11 共通点
亜里砂と石坂たちは近くの喫茶店に立ち寄った。
「好きなもの頼んでいいわよ」
石坂と斎木のテーブルを挟んで向かいの椅子に座った亜里砂は、メニューを二人に渡して、言った。
三人はオーダーを取りに来た店員に注文を済ませた。
「事件の捜査ですか?」
石坂が訊いた。
「ええ。ペインター事件のね」
「それ、知ってます。今、ネットで話題になってますよね」
斎木が言った。
「私はアイドル声優とかの事情に疎くて、秋葉原のアニメショップの店員なら、詳しいかと思って、話を訊きに来たの」
「俺も詳しいですよ」
斎木が自慢げに言った。
「おまえなぁ……」
石坂が呆れた様子で言った。
「そうなの?じゃあ、ペインター事件の被害者と思われる星名麻衣歌と平間臨未。職業が声優という意外で共通点はある?共演作はないし、事務所も違うわよね」
亜里砂がそう言った瞬間、斎木が自分だけが知っているとばかりにニヤッと笑った。
「おまえ、気持ち悪いぞ」
石坂が言った。
「いやぁ、あるんだよねぇ。やっぱり、素人にはわからないか」
「あるんだ。教えてよ」
亜里砂は素直に尋ねた。
「どうしようかな、これ言うと、引かれるしなぁ」
斎木は迷っていた。
「事件の捜査なんだけど」
亜里砂が少し真面目な顔をした。
「二人の共演作はあるんすよ」
「ネットで調べたけど、なかったわよ。事務所にも問い合わせたし」
「そりゃあ、別の名前、使ってるから」
「別の名前?」
「二人は何年か前までアダルト・アニメで結構共演してたんすよ。もちろん、声優としてだけど」
「アダルト・アニメ?」
「十八禁の、いわゆる、AVのアニメ版ですよ」
「君、未成年よね」
「――だから、言いたくなかったんすよ」
「冗談。今回は大目に見るから、話して」
「アダルト・アニメの場合、声優は自分の名前を出したくないので、別の名前を使うんです。声聞けば、ばればれなんすけどね。イメージの問題かな。中には堂々と表の名前をクレジットしている人もいるし、事務所や本人のスタンスの問題かもしれないけど」
「そのタイトル、教えてくれる?」
「え、言うんすか?」
「メールで送る?」
「あっ、はい」
亜里砂と斎木はそれぞれ携帯電話を近づけ、赤外線通信でメール・アドレスを交換した。
斎木は素早く文字を打って、亜里砂にメールを送信した。
「後で観てみるわ。それで、さっき、何年か前って言ってたけど、今はどうしてやめたのかしら?」
「はっきりしたことはわからないけど、事務所から若手のうちは仕事がないから、仕方なくそういう仕事をやらされるってケースや、そういう仕事もやらないと、表の仕事も回さないって言うケースがあるみたいっす」
斎木はいつのまにか、やたら、最後に「す」をつけるようになっていた。
「そうなんだ」
「二人は前は【パドミック】って事務所に所属してたみたいっすよ」
「聞かないわね」
「去年、倒産したみたいっすよ。社長が声優志望で受けに来た未成年の子に手を出して、逮捕されちゃったから。まあ、計画倒産じゃないっすか」
「計画倒産?」
「そこは大手の芸能事務所【クリア・クラウン】の子会社で、逮捕された社長は【クリア・クラウン】の社長の息子だったらしいから」
「……」
「その二人は多分、アダルト・アニメの仕事が嫌で、事務所、辞めて、今の事務所に移ったんだと思うっす」
「すごいわね、君、業界人になれるんじゃない?」
「アニメ・ファンなら、このくらい、常識っすよ」
「いいや、普通、知らないだろ。ネットに毒されすぎだよ」
石坂は唖然として言った。
「……」
二人の共通点が見つかった。もし三人目の犠牲者が出るなら、その線かもしれない。
「ありがとう。助かったわ。これで、会計しといて」
亜里砂は財布から五千円を出して、置いた。
「あのぉ」
斎木が言った。
「なに?」
「今度、メールしてもいいっすか」
「たまにならね」




