16 第三の犯行
十二月二十四日正午。インターネットのアングラ動画投稿サイトにペインターの名で三本目の動画が投稿された。
天井からの定点カメラの映像で、赤いレインコートの怪人は過去二回と同じように倉庫で、ブルーシートの上に意識のない女を寝かせた。
レインコートの怪人は、女の横に座ると、右手にローラーを手にし、ローラーから伸びたコンセント・ケーブルをソケットに差し込む。
そして、女のつま先から膝の方へ向かって順にローラーを押しつけながら、動かしていくと、白い煙が上がり、ローラーの通った後が火傷のように真っ赤に晴れ上がっていく。
そして、またもヴォーカロイドによる歌がBGMとして流れ始める。
ゴロゴロゴロ ペインター
おまえの体にペンキを塗るぞ
早く血を出せ ジュッワジュワ
ローラー片手にゴーロゴロ
真っ赤なペンキでゴーロゴロ
おまえの過去を塗りたくる
おまえの今も消えちゃった
アハハ アハハ アハハハハ
アハハ アハハ アハハハハ
歌が繰り返される間、レインコートの怪人は、アイロンのように高熱を発するローラーで何度も転がし、彼女の肌を焼いた。
総再生時間は約一分四十秒。
今回もサイトにこの動画がアップロードされると、この映像を見つけたネット閲覧者がすかさず、この映像のアドレスをインターネットの大手掲示板のスレッドに次々と張りつけ、騒ぎにしようとした。しかし、今回は警視庁が厳重警戒態勢を敷き、動画やアドレスを掲載した者は逮捕するという強い警告をメディアを通じて、すぐに発したため、すぐに騒ぎは沈静化した。
マスコミは悪戯に騒ぎを煽るような報道はしなかった。
しかし、掲示板では犠牲者探しで盛り上がり、すぐに二十五歳の若手声優、簑島東子の名前が挙がった。
簑島東子は現在、フリーの声優であったため、家族により本人と連絡が取れず、自宅のアパートも無人であることが確認された後、警察に捜索願いを提出された。
東子はアパートの三階に一人暮らし。新聞は集合ポストに三日分たまっていた。近所の話では、最近は仕事をしている様子はなかったという。
「畜生、またやられた!」
警視庁捜査一課では、黛が怒り心頭であった。
「まあ、落ち着いて」
亜里砂は黛をなだめた。
「これだけの事件だって言うのに、専従捜査班も作られないのかよ」
「ネット上の傷害映像だけで、死体が発見されていませんからね。まだ、殺人事件にすらなっていない。犯人は頭脳犯だと思います」
「犯人を誉めてる場合か」
「ただ、共通点ははっきりしました。被害者三人は二年前に倒産した芸能事務所【パドミック】の元所属タレントです」
「犯人は事務所への怨みと言うことか?」
「それなら、所属タレントではなく、社長を真っ先にやるでしょう」
「じゃあ、社長の仕業か?」
「当時の社長は、現在、大手の芸能事務所【クリア・クラウン】社長の井野崎謙作の長男です。今はタイで暮らしていますよ。一年前に渡航してから、日本には帰っていません。犯行は無理ですね」
「なら、【ドッグ・ワン】の女社長は?」
「内倉里夜ですか?動機としてはあり得ませんね。彼女は【パドミック】をやめたタレントの引受先になっていたんですから」
「じゃあ、共通点が見つかっても、何にもならないじゃないか」
「共通点はそれだけじゃありません。彼女たちはアダルト・アニメに出演経験があります」
「アダルト・アニメ?何だ、そりゃ」
「十八禁のAVのアニメ版です」
「今時、そんなものまであんのか。アニメって子供が観るもんだろ」
「意外と古い考えですね」
「そのアニメって、声やってる奴が演技で喘ぐってことか?」
「ご覧になりますか?捜査資料として借りたものがありますが」
「いいや、そんな気持ち悪いもの、観れるか!」
「彼女たちは作品クレジットでは別名を使っていて、公式では出演していないことになっています。しかし、他のアニメ作品の声と聞き比べてみると、すぐに同じとわかります。その事実を知ったことによって、ファンによっては、歓迎する人もいれば、逆に嫌悪する人もいるかもしれません」
「白木は、ペインターの正体が被害者たちのファンだというのか」
「今回、市場に出回っているアダルト・アニメを調べたところ、現在の被害者と思われる三人が共演した作品が二作あります。『子供たちの宴』という前後編の作品で、非常に暴力性の強い幼児ポルノです。内容を問題視され、すぐに販売停止になり、作品は回収され、廃棄処分されましたが、マニアからは神格化されて、コピー品が高額で取り引きされているようです」
「それで」
「実はこの作品の前編には、もう一人、【パドミック】の所属声優が出演しています」
「誰だ、それは?」
「河岸観里です」
その時、亜里砂の携帯電話が鳴った。
亜里砂は電話に出る。
『内倉です。観里がいなくなりました』
電話口から里夜の重々しい声が聞こえてきた。




