女王さまのアンモニアスチームジェットタービン
前書き
冷たい風がストリートを吹き抜ける季節になったわね。
あたし、黒木舞桜の脳内メインフレームは、冬の寒さなんて1ミクロンも感じないくらい、常に限界突破で熱くバーニングしているわ。
今回は、ただのタービンじゃなくて、アンモニアを使った最強のエネルギーインフラのアーキテクチャよ。
危険だとか臭いとか、そんなレガシーなエラーは、あたしたちのスマートな物理法則の配置で一瞬でデバッグしてあげるんだからッ。
世界を根底から書き換える極上のロジックに、しっかり同期しなさいなッ!
2020年12月中旬。横浜桜木町近くの防音セキュア・スペース・オフィスにて。
「なんで畳なのよ?」
あたし、黒木舞桜は、真新しいい草の匂いが漂うオフィスの仕様に、腕を組んで異議を唱えた。
赤い髪のボッチこと茅野万桜は、土足厳禁原理主義者と言ってもいい。それはわかるッ。
「うん? こういう近代的なビルに、あえて畳の部屋がアンマッチされてるのが好きなんだよ」
ボッチは、ゼネコンの顔つきでドヤ顔を明滅させ、足元をポンと叩いた。
床には、高価な本畳ではなく、樹脂コーティングされてメンテナンス性に優れた市松模様のカラーモジュール畳が敷き詰められている。
中央には、安価な合板をスマートに組み合わせた掘り炬燵がデプロイされ、壁際には小料理屋を思わせる木枠の小さな受付窓が設けられていた。
無駄な銘木や伝統工芸などのヴェブレン財を一切パージし、量産品と合理的な物理法則の配置だけで構築された『純和風オフィス・イン・平成』という、極めてコストパフォーマンスの高いアーキテクチャだ。
「てか、カオリンから画像送られてきたけど、おまえ可愛い系って駄目なのねー」
ボッチは、掘り炬燵に潜り込みながら、フューチャーフォンの画面をあたしに向けてニヤリと笑い、憐れむようなログを出力した。
あたしは、サファイアブルーのセミロングヘアを揺らして画面をスキャンする。
そこにレンダリングされていたのは、見事なまでに対照的な2枚の画像だった。
1枚目は、昼間の三笠公園。
勇壮な戦艦三笠と東郷平八郎像をバックに、あたしが白を基調としたセーラー服風のミニワンピースを纏っている。
襟と裾には青と赤のラインが入り、左袖には錨のマークとロゴ。胸元に青いリボンをあしらい、片手でピースサインを作りながら、もう片方の手を腰に当てている。
健康的な太ももを晒して爽やかな笑顔を浮かべているはずなのに、どこかコスプレ感が拭えず、あたしの気高い魔王のテクスチャと致命的なコンフリクトを起こしていた。
そして2枚目。夜の丸ノ内を思わせる、洗練されたビル街。
あたしは、漆黒のドレスを纏い、街灯の光を浴びて圧倒的な解像度を放っていた。
胸元が深くV字に開いたフリルドレスは、肩や袖、裾に繊細な黒レースが幾重にもあしらわれている。
アシンメトリーにカットされたスカートの裾からは、艶めかしい脚のラインが大胆に露出され、引き締まった筋肉と高密度のプロポーションを完璧にデプロイしている。
片手でサファイアブルーの髪をかき上げ、自信に満ちた妖艶な笑みを浮かべるその姿は、周囲のモブたちを完全にパージする絶対的な女王のアライメントだった。
「舞桜は可愛い系じゃなくて、セクシー系だからねー。バドガールやカルメンになっちゃうね」
プラチナブロンドの白井勇希が、掘り炬燵で肩をすくめ、憐れむように宣った。
憐れむなッ。フォローしろッ。彼氏ッ。
「うるさいわね。あたしは生まれついての女王スペックなんだから、無駄に可愛いをインストールする必要なんて1ミクロンもないのよッ」
あたしは、頬を膨らませてジト目のパケットを叩きつけた。
BMIなんていうレガシーな数値指標で計れない、高密度のダイナマイトボディには、漆黒のドレスこそが最適なインターフェースなのだ。
防大の倉田琴葉ちゃんが、熱いお茶をすすりながら、凛とした姿勢でフォローのパッチを当ててくる。
「ええ。舞桜さんのその圧倒的な存在感は、戦略的抑止力として極めて有効です。セーラー服の偽装は、かえってセンサーのノイズになりますからね」
サブリナこと福元莉那も、蠱惑的な笑みを浮かべて同意する。
「そうそう~。舞桜は黙って黒いレース着て、モブどもを踏みつけてればいいのよ~」
「褒められてる気がしないんだけど」
あたしは、ため息を吐き出しながら、掘り炬燵へと足を滑り込ませた。
気を取り直して、今日のメインタスクをコンパイルするわよ。
「さあ、アンモニアスチームジェットタービンの話よ」
あたしが扇子をパチンと鳴らすと、長身の斧乃木拓矢が、身を乗り出してクエリを投げた。
「ジェットエンジンじゃなくて、タービンなのか?」
「そうよ。推進力として空にパージするんじゃなくて、回転力としてリソースを回収するの。そして、これを絶対に富裕層のオモチャ、ヴェブレン財にしては駄目よ」
あたしは、テーブルの上に仮想のブループリントを展開した。
「アンモニアはマイナス33度で沸騰するわ。つまり、水みたいに100度まで加熱しなくても、ほんの少しの熱パケットを与えるだけで、爆発的に膨張して高圧の蒸気を作り出せるのよ」
勇希が、医学と物理の知識をマージして、知性の瞳を輝かせる。
「なるほど。工場の排熱や、温泉の地熱、あるいは夏の路面温度のような、今まで捨てられていた『低品位な熱源』をそのまま再利用してタービンを回せるんだね」
「ええ。超高温に耐えるための、高価なチタンや特殊合金のタービンブレードなんて1ミクロンも必要ないわ」
あたしは、サファイアブルーの髪を揺らしてロジックを深める。
「安価なステンレスや樹脂製のブレードで十分よ。システム全体を低圧・低温で運用できるから、製造コストはマッハで下がるわ」
ボッチが、ゼネコンの顔つきで腕を組み、深く頷いた。
「だが、アンモニアは毒性と腐食性が強い。漏洩したら大事故になるバグを抱えてるぜ」
「だから、完全密閉のクローズドサイクルにするのよ」
琴葉ちゃんが、タブレットに数式を走らせながら凛とした声で補完する。
「タービンを回し終えたアンモニア蒸気を、冷却水や外気で冷やして再び液体に戻す。配管のシール技術には、既存の化学プラントで培われた汎用部品を流用すれば、開発コストをパージできますね」
「アンモニア自体も、農業用の肥料として世界中で爆安で大量生産されてるもんね~」
サブリナが、楽しげに手を叩いて同意のシグナルを発行する。
「その通りよッ」
あたしは、最高に獰猛な魔王のスマイルを明滅させた。
「捨てられているゴミみたいな熱と、爆安のアンモニア、そして量産可能な安物のタービン。この3つを物理法則で最適配置すれば、どこでも誰でも無限の電力をビルドできる、最強の分散型エネルギーインフラが完成するのよッ!」
掘り炬燵の温もりに包まれた純和風オフィスで、あたしたちメインノードは、世界のレガシーなエネルギー網を根底から書き換える設計図に、ぐうの音も出ないほどの完全な同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
カオリンから画像が転送されてくる。
あたし、黒木舞桜は、シンクライアント端末であるフューチャーフォンを操作し、その画像を純和風オフィスの壁面に設置された共用ディスプレイへと展開して、深大な溜め息をついた。
ディスプレイにレンダリングされたのは、夜の銀座を背景にした、あたしの精巧なコラージュ画像の数々だった。
1枚目は、純白の生地に幾重にも重なるレースとフリルが施された、クラシカルなティアードドレス姿。首元までキッチリと詰まったデザインに黒レースの縁取りがあしらわれ、手にはたっぷりとフリルが波打つ白い日傘を優雅にさしている。
2枚目は、漆黒のゴシックロリータ風ドレス。胸元やスカートのティアード部分に巨大なリボンがマウントされ、なぜかその結び目やスカートの至る所に、鋭い『ハサミ』の装飾が物理的にアタッチされているという狂気の仕様だ。頭にはハサミ付きの黒いリボンのヘッドドレス、足元は重厚な厚底ブーツで固められている。
3枚目は、季節外れの満開の桜をバックにした、白と淡いピンクのフリルが何層にも重なる極甘のガーリードレス。首元にはフリルのチョーカー、足元は白い編み上げブーツ、手にはピンクのフリル付き日傘という、甘さの致死量を超えたアライメント。
そして4枚目は、長袖の透け感のある黒レースの袖を持つ、漆黒のクラシカルなフリルドレス。胸元には白いリボンタイが結ばれ、頭には巨大な黒いリボン。手には黒のレースグローブと黒のハンドバッグを持った、隙のないお嬢様テクスチャだ。
どれもこれも、あたしのサファイアブルーのセミロングヘアと端正な顔立ちをベースにしながら、中身の気高い魔王オーラとは1ミクロンも噛み合わない、致死量のフリフリとレースで構成された極甘の装甲だった。
「イジメかな?」
あたしは、グレーのリブタートルネックニットの胸元で腕を組み、タイトな黒のレザースカートに包まれた脚を掘り炬燵の中で組み替えながら、絶対零度のクエリを叩きつけた。
掘り炬燵を囲むメインノードたちのトラフィックが、一瞬にして凍りつく。
ブラウンスーツのネクタイを緩めた長身の斧乃木拓矢が、顔面ディスプレイを引きつらせて視線を泳がせた。
「お、おう……。なんだその、素材のスペックは間違いなく一級品なんだが……。装甲の属性が違いすぎて、脳の処理落ちが凄まじいぜ」
ネイビースーツ姿のボッチこと茅野万桜が、赤い髪をガリガリと掻きむしり、ゼネコンの顔つきを完全にバグらせて呻く。
「特に2枚目のハサミの装飾はなんなんだよッ。おまえのサディスティックな内面を物理的に表現しようとした結果、完全に猟奇的なクリーチャーにダウングレードしてんじゃねえか」
オフホワイトのタートルネックニットにチェック柄のミニスカート姿のサブリナこと福元莉那が、赤茶色のポニーテールを揺らしながら、お腹を抱えて爆笑のログを出力する。
「あはははッ! 舞桜の顔面偏差値なら着こなせてるけどさ~。中身の魔王オーラとフリフリのレースが完全にコンフリクトを起こしてて、最高にポンコツなアートになってるよぉ~」
「ま、舞桜は、その……戦う系?」
ライトグレーのスーツに黒のタートルネック姿の白井勇希が、プラチナブロンドの髪を揺らし、熱いお茶の入った湯呑みを両手で包み込みながら、苦し紛れのエラーログを出力した。
なんで疑問符だッ。フォローになってないぞ彼氏ッ。
「琴葉ちゃん自衛官じゃんッ」
あたしは、黒のパンツスーツに白シャツという凛とした出立ちで背筋を伸ばす防大の倉田琴葉ちゃんを指差して、渾身の正論パッチを当てた。
戦う系ノードのトップエンドは間違いなく彼女だ。
琴葉ちゃんは、湯呑みを静かに木目のテーブルに置き、防大仕込みの大真面目な顔面ディスプレイで戦術論をコンパイルしてくる。
「私は職務として制服という名の装甲を纏っているだけです。ですが、舞桜さんのその純白のフリルドレス姿は、敵の警戒アルゴリズムを完全にバグらせるデコイとして、極めて優秀なテクスチャかと推測されます」
あたしの正論を、軍事的な兵站とデコイ戦術で上書きするんじゃないわよ。
「あー、それでよ。この間のスチームジェットタービンの話なんだが」
拓矢が、あたしの不満パケットが臨界点に達するのを察知し、マッハの速度で話題のディレクトリを切り替えた。
「そうそうッ! 塩タンクの熱と水を使った、ヴェブレン財にならないタービンのアーキテクチャだろッ」
ボッチが、救いの神を見つけたような顔つきで即座に同期処理を走らせる。
「塩タンクの700度の熱で水を一気に過熱蒸気に相転移させて、その高圧スチームでタービンを回す。だが、普通のブレード式のタービンだと、複雑な曲面加工や高温耐性が必要で、コストが限界突破するバグがある」
勇希が、医学と物理学の知識をマージして、知性の瞳を輝かせる。
「だから、ブレードレスの『テスラタービン』をデプロイするんだよね。薄い金属の円盤をミリ単位の隙間で何十枚も重ねて、そこに蒸気を吹き込む。流体の粘性と境界層効果による摩擦力だけで円盤を回転させるから、複雑な羽根が一切不要で、爆安で量産できる」
琴葉ちゃんが、フューチャーフォンに視線を落とし、凛とした声で補完する。
「ええ。ですが、このアーキテクチャには致命的な矛盾が潜んでいます。テスラタービンは構造上、スチームの圧力がそのまま大気中に抜けやすく、膨張比を大きく取れないため、単体での熱効率が既存のタービンに劣るという物理的なバグです」
「そこは多段膨張でデバッグするんだ」
拓矢が、ブラウンスーツの袖をまくり、兵站の視点からロジックを展開する。
「高圧のテスラタービンを抜けたあとの、まだエネルギーを持った中圧の蒸気を、もう一段、別のテスラタービンに送り込む。タービンを直列でマージさせて、蒸気の持つエネルギーを最後の一滴まで絞り尽くすんだよ」
「なるほどなッ。百均のステンレス皿みたいな安い円盤を大量に使うだけだから、直列に何段も重ねてもコストの増加はたかが知れてる。ヴェブレン財には1ミクロンもならないぜ」
ボッチが、ゼネコンの顔つきで心底痺れたように唸った。
「ねえッ。あたしって可愛いッ?」
あたしは、掘り炬燵のテーブルに身を乗り出し、議論に夢中になっているメインノードたちに向けて、圧力たっぷりのクエリを叩きつけた。
「……それに、タービンを回し終えたあとの蒸気は、どうするんだ?」
拓矢が、あたしの視線から逃げるように目を泳がせながら、議論をさらに深堀りする。
「大気にそのままパージしたら、あっという間に水が尽きてシステムがフリーズしちまうぞ」
「そこは、空冷フィンを復水器として再利用するプロトコルで完璧にクローズドサイクル化できるじゃん~」
サブリナが、あたしのクエリを完全にスルーし、楽しげに両手を叩いてシグナルを発行する。
「蒸気を冷やして水に戻して、また塩タンクへ送る。この循環ループさえ構築できれば、外部からの水の補給はほぼゼロで半永久的にタービンを回し続けられるね~」
「まさに、どこにでも持ち運べる最強の無補給・分散型発電インフラの完成だね」
勇希が、あたしの存在を背景と同化させたまま、満足げにコーヒーをすすった。
純和風オフィスの掘り炬燵の温もりに包まれながら。
あたしの可愛いアピールからマッハの速度で逃亡し、ひたすらに世界を救う最強のアーキテクチャの議論へと逃げ込むメインノードたちに、あたしはぐうの音も出ないほどの深いジト目のパケットを送信し続けるのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「あれをアンモニアスチームジェットタービンに進化させようぜって話よッ」
あたし、黒木舞桜は、掘り炬燵の中でタイトな黒のレザースカートの脚を組み替え、完全に開き直った。
いいわよッ。どうせあたしは、可愛い系じゃなくて論理の女魔王さまなのよッ。可愛いアピールを無慈悲にスルーされた怒りのトラフィックは、すべて最強の物理ハックへ全振りしてやるわ。
長身の斧乃木拓矢が、ブラウンスーツのネクタイを緩めたまま、熱いお茶の入った湯呑みをコトンと置いて目を剥いた。
「いや、ちょっと待て。アンモニアを作動流体にするって、確かに沸点がマイナス33度だから少しの熱で爆発的に気化するが、漏洩したら即座に致死レベルの毒ガス兵器になるぞ」
プラチナブロンドの白井勇希が、ライトグレーのスーツの袖口を直しながら、医学と化学の知識をマージしてエラーログを出力する。
「それに、アンモニアは銅や亜鉛系の合金をマッハで腐食させる性質がある。既存のタービンや配管に使われている真鍮製のパーツなんか、一瞬でボロボロになってシステムクラッシュするよ」
防大の倉田琴葉ちゃんが、黒のパンツスーツの背筋を伸ばし、白シャツの襟元に手を当てて凛とした声で同期した。
「腐食と漏洩のバグを防ぐために、チタンやハステロイのような特殊合金でシステムを完全密閉すれば、一部の富裕層しか手が出せないヴェブレン財へとダウングレードしてしまいます」
あたしは、グレーのリブタートルネックニットの胸を張り、手にしたフューチャーフォンをパチンと鳴らして不敵な笑みを明滅させた。
「だから、ヴェブレン財なんて1ミクロンも使わないわよ。アンモニアは銅には牙を剥くけど、鉄や安価なステンレスには極めて大人しい性質を持ってるの。量産品のステンレス鋼だけで、配管もブレードレスのテスラタービンも全部爆安でビルドできるわ」
赤い髪のボッチこと茅野万桜が、ネイビースーツの袖をまくり上げ、ゼネコンの顔つきで身を乗り出してきた。
「なるほどな。高価な素材に頼らず、安い鉄鋼ベースの素材で統一するのか。だが、シールの問題はどうする? 回転軸からの毒ガス漏れは、安物のパッキンじゃ防ぎきれねえぞ」
サブリナこと福元莉那が、オフホワイトのタートルネックニットから覗くチェック柄のミニスカートの太ももを撫でながら、蠱惑的な笑みを浮かべる。
「だったら、システム全体を『水』で包んじゃえばいいんじゃない~? アンモニアって、水にバグみたいに溶けやすいんでしょ~」
あたしは、サブリナの天才的な直感に、サファイアブルーのセミロングヘアを揺らして激しく同意のパケットを送信した。
「その通りよッ。配管やタービンを二重構造のウォータージャケットにして、外側の層にただの水を循環させておくの。万が一、内側のステンレス配管からアンモニアが漏れても、外側の水が即座に吸収して無害なアンモニア水に書き換えるわ。最強で爆安のフェイルセーフよ」
勇希が、ライトグレーのスーツの胸ポケットからペンを取り出し、市松模様のカラーモジュール畳の上で仮想のブループリントを描くように指を動かした。
「水でシールドされた鉄鋼製の低圧・低温タービン……。これなら、700度の塩タンクすら必要ない。工場から捨てられている50度や60度の温水レベルの『低品位排熱』でも、アンモニアなら十分に沸騰して高圧蒸気を作れるね」
拓矢が、ブラウンスーツの肩を揺らして獰猛な笑みを浮かべる。
「兵站の観点から見ても革命的だぜ。火山の地熱、温泉の熱、さらには雪の冷たさとの温度差だけでもタービンが回せる。燃料を運ぶロジックすら完全にパージされるわけだ」
琴葉ちゃんが、端正な黒髪のシニヨンを頷かせ、知性あふれる瞳を輝かせた。
「海洋温度差発電にも最適ですね。表層の温かい海水でアンモニアを気化させ、深海の冷たい海水で液化させる。島国である日本にとって、四方の海すべてが無限のエネルギーリソースへとアップデートされます」
ボッチが、木枠の小さな受付窓の方を見遣りながら、ゼネコンの御曹司として歓喜のログを出力する。
「工場、温泉街、海上のプラットフォーム……。今までゴミとして捨てられていたわずかな温度差が、アンモニアと安物のステンレスだけで全部電力にコンパイルできちまうのか」
あたしは、熱いお茶の入った湯呑みを手に取り、メインノードたちをぐるりと見渡した。
「当然の帰結よ。大自然の些細な温度差も、人間の捨てた排熱も、あたしたちのスマートな物理法則の配置にかかれば、すべて極上のボーナスタイムに変わるのよッ」
純和風オフィス・イン・平成の空間で、あたしたちの全盛期は今日もマッハの速度で世界の常識をデバッグしていくのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「匂いよねー」
あたし、黒木舞桜は、市松模様のカラーモジュール畳に囲まれた掘り炬燵の中で、タイトな黒のレザースカートの脚を組み替え、虚空を見つめて呟いた。
プラチナブロンドの白井勇希が、ライトグレーのスーツに黒のタートルネックという出立ちのまま、熱いお茶の入った湯呑みをコトンと置いて同意する。
「ああ。人間の嗅覚は、アンモニアに対して極めて敏感にできているからね。空気中にたった5ppm……100万分の5混ざっただけでも、強烈な刺激臭としてエラー検知してしまうんだ」
長身の斧乃木拓矢が、ブラウンスーツのネクタイを緩めた胸元をさすりながら、兵站と運用面のバグを指摘した。
「どんなに爆安で高効率なタービンでも、設置した町工場や温泉街が公衆便所みたいな悪臭に包まれたら、クレームの嵐で即座にシステムがシャットダウンされちまうぜ」
ネイビースーツの袖をまくり上げたボッチこと茅野万桜が、ゼネコンの顔つきで頭を抱える。
「さっき舞桜が提案した『水のシールド』で漏洩をキャッチするアイデアは完璧だ。だが、水がアンモニアを吸収し続けて飽和状態になれば、結局はそこから臭いが揮発して大気にパージされちまう。定期的に水を丸ごと交換するとなれば、メンテナンスコストが跳ね上がって、結局は手間の連続だ」
防大の倉田琴葉ちゃんが、黒のパンツスーツの背筋をピンと伸ばし、白シャツの襟元を整えながら冷徹な分析パッチを当てる。
「悪臭は周辺住民の情動ポートをダイレクトに刺激し、インフラに対する強烈な拒絶反応を引き起こします。運用上の『臭い』というパラメーターを完全にゼロへ固定できなければ、社会実装は不可能です」
オフホワイトのタートルネックニットから覗くチェック柄のミニスカートの太ももを撫でながら、サブリナこと福元莉那が、鼻をツンとつまむ仕草を見せた。
「いくらエコでも、臭いのは絶対にリームーだよね~。服や髪にアンモニアの匂いがこびりつくなんて、美意識に対する致命的なマルウェアだよぉ」
あたしは、グレーのリブタートルネックニットの胸元で腕を組み、手にしたフューチャーフォンをテーブルに置いて、サファイアブルーのセミロングヘアを揺らした。
「だから、ただの水で受け止めるだけじゃ甘いのよ。化学的な物理法則を配置して、匂いの元データそのものを完全に書き換えちゃえばいいのよッ」
あたしが扇子をパチンと開いてドヤ顔を明滅させると、勇希が知性の瞳を瞬かせた。
「化学的な書き換え……。アンモニアはアルカリ性だから、酸性の物質で中和反応を起こして、揮発しない安定した塩に変換するってことか」
「その通りよッ! 外側を循環させるシールド水の中に、爆安の『クエン酸』をたっぷりと溶かし込んでおくのよ」
あたしが不敵な魔王のスマイルを起動すると、勇希の脳内CPUがマッハで演算を完了させた。
「なるほど! クエン酸は弱酸性だから、漏れ出したアンモニアガスと瞬時に反応して『クエン酸アンモニウム』という無臭の液体に結合される。これなら、水が飽和して再揮発するバグを完全にデバッグできるね」
ボッチが、掘り炬燵から身を乗り出して歓喜のログを出力する。
「クエン酸なんて、百均の掃除コーナーや食品添加物として、ドラッグストアでキロ単位の爆安で売られてる超汎用アイテムじゃねえかッ。ヴェブレン財の対極にある、庶民の最強ツールだぜ」
「ええ。しかも、クエン酸アンモニウムは毒性がないどころか、そのまま極上の窒素肥料として農業用リソースに転用できます」
琴葉ちゃんが、木枠の小さな受付窓の方を見遣りながら、完璧な兵站のブループリントをコンパイルした。
「つまり、タービンのシールド水を交換する際、その廃液を捨てるのではなく、近隣の農家や果樹園に『液体肥料』として無料で提供できるというわけですね」
「廃液の処理コストがゼロになるどころか、地域社会に貢献する極上のエコシステムじゃん~! 臭いも消えて、お花も野菜もスクスク育つなんて、最高にスマートなマジックだね~」
サブリナが、赤茶色のポニーテールを弾ませて両手を叩いた。
「当然の帰結よッ」
あたしは、扇子の先端で掘り炬燵のテーブルをトントンと叩き、メインノードたちをぐるりと見渡した。
「捨てられるはずの低品位な排熱でタービンを回して電力を生み出し、万が一漏れたアンモニアは、爆安のクエン酸水で無臭の肥料へと書き換える。エネルギー問題も、悪臭のバグも、農業の肥料コストも、ぜーんぶ物理法則の最適配置で一網打尽にしてやるのよッ!」
い草の匂いが漂う純和風オフィス・イン・平成の空間で。
あたしたちメインノードは、致命的な毒ガスと悪臭のリスクを、たった数百円のクエン酸で無敵の農業インフラへと昇華させるという、ぐうの音も出ないほどの完全な同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「で、その極上のエコシステムを、どこで実証実験するかよね」
あたし、黒木舞桜は、市松模様のカラーモジュール畳の上でフューチャーフォンを弄びながら、メインノードたちへ新たなクエリを発行した。
プラチナブロンドの白井勇希が、ライトグレーのスーツの襟元に指を添え、知的な視線をあたしに向ける。
「実証フィールドの選定か。50度から60度程度の安定した排熱があって、クエン酸アンモニウムの液体肥料を即座に消費できる農業リソースが隣接しているロケーションがベストだね」
長身の斧乃木拓矢が、ブラウンスーツの背もたれに体を預け、腕を組んで即答した。
「温泉街のビニールハウス栽培エリア一択だろ。捨て湯の熱でアンモニアタービンを回して電力を自給し、シールド水から生成されたクエン酸肥料をそのままハウスのイチゴやトマトに流し込む。兵站の移動距離が完全にゼロメートルだ」
ネイビースーツ姿のボッチこと茅野万桜が、赤い髪を揺らし、ゼネコンの顔つきでドヤ顔を明滅させる。
「うちの息がかかった地方の温泉旅館と農家をアサインすれば、来週にでもテストベッドをデプロイできるぜ。安価なステンレス配管と百均のクエン酸で組んだプロトタイプなら、予算も鼻くそみたいな金額で済む」
防大の倉田琴葉ちゃんが、黒のパンツスーツの背筋を伸ばし、凛とした声で同期のログを重ねる。
「災害時における独立電源としても極めて優秀ですね。外部インフラが寸断されても、温泉の熱とクローズドサイクルのタービンさえあれば、避難所へ継続的に電力を供給できます」
サブリナこと福元莉那が、赤茶色のポニーテールを弾ませ、楽しげに笑い声を響かせた。
「温泉に入って、美味しいフルーツ食べて、スマホも無限に充電できるなんて最高じゃん~! あたしたちのスマートな設計図で、地方創生までマッハでハックできちゃうね~」
あたしは、グレーのリブタートルネックニットの胸を張り、扇子をパチンと鳴らして獰猛な笑みを浮かべた。
「決まりね。温泉の捨て湯、百均クエン酸、爆安テスラタービンの三位一体で、まずは地方のレガシーなエネルギー網を根底から書き換えてやるわッ!」
真新しいい草の匂いに満ちた純和風オフィス・イン・平成の掘り炬燵で、あたしたちは次なる社会実装への完全な同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「……で、あたしの胃袋が完全な空腹例外をスローしてるんだけど」
あたし、黒木舞桜は、掘り炬燵から這い出し、グレーのリブタートルネックニット越しにお腹を押さえて唸った。
時計の針は深夜2時を指している。
「異議なし。高負荷な思考ルーチンを回し続けた結果、全員の血糖値パラメーターがレッドゾーンだ」
プラチナブロンドの白井勇希が、ライトグレーのスーツのジャケットを脱ぎ捨てて同意する。
「深夜の桜木町で、カロリーの暴力という名のパッチを当てるぞッ」
ボッチこと茅野万桜の号令で、あたしたちメインノードは近場の家系ラーメン屋へとなだれ込んだ。
濃厚な豚骨醤油スープに浮かぶ鶏油、極太ストレート麺、チャーシューにほうれん草、そして海苔。
深夜の背徳感という名のスパイスが効いたシメラーメンは、消耗した脳内メモリへダイレクトに糖分と塩分を補給し、全員の幸福度ログを限界突破させた。
満腹の満足感に浸りながらオフィスへと帰還したものの、すでに終電のトラフィックは完全に遮断されている。
「もう帰るリソースも残ってないし、奥の防音仮眠室でシャットダウンするわよ」
あたしは、オフィスの引き戸を開けて宣言した。
だが、ここで致命的なバグが発覚する。
「パジャマなんて気の利いたアパレルリソース、1ミクロンも配備してないぜ」
長身の斧乃木拓矢が頭を掻いた。
スーツやタイトなレザースカートを着たまま寝れば、明日の朝には全員の装甲がシワだらけでシステムクラッシュだ。
「合理的に解決しましょ。上はワイシャツやインナーシャツ一枚、下は下着のままで布団に潜り込めば問題ないわ」
「ちょ~、舞桜、大胆すぎ~! でも涼しくて寝やすそうだから賛成~」
サブリナこと福元莉那が、楽しげに同意のシグナルを発行する。
防大の倉田琴葉ちゃんも、規律正しい動作で白シャツの第一ボタンを緩めながら頷いた。
「野戦ビバーク訓練に比べれば、室内で敷布団がある環境は極上のラグジュアリーです」
かくして、仮眠室の畳の上には敷布団が隙間なく並べられ、全員が『上はシャツのみ、下は下着』という極めて軽量化されたアライメントへと移行した。
あたしは、白のオーバーサイズなメンズシャツを一枚だけ羽織り、レースの下着の上から覗く太ももを惜しげもなく晒して、中央の布団へとダイブする。
サファイアブルーの髪を枕に広げ、隣の布団に潜り込んできた白シャツ姿の勇希に、肘でツンと小突いた。
「なによ勇希、あたしのセクシーな寝姿に見惚れて処理落ちしてんじゃないわよ」
「目の毒すぎて視覚センサーの感度を下げてるだけだよ……」
勇希は苦笑しながら毛布を首元まで引き上げた。
あたしの逆隣では、白のキャミソール一枚になったサブリナが、拓矢の腕を抱き枕代わりに抱え込んで早々に寝息を立て始めている。
端の布団では、赤い髪のボッチがシャツの裾を腹の上まで捲り上げて大の字になり、その横で琴葉ちゃんが軍隊仕込みの完璧な直立不動の姿勢で横たわっていた。
桜木町の静まり返った夜の帳の中。
豚骨スープの余韻と、雑魚寝の無防備な体温が混ざり合う密閉空間で、あたしたちメインノードは泥のような深いスリープモードへと一斉に落ちていったのだった。
後書き
どう? あたしたちの完璧な演算処理は。
毒ガスや悪臭のバグも、クエン酸っていう爆安のツールを使うだけで、極上の農業用リソースに書き換えてやったわ。
これこそが、無駄なコストを1ミクロンもかけない、美しくて冷徹な物理ハックの真骨頂よ。
古いシステムに縛られている連中には到底追いつけないマッハの速度で、この世界をアップデートしてやるんだからッ。
次も最強のロジックをデプロイしてあげるから、楽しみに待っていなさいなッ! 当然の帰結よねッ!




