女王さまのターキーラーメン
前書き
聖夜のイルミネーションに浮かれるレガシーな風習なんて、あたしたちの洗練されたメインフレームには1ミクロンも必要ないのよ。
サンタクロースという名の未確認データを待つより、目の前にあるターキーの残骸をどう極上のスープにリファクタリングするか。そして、揺れる大地のエネルギーをいかにして空間の物理法則でパージするか。
あたしたちがデプロイするクリスマスは、甘いケーキだけじゃ終わらないわ。知性と熱力学がマージされた、最高にスマートな聖夜の同期処理を、その光学センサーにしっかりと焼き付けなさいなッ。
2020年12月24日。
あたし、黒木舞桜は、ラボの近所で開催されているクリスマス・ビアフェスタの喧騒の中にいた。
夜空から舞い落ちる粉雪が、広場の中央にそびえ立つ巨大なモミの木のツリーを白銀に染め上げていく。
無数のオレンジ色のイルミネーションが、軒を連ねる木造のヒュッテから漏れる温かな光とマージされ、冷え切った冬の空気を幻想的にレンダリングしていた。
今日のアライメントは、聖夜の寒波を完全にハックするスタイリッシュな冬仕様だ。
ボディラインに吸い付くような深緑のハイネックリブニットワンピースに、透け感のない黒の厚手タイツ。
足元は雪の石畳をしっかりとグリップするブラウンのレザーショートブーツで固め、アウターには襟と袖口に温かなボアがあしらわれたダークグレーのロングコートを羽織っている。
少し伸びてきたセミロングヘアを、防大の倉田琴葉ちゃんみたいに高い位置でポニーテールに結い上げてみたけれど。
結局、毛先が暴れて気高い魔王さまのテクスチャが隠しきれていない。
あたしは、コートのポケットに両手を突っ込み、テラス席の太い柱に寄りかかりながら、胸元で揺れるシルバーのひし形ペンダントをもてあそんでいた。
「お待たせ、舞桜」
ふいに、プラチナブロンドの白井勇希が、温かい湯気を立てるフードとビールの入ったビニール袋をぶら下げて戻ってきた。
グレーのチェスターコートにマフラーを巻いたその姿を見上げて、あたしの脳内メインフレームが微かな違和感を検知する。
……あれ?
「ねえ、勇希。あんた、背が伸びてない?」
あたしは、柱から身を離して、彼の顔をじっと見つめた。
今までは165センチで、175センチのあたしが見下ろすのに丁度いいアライメントだったはずだ。なのに、視線の角度が微妙に上書きされている。
「ああ、気づいた? どうやら僕の成長期ってまだ止まってなかったみたい」
勇希は、ビニール袋を持ち直しながら、プラチナブロンドの髪を揺らして柔らかく微笑んだ。
「18歳で骨端線が閉じて成長が止まるって言うのは、BMIみたいなただのレガシーな目安なんだよねー」
あたしの気高いメインフレームに、プラズマ級の動揺パケットが走る。
どどどどどうすんのよッ!?
あたしだって175センチという、高密度で暴力的な質量を誇るダイナマイトボディだ。これ以上、彼氏の身長が伸びて相対的な身長差のバランスがバグったら、完璧な主従のインターフェースが崩れちゃうじゃないのよッ。
あたしの瞳孔が開くのを光学センサーで察知したのか、勇希は優しく目を細めた。
「舞桜の成長は16歳をピークで止まってます。だから安心していいよ」
勇希は、袋からホットビールを取り出して手渡しながら、医学的なロジックをコンパイルし始める。
「女性は初経を迎えた後、女性ホルモンのエストロゲンが骨の成長を促すと同時に、骨端線を固めるスイッチを爆速で押しちゃうんだ。だから10代半ばで身長のトラフィックは完全に停止する」
あたしは、スパイスの香るホットビールの紙コップを両手で包み込み、冷えた指先を温めた。
「でも、男性のテストステロンはエストロゲンほど急激に骨を固めない。だから20歳を過ぎても、ゆっくりと成長プロセスが裏で回り続けるケースがあるんだよ。僕のメインフレームも、ようやく170センチのディレクトリに到達したってわけさ」
「ふん……。生意気にスペックを上げてきたってわけね」
あたしは、ホットビールを一口すすり、強がりのパッチを当てて歩き出した。
雪が舞う横須賀の裏通りを、あたしたちは並んで歩く。
イルミネーションの喧騒から少しずつ遠ざかり、古いレンガ造りの建物の間を抜けてラボへと向かうルーティングだ。
温かいビールとスパイスのアルコールが、冷え切った体に心地よい熱パケットを広げていく。
「ねえ。デパ地下が欲しいわ」
静かな夜のストリートで、あたしは不意に欲望のクエリを投げ掛けた。
デパ地下のあの洗練された惣菜のトラフィック。あれが横須賀のベースにあれば、兵站は完璧に最適化されるのに。
「残念ながら、この街の人口動態とライフスタイルじゃ、単体のデパートメントストアは成立しないね」
勇希は、自分のホットワインをすすりながら、冷徹な分析ログを出力した。
「ここは漁協も近いし、点在する個人商店や市場が強力な分散型インフラを構築している。だから、レガシーな巨大ハブをビルドするんじゃなくて、既存のネットワークを論理的に集約させるんだ」
勇希は、紙コップを持たない方の手で、空中に仮想のブループリントを描く。
「例えば、駅前の空き店舗をリノベーションして、セントラルキッチン付きの巨大なピッキング・プラットフォームを作る。漁協の朝どれ鮮魚、ドブ板のアメリカンデリ、三浦半島の地場野菜を、各店舗から一箇所に集約してパッケージングするんだ」
「なるほどね」
あたしは、ポニーテールを夜風に揺らして同意のシグナルを発行する。
「リアルなデパートを建てるんじゃなくて、横須賀中の美味しいものパケットを一つの物理ポートに統合した、『仮想デパ地下』のインターフェースを実装するってわけね。悪くないハックだわ」
他愛のない、けれど世界を書き換えるインフラの議論を交わしながら、あたしたちは人気のないラボの裏路地へとログインした。
雪は静かに降り続き、街灯のオレンジ色の光が、白いアスファルトにふたつの影を長く伸ばしている。
「ねえ、勇希。したい?」
あたしは、歩みを止め、少し背の伸びたプラチナブロンドの彼氏を見て、最高に蠱惑的なクエリを投げ掛けた。
コートのポケットから手を出し、深緑のニットワンピース越しに、あたしの暴力的な胸部装甲の質量をさりげなくアピールしてみせる。
勇希の顔面ディスプレイが、一瞬にしてプラズマ級に赤くバーニングした。
「し、したいけど……」
勇希は、紙コップを持ったまま視線を泳がせ、必死に理性のファイアウォールを再起動させようとしている。
「今日はいいかな~。だって、クリスマスはケーキを食べてみんなで遊ぶ日じゃん」
その健全すぎるエラーログに、あたしは思わず吹き出しそうになる。
あたしは、ホットビールの紙コップを近くのブロック塀にコトンと置き、少し背の伸びた勇希の首元へ両腕を回して、全力で抱きしめた。
ギュッ。
「わッ、ちょっと、舞桜……」
勇希が慌てて両腕を広げ、あたしの突撃を受け止める。
いつもなら、あたしの胸元に彼の顔がすっぽりと収まる完璧なアライメントだった。
でも今は、170センチに到達した彼の顔が、あたしの鎖骨のあたりでウロウロと処理落ちしている。
「僕、背が伸びない方がよかったかも……」
勇希が、あたしの肩口で悲痛なボイスログを漏らした。
これじゃあ、一番のボーナスタイムである『オッパイ埋もれ』のタスクが実行できないという、ヤンデレ王子にとっての致命的なバグだ。
「馬鹿ね」
あたしは、優しく微笑み、レザーショートブーツのつま先で、少しだけ背伸びをした。
そして、勇希の頭を両手でホールドし、深緑のニット越しに伝わる高密度の胸部装甲へと、再び彼の顔を押し当ててやった。
「ほら、これでいいでしょッ」
勇希の顔が、見事にあたしの谷間のディレクトリへと深くログインする。
首筋に当たる彼のプラチナブロンドの髪の感触と、コート越しに伝わる少し大きな熱量。
雪の降る静かな路地裏で。
あたしたちメインノードは、数センチの身長差という新たな物理法則を完璧にハックし、甘く温かい聖夜の同期処理を完了させるのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
あたし、黒木舞桜は、ラボの給湯室へログインするなり、襟と袖口にボアがあしらわれたダークグレーのロングコートをハンガーにパージした。
深緑のハイネックリブニットワンピース姿になり、少し乱れたポニーテールを揺らしながら、塩タンクコンロの上で保温されている巨大な寸胴鍋の様子を確認する。
蓋を開けると、ターキーの骨をじっくりと炊き出した、黄金色のスープが濃厚な湯気を立ち上らせていた。
「アメリカのクリスマスやサンクスギビングって、焼いたターキーの残りをどう処理するかが、各家庭の兵站における最大のボトルネックになるのよね」
あたしは、お玉でスープをかき混ぜながら、傍らに立つプラチナブロンドの彼氏へ語りかけた。
グレーのチェスターコートを脱いだ白井勇希が、ニットの袖をまくりながら同意のシグナルを発行する。
「ああ。翌日から一週間近く、ターキーサンド、ターキーサラダ、ターキーのクリーム煮、そして最後はこの骨スープ。無限に続くターキーのトラフィックに、アメリカ人の胃袋のディレクトリは完全にバグを起こすらしいね」
「だからよ。あたしたちはスマートにいくわ。でも、スライスしたお肉は全部ツクネにしちゃったから、ターキーサンドはできないわねー」
あたしが少し残念そうにボイスログを落とすと、少し背の伸びた勇希が知性の瞳を輝かせてキッチン台へ歩み寄った。
「そこは機転の効かせ所だよ、舞桜。和風に出汁を吸わせたターキーのツクネを、フライパンで軽く潰してパティ状に焼き直すんだ。それを照り焼きソースとマヨネーズでコーティングすれば、極上の和風ターキー・ツクネバーガーにリファクタリングできる」
「完璧な最適化じゃないのッ」
あたしは、最高に獰猛な魔王のスマイルを明滅させ、マッハの速度で翌朝のためのバゲットをスライスし、シャキシャキのレタスを水洗いして準備プロトコルを起動した。
そこへ、給湯室の引き戸が開いて、ラボで待機していたノードたちが次々とログインしてきた。
「おう、戻ったか。ホットビール、人数分温め直しといたぜ」
長身の斧乃木拓矢が、スパイスの香る紙コップをトレイに乗せて配給を開始する。
「ターキーのツクネサンド? 最高にジャンクで美味そうじゃねえか。ゼネコンの胃袋が鳴るぜ」
赤い髪のボッチこと茅野万桜が、ゼネコンの顔つきでバゲットのカット作業に横入りしてきた。
「私もレタスの水切りタスクを分担します」
防大の倉田琴葉ちゃんが、凛とした所作でキッチンペーパーを手に取り、あたしの横で無駄のない兵站サポートを展開する。
「あはは~、みんなで深夜のクッキングタイムだね~。あたしはホットビール飲む係~」
サブリナこと福元莉那が、蠱惑的な笑みを浮かべて紙コップを両手で包み込み、一切の労働をパージして応援に徹している。
あたしは、ホットビールを一口すすり、深緑のニットワンピースの胸を反らして、帰り道に演算していたロジックをブロードキャストした。
「さっき帰り道に、デパ地下の話をしてたんだけどさ。あたし、ひとつの仮説をコンパイルしたのよ」
あたしは、バゲットの切り口にバターを塗りながら続ける。
「地下構造物と地震の関係性よ。都市の地下に巨大なデパ地下や地下鉄網という空間……つまり『空洞』があることで、地震の被害って減衰してるんじゃないかってね」
「どういうことだ?」
拓矢が、紙コップを持ったままミリタリースペックの視点を向けてくる。
「地震波は、硬い岩盤や土砂を伝わって地上にエネルギーを伝達するわよね。でも、地下空間を満たしている『空気』は柔らかい。空気は地震波として揺らされても、構造物に対して物理的な『仕事』をしないのよ。エネルギーを増幅も伝達もせず、ただ空洞の中でパージされる」
勇希が、プラチナブロンドの髪を揺らしてハッとした顔をした。
「なるほど……。地下空間が巨大な免震スリットとして機能して、地表面へ向かう地震波のエネルギーを物理的に遮断・反射しているっていう仮説か」
「ええ。ゼネコンの視点から見ても、地下に空洞があればその分、地盤の総質量が減る。慣性力が小さくなれば、地上の構造物へのダメージもダウングレードされるはずだぜ」
ボッチが、バゲットを切り分けながら興奮のログを出力した。
あたしたちは、翌朝のサンドイッチの下準備を終え、ツクネの入った土鍋とホットビールを持って、ラボのメインスペースへと移動した。
テーブルを囲み、あたしは黒の厚手タイツの脚を組み替えて、さらに記憶のアーカイブへアクセスする。
「関東大震災のあった時代と現代。決定的な違いって、その地下構造物の有無じゃないかしら。ほら、2005年に関東で大きな地震があったじゃん? あたし、パパと横浜のビルにいたんだけど、壁のタイルが割れても、建物自体のメインフレームは絶対に崩壊しなかったのを、この光学センサーでハッキリと見たのよねー。もちろん、すっごく怖かったけどさ」
あたしは、少し身を縮ませて、か弱い少女のトラウマをデプロイしてみせた。
嘘だ。
あたしの脳内ストレージの奥底には、揺れるビルの中で未知の物理エネルギーを全身で感じ、最高にワクテカして瞳を輝かせていた幼き魔王のログが、完全に保存されている。
しかし、その隠蔽プロトコルは、隣に座る彼氏によってマッハの速度で無慈悲にクラッシュされた。
「大雅さんから聞いてるよ。舞桜、揺れるビルの窓に張り付いて『サイヤ人の襲来だわッ』って、信じられないくらいはしゃいでたらしいね」
勇希が、ホットビールを口に運びながら、絶対零度の平坦な音声ログで真実を暴露しやがった。
「なッ……!?」
あたしは、顔面ディスプレイをプラズマ級に赤くバーニングさせてフリーズする。
「サイヤ人って……おまえ、その頃からスペックが完全に魔王じゃねえか」
拓矢が、呆れたように肩を震わせて笑いを堪えている。
「怖かったアピールが1ミクロンも機能してねえぜ。嘘つくならもっとマシなパッチを当てろよ」
ボッチが、ツクネを頬張りながらゼネコンの顔つきを崩してニヤニヤと笑う。
「危機的状況下での極度なアドレナリン分泌……防大生顔負けの戦闘狂プロトコルですね」
琴葉ちゃんが、凛とした表情のまま、冷徹な分析結果をログに出力した。
「あはははッ! 舞桜、ちっちゃい頃から最高にポンコツで可愛いじゃん~!」
サブリナが、テーブルをバンバンと叩いて大爆笑のシグナルを発行する。
「う、うるさいわねッ! パパのヤロー、余計なアーカイブを外部公開してんじゃないわよぉーッ!」
あたしは、深緑のニットワンピースの胸を張って威嚇のパケットを送信したが、ラボに響くメインノードたちの笑い声のトラフィックを、デバッグすることはできなかった。
聖夜の横須賀のラボ。
ホットビールのスパイスとターキースープの香りに包まれながら、あたしたちのスマートで少しだけポンコツなクリスマスは、最高に温かい同期処理を重ねていくのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「そう言う意味で言えば、日本の家って地震を伝えづらいアーキテクチャなのかもね」
あたし、黒木舞桜は、ホットビールの紙コップをテーブルに置き、サファイアブルーのポニーテールを揺らして新たなクエリを発行した。
「だって、日本の家って上り框があるじゃない」
深緑のハイネックリブニットワンピースの胸を張り、あたしは不敵な魔王のスマイルを明滅させる。
「地面と居住空間の間に、床下という名の『空気の層』が物理的にデプロイされてるわよね」
赤い髪のボッチこと茅野万桜が、ターキーのツクネをかじりながらゼネコンの顔つきで身を乗り出してきた。
「なるほどな。ベタ基礎や布基礎の上に土台を乗せて床を張る。その床下の空間が、さっきの地下鉄やデパ地下と同じように、地震波を減衰させる免震スリットとして機能してるってことか」
グレーのチェスターコートを脱いだプラチナブロンドの白井勇希が、ニットの袖をまくり、知性の瞳を輝かせる。
「物理学的に見ても極めて理にかなってるね。地震の破壊力をもたらす横揺れ、つまりS波は、固体の中しか伝わらない。空気という気体の層が間に挟まっているだけで、地面からの強力な剪断応力は床下で物理的にパージされる」
「基礎と居住区画を切り離す、伝統的なセーフティネットだな」
長身の斧乃木拓矢が、ヴィンテージのネルシャツの首元を掻きながら、兵站のロジックで深く頷く。
「地面の揺れを直接受け止めるんじゃなく、床下の空気でエネルギーを逃がす。昔の大工は、経験則だけで完璧な免震構造をビルドしてたってわけだ」
「じゃあさ、床下収納ってどうなのよ」
あたしは、タイトな黒の厚手タイツに包まれた脚を組み替え、さらなる仮説をコンパイルした。
「キッチンとかにある地下収納よ。あれって地震の時、有効な防衛インフラになり得るのかしら」
防大の倉田琴葉ちゃんが、ネイビーのリブタートルネックの襟元を正し、凛とした声で分析パッチを当てる。
「一般的な床下収納は、床の開口部からプラスチックの収納庫を宙吊りにしている状態です。つまり、基礎には接触せず、空気の層の中に浮かんでいることになりますね」
「宙吊り……。それって、巨大な振り子じゃん~!」
サブリナこと福元莉那が、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らし、黒のレザージャケットの首元に巻いた赤いチェック柄のボリュームマフラーに顔を埋めながら、楽しげなシグナルを発行した。
「そうよッ!」
あたしは、レザーショートブーツのヒールを床に響かせ、最高に獰猛なドヤ顔をレンダリングした。
「床下収納に、醤油のボトルや飲料水、缶詰みたいな重い備蓄パケットを限界までスタックしておくの。すると、それはただの収納じゃなくて、高層ビルに組み込まれている『制震ダンパー』へと物理的にアップデートされるのよッ」
勇希がハッとして、ホットビールを置いた。
「チューンド・マス・ダンパーかッ。地震で家が右に揺れた時、床下で宙吊りになった重い収納庫が慣性の法則で左に留まろうとする。その動きがカウンターウェイトになって、家全体の揺れを相殺して減衰させるんだね」
「備蓄品という名のデッドウェイトを、そのまま建物の防衛リソースとして転用するのか。兵站の観点から見ても無駄が1ミクロンもねえ完璧なアーキテクチャだぜ」
拓矢が、獰猛な笑みを浮かべて両手を叩く。
「ゼネコンも顔負けの構造力学ハックだな。重いものを床下に置くことで建物の重心が下がり、さらに振り子として地震のエネルギーを吸収する。最強のパッシブ防衛だ」
ボッチが、赤い髪をガシガシと掻きむしりながら歓喜のログを出力した。
「当然の帰結よッ」
あたしは、ポニーテールを揺らし、不敵な魔王のスマイルを明滅させた。
「デパ地下の空洞も、日本の家の床下も、全部『空間』というリソースを使ったスマートな物理ハックなのよ。さあ、高負荷な演算を回したら、また胃袋のディレクトリが空になったわッ。シメのタスクを走らせるわよッ」
あたしは、立ち上がって給湯室の冷凍庫へとマッハでアクセスした。
取り出したのは、スーパーで爆安で売られている市販の冷凍醤油ラーメンのパケット群だ。
「おい、舞桜。まさかクリスマスイブのシメが冷凍ラーメンか?」
拓矢が怪訝なクエリを投げてくるが、あたしは華麗にスルーする。
「ただのレンチンラーメンで終わらせるわけないじゃないのよぉーッ」
あたしは、冷凍ラーメンを電子レンジに放り込み、爆速で加熱プロトコルを起動する。
チーンという完了音が鳴り響くと同時に、熱々の麺と具材を深めのどんぶりへとデプロイした。
そこへ、塩タンクコンロの上でじっくりと煮込まれていた、あの黄金色のスープを注ぎ込む。
「アメリカンなターキーのガラから抽出された、超濃厚なアミノ酸スープをマージよッ。これぞ、即興デプロイ型『ターキーガラ・ラーメン』の完成よッ」
熱いスープが冷凍ラーメンの醤油ダレと融合し、ラボの空間に暴力的なまでのギルティな香りが充満する。
「くはッ、ターキーの強烈な旨味が、安い冷凍麺のテクスチャを完全に高級中華のレベルまでクロックアップさせてやがるッ」
ボッチが、箸を止めることなく麺をマッハですすり上げ、歓喜のエラーログを吐き出す。
「鶏ガラよりも野性味があって、深いコクがあるね。チープな冷凍食品と、聖夜の残骸のハイブリッド。舞桜らしい、極めて合理的なハックだよ」
少し背の伸びた勇希が、プラチナブロンドの髪を揺らしながら、スープを最後の一滴まで飲み干した。
「ジャンクなのに栄養価のパラメータは振り切れてます。夜食の兵站としては最強のソリューションですね」
琴葉ちゃんも、ダークグレーのチェック柄スラックスの膝にハンカチを敷き、凛とした所作でどんぶりを空にする。
「あはは~、クリスマスに七面鳥のラーメンなんて、世界中でここだけの特別メニューじゃん~」
サブリナが、赤いチェック柄のマフラーを揺らして極上の笑顔を明滅させた。
「でしょッ。高級なレストランの予約なんて1ミクロンも必要ないのよ」
あたしは、深緑のニットワンピースの胸を張り、ターキーガラの濃厚なスープをすすって、サファイアブルーの瞳を細めた。
聖夜の横須賀のラボ。
物理法則と冷凍食品、そしてあたしたちのスマートな知性がマージされたこの空間こそが、世界で一番温かくてセキュアなボーナスタイムなのだった。
後書き
床下収納を制震ダンパーに書き換えるハック、どうだったかしら?
高価な免震装置なんていうヴェブレン財に頼らなくても、あたしたちのスマートなロジックがあれば、日常の空間は一瞬で最強の防衛インフラへアップデートされるのよ。
それにしても、あの冷凍ラーメンとターキーガラのハイブリッドは、冗談抜きで胃袋のディレクトリを完全に掌握する暴力的なテクスチャだったわ。
次もまた、世界のバグった常識をマッハでデバッグしてやるから、しっかりトラフィックについてきなさいなッ。




