『昨晩スンドゥブチゲを食べた人』が出たら死
俺は告白された後も、香織には普通に接するようにした。香織も告白について特に何も言わないけど、一緒に寝て欲しいとか、なでなでして欲しいとか言うことが増えた。うん、かなーり甘えてきてる。
それで、相変わらずめっちゃ可愛いんだよなあ。潤んだ瞳を向けてお願いして来るんだよ。いやー、甘やかしちゃうよね。......兄として!
さて、そんな日々が続いて10月に入り、運動会の季節がやって来た。うちの高校は10月に入ってから運動会をやるが、他の高校は大抵9月の初めだから若干遅めだ。ま、熱中症にならないから良いと思う。
いつも通り香織と登校し、下駄箱で別れ、階段を上る。教室に入ると、既に体操服に着替えている仁がゆる〜く手を振って来たので、俺もゆる〜く手を振ってさあ自分の席に〜、と思ったが、紗奈が俺の席を不法占拠していた。……なんか初対面の時を思い出すな。今日は運動会スタイルのポニーテールになっているが、それ以外は一緒だ。
「おはよう、紗奈」
「あ、れーちゃん!おはよう!」
俺に気付くと、紗奈は元気溌剌な挨拶を返してバッと立ち上がった。ポニーテールと首元のリボンがふわっと揺れる。
「なあ紗奈。まだ着替えてないけど、俺の席に座って何してたんだ?」
「ん?運動会の日とはいっても朝は寒いでしょ?だから、暖めておきました〜♡」
やる事が可愛い!
若干変だけど!
可愛いからいい!
ナア、船長!
「クァー!!」
「えっ!?」
「ああごめん、つい出ちゃった」
「出ちゃった……?あはは、私はおふざけするれーちゃんも好きだよ♡」
紗奈、尽くすなあぁー、尽くしてくれちゃうなあぁー。このままじゃダメ人間になってしまう。でも抗い難い、甘い誘惑だ。……いつかお布団も暖めてくれるのかな?
『ダーリン、お布団暖めておきました♡それじゃ……こっち、おいで?』
って。駄目だ。もし秀吉が紗奈みたいな甘やかす系女子だったら、信長は天下統一なんてほっぽり出して愛でちゃうわ。いや、愛でられる、か。あー乱世乱世。甘やかしの変。信長は死ぬ。
閑話休題。
トイレに移動して、ニヤニヤを抑えながら更衣。俺が今日出るのは借り物競走と、学年種目の大玉転がしの2つだけだ。正直楽だな。あ、応援合戦に参加する気は無かったので、俺は展示パネルを描く係をやった。……先輩のやる気がエグくてあんま仕事無かったけど。どうも、ダメ人間です。
そんなこんなで、グラウンドへ移動。やけに長い開会式を終え、運動会が始まった。仁はチーム別リレーで独走、当然1位。紗奈はガチンコ短距離で、なんと1位。香織は障害物走で華麗に仕掛けを抜け、余裕の1位。......俺も続きたいな。
「なんかあったら行くかも。そん時は頼んだぞ」
そう言い残し、俺は舞台へ。係の生徒の指示に従って並ぶ。あっという間に俺の番が来た。
位置について、よーい!
パアアアァァァァン!!!!!
えげつない発砲音を聞いて、一斉に走り出す。うちのクラスの陸上部のやつがギュンギュン距離を離していくが、なんとかに食らいついて2位の位置につく。よし、ここからは運だっ!俺は意を決し、パネルを捲ったっ......!
『♡大切な人♡』
わあ、大当たり〜!!ってやつだ。俺の場合マジで当たりだが。俺は一目散に自分のクラスのテントに向かう。到着すると、紗奈と香織が話していた。
......あ、大切な人って恋人に限らないよね?
「あ、お兄ちゃんだ!」
「れーちゃん、もしかして?」
「ああ。紗奈、来てくれ!あと香織も!」
「おっけー!」
「え、お兄ちゃん!私もなの?」
俺は二人の手を取って駆け出す。
「おおーっと!1組酒井くん!校内人気第1位、誰もが認める圧倒的な美少女でありながら、お兄ちゃん大好き!な妹と、隠れファン多数、活発な性格と一途な様子のギャップが最高!嫁決定美少女の彼女を連れ、今!走り出したーっ!!」
めっちゃ目立つアナウンスが響き渡った。放送の野郎、やってくれたな!......ありがとう!いやー、分かってんな!その通りだよ!自慢の妹と彼女だ!名アナウンスだ!
俺たちは2位に大差をつけ、1位でゴール!うむ、最高の気分だ!
「お兄ちゃん、やったね!」
「本当に来るとは思わなかったよ〜!あっ、パネルにはなんて書いてあったの?」
「『♡大切な人♡』だよ。二人とも俺の大切な人だ」
俺がそういうと二人は頬を赤く染め、モジモジしだした。
「......えへへ、大切な人か〜♡私が、お兄ちゃんの......」
「......これってプロポーズだよね?もう結婚しても、いいよね......」
香織と紗奈は2人して自分の世界に入ってしまった。……厄介なことになったかも知れない。
大玉転がしの時、さっきの陸上部とチームが同じになった。そういえば、ドベになってたな。理由が気になったので、パネルがなんだったか聞いてみた。
「パネル?......『昨晩フグ刺しを食べた人』だったぜ。嘘みたいだろ?だが、嘘じゃねえんだよなぁ......」
彼は遠い目をしてそう言った。やっぱうちの高校イカれてんな。
俺は本当に運が良かったんだな……。ちなみに大玉転がしは、彼が爆走したせいで大玉がどっか行ったのでドベだった。まあそんなもんだ。......それでも最終的には総合優勝獲っちゃったから、うちのクラスは優秀だったな。
こんな感じで、俺の熱い夏は終わりを告げた。




