炎の舞
頭から、水をかけられた。
派手に水が飛び散った。アシェイラの肩から上が、ずぶ濡れになる。チュニックと肌の間に水が滴り落ちてきた。
口に違和感があった。舌の上で、何かが動いている。吐き出すと、床にかえるが落ちた。あおがえるだ。げこ、とひと声鳴くと、ぴょんと跳ねて暗がりの向こうへと消えていった。
うがいをしたかったが、今のアシェイラには立ち上がることも、腕を動かすこともできなかった。ひもで、椅子に縛りつけられている。
アシェイラは首を大きく、上に振った。額にかかっていた、水に濡れた髪をはねのけた。息をつくと、目の前にいるふたりを見た。にらみつけるのではなく、笑いかけた。
「あんたにしては、気が利いているんじゃないの、ミューリア。かえるを入れておくなんてさ」
ミューリアはなで肩の、やや猫背ぎみの中年の女性だった。体つきはほっそりとしている、というよりは痩せすぎているみたいだった。たいまつの灯の下でも、顔色が青ざめているのがわかった。
唇が赤く、濡れているように光っているのだけど、それが唯一の特徴のようなもので、あまり印象に残らない顔立ちをしていた。あごも細く、鼻も低かった。
ミューリアはチュニックの上にきれいな刺しゅうのされた袖のない上衣と、足首まであるスカートがひとつになったものを着ていた。えりの部分にはひだ飾りがあり、胸もとには大きなリボンがついていた。両方のひじから先には床に届くくらいの、大きなつけ袖が留められていた。
アシェイラは馬を飛ばし、このトライステープルの町に忍び込んだのだけど運悪く見つかってしまい、ミューリアの前まで連行されて来たのだった。
「いや。それとも――かえるはあんたではなく、そちらの考えだったんじゃないのかい」。
アシェイラはミューリアの隣にいる、体格のいい男に視線を移した。男は上半身裸で、黒のズボンをベルトで吊っていた。今、水をかけたのもこの男で、すぐそばの床の上には桶が置かれていた。
ミューリアは鼻を鳴らした。近づいてくると、腕を振り上げた。ぱん、と頬が鳴った。「かえるはあまり、気に入らなかったようだね」
ミューリアはアシェイラの目の前で、腕を組んだ。見下ろしてくる。
アシェイラは首を横に振った。血の混じった唾を吐き出す。
「……かえるはいいんだけど、生暖かい水ってのがね。あんたなら、腐った牛乳をぶちまけるくらい、やりかねないと思ったんだけど」
男が奥にあるテーブルまで歩いていった。鞭を手にするが、アシェイラはそれを見ないようにした。
「おもしろいことを言うね。望みとあれば、それに応えてあげてもいいんだけど」
ミューリアが前髪をつかんだ。強引に、顔を上向かせた。
「あんたにはさんざん、ひどい目にあわされているからね。そのくらいじゃ、わたしの気分は収まらないね」
ミューリアは以前、神官側についていた商人だった。人買いにも手を染めており、アシェイラたちはその拠点を襲撃したことがあった。「あんたのような憶病者にはお似合いだよ。からだの自由を奪って、ねちねちと仕返しをするところなんかがね」
ミューリアがアシェイラから離れた。と、男がアシェイラの腹部に、拳を叩きつけてきた。
「が……あっ!」
アシェイラはからだを前に倒した。息が止まる。刺すような痛みが這いのぼってきた。が、胃液はこみ上げてこなかった。
「もう、いい。そのくらいでね」
ミューリアの声は遠くから、響いてくるようだった。
アシェイラは歯を食いしばって、顔を上げた。ミューリアをにらみつける。
それに、ミューリアは満足そうな笑みを浮かべていた。
「さぁて。これからあんたを、どうしようかね」
ミューリアが人差し指をのばした。アシェイラのあごに突きつけた。
「殺しちまってもいいけど――それだけじゃあねぇ」
ミューリアは今度はチュニックの胸もとを指先で引っ張った。下まで一気に引き下ろした。チュニックが裂け、アシェイラの肌がのぞいた。水に濡れた胸の谷間と腹部が、露になる。
アシェイラは大きく息を吸ったけど、悲鳴はあげなかった。そばにいる男の鼻息が増した。アシェイラに向ける視線が暗くなる。
「決めた。いいこと、考えついたよ」
ミューリアがアシェイラの耳もとに、口を近づけてきた。
「あんたを思いっきり、辱めてやらないとね」
◇ ◆ ◆
舞台は赤い光で満たされていた。壁や天井から吊り下げられているランプが、いくつもの明かりを放っている。リュートを奏でる音だろうか、淫靡な響きを持つ音楽が聞こえてきていた。妙な匂いのする煙が漂ってきていて、それを嗅いでいると、頭の働きが鈍るような気がした。
舞台の後ろはカーテンで仕切られていた。その影ではたくさんの人たちが忙しそうに衣装を着替えさせたり、化粧を手伝ったり、小道具を運ぶなどしていた。
娼館というものはきっと、こういうものなのだろう。彼女自身はもう、着替えは終えていて、あとは声がかかるのを待つばかりだった。
――でもこれじゃ、衣装とも呼べないよねぇ。
舞台の袖のところで、アシェイラは自分の着ているものを見下ろし、つぶやいた。
上衣はお腹のところまでしかない短いもので、へそが出ていた。胸の谷間を強調するようにえりのラインが深く入っていて、ひもで結ぶようになっていた。生地も薄くてゆったりとしており、少し動いただけでふわりと、めくりあがりそうだった。下のスカートはひざのあたりまであるのだけど、横に大胆なスリットが入っていて、歩くと太股がのぞくようになっていた。
「ほら! あんたの番だよ」
背中を押された。アシェイラはそのまま、階段を登った。舞台にあがる。
舞台は手前が横に一番広く、二段目が少し狭く、三段目から長く突きだすようになっていた。
舞台のまわりには丸テーブルといすが配置されていた。男たちが飲み食いをしながら、こちらに視線を注いでいる。男たちはフェザード市軍の戦士がほとんどだったが、なかには神官軍の人間も混ざっているようだった。見えざる神の象徴である聖なる環の首飾りをさげていた。
指笛が吹き鳴らされた。拍手がまわりを満たす。
「いいぞ!」
「やっとだぜぇ、若い娘が出てきたの」
「姉ちゃん、踊りだ。踊り!」
「いやらしい舞で、おれたちをいい気分にさせてくれよ」
下卑た声が、あちこちからあがった。が、アシェイラはそれに気後れすることはなかった。逆に、にらみつけてやった。
突然、横のテーブルからひとりの男が走りよってきた。舞台の上に登り、アシェイラに迫ってきた。
「引っ込め! ウォーヴァン」
「おまえにはもったいねぇよ。退場、退場!」
「気が早いんだよ。踊りを見てからでも、遅くねぇだろうが」
皿やスプーン、酒杯などが飛んできた。がしゃんと、音をたてる。
ウォーヴァンがそれをかわしながら、男たちに手を振った。アシェイラに抱きつこうとする。
が、アシェイラはおとなしく、相手にされるがままになど、なってやらなかった。頬を平手で叩いた。
ぱちんと、派手な音が響いた。酔っぱらっていたのか、ウォーヴァンが転んだように、ひざをついた。周囲で笑い声が起こった。
「だらしねぇぞ」
「どうした。小娘ひとり、つかまえられないのかよ」
「ウォーヴァン! ウォーヴァン!」
拳でテーブルを叩きだした。振動に食器ががしゃがしゃと、音をたてた。
ウォーヴァンが頭を横に振った。アシェイラを見る。怒ってはいないが、まなざしは真剣だった。
「この!」
立ち上がった。今度は平手で叩く隙はなかった。抱きつかれた。
アシェイラの手が自然に動いた。ウォーヴァンの腰から、小剣を抜いた。胸もとに剣の先を突きつける。
声と音がいっせいに止んだ。それまでと違う空気が流れた。
アシェイラは後ろに一歩、下がった。剣を構えると、身軽な動きで舞を踊った。
剣舞なら、エルカに教えてもらったことがあった。基本の型のみで、踊ったことは一度もないのだけど、このような場所では充分だろう。
剣を振りあげ、からだを回転させ、跳んだり、ステップを踏んだりした。
アシェイラは戸惑った顔つきで見つめているウォーヴァンに、流し目をやった。
「どうしたの? 腰にさげている剣は飾りものなのかしら」
アシェイラのことばにウォーヴァンははじめて、腰から下げているもう一本の剣に気づいたような顔をした。見下ろす。
「お、おう!」
剣を抜いた。向かってくる。
アシェイラは相手の剣と刃を合わせ、叩いたり、払ったり、滑らせたりした。体を激しく動かすたびに、胸や足がむきだしになりかけるが、そんなことに構っていられなかった。
舞を踊りながら、アシェイラはまわりに視線を走らせていた。そして、タイミングを計ると、ウォーヴァンを押し退けた。舞台を駆けていった。
「グレイ! グレアード!」
叫ぶと、テーブルの上に乗った。ジャンプして、テーブルからテーブルへと次々に飛び移っていった。
アシェイラとは別の場所で、悲鳴と怒号があがっていた。テーブルが倒れ、いすが砕け、ランプが床に叩きつけられた。ちらりと横目で見ると、ファザード市軍の戦士に混じっていたグレアードとグレイが走ってくるところだった。それを確認すると、アシェイラは前を向いた。
「リースヴェルト!」
最後にジャンプすると、小剣を振りかざした。落下の速度を利用して、斬りかかった。
リースヴェルトはすでにいすから、立ち上がっていた。杖で剣を受ける。
アシェイラは舌打ちをした。床の上に着地をすると、すぐにリースヴェルトに迫った。杖と剣が打ち合わされた。
「ほう……」
リースヴェルトは感じ入ったような笑みを、浮かべていた。「驚きましたね。まさか本当に、生きていたとは」
「言ったはずよ。あんたを殺すのは、あたしだって!」
アシェイラはさっきの剣舞の続きのように剣を振り下ろし、突きだし、横に払った。剣が杖を削り、リースヴェルトに迫った。
アシェイラは小剣にあまり、慣れていなかった。腕ほどの長さしかなく、力で押すことができない。だけど、切り返して何度でも攻撃をすることは可能だった。
攻撃は一方的にアシェイラが押していた。リースヴェルトは後ろに下がるばかりで、呪文を唱えることもできないようだった。
アシェイラは剣を振り上げた。斬りかかっていく。
リースヴェルトが杖で剣を受け流した。アシェイラの横にからだを移動させる。
アシェイラは脇を固めた。小剣を引きよせる。
――そこ!
アシェイラはリースヴェルトめがけて、足を踏みこませていった。剣を突きだす。
リースヴェルトが逆に、こちらに向かってきた。剣をかわすと、近くにあったいすを蹴飛ばした。床の上を滑ってくる。
体勢を崩していたアシェイラは、いすを避けることができなかった。ひざに当たった。転びはしなかったが、痛みが走った。顔をしかめる。
「望まれて来たるものよ。古の時代に双つに分かれたる汝が唱和は、雨期来たりて蛙が声を挙げるのに等しき」
リースヴェルトが杖を高々と掲げた。呪文の声が大きく、耳に響く。
「一なるものは、冷たき岩に胡座する瞑想者の如く。名は同じなれど、姿は異なれり。大いなる光明の下、汝が力は立ち現れる。その光の前に、隠れたるものはひとつとしてなし――」
アシェイラの背筋に、冷たいものが走った。
……だめ! 呪文を完成させては――。
アシェイラはいすを前に蹴飛ばした。が、いすはリースヴェルトの手前で、見えない壁にぶつかったみたいに弾かれてしまった。
「危ない、アシェイラ!」
横から、誰かがぶつかってきた。グレアードだ。いっしょに転がっていき、アシェイラが上になった。グレアードを押し倒したような形になる。目が合った。
突然、会場の照明が揺れた。明かりが下に落ち、暗がりが上へと逃げていった。からだが浮き立つような、奇妙な感覚に襲われる。
ものすごい音が響いた。燭台だ。天井から吊り下げられていた巨大な燭台が落下してきたのだ。床板が割れ、怪物の顎のように燭台をくわえこんだ。燭台の枠である銀色の輪がひしゃげ、ひびが床の上を走った。
一瞬、暗くなったが、それは短い間のことだった。燭台のランプが割れ、油に引火したらしい。炎が立ち上った。真紅の壁となる。
めきめきと、何かが裂けるような音がした。いすやテーブルが動き、ひびが大きくなった。
どしん、と大きな揺れが来た。立ち上がりかけていたアシェイラは足を滑らせた。グレアードの腹に上に尻もちをつく。ぐえ、とグレアードが声をあげた。
足もとが沈んだ。床に巨大な穴が開き、燭台が下に落ちた。亀裂が稲妻のように走り、アシェイラたちのところにも迫ってきた。グレアードに腕を引っぱられ、後ろに下がった。亀裂がさっきまで彼女が立っていた場所を飲み込んだ。崩れる。
会場は大混乱に陥っているようだった。アシェイラたちは炎に包まれていたが、悲鳴やものが壊れる音、叫び声などが聞こえてきていた。
「リースヴェルト!」
アシェイラは亀裂の手前に立つと、その向こうに呼びかけた。
炎を背負って、リースヴェルトが立っていた。杖を床に突いている。
アシェイラは額に流れる汗をぬぐった。夏の暑さ以上の熱気が、押し寄せてきている。「アシェイラ。貴方とはもうすこし、ゆっくりとお話をしたかったのですが――その時間はないようですね」
「待ちなさい、リースヴェルト。まだ、聞いてないことがあるわ。逃げないで!」
「アシェイラ。ここはもう、危ない。引き上げたほうがいい」
「黙って!」
アシェイラはグレアードの胸を押した。リースヴェルトをにらみつけた。
「リースヴェルト。今から、そこに行くわ」
「な……! 何言ってるんだよ、アシェイラ。そんなの、無理に決まっているじゃないか」
「そうです。お仲間の言う通りですよ。お止めなさい」
「止めろ、ですって? ふざけないで! あなたはもう、戦友じゃない。あたしの――」
深く、息を吸った。歯を食いしばる。
「敵よ!」
アシェイラは助走をつけるために、後ろに下がろうとした。と、グレアードに腕を取られた。
「アシェイラ!」
アシェイラは顔をあげた。グレアードを見る。そのまなざしに、ひるんだようだった。腕を離した。
アシェイラは小剣を胸の前に構えた。腰を低くする。
――エルカ……力を、貸して。
床を蹴った。走りはじめると、恐れが消えた。拳を握る。
「やぁっ!」
亀裂の前で強く、足を踏み切った。腕を高く上げ、背をそらして跳んだ。
――やった!
亀裂を飛び越えた。着地する。が――。
からだが、がくんとなった。アシェイラの足の下の床が崩れた。
「アシェイラ!」
腕をのばした。床の縁に何とかつかまることに、成功した。
リースヴェルトが近づいてきた。数歩の距離のところで、足を止めた。
「アシェイラ……剣から、手を離しなさい」
「う……うるさい! こっちに、来ないで!」
アシェイラは右手一本で、ぶらさがっていたけど、小剣は離さなかった。
小剣をつかんだまま、アシェイラは床の上に這い上ろうとした。足を上げ、先をひっかける。が、ずるっと滑った。落ちそうになる。「アシェイラ!」
「う……るさいわね。さっきから人の名前を連呼して」
アシェイラは肩ごしに、グレアードをにらみつけた。
「だって、アシェイラが――」
「あたしは大丈夫だから。あなたはもう、ここから逃げなさい」
「そんな……アシェイラを置いて、立ち去れないよ」
アシェイラは口を閉ざした。前を向く。声を出す余裕が、なくなってきた。
リースヴェルトが腰を落とした。手を差し出してくる。
「な……んの、つもり?」
「わたしの手に、つかまりなさい。落ちてしまったら復讐も何も、ないでしょう」
「慈悲を、かけるつもり?」
「そうではありません。貴方にここで死んでもらっては、困るからです」
「わかってるの? 言ってることが、矛盾してる、わよ」
「死にたいのですか」
「死なない、わ。あなたを殺すまでは、ね」
「アシェイラ! アシェイラ!」
「あー、もう! 何よ」
振り向くと、銀色をしたものがこちらへ、ジャンプして来た。アシェイラの横に足をつける。
――グレイ!
グレイがリースヴェルトに吠えかかった。後ろに下がらせると、アシェイラに駆けよってきた。身を乗り出して右腕を軽く噛むと、アシェイラのからだを床の上に引きずり上げてくれた。
「リースヴェルト! リースヴェルト!」
息をついている時間はなかった。アシェイラはグレイの頭をなでてやると、まわりを見渡した。が、リースヴェルトの姿はどこにも、なかった。
「アシェイラぁ……」
後ろで、情けない声がした。
「グレアード。あなたもそろそろ行かないと、手遅れになるわよ。がれきのなかから、あなたの黒焦げの死体を探すだなんて、いやだからね」
グレアードはそれには答えず、亀裂を見下ろしていた。アシェイラとグレアードを分けている亀裂の幅を、目で計っているようだった。
アシェイラは顔を横に振った。
「グレアード。あたしはもう、行くわよ。後で、合流しましょう」
「アシェイラ!」
「今度は何――」
鞘に入れられたままの剣を、グレアードが投げつけてきた。アシェイラは顔の前で、それを受け止めた。
「グレアード……」
顔を上げると、グレアードが高くジャンプするのが目に入った。飛び越えてくるが、着地に失敗した。アシェイラの横で、派手に転んだ。
「痛ってててて……」
転倒した時に、すり傷をつくってしまったようだった。立ち上がると、チュニックをめくった。
「あなたも、無茶するのね」
「無茶なのは、アシェイラのほうでしょ」
アシェイラは無言で、肩をすくめた。
「これはあんたの復讐なんだから、余計なことを言うつもりはないけどさ。アシェイラのからだは、おれのものでもあるんだからね」
「な!」
アシェイラは黒馬亭で、彼女の肉体が復讐の手助けの依頼料だと告げたことを、思い出した。
「……何、言ってんのよ」
グレイがひと声、鳴いた。早く追いかけないの? と見えなくもない表情を浮かべている。
アシェイラが彼に剣を返そうとすると、グレアードが小剣を手に取った。交換する。
「こっちでいい。おれは脇役だからね」
――あたりはすっかり、炎に包まれていた。アシェイラはかなり涼しい格好をしていたのだけど、全身が汗で濡れていた。煙があちこちから流れ込み、目が痛い。そろそろここから脱出しないと、リースヴェルトを追跡するどころでは、なくなってしまうだろう。
グレイがアシェイラたちを先導するように走った。振り返る。
アシェイラがうなづいた。グレアードに目配せする。
「行きましょう。グレア」
「グ……グレア? 今、おれのこと、グレアって呼ばなかった?」
アシェイラの横を走りながら、グレアードが言った。
「呼んだわよ。それが、どうかしたの?」
「ちょっと、グレアはないんじゃないの。それじゃ――」
グレアードは狼のグレイを見て、ため息をついた。
「そりゃ、グレアードとグレイは名前が似ているけどさ。あ――待ってよ。まだ、話は終わってないんだからね、アシェイラ!」




