第11話 家族
トン、トン
心地よい機織り機の音が響く。
アキトとルナは泣き疲れたのか、ベッドで仲良く抱き合って寝ていた。
日が天の頂に到達するころ、ルナは目覚めた。
眠気の眼で台所へ向かうと叫んだ。
「姉ねぇ~」
機を織る音が止まるとエリナが仕事部屋から出てきた。
「ルナ、ずいぶんと遅いお目覚めですね」
エリナはルナのほっぺをぷにぷにした。
「えへへ」
ルナは笑う。
「ルナ、アキトも起こしてください」
「わかったの」
トタタタッ
軽い足音をさせてルナは寝室へ向かった。
「兄に、起きて」
ルナはアキトを揺さぶった。
何度か揺さぶるとアキトの意識は覚醒した。
「ナガト、おかあさん…」
アキトは弱弱しく呟いた。
「アキト、ルナ、昼食ができたのでこちらへ来てください」
エリナが台所から声をかけた。
「兄に、昼食なの」
ルナはアキトの手をひっぱった。
アキトはルナに引っ張られて台所のテーブルに座った。
テーブルにはパン、チーズ。ミルクの入ったコップがそれぞれ置かれていた。
もうルナは食べ始めている。
アキトは落ち込んだままだ。
「アキト、まずは食べましょう」
エリナが声をかける。
グゥゥゥゥゥゥゥ
アキトのお腹が鳴る。
落ち込んでいても腹は減る。それが人である証だ。
「いただきます」
アキトは小さく呟くとパンを口に運ぶ。
味のないパンだったが、アキトにはなんともいえないやさしい味に感じた。
アキトの目から涙がこぼれる。
エリナは二人が食べる様子を微笑みながら見ていた。
ほどなく食べ終わるとエリナがアキトを見つめ口を開いた。
「昨日も言いましたけど、私はアキトのお姉ちゃんです。だからアキト、"お姉ちゃん"と呼んでください」
アキトは下を俯く。ルナは二人の様子をじろじろと見ている。
「さあ、アキト。言ってみてください」
アキトは聞こえないくらいの声で囁く。
「お姉ちゃん」
「アキト、聞こえません。お姉ちゃんの言うことを聞かない子には罰を与えなければなりません」
エリナは立ち上がり、笑みを浮かべながらアキトへ近づいてくる。
「アキト、立ってくださーい」
アキトを立たせる。
「これより————」
「抱きつきの刑を執行しまーす」
エリナはアキトを力強く抱きしめた。
「ぅぅ…」
アキトが呻いた。
「さあ、"お姉ちゃん"と言ってください」
陽だまりのように温かい————
そして言った。
「お姉ちゃん」
「はい、よろしい」
エリナはアキトを解き放った。
「お姉ちゃんの言うことはちゃんと聞いてくださいね、アキト」
「うん」
アキトは頷いた。
見ていたルナが叫ぶ。
「ルナにも執行して、姉ね」
「ルナにも刑を執行しまーす」
エリナはルナも抱きしめた。
「えへへへぇ」
ルナは満面の笑みをこぼした。
◆ ◆ ◆
「アキト、村の市場へ行ってくるからルナのことをお願いしますね」
エリナは仕立てた織物や衣服をもって出かけていった。
家にはアキトとルナが残された。
ルナは古びた人形で遊んでいた。飽きてきたのだろうアキトのもとへやってきた。
「兄に、あそぼ」
ルナがアキトの腕を掴みお願いした。
「なにするの?」
アキトが無機質に答える。
「絵、描くの」
ルナは切れ端と小さな木炭を2つ持ってきた。
「兄には兄に書く、ルナはルナ書く、姉ねは一緒に書くの」
そういうとルナは木炭で自分の絵を描き始めた。
アキトは言われるままに反対側に自分の絵を描いた。二人とも炭がついた手で顔を触るのでしだいに顔も真っ黒になった。
そして、真ん中にエリナの絵をふたりで描いた。
「できたの」
ルナは喜んだ。
「できたね」
アキトが少し微笑んだ。
悪戦苦闘すること数十分。家族の絵が完成した。
ガチャガチャ
鍵を開ける音が聞こえた。
玄関から声が聞こえた。
「アキト、ルナ、今帰りました」
エリナが扉をあけて帰ってきた。
続く




