17 アパート
亜里砂と黛は、事務所で里夜と合流し、観里のアパートに駆けつけた。午後五時を過ぎていた。
管理人に事情を話し、部屋に入れてもらうと、部屋には誰もいなかった。
「室内を荒らされた様子はありませんね」
亜里砂は部屋を見回しながら、言った。
「いつも履いているスニーカーがないようです」
里夜が言った。
「外出中に拉致されたか……」
黛は呟いた。
「定時連絡は?」
「午後五時にありました。自宅に帰ったという電話です」
「携帯電話は見当たらないな」
ハンガーにかけた服やジーンズのポケットを探りながら、黛が言った。
「何度も電話をかけましたが、電波が届かないのか、電源が切れているようです」
里夜が言った。
「黛さん、携帯電話会社でGPS信号を調べてみて。それから、河岸さんの携帯にかかってきた電話の番号も」
「わかった。河岸さんの電話番号は?」
「この番号です」
里夜が観里の携帯電話の番号を書いたメモを黛に渡した。
「内倉さん、一つ聞いてよろしいですか?」
「はい」
「河岸さんは、現在失踪中の三人の声優と同じアダルト・アニメに出演されていますよね」
「嘘です。そんなことは――」
「一本だけです。『子供たちの宴』という前後編で販売されたビデオ作品で、他の行方不明の三人も出演していますが、前編のみの出演は河岸さんだけです。彼女は主役でしたが、後編では別の声優が演じています。彼女が事務所を辞めた理由はその辺に関係あるのでは?」
「そんな……あの子はアニメは子供のものだからって、アダルト・アニメはすごい嫌っていたんです。それで、社長と喧嘩することもあって……出演してたなんて、考えられません」
「ご覧になりますか?」
「いいえ」
里夜は強く首を横に振った。
「白木、わかったぞ」
「河岸観里の携帯電話の電波が最後に途絶えたのは墨田区の谷池公園だ。それが午後九時二十三分。それから、最後に電話をかけてきたのは三番目の被害者、簑島東子の携帯電話からだった。午後七時三十六分だ」
「河岸さんは簑島さんからの電話で谷池公園に行き、そこで事件に巻き込まれた可能性が強いですね。谷池公園周辺での聞き込みをお願いできますか?」
「了解した」
黛は部屋を出ていった。
「観里はどうなるんでしょうか?」
「投稿動画は警察が警戒しているので、犯人はもう使わないはずです。すぐに消されてしまっては、犯行をアピールできませんから。少なくとも、ぎりぎりまで生かしておくとは思いますが、最悪のケースは十分考えられます」
「……」
「ところで、一つ、気になることがあるんです」
「何でしょうか?」
「犯人は巧みに人のいない時を狙って、被害者を誘拐しています。これは一般人には無理な犯行です。一人ならともかく、四人ともなれば、尚更です」
「業界関係者ということですか?」
「四人の住所やスケジュール、電話番号など個人情報を簡単に知りうる立場にいる人間です」
「私を疑ってらっしゃるんですか?」
「いいえ。あなたにはアリバイがあります。ただ、あなたの事務所にいる人間と考えていいのではないでしょうか。あなたに近い人間でそれらしい人物はいませんか?」
「そう言われても、私には……!!」
里夜はハッとして口を押さえた。
「どうしました?」
「観里は最近、携帯電話を変えたので、事務所の人間で知っているのは私と悠月零名だけです」
「悠月零名?」
「でも、あの子は事務所に入って、まだ一年半ですよ」
「四人のことを調べるのが目的で入ってきたとは?」
「待って下さい。零名は今日、ファースト・アルバム発売記念コンサートがあるんですよ」
「それは生中継されますか?」
「衛星放送ですけど、アニメ・チャンネルで生ライブで放送される予定です」
「行きましょう。場所はどこです」
「横浜ワンダーランドのイベント広場です。もう始まってるはずですけど」
「中止に出来ますか?」
「私が直接行って、事情を説明しないと、無理だと思います」
「じゃあ、行きましょう」




