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19 悲劇のステージ

 午後七時。


 横浜ワンダーランドのイベント広場では、悠月零名のファースト・アルバム発売記念コンサートで、観客がごった返していた。


 全員CD封入の引換券を抽選券と交換し、当選を引き当てた幸運なファンたちである。


 イベント終盤。


「みんな、今日は来てくれて、ありがとう。すごい寒いけど、零名もう少し頑張るから、みんなもついてきてね。それでは、最後の曲『スター・ストーム』」


 ステージ上のかわいいドレスを着た零名がマイク片手に客席に向かって声をかけると、客席からオーッと言う声が一斉に上がる。


 客席のほとんどは若い男性であった。


 零名が歌い出すと、全員がリズムに合わせて、ペンライトをくるくると頭上で振った。


 やがて、最後の曲を歌い終わると、零名は大きく白い息を吐いた。


「みんなぁ、サンキュー」

 零名は客席に手を振って、ステージの裏へ下がった。


「アンコール!アンコール!アンコール!」

 客席からは地鳴りのようにアンコールを求める声が響く。


 その時、亜里砂と里夜がイベント会場に訪れた。


 二人が観客をかき分け、ステージの近くまで来た時、零名が台車を押して、現れた。


 観客は歓喜したが、登場した零名の姿を見た瞬間、観客のコールが一斉に消え、静まりかえった。


 そして、ざわつき始める。


 現れた零名は赤いレインコートを纏っていた。しかも、ペインターと同じレインコート。台車には縦に棺桶が置かれていた。


「みんなぁ、声優って、処女だとか、心がきれいだとか思ってるでしょ。でもね、時には残酷な悪魔にもなれるんだよ」

 零名は棺桶は開いた。


 観客席からざわつきも消えた。何が起こったのか信じられない様子で、呆然と目の前の光景を見ている。


 棺桶には、目を大きく見開き、全身真っ赤なペンキで塗られた全裸の観里の姿があった。


「こいつはお兄ちゃんの心を壊した悪魔なの。最後に忘れられない思い出をみなさんに届けます」




 ゴロゴロゴロ ペインター

 おまえの体にペンキを塗るぞ

 早く血を出せ グッサグッサ

 ローラー片手にゴーロゴロ

 真っ赤なペンキでゴーロゴロ

 おまえの過去を塗りたくる

 おまえの今も消えちゃった

 アハハ アハハ アハハハハ

 アハハ アハハ アハハハハ




 零名は隠し持っていた包丁で何度も観里の死体を突き刺しながら、大声で精いっぱい歌った。


 その顔は狂気に満ち、涙で溢れていた。


 客席からは悲鳴が上がり、観客は蜘蛛の子を散らすように一斉に客席から逃げ出していく。


「零名、もうやめて」

 里夜は叫んだ。


 零名が歌い終わると、客席には里夜と亜里砂だけしかいなかった。


「残念だったね、零名の復讐は終わったよ」


「零名、聞いて。違うのよ」

 里夜は顔を上げ、零名をしっかりと見つめた。


「?」


「観里はアダルト・アニメの吹替はやっていないわ」


「嘘ばっかり。零名は本物のビデオで確認したんだから」


「あれは私よ」

 里夜は強い口調で言った。


「今更、何言ってるの?どうかしちゃった?」


「あなたがあの作品を観ているなら、この台詞も覚えてるでしょ」

 里夜はそう言うと、一度呼吸を整え、台詞を発した。


「〈あたしはヤコ、よろしくね〉」


「……」

 里夜の台詞を聞いた瞬間、零名の顔が真っ青になった。


 小さな女の子の声が観里の演じる女の子の声と全く一緒だったからである。


「私もマネージャーをやる前は声優だった。売れなかったけどね。当時は芸名を使っていたし、二年ほどで声優を辞めて、マネージャーになってしまったから、私が声優だったことを知っている人は僅かしかいないわ。観里が当時の事務所に入ってきた時、観里が小さな女の子の声を演じる時の声色がよく似ていたから、すごく驚いた。いつしか、私は自分が出来なかった人気声優の夢を彼女に託すようになっていた。だから、社長が自分の息子の会社が携わったアダルト・アニメの出演を観里に強要した時、観里は頑なに拒んでいたけど、このままでは仕事を干されてしまうと感じて、私が勝手に声優を引き受けたの。あの作品は声は全員別録りだったし、名前も表に出ることはなかったから、スタッフに金を払って、社長に気づかれることなく、全てを終わらせることが出来た。でも、それを後で知った観里はショックを受け、事務所を辞めてしまった。全ては私のせいなのよ」


「へぇ、じゃあ、河岸観里がアダルト・アニメに出てたのはデマだったんだ……」

 零名の声が震えていた。


「ええ」


「……ひどいよ……みんな、あんたのせいだったんだ。あんたがよけいなことしなければ……」


 零名の顔は鬼のような形相に関わり、舞台を飛び降りて、包丁を振り上げ、里夜に襲いかかった。


「止まりなさい!」


 亜里砂が零名に向けて、拳銃を構えた。


 しかし、零名はそんな声も耳に入らず、向かってくる。


 亜里砂は拳銃の引き金を引いた。


 轟く二発の銃声。


 里夜と亜里砂の目の前で零名は地面に沈んだ。うつぶせに倒れた零名の下からおびただしい量の血が地面に広がっていく。


「ごめんなさい……ごめんなさい」


 里夜は顔を両手で覆いながら、その場に泣き崩れた。



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