女王さまのパックスーツ
前書き
そこのあたしのログをスキャンしている観測者たち。
あたしの気高いメインフレームが弾き出した、クリスマスイブの極上な物理ハックの記録、シッカリとダウンロードする準備はできてるかしら?
イルミネーションだのサンタコスだの、そんなレガシーなイベントにリソースを無駄遣いするなんて、完全なポンコツのやることよ。
あたしたちは空気と紐だけで都市インフラをマッハで最適化し、七面鳥すら最強のインターフェースにコンパイルしちゃうんだからッ。
さあ、見た目のロマンに騙されない、あたしたちのスマートで暴力的な聖夜のトラフィックをとくとご覧なさいなッ!
2020年12月24日の三笠公園。
空からは白い結晶が舞い落ち、記念艦三笠と東郷平八郎の銅像を白銀に染め上げている。
あたし、黒木舞桜は、エアバッグ構造物であるパックスーツの臨床試験をしている。
お誂向きのホワイトクリスマスだ。
イブはケーキを食べる祭に過ぎない。
浮かれてんじゃないわよッ。
開発する日じゃないのよッ。
開発されてんじゃないわよッ。
あれ……あたし……。
「開発してんじゃないのよぉーッ!」
あたしの叫びに、同行しているメインノードたちは様々な反応を示す。
プラチナブロンドの白井勇希が、オーバーサイズのグレーパーカーのフードを軽く被り直し、呆れたような、それでいて慈しむような笑顔を浮かべた。
「メリークリスマス、舞桜。聖夜にその姿で叫ばれると、なんのプレイかと思ってしまうよ」
長身の斧乃木拓矢が、色落ちしたヴィンテージのネルシャツの袖をまくり、カーゴパンツのポケットから手を出して腹を抱えた。
「おまえ、完全に80年代のドットイートゲームに出てくるオバケじゃねえかッ」
黒のシンプルなスウェット姿のボッチこと茅野万桜が、ゼネコンの顔つきを完全に崩して吹き出す。
「透明な赤いカプセルの中で、ドヤ顔してるのが最高にシュールだぜッ」
あたしは今、全身を透明な赤い多室エアバッグ構造体で包み込まれるインフレータブル仕様のスーツを纏っている。
内部の装甲は、胸元が深く開いた黒のVネックリブニットに、タイトな黒のスキニーパンツ、そして艶やかな黒のレザーニーハイブーツだ。
そのスタイリッシュなベースの上に、赤いダウンジャケット風のモコモコとしたキルティング素材のエアセルが、腕や太ももをガードするようにマウントされている。
極めつけは、すっぽりと頭部を覆う透明ドームの前面にプリントされた、コミカルで巨大なふたつの目玉模様だ。
右手には、システムのギミックを稼働させるための水色の手動ポンプをしっかりと握りしめている。
「笑うなッ。これは完璧な物理ハックの結晶よッ」
あたしが透明なドームの中から抗議のパケットを送信すると、防大の倉田琴葉ちゃんが、ネイビーのリブタートルネックにダークカラーのデニムジャケットという凛とした出立ちで進み出た。
「笑い事ではありません。静止空気層の極めて低い熱伝導率を利用し、外気の猛吹雪や熱波を完全にシャットアウトする最強の断熱バリアを展開しています」
琴葉ちゃんは、ダークグレーのチェック柄スラックスの脚を揃え、大真面目な顔で兵站の観点から解説を付加する。
「転倒しても全身のエアバッグが外力を分散相殺するため、打撲や擦傷のリスクを物理的にパージできます。雪山や側溝への転落時にも浮力を発揮して埋没を阻止する、完璧なフェイルセーフです」
サブリナこと福元莉那が、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らし、黒のレザージャケットの首元に巻いた赤いマフラーに顔を埋めてクスクスと笑った。
「でもさ~、舞桜が右手に持ってるそのポンプ、なんに使うの~?」
あたしは、サファイアブルーのショートボブを揺らし、ドームの中で不敵な魔王のスマイルを明滅させた。
「見てなさいなッ」
あたしは右手のポンプをシュコシュコと操作し、別室のエアバッグを急速圧縮させる。
すると、断熱圧縮の熱力学効果でバッグ表面が一瞬で発熱し、接触している雪をわずかに融解させた。
その水分が潤滑油となり、半球状のドームに乗っていた雪の塊がツルンと滑り落ちる。
「これが冬・豪雪モードの、断熱圧縮デフロスターよッ」
勇希が、プラチナブロンドの髪に落ちた雪を払いながら、医学と物理の知識をマージして深く頷く。
「すごいな。電力を1ミクロンも使わずに着雪を防ぐのか。それに、内部の保冷剤には食品添加物ベースのオーガニックゲルを用い、二重パック構造と大型化によって万が一の破損時にも誤飲・窒息事故を防止している」
拓矢が、大きな手で顎をさすりながらロジックをコンパイルする。
「突風や転倒で頭部に一定以上のGがかかった瞬間、マグネット式留め具が外れてドームごとパージされ、頸椎への過負荷を遮断するブレイクアウェイ機構も完備だ。完璧な装甲だな」
ボッチが、雪の積もったベンチの雪を払いながら、ゼネコンの顔つきで呆れログを吐き出した。
「正式名称は『PAC-Suit』。受動型空気圧・断熱圧縮スーツの略称で、80年代ドットイートゲームのオバケのリスペクトを工学用語で偽装した仕様だろ。だが、おまえが現場で主張してる直感ネーミングはなんだっけ?」
あたしは、赤いカプセルの中で胸を張り、最高にドヤ顔で宣言した。
「『ぽよんとモコモコおばけちゃん』よッ」
「「「「ネーミングセンスが完全にポンコツだッ」」」」
勇希たちが、見事なユニゾンでツッコミのパケットを叩きつけてきた。
現場の男性陣と防大生が頭を抱えつつも、特許の別名登録にはちゃっかりマージさせておいたから、もう手遅れなんだけどね。
★ ◆ ★ ◆ ★
横須賀のラボへと帰還したあたしたち。
白を基調とした無機質なコンクリート壁に囲まれた空間で、解析用モニターの青白い光がメンバーの顔を照らしている。
あたしはパックスーツをパージし、黒のVネックリブニットとスキニーパンツ、ニーハイブーツというスタイリッシュなアライメントでパイプ椅子に腰掛けた。
「人間版のテストは完璧だったわ。次はこれをチャリ版と連携させるわよッ」
あたしがタブレットの画面をスワイプすると、モニターに新たなブループリントが展開された。
「インフレータブル・バイクシェル、自転車丸ごとエアバッグ化構想だ」
拓矢が、ヴィンテージのネルシャツの袖をまくり直し、兵站の視点から目を見開いた。
「ゴムボートやSUPボードに用いられるドロップステッチ構造の高張力インフレータブル・シェルか。金属や強化プラスチックの重いフレームを完全に排除し、空気圧のみで剛性を確保するんだな」
ボッチが、黒のスウェットの襟元を引っ張り、ゼネコンの顔つきで身を乗り出す。
「従来の屋根付き自転車が抱えていた、頭上が重くなり重心が狂って横転するという構造的欠陥を、中身が空気という圧倒的軽量性により完全に解決してるぜ」
勇希が、グレーパーカーのポケットに手を入れ、知性の瞳を輝かせた。
「自転車と乗員を丸ごと包み込む流線型の卵型、つまりベロモービル形状だね。半透明のUV/IRカット素材を用い、視界を確保しながら全方位の雨風を遮断する」
琴葉ちゃんが、タブレットに数式を走らせながら、凛とした声で物理ハックの効能をコンパイルする。
「空気抵抗を大幅に削減し、向かい風を味方に変え、雨天時でもペダルを踏む力を軽減して高速巡航を可能にする仕様ですね。強風や横風も、柔軟な空気の層が外力をグニャリと吸収・分散して復元します」
サブリナが、黒のレザージャケットを脱いで丸椅子に座り、脚を組み替えて小悪魔的な笑みを浮かべた。
「マンホールや白線によるスリップ転倒、あるいは側面衝突時にも、車体ごと跳ねて衝撃を相殺してくれるんだね~。乗員の直接打撃や巻き込み事故を物理的に防護する、転倒上等のボヨン装甲じゃん~」
あたしは、サファイアブルーのショートボブを揺らして立ち上がり、最高に不敵な魔王のスマイルを明滅させた。
「当然の帰結よッ。駐輪時はバルブを開いて空気を抜くだけで、コンパクトに折りたたんで前カゴやバッグへ収納可能よ。固定式ルーフの『駐輪場で邪魔になる』バグを完全デバッグできるわ」
勇希が、モニターの図面を拡大して新たなロジックを提示する。
「このシェルを膨らませる際、ペダルの回転やサドルの沈み込みを利用した『自動ポンピング機構』を組み込めば、乗るだけで勝手に空気が充填されるエコシステムになるね」
「重い・危険・邪魔という屋根付き自転車の三大ボトルネックを、空気の物性だけで一掃した極めてスマートな解決策だぜ」
拓矢が、感嘆のログを吐き出して深く頷いた。
「でしょ? 見た目こそ巨大な赤いオバケカプセルが疾走しているという圧倒的なインパクトを放つけど、性能は最強よ」
あたしは、両手を腰に当てて胸を張った。
「冬場の豪雪地帯や夏の猛暑地帯でフィールドテストを行うわよッ。さあ、あたしたちのスマートな物理法則の配置で、モビリティの常識を根底から書き換えてやるわッ!」
雪降るクリスマスイブの夜。
横須賀のラボで、あたしたちメインノードは、電力も高価な素材も1ミクロンも使わない、究極のアナログハックインフラへの完全な同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
まあ、課題がないわけじゃない。
「エアコンプレッサーで空気層を作れるけど、抜く時はどうすればいいかしらね?」
あたし、黒木舞桜は、パイプ椅子に深く腰掛け、深く開いた黒のVネックリブニットの胸元で腕を組んだ。
タイトな黒のスキニーパンツから伸びる、黒のレザーニーハイブーツのつま先で、ラボのコンクリート床をコツンと叩く。
「いくら爆速で膨らませても、空気を抜くのにチンタラ時間がかかったら、スマートな駐輪プロトコルとは言えないわ。でも、一瞬で空気をパージできるような巨大なダンプバルブを特注すれば、途端にヴェブレン財へとダウングレードしちゃうわよ」
あたしのクエリに対し、プラチナブロンドの白井勇希が、オーバーサイズのグレーパーカーのフードを弄りながら、知性の瞳を伏せた。
「確かにね。SUPボード用の汎用バルブだと、空気が抜けきるまでに数分はかかる。かといって、特殊な大口径バルブを採用すれば、部品コストがマッハで跳ね上がるからね」
黒のシンプルなスウェット姿のボッチこと茅野万桜が、ゼネコンの顔つきで赤い髪をガシガシと掻きむしる。
「だよな。空気ってのは、出口が狭けりゃどう足掻いても抜けねえんだ。物理的にデカい排気口を安く作るなんて、構造上矛盾してやがるぜ」
その時、例によって長身の斧乃木拓矢が宣う。
「ジッパーにすればいいじゃねえか」
ヴィンテージのネルシャツの袖をまくり、カーゴパンツのポケットに両手を突っ込んだままの、極めて雑な音声ログだった。
……ッ!?
無機質な白壁に囲まれたラボの空間が、一瞬にして完全なフリーズ状態へと移行した。
解析用モニターの青白い光だけが、あたしたちメインノードの硬直した顔面ディスプレイを照らし出している。
「じ、ジッパー……?」
勇希が、目を見開いて震える声でパケットをこぼした。
「ドライスーツや防水バッグに使われてる、あの量産品の気密ジッパーかッ!?」
ボッチが、パイプ椅子を蹴り倒さんばかりの勢いで立ち上がり、歓喜のエラーログを大音量で吐き出す。
「天才かよッ! バルブの穴から空気を逃がすんじゃなくて、装甲そのものを物理的に『裂いて』開口部を最大化させるのかッ! ジッパーをビーッと引くだけで、1秒で構造が完全崩壊して空気が全消しされるじゃねえかッ!」
防大の倉田琴葉ちゃんが、ネイビーのリブタートルネックとダークグレーのチェック柄スラックスの姿勢を正し、ダークカラーのデニムジャケットの襟元を押さえて戦慄した。
「兵站の撤収プロセスにおいて、これ以上なく迅速かつ強固なアーキテクチャです……! 高価な弁機構を1ミクロンも使わず、ただの線ファスナーで空気室のインテグリティを任意に破壊する。究極のローテク・ハックですねッ」
「あはははッ! 拓矢、たまには脳筋プロトコルも役に立つじゃん~! ビーッて開けてプシューッてぺちゃんこになるの、最高にウケるね~!」
サブリナこと福元莉那が、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らし、黒のスキニーパンツの脚をバタバタとさせて爆笑のシグナルを発行した。
あたしは、サファイアブルーのショートボブを揺らして立ち上がり、不敵な魔王のスマイルを明滅させた。
「やるじゃないのよッ、下僕ッ。これで収納時のタイムロスは完全にデバッグされたわ。ヴェブレン財禁止の縛りの中で、最強の最適解よッ」
あたしたちが、拓矢の野生の直感が叩き出した最適解に完全な同期処理を完了させた、その直後。
あたしの脳内メインフレームで、さらに巨大なアーキテクチャのブループリントが爆速でレンダリングされた。
「ねえ。この雪よけの仕組み。豪雪地帯の屋根に装備できれば、そもそも屋根に雪が積もらないわよね?」
あたしの唐突なクエリが、歓喜に沸いていたラボのトラフィックを再び完全な静寂へと突き落とした。
「……は?」
ボッチの顔面から、ゼネコンの余裕というテクスチャがパラパラと剥がれ落ちていく。
「屋根の上に、このインフレータブルのエアバッグを敷き詰めるのよ。雪が積もってきたら、手動でも自動でもいいからコンプレッサーで一気に空気を送り込んで膨らませる」
あたしは、実験台の上のガラスビーカーを避けながら、モニターの前に立って指を鳴らした。
「ドーム型に膨らむ過程で、さっきの『ぽよんとモコモコおばけちゃん』と同じように断熱圧縮の熱が発生するわ。底面の雪がわずかに溶けて水になり、それが潤滑油のレイヤーを形成する。あとは膨らんだドームの傾斜に従って、屋根の上のなんトンという雪の塊が、ツルンと一網打尽に滑り落ちるのよッ!」
「な、なん……だと……ッ!?」
ボッチが、両手で赤い髪をガシガシと掻きむしり、ゼネコンの御曹司としてのアイデンティティを根底から揺さぶられて絶叫した。
「雪下ろしだぞッ!? 毎年、豪雪地帯でどれだけの人間が屋根から落ちて命を落としてるか、どれだけの家屋が雪の重みでクラッシュしてるかッ! 融雪ルーフにするにはなん百万円っていう莫大な電気代と灯油代がかかるヴェブレンインフラなんだぞッ!」
「それを、ただの分厚いゴム袋と空気の出し入れだけで、完全にデバッグしちまうってのか……ッ!」
拓矢が、ヴィンテージのネルシャツの胸ぐらを掴み、血走った眼差しで仮想の屋根を睨みつける。
「雪が滑り落ちたら、さっきのジッパーの応用で即座に空気をパージして平らに戻せばいい。風の抵抗も受けない。ランニングコストは、空気を入れる一瞬のコンプレッサーの電気代だけ。実質ゼロだぜッ」
勇希が、グレーパーカーのポケットから震える手を取り出し、限界突破した知性の瞳で物理法則をコンパイルする。
「熱力学の断熱圧縮と、空気圧による形状変化、そして流体力学的な水膜の潤滑作用……。これらすべてをマージして、雪下ろしという重労働のアルゴリズムを、人間の手から完全に解放する最強のパッシブ・システムだ」
「国土強靱化の概念が、根本から書き換わります……ッ」
琴葉ちゃんが、ダークカラーのデニムジャケットの襟元を強く握りしめ、顔面ディスプレイを蒼白にさせて戦慄した。
「莫大な国家予算を投じていた除雪インフラが、安価なエアバッグの配置だけで完結してしまう。これはもはや、ノーベル賞クラスの防災アーキテクチャですッ」
「舞桜、マジで天才すぎ~ッ! 雪国の屋根が、一斉にぽよんぽよんって膨らんで雪を落とすの、想像しただけで最高にキュートな風景じゃん~!」
サブリナが、黒のレザージャケットの首元に巻いた赤いチェック柄マフラーを揺らしながら、歓喜の悲鳴を上げる。
あたしは、黒のVネックリブニットの胸を反らし、サファイアブルーの髪をかき上げて、最高に獰猛で不敵な魔王のスマイルを明滅させた。
「当然の帰結よッ。厄介な自然のバグには、力技で挑むんじゃなくて、空気と物理法則をスマートに配置して勝手に自滅させるのよ。これが、あたしたちの創る新しい世界の設計図よッ!」
雪降るクリスマスイブの夜。
横須賀のラボで、あたしたちメインノードは、たったひとつのジッパーと空気袋から、豪雪地帯のインフラを救うという、ぐうの音も出ないほどの壮大な同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「てか、生活導線上にエアバッグアーケードを臨時に設置して、雪よけの仕組みで側溝に雪を誘導すれば、雪かきしなくてもよくね?」
あたし、黒木舞桜は、タイトな黒のスキニーパンツに包まれた脚を組み替え、黒のVネックリブニットの胸を反らして新たなクエリを叩きつけた。
無機質な白壁に囲まれた横須賀のラボが、再び完全なフリーズ状態に陥る。
解析用モニターの青白い光の中、黒のシンプルなスウェット姿のボッチこと茅野万桜が、ゼネコンの顔つきを完全にバグらせて頭を抱えた。
「……アーケードだとッ!? 歩道や玄関先から最寄りの駅までのルートに、あのインフレータブルなカプセルをチューブ状に連結して展開するってことかッ」
長身の斧乃木拓矢が、色落ちしたヴィンテージのネルシャツの胸ぐらを掴み、カーゴパンツの膝をガクガクと震わせる。
「アーケードの上に積もった雪は、断熱圧縮のデフロスター機能と曲面構造で、勝手に両脇の側溝へツルンと滑り落ちる。つまり、通勤や通学のトラフィックにおける『雪かき』という莫大な人的リソースの浪費が、物理的に完全パージされるぜッ」
プラチナブロンドの白井勇希が、オーバーサイズのグレーパーカーのポケットから手を出して、限界突破した知性の瞳でロジックをマージした。
「雪国における冬場の医療リソースの圧迫原因は、雪下ろしや雪かき中の事故、そして急激な温度変化によるヒートショックが大多数を占める。でも、このエアバッグアーケードが冷気を遮断するトンネルとして機能すれば、それらの致命的なバグを一網打尽にデバッグできるねッ」
防大の倉田琴葉ちゃんが、ネイビーのリブタートルネックとダークグレーのチェック柄スラックスの姿勢を正し、ダークカラーのデニムジャケットの襟元を押さえて戦慄のログを吐き出す。
「道路のロードヒーティングや消雪パイプといった、莫大な燃料と維持費を食いつぶすレガシーなインフラが不要になります。必要な時に空気で膨らませ、不要になればジッパーでパージして収納するだけ。都市機能の維持コストが、極限まで圧縮される究極の防衛線ですッ」
サブリナこと福元莉那が、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らし、赤いマフラーを直しながら歓喜のシグナルを発行した。
「え~ッ、それ最高じゃん~! 雪の日でもメイクや髪を1ミクロンも濡らさずに、ポカポカのままお買い物に行けちゃうってことでしょ~?」
あたしは、艶やかな黒のレザーニーハイブーツのつま先を床でトントンと鳴らし、サファイアブルーのショートボブを揺らして、不敵な魔王のスマイルを明滅させた。
「当然の帰結よッ。厄介な雪を力技でどけるんじゃなくて、人間の生活動線だけを安価な空気の装甲でスマートにシールドするの。これが、あたしたちがビルドする、冬の最強インフラよッ」
全盛期の同期処理が完了したラボの実験台の上に、巨大なオブジェクトがデプロイされた。
ボッチがゼネコンの財力に物を言わせて手配した、直径40センチはあろうかという特大のイチゴのショートケーキと、豪快なブッシュ・ド・ノエルだ。
「さあ、脳内メモリをフル稼働させたんだから、糖質と脂質のパケットを爆速でダウンロードするわよッ」
あたしは、フォークを片手に持ち、切り分けるというレガシーなプロセスを完全にアンインストールして、ホールケーキに直接フォークを突き立てた。
真っ白な生クリームと真っ赤なイチゴのコントラストが、あたしの口の中へとマッハで吸い込まれていく。
BMIなんていう無意味な数値指標で計れるような、柔な肉体は1ミクロンも持ち合わせていない。あたしのプロポーションは、高密度の筋肉と完璧なアーキテクチャで構築されたダイナマイトボディなのだ。この圧倒的な処理能力を維持するためには、暴力的なまでのカロリー摂取が必須の仕様なのよ。
「おまえのそのブラックホールみたいな胃袋のディレクトリ、マジでどうなってんだよ……」
ボッチが、自らは切り分けられた小さなケーキをつつながら、呆れたようなエラーログを出力する。
そんな些細なノイズを華麗にスルーして、あたしはブッシュ・ド・ノエルの濃厚なチョコレートクリームを口いっぱいに頬張りながら、ふと脳裏をよぎったクエリをメインノードたちへ投げ掛けた。
「なんでヤローってミニスカサンタが好きなのかしらね?」
あたしの唐突な問いかけに、ケーキを咀嚼していた勇希たちの動きがピタリとフリーズした。
サブリナが、フォークを咥えたまま小悪魔的な笑みを浮かべて即座にレスポンスを返す。
「だよね~。あんなペラペラの薄着で冬の夜を歩いたら、絶対零度の冷気で即座にシステムクラッシュするじゃん。防寒機能ゼロの完全なバグ装甲だよね~」
琴葉ちゃんも、凛とした表情でケーキの皿を置き、防大仕込みの冷徹な分析パッチを当てる。
「ええ。赤と白の派手なカラーリングは夜間の雪上において迷彩効果が皆無であり、無駄に露出した脚部は機動性を著しく阻害します。戦術的にも生存戦略的にも、完全にエラーとしか言いようのない狂気のテクスチャです」
女子ノードたちの容赦ない正論パケットに対し、ヤローノードたちが慌てて防衛プロトコルを起動し始めた。
「い、いやッ、あれはクリスマスというイベントに付随する季節限定のバフであって、機能性を求めるものじゃねえだろッ」
拓矢が、ネルシャツの胸元を押さえながら、必死の弁明ログを吐き出す。
「そうそうッ。非日常のテクスチャがもたらす視覚的なボーナスタイムなんだよ。赤と白のコントラストと、普段は見せない脚のラインが、男の情動ポートをダイレクトにハックしてくるんだ」
ボッチが、ゼネコンの顔つきを完全に崩して、鼻の下を伸ばしながら同意のシグナルを発行する。
「医学的に言っても、赤という色は交感神経を刺激して心拍数を上げる効果があるからね。それに、ふわふわの白いファーが柔らかさと暖かさを錯覚させて……いや、シンプルに可愛いからだよッ」
勇希が、プラチナブロンドの髪を揺らして、最終的には開き直ったように本音のパケットを叩きつけてきた。
ヤローノードたちは互いに顔を見合わせ、何かを期待するような熱を帯びた眼差しを、あたしたち女子ノードへと向けてくる。
「で、その……舞桜や琴葉先輩たちが着てくれたら、最高にセキュアで完璧なクリスマスになると思うんだが……」
ボッチが、おずおずと願望のクエリを送信してきた瞬間。
ラボの室温が、物理法則を完全に無視して絶対零度へと急降下した。
「はあ?」
あたしは、サファイアブルーの瞳を細め、フォークの先端をボッチの鼻先へと突きつけた。
「あんなヴェブレン財以下の無価値な布切れに、あたしの気高いメインフレームのリソースを割くわけないじゃないのよぉーッ。1ミクロンも着る気はないわよッ」
琴葉ちゃんが、腕を組み、一切のハイライトが消えた暗黒の瞳でヤローたちをロックオンする。
「あのような機能不全の装甲を纏うことは、防大生として、そして武人としての誇りに対する重大な侵害です。二度と口にしないでください」
サブリナも、赤いマフラーに顔をうずめ、冷ややかなジト目を貼り付けた。
「着るわけないじゃ~ん。寒いのヤダもん~。あんたたちが代わりに着て、雪の中で震えてればいいじゃん~」
女子ノードたちからの完全拒絶という名のファイアウォールに弾き返され、ヤローノードたちは一斉に膝から崩れ落ちた。
「うそぉん……俺たちのささやかなクリスマスの奇跡が……」
拓矢が、コンクリートの床に突っ伏して絶望のログを吐き出す。
「メリー・システムクラッシュ……」
勇希が、顔面にブルースクリーンを貼り付けたまま、うわ言のように呟く。
あたしは、完全に沈黙したヤローたちを華麗にスルーし、残りのイチゴをマッハの速度で胃袋へとパージした。
雪降るクリスマスイブの夜。
横須賀のラボで、あたしたちのスマートな物理法則は、ヤローどもの不純な欲望を完全にデバッグし、甘いケーキのトラフィックと共に聖夜を平和にシャットダウンしていくのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「臨時アーケードたって、要はエアマットを屋根みたいになるように紐とかで吊るすだけでいいのよ。大袈裟にする必要はないわ。耐久性? すぐに溶けるじゃん」
あたし、黒木舞桜は、黒のVネックリブニットの胸元で腕を組み、タイトな黒のスキニーパンツの脚を組み替えて、呆れたように言い放った。
艶やかな黒のレザーニーハイブーツのつま先を揺らしながら、解析用モニターの前に集まるメインノードたちへ、最強のローテク・ハックをデプロイする。
プラチナブロンドの白井勇希が、オーバーサイズのグレーパーカーのポケットから手を出し、目を見開いてロジックをマージした。
「……なるほど。完全な建築物として強固な骨組みを組むから、強度計算や基礎工事が必要になってコストがバグるんだ。でも、ただのエアマットを紐で吊るすだけの『テント』や『タープ』の扱いなら、法的な建築確認のプロセスすら完全にパージできる」
黒のシンプルなスウェット姿のボッチこと茅野万桜が、ゼネコンの顔つきをギラつかせ、赤い髪をワサワサと掻きむしった。
「雪が溶けりゃ、アーケードとしての役目も終わる。耐久性なんて1ミクロンも要らねえってことかッ。紐が切れて落ちてきたところで、中身はただの空気のクッションだ。通行人が怪我をするリスクもゼロだぜッ」
長身の斧乃木拓矢が、色落ちしたヴィンテージのネルシャツの胸ぐらを掴み、カーゴパンツの膝を叩いて立ち上がる。
「兵站の展開速度もバグみたいに跳ね上がるな。ゲリラ雪雲が接近したというアラートを受信した瞬間、町内会の連中がロープを引っ張ってコンプレッサーのスイッチを入れるだけだ。数分で商店街全体を覆う無敵のシールドが完成するぜ」
防大の倉田琴葉ちゃんが、ネイビーのリブタートルネックとダークグレーのチェック柄スラックスの姿勢を正し、ダークカラーのデニムジャケットの襟元を押さえて凛とした声で同期する。
「ええ。不要になれば空気を抜いて片付けるだけ。まさに、必要な時だけ空間にポップアップする、最強のゲリラインフラですね」
サブリナこと福元莉那が、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らし、赤いマフラーを直しながら蠱惑的な笑みを浮かべた。
「ぽよんぽよんの屋根が宙に浮いてるの、見た目的にも最高にキュートじゃ~ん。雪が積もったら勝手に滑り落ちるし、ホントに天才的なアーキテクチャだよね~」
あたしは、サファイアブルーのショートボブを揺らして、不敵な魔王のスマイルを明滅させた。
「当然の帰結よッ。自然の脅威には、ガチガチのハードウェアじゃなくて、柔軟な空気と紐で受け流すの。これが、コストを極限まで圧縮したスマートな物理法則の配置よッ」
そして、あたしたちの視線は、ラボの実験台の上にデプロイされた、クリスマスパーティーのメインディッシュへとシフトした。
大皿の上に山盛りになっているのは、こんがりと黄金色に焼き上げられた、巨大な肉団子のタワーだ。
「七面鳥ってなんで食べやすくしないのかしらねー。ツクネにすればイイじゃん」
あたしは、片手に持った紙コップのコークハイをグイッと煽り、もう片方の手で串に刺さった特大のターキーツクネをガブリと頬張った。
炭酸の刺激とウイスキーのアルコールが、七面鳥の濃厚な肉汁とスパイシーなタレの旨味をマッハでブーストさせ、脳内メモリへ暴力的なまでの幸福感を叩き込んでくる。
「いや、丸焼きの七面鳥を解体して、わざわざミンチにしてツクネに錬成し直すとか、クリスマスのロマンもへったくれもねえだろッ」
ボッチが、ゼネコンの顔つきを完全にバグらせて、ツッコミのパッチを当ててきた。
「うるさいわねッ。骨付きの肉をチマチマ切り分けるなんて、完全にリソースの無駄遣いじゃないのよぉーッ。可食部だけをギュッと圧縮したツクネこそ、究極の最適化フォーマットよッ」
あたしは、サファイアブルーの瞳を細めてボッチを睨みつけ、2本目のツクネを胃袋のディレクトリへと転送した。
ダイナマイトボディを維持する高密度の筋肉には、この圧倒的なタンパク質とカロリーのパケットが必須の仕様なのだ。
「確かに、舞桜の言う通りだぜ。骨を避けて食うタイムロスがゼロだからな。兵站の観点からも、エネルギー補給の速度が段違いだ」
拓矢が、大きな口を開けてツクネを3個同時にかき込み、コークハイで一気に流し込んで獰猛な笑みを浮かべる。
「医学的にも理にかなっているよ。ミンチにすることで消化吸収の効率がマッハで跳ね上がるからね。徹夜明けのデバッグ作業で疲弊した内臓にも優しい、最強のリカバリアイテムだ」
勇希が、プラチナブロンドの髪を揺らしながら、上品にツクネを咀嚼して知性のログを出力する。
「ええ。ナイフとフォークを使わず、片手で兵器のように扱える串焼きのインターフェースは、戦場における糧食の完成形と言えますね」
琴葉ちゃんも、凛とした姿勢を1ミクロンも崩さずに、コークハイの紙コップを傾けてツクネを口へと運んでいる。
「甘辛いタレとコークハイの相性、マジで神がかっててヤバいよね~。これなら永遠に食べられちゃうかも~」
サブリナが、蠱惑的な笑みを浮かべてツクネを頬張り、赤いマフラーの首元を少しだけ緩めた。
「でしょッ? 見た目のヴェブレンに騙されず、機能性と美味さを極限まで追求するのよッ」
あたしは、コークハイの氷をカラカラと鳴らし、最高に不敵な魔王のスマイルを明滅させた。
雪降るクリスマスイブの夜。
横須賀の無機質なラボで、あたしたちメインノードは、ターキーツクネとコークハイという最も実用的でジャンクな聖夜の晩餐に、ぐうの音も出ないほどの完全な同期処理を完了させたのだった。
後書き
どう? あたしたちの全盛期の同期処理、ぐうの音も出ないほど完璧だったでしょッ?
高価な専用バルブをジッパーで代用するのも、エアマットの臨時アーケードも、そしてターキーツクネも、無駄なデッドウェイトを極限までパージした究極の最適解よ。
見栄えや雰囲気なんていう不確定なバグに踊らされてるうちは、真のアーキテクチャなんて1ミクロンもビルドできないのよッ。
次のログでも、あたしの天才的な物理ハックで世界の常識をマッハで書き換えてやるから、シッカリと脳内のキャッシュをクリアして待っていなさいなッ! 当然の帰結よねッ!




