会ったのは去年の収穫祭のときに軽く挨拶したくらいだ。
それぞれの家も西の外れと東の外れ、生活圏も異なっていた。
それが、しばらく見ぬ間に麗しい乙女に成長していたのだから。
「あの、いやぁ、アキトがエリナさんに世話になっているというから…」
カイトは明らかに動揺していた。
「カイトさんは、アキトについて聞きに来たのですね?」
「ぁぁ、つまりそういうことだ」
カイトは頷く。
エリナは一呼吸すると、強く言い放つ。
「アキトは私の弟です。そして私はアキトのお姉ちゃんです」
「おとうと!だと?」
カイトはエリナの気迫に押される。
「そうです。弟です!!」
「いいですか、カイトさん。アキトがなぜ弟なのか……」
カイト相手に一歩も怯まないエリナ。
二人の問答を横で聞いていたアキトは微笑んだ。
「待って、エリナ姉さん。カイトさんは悪い人じゃないと分かったよ」
「ぉぉ、アキト。やっと気づいてくれたか!その言葉を待っていたぞ!」
エリナに畳みかけられていたカイトは復活した。
「姉さんに迷惑がかかるといけないので、僕がカイトさんに僕のことを話すよ」
「アキトがいいなら私は構いません。でも私はアキトのお姉ちゃんですからね!!」
エリナはアキトに念を押した。
「わかったよ、エリナお姉さん」
「カイトさん、僕の話を聞いてほしい」
アキトはカイトに今までの経緯を話した。
◆ ◆ ◆
「大変だったんだな、アキト」
カイトは神妙な顔で言った。
「————エリナさんも戦女神を見ている」
「アキトが話していたことは事実なんだろう」
カイトは一呼吸置く。
「ただ、村の人がその話を聞くと混乱する」
カイトはエリナを見て言った。
「アキトはエリナさんの遠縁の子ということして村の人に紹介するのはどうだろうか?」
エリナは頬に手を当ててしばし考えた。
「確かに。そういうことにしましょう」
カイトはアキトに目線を合わせた。
「そうだ、アキト。今、小麦の収穫で男手が足りないんだ。働けばいくらか小麦を分けてもらえる、やってみないか?」
アキトは少し考えた後答えた。
「わかったよ。お願いします。カイトさん」
「じゃあ、9時に村の広場まで来てくれ、俺が村長に紹介してやる」
そういうとカイトは手を振り去っていった。
続く




