第10話 涙
「ありがたい」
ナガトはエリナが持ってきたお茶を飲んだ。
「ところで、この家の主はまだ戻られぬのか?」
「主は私です」
エリナが答える。
「なんと!」
ナガトは驚いた。
「私とルナの二人暮らしです。両親は三年前の流行り病で亡くなりました」
「そうだったのか…」
「気にしないでください。もう過ぎたことです」
「すまぬ」
しばらく、会話が途切れた。
エリナが沈黙を破り口を開いた。
「あなたたちは何者なのか、聞かせてもらえませんか?」
「失礼した。話せば長くなるが聞いてもらいたい。構わぬか?」
「ルナも聞きたいの」
ルナは目を輝かせる。
「はい、お願いします。少し早いけど戸締りをしてきますのでしばらくお待ちください」
エリナは玄関方へ向かいカギをかけ、窓の戸板を降ろした。
そしてエリナは戻ってきた。
◆ ◆ ◆
ナガトとアキトは今までの経緯を時間をかけてゆっくりと話した。
「不思議な話ですね。アキトさんは人でナガトさんは神ですか」
エリナはアキトとナガトの目を見つめた。
そして————
少し考えたあと言葉を続けた。
「二人は嘘をついているようには思えません」
「ルナも信じるの。日出づる国の話も信じるの」
アキトは苦笑いをする。
外は日が沈みつつあった。
「もう夜ですね」
「夕食の準備をします」
エリナは三か所のランタンに火をつけた。
暖かい光が家を満たした。
そして、台所へ向かった。
「今日は姉ね自慢のクリームシチューなの」
ルナは上機嫌だ。食欲をそそる匂いが台所から漂ってくる。
「できました」
エリナが声をかける。
「わーい」
ルナは台所へ駆けて行った。
「ナガトさんとアキトさんもこちらへ来てください」
エリナが手招きする。
「私は神なので食べなくても大丈夫だ。配慮感謝する」
ナガトは頭を下げる。
「そうですか————」
エリナはなにかを理解した。
「アキトは、食べてくるんだ。私はもう食べなくてもいいんだ」
「少し休む。食べ終わったらみんな私のところへ来てほしい」
ナガトは精一杯の声で告げた。
「ナガト、大丈夫だよね?」
「ぁぁ… なんとかな。アキトは食べてこい。生きるために食べるんだ」
ナガトはアキトの背中を押した。
「ぅん」
アキトは小さく頷くとテーブルのある部屋へ向かった。
「アキトさんの席はこちらです」
エリナは指さした。アキトが座ると木の皿にクリームシチューが注がれた。
濃厚なチーズの匂いが食欲をそそる。添えてあった木のスプーンでそれを口に入れる。
「おいしい————」
アキトは目に涙を浮かべながら食べた。
「兄に、どうして泣くの?」
ルナは首を傾げた。
エリナは黙ってスープを口に入れていた。
全員が食べ終わりナガトが寝ている部屋へ戻ってきた。
◆ ◆ ◆
ナガトはみんなに告げた。
「私はどうやらここまでのようだ」
「私はしばらく眠らなければならない」
「ナガト、いちゃやだよ」
アキトは涙ぐむ。
「アキト、私は天に帰るわけではない。少し眠るだけだ。また会える」
ナガトは透ける手でアキトの頭を撫でた。
「アキト、サネユキを委ねる」
ナガトはサネユキをアキトに手渡した。
ナガトはエリナを見つめた。
「エリナさん、もう頼めるのがあなたしかいない。どうかアキトをあなたたちの家族に迎えてもらえないだろうか?」
エリナは即答する。
「わかりました、ナガトさん。アキトさんは私の弟、ルナと兄としましょう」
エリナがルナを見た。
「ルナ、アキトさんはあなたのお兄さんです」
「わかったの、姉ね」
ルナは頷いた
「ありがとう、エリナさん」
「これはわが友ギギからもらったものだ。役に立ててほしい」
ナガトは革袋をエリナに手渡した。
「ルナさん、アキトを支えてやってもらえないだろうか?」
「わかったの」
ルナは頷いた。
ナガトはアキトを優しい目で見つめた。
「アキト、私の近くに来てくれないか」
アキトは涙を流しながらナガトに近づいた。
「よし、これよりアキトを抱擁する」
ナガトはアキトを優しく抱擁した。そして耳元で囁いた。
「ギギはアキトのことを私の子だと言っていたな。そうかもしれぬな」
「ナガトォ、僕を置いていかないでよ、ナガト、僕を一人にしないでよ、ナガトォ————」
アキトは大粒の涙を流し泣いた。
アキトの泣き声を聞いたルナも泣いた。
ナガトはアキトの背中を撫でて言った。
「アキト、生きろ。つよく、生きろ————」
そう言い残すとナガトは光の粒子になり————やがて消えた。
「ナガトォ————」「ぁぁ…わああぁぁぁぁぁぁ————」
泣き声が一晩やむことはなかった。
続く
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