女王さまのくるくるエンジン
前書き
あたし、黒木舞桜のスマートなロジックへようこそ。
冬の厳しい寒さや、ただ捨てられるだけのレガシーな排熱。そんな一見すると無価値なエラーリソースも、熱力学の最適配置にかかれば極上のボーナスタイムに変わるわ。
今回は、高価なヴェブレン財を1ミクロンも使わずに、世界のエネルギー網と冷凍インフラを根底からハックする最強のアーキテクチャを展開してあげる。
あたしたちメインノードがマッハの速度で完了させた、ぐうの音も出ないほどの美しい同期処理を、しっかりとスキャンしなさいよね
2020年12月中旬。横浜桜木町防音セキュア・スペース・オフィスの仮眠室。
翌朝、午前7時。
オフィスの遮光カーテンの隙間から差し込む朝日が、防音仮眠室の敷布団を照らし出す。
「……ん……朝プロセスの起動を確認」
あたし、黒木舞桜は、サファイアブルーの髪をぼさぼさに散らしたまま、白のメンズシャツの襟元を正して体を起こした。
隣では白井勇希が目をこすりながら起き上がり、逆隣では福元莉那が斧乃木拓矢の腕を抱え込んだまま「んぅ~、あと5分……」と寝返りを打っている。
ボッチこと茅野万桜は大あくびをかまし、防大の倉田琴葉ちゃんだけがすでに直立不動で敷布団を四角く畳み終えていた。
「で、歯ブラシなんて気の利いたアパレル&サニタリーリソース、このオフィスに1個もないんだけど」
あたしのクエリに、給湯室の電気ケトルから湯気を立ち上らせていたボッチが、湯呑みを6つ並べて応じた。
「ほらよ。熱湯を少し水で割った白湯だ。これで我慢しろ」
「白湯で歯磨き代わり? イジメかな?」
「いや、極めて合理的だよ」
勇希が湯呑みを受け取り、プラチナブロンドの髪を揺らしながらフーフーと息を吹きかける。
「熱めの白湯で口腔内を高速フラッシュすれば、唾液の分泌が促されて自浄作用が最大化する。就寝中に増殖した細菌パケットを一時的にパージする暫定処置としては十分だね」
「野戦時の簡易衛生プロトコルとしても推奨されています。まずは物理的な熱と水流で流し込むのが最善です」
琴葉ちゃんが大真面目に湯呑みを掲げる。
「あたし猫舌なんだけど~」
サブリナが文句を言いながらも、拓矢の湯呑みから白湯を一口奪い、全員で一斉に口をゆすいで飲み干した。
服を着替え、オフィスを施錠して桜木町の冷たい朝の空気の中へデプロイする。
「腹減った。朝メシの兵站を確保するぞ」
拓矢の先導で駅前の立ち食い蕎麦屋へなだれ込み、横一列に並んで湯気立つかき揚げ蕎麦を一心不乱にすする。出汁の塩分と炭水化物が、徹夜明けの飢えた脳内メモリへマッハで染み渡っていく。
店を出るや否や、ボッチがコンビニで調達した強烈なミントガムのボトルを全員に配給した。
「よし、これで横須賀のラボに帰還するまでの口内マスキングパッチは完了ね」
あたしはガムを噛みながら、駅の改札へと足を向けた。
構内に入ると、横浜・東京方面へ向かう上りホームは、すし詰めの満員電車に吸い込まれていく通勤客で完全にパケット詰まりを起こしている。
対するあたしたちが乗り込んだ下り列車は――見事なまでにガラガラだった。
「ふふん。上りのモブどもが阿鼻叫喚のトラフィックで圧縮されてる中、あたしたちは下りで優雅にシートを占有よッ」
あたしはボックスシートの窓側に腰掛け、タイトな黒のレザースカートの脚を組み替えてドヤ顔を明滅させた。
「通勤ラッシュのピークトラフィックを完全に逆走する、完璧なルーティングだね」
勇希が隣で満足げに窓の外の海を眺め、斜め向かいではサブリナが再び拓矢の肩に頭を預けて二度寝モードへとフォールバックしている。
「ラボに着いたら、全員でシャワー浴びて完全なフルメンテナンスね」
「了解です。衛生状態を初期化後、即座にアンモニアタービンの実証実験フェーズへ移行しましょう」
琴葉ちゃんの凛とした声が、軽やかな走行音に溶けていく。
朝の光を浴びてキラキラと輝く東京湾を横目に、あたしたちメインノードを乗せた下り電車は、本拠地である横須賀を目指してマッハの速度で疾走していった。
★ ◆ ★ ◆ ★
木目のアイランドカウンターに、トースターやクラフト紙のコーヒー豆の袋が無造作にデプロイされている。
あたし、黒木舞桜は、朝日が差し込むラボの生活感あふれる給湯室で、淹れたてのコーヒーの香りに包まれていた。
胸元が深く開いた濃いパープルグレーのキャミソールに、繊細な黒レースがあしらわれたロング丈のナイトガウンを羽織り、下はゆったりとしたグレーのドローストリングパンツというアライメントだ。
普段は下ろしているサファイアブルーの髪は、今は無造作なアップスタイルにまとめ上げ、幾筋かの後れ毛が首筋をくすぐっている。
コーヒーメーカーのガラスポットに左手を添えながら、右手で白いマグカップを口元へ運ぶ。
カウンターの向かいでは、プラチナブロンドの白井勇希が丸椅子に腰掛けていた。
『Level Up』という文字と共にレトロなゲームコントローラーのドット絵がプリントされた白いTシャツに、紺色ベースの柄物ショートトランクスという、極めて気の抜けたテクスチャだ。
彼は右手に『NEKURA』とロゴの入った白いマグカップを持ちながら、左手で酷く眠そうに目を擦っている。
給湯室の天井スピーカーからは、心地よいテンポの洋楽が静かに流れていた。
ラジオは流すものだ。聴き入るものじゃない。
昨今の商業ラジオは、パーソナリティの無駄な内輪受けや、過剰なテンションのトークばかりがパケットを占有していて、本質的なBGMとしての機能を完全にロストしている。
だから、あたしたちは、東京支部の社員寮管理人である未亡人の恭子さんに、このクローズドなストリーミング放送のDJ権限を委ねていた。
60代の彼女がセレクトする70年代から80年代のクラシックな洋楽は、徹夜明けのバグった脳内メモリに最適なパッチを当ててくれる。
曲の合間には、人工知能システムである魔王2がシームレスに処理を引き継ぎ、フラットな合成音声で今日の天気予報とニュースのヘッドラインだけを無駄なく読み上げていた。
「ねえ、勇希」
あたしは、マグカップの縁から少しだけ顔を離し、目を擦り続ける彼に視線のクエリを投げた。
「ん……なに……?」
勇希は、焦点の合わない知性の瞳をしばたかせながら、生返事のログを出力する。
「恭子さんの選曲、相変わらず渋いのはいいんだけどさ」
あたしは、スピーカーから流れるアナログシンセサイザーのレトロなメロディに耳を傾けながら、首を傾げた。
「あれ、今、令和だよね。昭和や平成じゃないよね」
勇希が微かに口角を上げ、マグカップのコーヒーを一口すする。
「いいじゃないか。時間の概念がバグってる方が、こういう限界の朝には優しいよ」
あたしたちがそんな緩い同期処理を行っていると、給湯室の引き戸が乱暴にスライドした。
「あー、頭痛てぇ……コーヒー……」
長身の斧乃木拓矢が、ヨレヨレの雑な寝間着姿で、眠気眼を擦りながらなだれ込んでくる。
「ちょっとぉ、あたしの分のカフェインもちゃんと確保してよぉ~」
その後ろからは、テロテロの生地が艶めかしいベビードールを纏ったサブリナこと福元莉那が、赤茶色の髪を爆発させたままふらふらと入室してきた。
彼らの完全に気の抜けたアライメントをスキャンして、勇希がふっと息を吐き出す。
「一生こんなもんさ。僕たちは……」
勇希は、諦観を虚空に捨てて、滅多に火の出ない目出度い消防署の消防司令みたいなことを宣った。
★ ◆ ★ ◆ ★
窓の外には、静かに雪が降り積もる純白の冬景色が広がっている。
ここは横須賀のラボ。陽光が差し込む清潔な白い室内には、高度な解析用モニターや、ビーカーなどの化学用ガラス器具が無駄なくデプロイされていた。
防大の倉田琴葉ちゃんは、実験台に軽く腰を預けている。
ネイビーのリブタートルネックにダークカラーのデニムジャケットを羽織り、ボトムスはシックなダークグレーのチェック柄スラックス。黒髪は後ろで無造作なローポニーテールにまとめられ、知的な空気を醸し出していた。
サブリナこと福元莉那は、丸椅子に腰掛けながら、楽しげな笑みを浮かべてガラス製の実験器具をいじっている。
深く開いたVネックの白リブニットに、ハードな黒のレザージャケット。首元には赤いチェック柄のボリュームマフラーを巻き、黒のスキニーパンツという辛口カジュアルなテクスチャだ。
そして中央に立つあたし、黒木舞桜は、タブレット端末を片手に、絶対的な女王の視線でデータをスキャンしていた。
胸元が大きく開いたオフショルダーのグレーリブニットからは黒いレースのキャミソールを覗かせ、深いスリットの入ったタイトなグレーのミニスカートに、黒のニーハイブーツ。さらに分厚いグレーのロングカーディガンを羽織り、隙のない高密度のプロポーションをデプロイしている。
「ニガリ、ですか?」
琴葉ちゃんが、端正な顔立ちをキョトンとさせて小首を傾げた。
「そうよ」
あたしはタブレットの画面をフリックし、新たなブループリントを展開する。
「セラミック製の塩タンクにニガリを入れて、冷熱蓄熱材にする。断熱膨張の冷熱を蓄えれば、冷蔵庫の電気代がパージできるじゃないのよぉーッ」
あたしのドヤ顔の宣言に、ラボの奥からカジュアルなアライメントに換装した男性陣が顔を出した。
「なるほど、ニガリ……塩化マグネシウムを主成分とする水溶液か」
ざっくりとしたオーバーサイズのグレーパーカーを着込んだプラチナブロンドの白井勇希が、知性の瞳を瞬かせてロジックを読み解く。
「一般的なエアコンや冷蔵庫に使われるフロン系や代替フロンの冷媒は、高圧の専用コンプレッサーや分厚い銅管が必要不可欠で、どうしてもシステム全体が高コスト化する。でも、ただの空気を断熱膨張させて作った冷気をニガリに蓄熱するアーキテクチャなら……」
「高価なハードウェアを極限まで削れるってわけだ」
色落ちしたヴィンテージのネルシャツにカーゴパンツという出立ちの斧乃木拓矢が、腕を組みながら獰猛な笑みを浮かべた。
「一般的な冷媒を使うと、定期的なガス補充や、漏洩時の環境負荷対応で維持費がバグるからな。その点、ニガリなら万が一漏れてもただのしょっぱい水だ。兵站の観点からも極めて優秀だぜ」
「しかも、ニガリなんて塩を作るときの副産物だろッ。豆腐の凝固剤として爆安で流通してる、庶民の最強ツールじゃねえか」
黒のシンプルなスウェット姿のボッチこと茅野万桜が、ゼネコンの顔つきで歓喜のログを出力する。
「高価なレアメタルや特殊な化学物質みたいな、富裕層向けのヴェブレン財の要素が1ミクロンもねえ。スーパーで数百円で買える素材だけで、世界中の冷蔵庫のアーキテクチャを根底から書き換えられるぞ」
「だよね~。高いお金出して専用の冷媒ガス買うなんて、スマートじゃないし~」
サブリナが、マフラーの裾を揺らしながら同意のシグナルを発行する。
「ニガリなら、お肌の保湿にも使えるくらい安全だし、メンテナンスも超お手軽じゃん~」
「その通りよッ」
あたしは、サファイアブルーの髪を揺らして、最高に不敵な魔王のスマイルを明滅させた。
「環境負荷の高いフロンガスも、高価なコンプレッサーも全部パージ。爆安のニガリとセラミックタンクを物理法則で最適配置するだけで、電気代ゼロの無敵な冷熱インフラがビルドできるのよ。これが、あたしたちのスマートな最適解よッ」
静かに雪が降る横須賀のラボで。
あたしたちメインノードは、またしてもヴェブレン財を完全否定する、極めてコストパフォーマンスの高い破壊的イノベーションへの同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「マイナス33℃の冷熱蓄熱材カートリッジを定期交換すれば、電気代って減るじゃん。クエン酸を含ませた水でシールドしてアンモニアを断熱圧縮して、発電させて、熱交換後に断熱膨張の冷熱を冷熱蓄熱材カートリッジに捨てるだけじゃん。もうッ。みんな寝てんのか?」
あたし、黒木舞桜は、タブレット端末を実験台に置き、静まり返ったラボでメインノードたちの顔を見回した。
これは徹夜明けから続く、昨夜の議論の延長だ。
プラチナブロンドの白井勇希が、オーバーサイズのグレーパーカーのフードを軽く被り直し、知性の瞳に再び光を灯した。
「寝てないよ。……なるほど、アンモニアの断熱膨張で生まれた強烈なマイナス33度の冷熱を、カートリッジに蓄えるのか。その極低温の冷熱源と、外気や工場排熱などの温熱源をマージすれば……」
色落ちしたヴィンテージのネルシャツの袖をまくり上げ、斧乃木拓矢がカーゴパンツのポケットから手を出して身を乗り出した。
「温度差でシリンダー内の気体を膨張・収縮させる外燃機関、『スターリングエンジン』の駆動源にできるな。エンジンの熱効率は高温側と低温側の温度差がデカいほどバグみたいに跳ね上がる。マイナス33度の冷熱源があるなら、普通の排熱でも十分すぎるほどの高効率でタービンを回せるぜ」
あたしは、オフショルダーのグレーリブニットの胸元を張り、分厚いグレーのロングカーディガンを翻して深く頷いた。
「その通りよ。発電しながら冷熱も作る、完全なエネルギーのエコサイクルよ」
防大の倉田琴葉ちゃんが、ネイビーのリブタートルネックに重ねたダークカラーのデニムジャケットの襟を正し、ダークグレーのチェック柄スラックスの脚を揃えて凛とした声で疑問を投げる。
「ですが、マイナス33度の冷熱を長時間維持できる蓄熱材となると、一般的な水では0度で凍結してしまい、リソースとして不十分です。特殊な化学保冷剤を使えば、またしてもヴェブレン財のバグが発生してしまいます」
黒のシンプルなスウェット姿のボッチこと茅野万桜が、ゼネコンの顔つきをギラつかせ、実験台をドンと叩いた。
「そこで『塩化カルシウム水溶液』の出番だろ。冬場の道路に撒いてる融雪剤だ。濃度を極限まで上げれば、マイナス50度近くまで凍らない最強の不凍液になる」
サブリナこと福元莉那が、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らし、黒のレザージャケットの首元に巻いた赤いチェック柄のボリュームマフラーを直しながら、黒のスキニーパンツの脚を組み替えた。
「待って待って~。つまり、その塩化カルシウム水溶液をカートリッジに詰めておけば、電気を1ミクロンも使わずに、マイナス33度をキープできるってこと~?」
「ええ。単なる家庭用冷蔵庫どころの話じゃないわ」
あたしは、黒のニーハイブーツのヒールを床に響かせ、深いスリットの入ったタイトなグレーのミニスカートから覗く太ももを見せつけながら、獰猛な笑みを浮かべた。
「飲食店の業務用冷凍庫や、コールドチェーンの巨大な冷凍トラックすら、コンプレッサーの電源をパージして、この塩化カルシウムのカートリッジをガチャンと差し替えるだけで稼働できるのよ」
勇希がパーカーのポケットに両手を突っ込み、感嘆のログを出力する。
「爆安の融雪剤と、アンモニアから出る冷熱の副産物。それらをスターリングエンジンで再利用しつつ、最終的には業務用冷凍庫のインフラまでカバーする。完璧なゼロ・エミッションだね」
あたしはサファイアブルーの髪を揺らし、黒いレースのキャミソール越しの胸に手を当てた。
「当然の帰結よ。高価なレアメタルも電力も使わない、知性と物理法則の最適配置だけで、世界の冷凍インフラを根底からハックしてやるのよッ」
窓の外で静かに雪が降り積もる横須賀のラボで。
あたしたちメインノードは、塩化カルシウムという泥臭い素材を、最強の冷熱グリッドへと昇華させる完全な同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「ガソリンエンジンの爆発を、アンモニアの膨張圧に変える――」
あたしのなに気ない一言に、みんなのスイッチがオンになる。
「……既存のレシプロエンジンを、蒸気機関のように流用するってことか」
プラチナブロンドの白井勇希が、オーバーサイズのグレーパーカーのポケットから手を抜き出し、知性の瞳を鋭く光らせた。
「ガソリンエンジンはプラグの火花で燃料を爆発させて、その圧力でピストンを押し下げている。でも、マイナス33度で沸騰するアンモニアを使えば、爆発なんていう野蛮なプロセスは不要になるね」
色落ちしたヴィンテージのネルシャツの袖をまくり、斧乃木拓矢がカーゴパンツの膝を叩いて立ち上がった。
「点火プラグとインジェクターを引っこ抜いて、そこに外気で気化させた高圧のアンモニアガスを直接叩き込むのか。ピストンを押し下げる物理的な力さえ発生すれば、クランクシャフトは回るッ」
黒のシンプルなスウェット姿のボッチこと茅野万桜が、ゼネコンの顔つきをギラつかせ、赤い髪を揺らして身を乗り出す。
「世界中のスクラップ工場で山積みになってる廃棄エンジンが、そのまま爆安の動力源として蘇るってことじゃねえか。わざわざ高価なモーターや大容量バッテリーを新造するEVなんて、ヴェブレン財の極みだぜ」
あたし、黒木舞桜は、深いスリットの入ったタイトなグレーのミニスカートから伸びる黒のニーハイブーツの脚を組み替え、オフショルダーのグレーリブニットの胸を張った。
「その通りよ。ガソリンを燃やさないから、エンジンブロックが高温で焼き付くバグも完全にパージされるわ。大気熱を取り込んでアンモニアを気化させ、排気ポートからマイナス33度の冷気を吐き出す。走れば走るほど周囲を冷やす、究極のクーラーカーになるのよ」
防大の倉田琴葉ちゃんが、ダークカラーのデニムジャケットの下のネイビーのリブタートルネックを整え、ダークグレーのチェック柄スラックスの姿勢を正す。
「兵站の観点からも極めて優秀です。既存のトランスミッションやドライブシャフトといった駆動系インフラを完全に流用できるため、新しい車体をビルドする莫大なコストがパージされます」
サブリナこと福元莉那が、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らし、黒のレザージャケットの首元に巻いた赤いチェック柄のボリュームマフラーに顔を埋めながら、楽しげなシグナルを発行する。
「でもでも~、アンモニアって銅とか真鍮を溶かしちゃうんでしょ? 古いエンジンのパッキンや配管は大丈夫なの~?」
あたしは、分厚いグレーのロングカーディガンを翻し、サファイアブルーの髪を揺らして不敵な笑みを浮かべた。
「そこは百均レベルの安いテフロンや樹脂製のシール材に換装するだけでデバッグ完了よ。そもそも超高温の爆発熱が発生しないんだから、高価な耐熱パーツなんて1ミクロンも必要ないの」
勇希が、静かに雪が降り積もる窓の外を見遣りながら、完璧なブループリントをコンパイルする。
「なるほど。排気されたアンモニアは、さっきのクエン酸シールドで無臭の肥料へと書き換えるか、クローズドサイクルで塩化カルシウムの冷熱蓄熱材とマージさせればいい。完璧なゼロ・エミッションだね」
大気熱の温度差と廃棄された内燃機関だけで駆動する、最強のモビリティインフラ。
横須賀のラボで、あたしたちメインノードはまた一つ、世界のレガシーな常識を書き換える同期処理をマッハの速度で完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「だけど、このアーキテクチャには致命的なバグが潜んでいるわね」
あたし、黒木舞桜は、タブレットを実験台に置き、オフショルダーのグレーリブニットの胸元で腕を組んだ。
「ああ、潤滑油の問題だな」
長身の斧乃木拓矢が、色落ちしたヴィンテージのネルシャツの首元を掻きながら、カーゴパンツのポケットに手を入れて渋い顔をした。
「通常のエンジンオイルは、マイナス30度を下回ると粘度が上がりすぎて水飴みたいに固まっちまう。おまけに、シリンダー内に吹き込んだアンモニアガスがオイルに溶け込めば、潤滑性能はマッハでロストするぜ」
黒のシンプルなスウェット姿のボッチこと茅野万桜が、赤い髪をガシガシと掻きむしる。
「それだけじゃないぜ。排気ポートからマイナス33度の冷気が絶え間なく吹き出せば、エンジンブロックの外壁に空気中の水分が結露して、あっという間に巨大な氷の塊に変わっちまう。物理的にピストンが凍りついてシステムクラッシュだ」
プラチナブロンドの白井勇希が、オーバーサイズのグレーパーカーのフードを弄りながら、知性の瞳に冷徹な分析の光を宿した。
「熱交換のスピードも課題になるね。ガソリンの爆発と違って、アンモニアを膨張させるためには大気の熱を瞬時に吸収して気化させる必要がある。でも、今日みたいに外気温が氷点下に近い状態だと、熱の供給が追いつかない」
防大の倉田琴葉ちゃんが、ダークカラーのデニムジャケットの下のネイビーのリブタートルネックを整え、凛とした声で兵站の弱点を指摘する。
「ええ。気化速度が低下すれば、シリンダーに送り込めるガスの圧力が下がり、トルク不足に陥ります。つまり、冬場や寒冷地ではモビリティとしての出力が致命的にダウングレードされるという物理的矛盾です」
サブリナこと福元莉那が、黒のレザージャケットの首元に巻いた赤いチェック柄のボリュームマフラーに顔を埋め、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らして身震いした。
「えーっ。じゃあ、寒い日は車がエンストしちゃうってこと~? それじゃあ使い物にならないじゃん~」
あたしは、黒のニーハイブーツに包まれた脚を組み替え、深いスリットの入ったタイトなグレーのミニスカートの裾を直して不敵に笑った。
「だからこそハックのしがいがあるのよ。極低温でも凍らないフッ素系の固体潤滑コーティングをピストンに施して、エンジンオイルそのものをパージする。そして、凍結問題と熱源不足を一挙に解決するために、排気される冷気を別のシステムとマージさせるの」
勇希がハッとして、パーカーのポケットから手を出した。
「なるほど……。さっきの塩化カルシウムの蓄熱材モジュールだね」
あたしは、分厚いグレーのロングカーディガンを翻し、サファイアブルーの髪を揺らして激しく同意のパケットを送信した。
「その通りよ。エンジンが吐き出す冷熱をすべて不凍液カートリッジに回収すれば、エンジンブロックの凍結は防げる。しかも、車が走るだけで勝手に業務用冷凍庫向けの冷熱カートリッジが量産されるわけよ」
雪の降る横須賀のラボで。
あたしたちメインノードは、次々と立ちはだかる物理の壁をスマートなロジックで粉砕し、無敵のエコシステムをコンパイルしていくのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「オイルが冷える? 塩化カルシウム水溶液に冷熱捨てて、温冷熱源循環させなさいなッ。アンモニアは燃料じゃないッ。作業流体よぉーッ」
あたし、黒木舞桜は、タブレットを実験台に叩きつけるように置き、オフショルダーのグレーリブニットの胸を反らして叫んだ。
ラボの空気が、あたしの放った論理のパルスで一瞬にして同期する。
プラチナブロンドの白井勇希が、オーバーサイズのグレーパーカーのフードを軽く押さえ、目を見開いた。
「……そうか。内燃機関の常識に囚われていた。アンモニアを燃やして大気に捨てる『オープンサイクル』じゃなくて、完全に密閉された『クローズドサイクル』で回すんだね」
色落ちしたヴィンテージのネルシャツの袖をまくり、斧乃木拓矢がカーゴパンツの膝を叩いて立ち上がる。
「アンモニアはシリンダー内で膨張してピストンを押し下げたあと、マイナス33度のガスとして排出される。それを、塩化カルシウムのタンクに引き込んで冷熱だけを捨てる。冷やされて液体に戻ったアンモニアを、今度は外気や工場排熱の『温熱源』で再び加熱して気化させ、エンジンに叩き込むッ」
黒のシンプルなスウェット姿のボッチが、ゼネコンの顔つきをギラつかせ、赤い髪をガシガシと掻きむしった。
「天才かよッ。エンジンブロック自体は温熱源で循環加温されてるから、オイルが水飴みたいに凍るバグは物理的に発生しねえ。エンジンは燃料を爆発させる機関じゃなくて、ただの『膨張機』として熱力学のサイクルに組み込まれるだけだ」
防大の倉田琴葉ちゃんが、ダークカラーのデニムジャケットの下のネイビーのリブタートルネックを整え、凛とした声で同期のログを重ねる。
「ええ。このアーキテクチャなら、冬場の外気すら相対的な『温熱源』として機能します。大気中から熱を奪ってアンモニアを気化させ、エンジンを回し、塩化カルシウムに冷熱を蓄える。熱交換の兵站が完全にループ構造として完結しています」
サブリナが、黒のレザージャケットの首元に巻いた赤いチェック柄のボリュームマフラーに顔を埋め、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らして楽しげなシグナルを発行した。
「つまり~、車が走るだけで、エンジンはぽかぽかのまま、トランクに積んだ塩化カルシウムのタンクだけがカチンコチンに冷えるってこと~? なんだか魔法みたいだね~」
「魔法じゃないわ。ただの賢い物理法則の配置よ」
あたしは、黒のニーハイブーツに包まれた脚を組み替え、深いスリットの入ったタイトなグレーのミニスカートの裾を直して不敵に笑った。
「ガソリンエンジンの強靭なシリンダーとピストンを、アンモニアという作業流体で回すクローズドサイクル。排熱問題も、凍結問題も、すべて温冷熱源の循環ループがデバッグしてくれる。これで、世界中のスクラップエンジンが、電気を1ミクロンも使わずに走りながら業務用冷熱を量産する、最強のエコモビリティに生まれ変わるのよッ」
雪の降る横須賀のラボで。
あたしたちメインノードは、内燃機関というレガシーを完全な熱力学のエコシステムへとアップデートする、ぐうの音も出ないほどの同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「塩化カルシウム水溶液のタンクは、膨張したアンモニアを鎮めるわッ。膨張と圧縮の繰り返しじゃないのよぉーッ」
あたし、黒木舞桜は、タブレットの画面をスワイプし、オフショルダーのグレーリブニットの肩をすくめてみせた。
プラチナブロンドの白井勇希が、オーバーサイズのグレーパーカーの胸元を軽く叩き、ハッとしたように知性の瞳を見開く。
「なるほど……。気体をただ圧縮して戻すだけなら、せっかく膨張で得たエネルギーを圧縮工程でそのまま消費してしまう。でも、マイナス50度近い塩化カルシウム水溶液で一気に鎮めることで、アンモニアは瞬時に液化して体積が激減するんだ」
色落ちしたヴィンテージのネルシャツの袖をまくり、斧乃木拓矢がカーゴパンツの膝を叩いて勢いよく立ち上がった。
「体積がマッハで縮むってことは、排気工程での圧力が極限まで下がるってことかッ。シリンダーからガスを押し出すためのポンピングロスがゼロになるどころか、冷熱タンク側が真空に近い状態になって、排気ガスを自ら吸い込んでくれるぜ」
黒のシンプルなスウェット姿のボッチこと茅野万桜が、ゼネコンの顔つきをギラつかせ、赤い髪を揺らした。
「初期の蒸気機関にあった大気圧エンジンのロジックじゃねえか。シリンダー内で気体を冷やして負圧を作り、大気圧との差でピストンを引き込む。それをアンモニアと大気熱の温度差で、現代のエンジンブロックの上にデプロイするのかッ」
防大の倉田琴葉ちゃんが、ダークカラーのデニムジャケットの下のネイビーのリブタートルネックを整え、ダークグレーのチェック柄スラックスの脚を揃えて凛とした声で同期する。
「ええ。膨張による正の仕事だけでなく、収縮による負圧も動力として回収できる。しかも、気体を再圧縮するための無駄な物理的リソースを1ミクロンも使わないため、熱効率が理論上の限界値まで跳ね上がります」
サブリナこと福元莉那が、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らし、黒のレザージャケットの首元に巻いた赤いチェック柄のボリュームマフラーに顔を埋めた。
「エンジンのパワーを排気で無駄遣いしないから、アンモニアの循環効率がめっちゃ良くなるってことだよね~。エコで静かで、しかも冷蔵庫にもなるなんて最高にスマートじゃん~」
あたしは、分厚いグレーのロングカーディガンを翻し、黒のニーハイブーツに包まれた脚を組み替えて、最高に不敵な魔王のスマイルを明滅させた。
「その通りよッ。膨張させて終わりじゃない。極低温の塩化カルシウム水溶液で強制的に体積をクラッシュさせて、排気の抵抗すらも駆動力へコンパイルするの。これが、大気熱と爆安の廃材だけで回る最強のクローズドサイクルの全貌よ」
窓の外で静かに雪が降り積もる横須賀のラボで。
あたしたちメインノードは、熱力学のレガシーな壁をあっさりとブレイクスルーする、ぐうの音も出ないほどの完全な同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「でもさ、課題もあるよね。どうやってエンジン止めるのさ」
あたし、黒木舞桜は、タブレット端末を指先で弄びながら、メインノードたちへ鋭いクエリを投げかけた。
ガソリンエンジンなら、イグニッションキーを回して点火プラグの火花を止めたり、燃料の供給を遮断すれば瞬時に止まる。
けれど、この大気熱アンモニアエンジンは、周囲の空気に熱がある限り、勝手に気化して膨張と収縮のサイクルを無限に回し続けてしまう。
「確かに。イグニッションオフという概念が存在しないね」
プラチナブロンドの白井勇希が、オーバーサイズのグレーパーカーの胸元を正し、知性の瞳を巡らせる。
「熱源が大気そのものだから、ガソリン車の燃料カットオフに相当する物理的なシャットダウン機構をデプロイしないと、一度動いたら熱暴走ならぬ『冷熱暴走』で永久にピストンが往復し続けるバグを抱えることになる」
色落ちしたヴィンテージのネルシャツの袖をまくり、斧乃木拓矢がカーゴパンツのポケットから手を出して顎を撫でた。
「電磁バルブでアンモニアの流路を物理的に遮断するのが一番ストレートだが……高圧と負圧が同時にかかってる配管を急停止させると、水撃作用で安物のステンレスパイプが一瞬で破裂するぜ」
黒のシンプルなスウェット姿のボッチこと茅野万桜が、赤い髪をガリガリと掻きむしる。
「バイパス管を設けて、シリンダーをスルーさせて塩化カルシウムタンクに直通させるプロトコルか? だがそれだと、冷熱が急速にタンクへ流れ込んで、停止中なのに蓄熱材がマッハで消耗しちまう」
防大の倉田琴葉ちゃんが、ダークカラーのデニムジャケットの下のネイビーのリブタートルネックを整え、ダークグレーのチェック柄スラックスの姿勢を正して凛とした声を響かせた。
「兵站における『制動と停止』の制御は、安全運用の絶対条件です。万が一のフリーズ時に、フェイルセーフとして確実にシステムをアイドリングまたは完全停止へ導くバイパスループが必須となりますね」
サブリナこと福元莉那が、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らし、黒のレザージャケットの首元に巻いた赤いチェック柄のボリュームマフラーに顔を埋めながら、小首を傾げた。
「ブレーキ踏んでもエンジンが止まらなかったら、車が勝手に暴走しちゃうもんね~。どうやって息の根を止めるの~?」
あたしは、黒のニーハイブーツのヒールをコツンと床に響かせ、深いスリットの入ったタイトなグレーのミニスカートの裾を撫でて、不敵な魔王のスマイルを浮かべた。
「簡単よ。吸気と排気の圧力差をゼロにする『圧力イコライザー・バイパス』を噛ませるのよッ」
あたしの宣言に、勇希が知性の瞳を輝かせる。
「なるほど! シリンダーの上下を直結するバイパスバルブを開いて、ピストンの両側の圧力を一瞬で同圧に均等化するんだね」
「その通りよッ」
あたしは分厚いグレーのロングカーディガンを翻し、サファイアブルーの髪を揺らした。
「ピストンの前後の圧力差がゼロになれば、気体を押す力も引く力もすべて消失して、摩擦力だけでマッハで回転が停止するわ。流路を無理に塞がないからパイプも破裂しないし、高価なブレーキ機構なんて1ミクロンも使わない、最強のフェイルセーフよッ」
雪の降る横須賀のラボで。
あたしたちメインノードは、制御不能に見えた熱力学の怪物をスマートに飼いならす、極めてエレガントな停止プロトコルの同期を完了させたのだった。
「てか、アンモニアって蓋しとけば、瓶に入っているじゃん」
あたし、黒木舞桜は、タブレット端末を小脇に抱え、深くスリットの入ったタイトなグレーのミニスカートの脚を組み替えて、呆れたように言い放った。
小難しいバルブ制御の話で頭を抱えていたメインノードたちの視線が、一斉にあたしへと集中する。
「……あ」
プラチナブロンドの白井勇希が、オーバーサイズのグレーパーカーの胸元を抑えたまま、間の抜けた声を漏らした。
「そうか……。高校の理科室にあるアンモニア水だって、ただのガラス瓶にゴム栓やスクリューキャップで密閉されて棚に並んでいるだけだ。常温・常圧の液体として扱うなら、特別な超高圧ボンベすら必要ない」
色落ちしたヴィンテージのネルシャツの袖をまくり、斧乃木拓矢がカーゴパンツのポケットから手を出して苦笑いを浮かべる。
「俺たち、気体のアンモニアを高圧でどう閉じ込めるかばかり考えて、頭がガチガチになってたな。水に溶かした状態、あるいは塩化カルシウム水溶液側で液化させてタンクに封じ込めちまえば、ただの密閉容器に入った薬品と同じだ」
黒のシンプルなスウェット姿のボッチこと茅野万桜が、赤い髪をガリガリと掻きむしり、ゼネコンの顔つきを緩ませた。
「百均のガラス瓶や、ホームセンターの灯油ポリタンクレベルの密閉容器で十分ってことじゃねえか。高圧ガス保安法の対象になるような、数十気圧に耐えるクソ高い鋼鉄ボンベなんていうヴェブレン財、最初から1ミクロンも要らなかったわけだ」
防大の倉田琴葉ちゃんが、ダークカラーのデニムジャケットの下のネイビーのリブタートルネックを整え、ダークグレーのチェック柄スラックスの背筋を伸ばして凛とした声で補完する。
「兵站における『危険物の保管・輸送コスト』が一気にゼロベースまで圧縮されますね。常圧密閉のカートリッジとして流通させられるなら、ガソリンスタンドのような大規模な専用充填インフラすら不要です」
サブリナこと福元莉那が、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らし、黒のレザージャケットの首元に巻いた赤いチェック柄のボリュームマフラーに顔を埋めてクスクスと笑った。
「なんだぁ~、難しく考えすぎてバグってただけじゃん~。ただの『蓋の閉まるボトル』でいいなら、誰でも安全におうちで交換できちゃうね~」
あたしは、分厚いグレーのロングカーディガンを翻し、サファイアブルーの髪をかき上げて、最高にドヤ顔の魔王スマイルを明滅させた。
「その通りよッ。難解な技術や高価なパーツで武装しようとするから思考がフリーズするのよ。身近な物理法則と安物の密閉ボトル。これだけで、世界中のエネルギー流通網をマッハで書き換えてやるわッ!」
窓の外で静かに雪が降り積もる横須賀のラボで。
あたしたちメインノードは、盲点だった究極のローテク・ソリューションに、ぐうの音も出ないほどの完全な同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「じゃあ、この最強のアーキテクチャに相応しい命名式を執り行うわ。……名付けて『くるくるアンモちゃんエンジン』よッ」
あたし、黒木舞桜は、タブレット端末を高く掲げ、最高にドヤ顔の魔王スマイルを明滅させた。
「……くるくる、なに?」
プラチナブロンドの白井勇希が、オーバーサイズのグレーパーカーのフードを深く被り直し、完全に処理落ちしたような虚無の瞳を向けた。
「おいおい、せっかくの破壊的イノベーションが、一瞬でポンコツおもちゃレベルにダウングレードしたぞ」
色落ちしたヴィンテージのネルシャツの袖をまくり、斧乃木拓矢がカーゴパンツのポケットに両手を突っ込んで盛大にため息を吐き出す。
「おまえ、中身の魔王スペックと命名センスが1ミクロンも噛み合ってねえんだよッ。世界を変えるインフラに『ちゃん』付けすんなッ」
黒のシンプルなスウェット姿のボッチこと茅野万桜が、赤い髪をガリガリと掻きむしり、ゼネコンの顔つきを完全にバグらせてツッコミのパケットを叩きつけてきた。
「戦略的抑止力として極めて不適切です。そのような名称では市場に対する威圧感がゼロになり、無駄な舐めプを誘発する致命的なエラーを引き起こします」
防大の倉田琴葉ちゃんが、ダークカラーのデニムジャケットの下のネイビーのリブタートルネックを整え、ダークグレーのチェック柄スラックスの背筋をピンと伸ばして、大真面目な顔でダメ出しのロジックを展開する。
「あはははッ! 舞桜の顔面偏差値で『くるくるアンモちゃん』はギャップ萌え通り越して、最高にポンコツでウケるんだけどぉ~」
サブリナこと福元莉那が、深いVネックの白リブニットから覗く谷間を揺らし、黒のレザージャケットの首元に巻いた赤いチェック柄のボリュームマフラーにお腹を抱えて爆笑のシグナルを発行した。
「なによぉ~。可愛いじゃん」
あたしは、黒のニーハイブーツに包まれた脚を組み替え、深いスリットの入ったタイトなグレーのミニスカートの裾を直しながら、頬を膨らませて不満のパケットを送信した。
分厚いグレーのロングカーディガンを翻し、サファイアブルーの髪を揺らして睨みつけるが、メインノードたちの失笑のトラフィックは止まらない。
窓の外で静かに雪が降り積もる横須賀のラボで。
あたしたちのスマートで冷徹な物理法則は、あたしの極甘なポンコツネーミングによって、マッハの速度で平和な日常の笑いへとコンパイルされていくのだった。
後書き
……なによ。くるくるアンモちゃんエンジン、可愛くて最高のネーミングじゃないのよッ。
周囲のノードたちからは不満のパケットが飛んできたけど、破壊的イノベーションにはこれくらいのギャップが必要なの。
高価なレアメタルも特殊な冷媒も完全にパージして、爆安の融雪剤とスクラップエンジンだけで稼働する無敵のクローズドサイクル。その真価は、これからの社会実装フェーズで完璧に証明してあげるわ。
次回も、あたしたちの美しくてスマートな物理法則のデプロイに期待しなさいよね。




