8 分析
十二月十二日。
警視庁捜査一課に出勤した亜里砂を黛が待ちかまえていた。
「購入者を特定したぞ」
黛が渋い顔で言った。
「そうですか」
亜里砂は自分の席に座った。
「購入者は桂川光政、二十六歳、無職。最初の事件の二週間前、【闇の職安】サイトで五万の報酬でレインコートを三着購入するのを依頼されたそうだ」
「報酬と商品の交換は犯人と直接、行ったんですか?」
「事前に指示された時間に地下鉄に乗り、指定された駅で荷台に商品を置いて、下りるように電話で指示を受けたようだ」
「携帯電話からですか?」
「公衆電話だ。最初にメールでやりとりした際、携帯電話の番号を教えるよう指示されたそうだ。やりとりした時の犯人のメール・アドレスを調べたが、フリー・メールで犯人の特定は出来なかった」
「報酬は?」
「三日後、本に現金を挟んで、普通郵便で送られてきた。切手にも本にも紙幣にも封筒にも、犯人の指紋はなかった」
黛が苛立たしげに言った。「これだけ苦労して、全く手掛かりなしだ」
「そうでもないですよ。二つの事件により、犯人を絞り込める条件が整ってきました」
「例えば?」
「犯人は広い庭に倉庫か、地下室を持つ一軒家に住む人間。ネットに詳しく、睡眠薬もしくは筋弛緩剤のようなものを手に入れられる。それから、映像の被害者の身長から犯人の身長が一六〇センチから一六五センチの間と推定されます」
「他には?」
「犯人は被害者の声優のスケジュールを簡単に調べられる立場にある人間です。被害者の声優の住所や行動スケジュールを調べるのは、例えファンでも簡単ではありません。特に二人となればね。犯人自らが尾行して調べることも可能ですが、この犯人の性格からして、そんな危険は犯さないでしょう。かといって、探偵を雇っても、今回のような事件を起こす以上、後々、ばれる恐れがある」
「なるほど。芸能関係者か。よし、調べてみよう」
黛はつかえがとれたようにスッキリした顔になって、亜里砂の席を離れていった。




