18 車内
「彼女の実名はわかりますか?」
横浜へ向かう車の中で、運転席の亜里砂が言った。
「香月黎子だったと思います」
助手席の里夜が答えた。
「実はここ数年に起きた声優に関連した事件を調べてみたんです」
亜里砂は車を運転しながら、膝の上の資料を開いた。
「これを見てください」
亜里砂は里夜に資料を渡した。「名前別にファイリングしたんです」
「高校三年生、団地の屋上から自殺。被害者の名前は香月陸人――まさか?」
「裏は取っていませんが、香月黎子は自殺した香月陸人の妹ではないですか?」
「……」
「一昨年の今日、起きた事件です。遺書は残されていません。しかし、屋上には破かれたアニメのキャラクターの色紙やサインの断片が落ちていたそうです。そのサインは河岸観里のものです」
「え?」
「ペインターはパソコンに歌わせてますよね。『おまえの過去を塗りたくる。おまえの今も消えちゃった』って。これって、アダルト・アニメに出演したことを意味しているんじゃないでしょうか?香月陸人は声優・河岸観里のファンだった。しかし、何かのきっかけで過激なアダルト・アニメへの出演を知ってしまった。もしかしたら、同級生からそれを指摘され、からかわれたのかもしれない。アイドルと思っていた女性が汚れていたことを知り、幻滅して自殺したとは考えられないでしょうか。実際にしているわけじゃなくても、アダルト・アニメに出演しているという事実だけで彼を絶望に追い込むには十分だったと思います」
「それを逆恨みして、零名が復讐をしたと?」
「違いますか?」
「……刑事さん」
里夜はかなり迷っていたが、しばらくして重い口を開いた。
「はい」
「美里に関してどうしてもお話ししなければならないことがあります」
里夜は決意を固めて、言った。




