女王さまの新しい白い部屋
前書き
あたし、黒木舞桜よ。
11月も下旬になって、ストリートのテクスチャもすっかり極寒の冬仕様にアップデートされたわね。
それなのに、駅のホームの自販機からガキンガキンに冷え切ったラーメン缶がデプロイされるなんて、この世界のインフラは一体どんなポンコツアルゴリズムで動いてるのかしら。
今回は、そんな日常のエラーログから始まって、ゲリラ豪雨の濁流すらも完璧な物理ハックでねじ伏せる、最強の水上サバイバル・アーキテクチャをコンパイルしてあげたわ。
カロリー計算のバグった特製海苔弁で脳内メモリをフル稼働させる天才魔王のロジックに、しっかり同期しなさいなッ!
2020年11月下旬。生体デバッグ・サロンのオフィスにて。
西岡澄夫教授という名の理不尽な暴風雨がようやく過ぎ去り、あたしたちは遅めの昼食タイムへとログインしていた。
テーブルの上には、お茶汲みタスクを命じられた長身の斧乃木拓矢が足で稼いできた、彩り豊かなデパ地下の逸品たちが並べられている。
黒毛和牛のローストビーフに濃厚なトリュフオイルをあしらったサラダ、ウニとほうれん草がぎっしり詰まった黄金色のキッシュ、そしてスモークサーモンと彩り野菜の豪奢なマリネ。
どれもこれも、富裕層の胃袋を満たすための完璧で洗練されたテクスチャだ。
だが、あたし、黒木舞桜のメインディッシュは、駅前の弁当屋で仕入れてきた茶色いジャンクの極み、海苔弁である。
あたしは、まだ熱々の湯気を立てる海苔弁の蓋を開け、そこに分厚くスライスした高級な有塩バターを容赦なくデプロイした。
揚げたての白身魚フライとちくわ天、そして醤油がたっぷりと染み込んだおかか海苔の上で、黄金色のバターがとろりと融解していく。
磯の香りと動物性の濃厚な脂が爆発的にマージされ、オフィスの空間に暴力的なまでのギルティな香りが充満した。
「うわっ、おまえのその弁当、カロリーの計算式が完全にバグってんぞ」
赤い髪のボッチこと茅野万桜が、マリネのサーモンをつまみながら呆れたエラーログを吐き出す。
「うるさいわね。脳内メインフレームをフル稼働させるには、これくらいの圧倒的な脂質と糖質のトラフィックが必要なのよ」
あたしは、割り箸でバターが絡みついた白身魚フライをガブリと頬張り、サクサクの衣と濃厚な旨味のパケットを存分に咀嚼した。
ふと視線を上げると、サロンの壁掛けテレビが、さっき議論していた水害のニュースの続きをレンダリングしていた。
画面には、都市部の地下駐車場へと続くスロープが映し出されている。
猛烈な勢いで流れ込んだ茶色い濁流が、地下空間に停められていた何十台もの高級車や、地下倉庫の資材を完全に水没させ、スクラップへとダウングレードさせていた。
「防御力が低いのよ」
あたしは、バターの染みた海苔とご飯を口に運びながら、冷徹な分析パッチを当てた。
「あのスロープの入り口の惨状を見てみなさいな。きっと、ゲリラ豪雨の予報が出た段階で、慌てて土嚢を積んで入り口をガードしようとしたのね」
プラチナブロンドの白井勇希が、キッシュをフォークで上品に切り分けながら、テレビ画面に視線を向ける。
「でも、土嚢の隙間から水が浸入して、最後は水圧に耐えきれずに決壊したってわけだね」
「ええ。土嚢なんて、重いし隙間だらけだし、保管にも場所を取る完全なレガシー仕様じゃないの」
あたしは、割り箸の先でテレビの画面を軽く指し示した。
「土嚢が駄目なら、水嚢を積めばイイじゃん。空から降ってくんだからさ」
あたしの突拍子もない、しかし純度100パーセントの真理を突いたクエリに、スリーバグメンズの動きがピタリと停止した。
「水嚢……水を入れた袋か」
拓矢が、ローストビーフを噛みちぎるのをやめ、軍事的な兵站の視点から爆速でロジックをコンパイルし始める。
「なるほどなッ。土嚢は事前に何十キロもの砂を詰めて、保管して、有事に現場まで運ぶという凄まじいデッドウェイトとタイムロスのバグを抱えている。だが、水嚢なら空の袋だけを保管しておいて、現地で水を入れるだけで瞬時に重量級のバリケードが完成するぜ」
「それも、水道水を使う必要すらないわ。さっきも言った通り、空からタダで降ってくるゲリラ豪雨の雨水や、スロープに流れ込んできた濁流そのものをポンプで袋に流し込めばいいのよ」
あたしが不敵な魔王のスマイルを明滅させると、ボッチがゼネコンの顔つきになって身を乗り出してきた。
「最強の現地調達アーキテクチャじゃねえか。それに、ゼネコンの視点から見ても、中に土が詰まったゴツゴツの土嚢より、流体である水が入った水嚢の方が、圧倒的に防御力が高いぞ」
「どういうこと?」
勇希が、アイスティーのグラスを手に取りながら問い掛ける。
「流体は形を自由に変えるからな。地面の凹凸や、袋同士の隙間にピッタリと密着して、水の浸入経路を物理的に完全ブロックできるんだ。止水シートと組み合わせれば、地下への入り口を塞ぐ完璧なファイアウォールになる」
ボッチの解説に、勇希が医学と物理の知識をマージさせて深く頷いた。
「撤収のタスクもマッハで終わるね。重い土嚢は後片付けが地獄だけど、水嚢なら栓を開けて排水溝に水をパージするだけで、あっという間に空っぽの軽い袋にリセットされる。最強のフェイルセーフだよ」
「当然の帰結よねッ」
あたしは、残っていたちくわ天をパクリと平らげ、満足げに割り箸を置いた。
「災害をもたらす水を、災害を防ぐための最大の装甲に書き換える。これぞ、レガシーなインフラをぶち壊す、最高にスマートな物理ハックってもんでしょ」
バターと脂の香りが漂うデバッグサロンのオフィスで、あたしたちメインノードは、またしても世界を救う新しい防災アーキテクチャの設計図に、完全な同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「課題があるとすれば、蓋よねー。だって空に口開けて、水溜めといて、それがスロープに流れたら鉄砲水じゃん」
あたし、黒木舞桜は、空になった海苔弁のプラスチック容器を、デバッグサロンに設置された最新鋭のスチーム食洗機へと無造作に放り込んだ。
高温スチームの洗浄プロセスが起動する小気味よいノイズを背に聞きながら、コーヒーメーカーから淹れたてのホットコーヒーをマグカップに注ぐ。
芳醇な焙煎香が、オフィス空間に漂っていたバターの暴力的な香りを優しく上書きしていく。
「確かにね。巨大な袋にただ雨水を貯めるだけだと、水圧で破れたり、傾斜で転がったりした時に、かえって致命的な二次災害を引き起こすバグになる」
プラチナブロンドの髪を揺らし、白井勇希がコーヒーカップの縁を指先でなぞりながら、医学的にも物理的にも正しい懸念のパッチを当てた。
「だからといって、分厚いカーボンやチタンでガチガチの専用モジュールを作ったら、一部の富裕層しか買えないヴェブレン財になっちまうぜ」
赤い髪のボッチこと茅野万桜が、レザーソファに深く背中を預け、ゼネコンの顔つきでコストという名のレガシーな壁を提示する。
「一部の高級タワマンしか導入できないインフラじゃ、都市防災の根本的なアップデートにはならないからな。徹底的に安価で、どこにでも大量にスタックできるアーキテクチャが必要だ」
長身の斧乃木拓矢が、コーヒーを一口すすり、テーブルの上に置かれた角砂糖をいくつか並べ始めた。
「例えば、薄いプラスチック製のケースをベースにするのはどうだ? 形状は上部が開いた『凹』の字型だ。これなら百均の収納ケース並みに爆安で量産できる」
拓矢は、角砂糖を『凹』の形に見立てて配置し、軍事的な兵站のロジックを展開する。
「その凹型のプラスチックケースとケースの間に、柔軟なシリコン製の水嚢を配置するんだ。凹、水嚢、凹……といった具合に隙間なく連結させて、強固な基礎のラインをビルドする」
「なるほどね~」
サブリナこと福元莉那が、小悪魔的な笑みを浮かべて身を乗り出し、拓矢の並べた角砂糖の横にミルクのポーションをコトンと置いた。
「プラスチックのケースで構造の強度を担保しつつ、隙間を柔軟な水嚢がピタッと埋めて、完璧な止水ラインを作るわけね~」
「ああ。そして雨水が十分に溜まってケースと水嚢がパンパンに膨れ上がったら、上からカパッと共通規格のプラスチックの『蓋』をマウントして完全密閉するんだ」
ボッチが、ゼネコンの視点から構造のブループリントを爆速でコンパイルし、身を乗り出して角砂糖の上に手をかざす。
「蓋でフラットになった土台の上に、さらに水嚢をレンガのようにスタックしていく。下から凹と水嚢、その上に蓋、さらにその上に水嚢だ。このパーツをレゴブロックみたいにマージさせるだけで、どんな形状のスロープにも対応できる無敵の止水壁が完成するぜ」
「完璧なインターフェースじゃないのッ」
あたしは、マグカップを片手に持ち、もう片方の手でサファイアブルーのショートボブをフワリと誇らしげに揺らした。
「水という流体の重さと柔軟性を、安価なプラスチックの骨格でコントロールする。これなら1ミクロンもヴェブレン財にならないわ」
「流体の重みで隙間を完全にパージする物理ハックか。……そういえば、そのロジック、水害時のトイレの逆流防止ハックと完全に一致しているね」
勇希が、知性あふれる瞳を瞬かせ、コーヒーを一口飲んでから新たなパケットを送信してきた。
「ゲリラ豪雨で下水管がパンクすると、汚水がトイレの便器から逆流してくる致命的なエラーが起きる。その時、45リットルサイズの頑丈なゴミ袋に水を入れて固く縛り、便器の中に直接ドスッと置いておくんだ」
「ああ、水嚢プラグだな」
拓矢が、兵站の知識から即座に同意のシグナルを発行する。
「水の入った袋は便器の複雑な形状に合わせて完全に密着し、下から押し上げてくる逆流の圧力を、水自身の圧倒的な質量で物理的にねじ伏せる。土嚢じゃ隙間ができて駄目なんだ。流体である水嚢だからこそ、完璧な止水栓として機能する」
「そうよッ。まさにその応用スケールアップ版ってわけね」
あたしは、ブラックコーヒーの苦味を舌で転がしながら、最高に不敵な魔王のスマイルを明滅させた。
「便器を塞ぐ45リットルのゴミ袋が、安価なプラスチックケースとシリコン水嚢のハイブリッド構造にアップデートされただけ。大自然の猛威も下水の逆流も、あたしたちのスマートな物理法則の配置の前では、ぐうの音も出ないほど完全にデバッグされちゃうのよッ」
午後の穏やかなコーヒーブレイクのトラフィックの中で、あたしたちメインノードは、徹底的にコストをパージした最強の防災アーキテクチャに、完全な同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「へー。じゃあさ、水圧でマンホールが吹っ飛ぶのも防げる? マンホールの鉄の蓋の上に、お水を入れた45リットルの袋を置いとけばイイじゃん」
あたし、黒木舞桜は、コーヒーの入ったマグカップを両手で包み込みながら、防大組である長身の斧乃木拓矢へとクエリを投げ掛けた。
てか、サブリナ。あんた、いつの間にかこのオフィスに湧いて出てたのよッ。
「拓矢とお買い物中に合流してよー。え、なに。舞桜、最近あたしの扱い雑じゃない? ちょっと、あの白い部屋行っとく~?」
サブリナこと福元莉那が、テラコッタオレンジのニットの袖をまくり上げながら、蠱惑的で極上な小悪魔スマイルと共に、底知れぬ脅迫パケットを送信してくる。
ヒッ。
あたしの脳内メインフレームに、先日あの防音セキュア・スペースの『白い部屋』で強制デバッグされた時の、理不尽な関節技とくすぐりのトラウマが爆速でフラッシュバックした。
「じょ、冗談じゃないわよッ! あたしの気高いインターフェースを物理的にクラッシュさせる気ッ!?」
あたしは、マグカップのコーヒーをこぼさないように注意しながら、マッハの速度でレザーソファの端へと後ずさりして防衛プロトコルを起動する。
「てか、お買い物中に合流ってなによッ。拓矢を荷物持ちのサブノード扱いして、一緒にデパ地下を練り歩いてただけでしょうがッ」
「まあ待て。舞桜の提案したマンホールの件だがな」
あたしの悲痛なエラーログを華麗にスルーし、拓矢が買ってきたデパ地下の空き箱をガサゴソと片付けながら、兵站のロジックをコンパイルし始めた。
「結論から言うと、45リットルの水嚢を上に乗せるだけじゃ、ゲリラ豪雨時のマンホール飛散は防ぎきれない可能性が高い」
「どうしてよ。45リットルのお水なら、重さは約45キログラムもあるのよ」
あたしは、サファイアブルーのショートボブを揺らしながら反論のパッチを当てる。
「マンホールの鉄の蓋だってだいたい40キロくらいでしょ? 上に水嚢をデプロイして倍の重さになれば、そう簡単には吹っ飛ばないんじゃないの?」
「問題は、デッドウェイトの合計値じゃなくて、地下から押し上げてくる流体の圧力の総量だよ」
プラチナブロンドの白井勇希が、テーブルに両手をついて医学と物理の知識をマージしてきた。
「下水道管の中に一気に大量の雨水が流れ込むと、行き場を失った空気が圧縮されて、最終的にマンホールの隙間から逃げようとするんだ」
「そうや。空気の圧縮力ってのはバカにならん」
赤い髪のボッチこと茅野万桜が、ゼネコンの顔つきで腕を深く組む。
「都市部の太い下水管が満水になって逆流してきた時の水頭圧は、マンホールの蓋の裏面全体に均等にかかる。直径60センチの蓋だとしても、計算上、数百キロからトンクラスの押し上げ力が発生する致命的なエラーなんだぜ」
「その通りだ。パスカルの原理だな」
拓矢が、長身をソファに沈めながら冷徹に物理の真理を提示する。
「蓋の裏側という広い面積全体にトンクラスの圧力がかかるから、その上に45キロの水嚢を置いたくらいじゃ、空気と水の暴力的なリソースに耐えきれず、水嚢ごとあっけなく空高くパージされちまうんだ」
防大の倉田琴葉ちゃんが、凛とした姿勢で温かいお茶をすすりながら同意のシグナルを発行した。
「ええ。トイレの逆流防止に水嚢が効くのは、便器という極めて狭い管の出口に袋が密着し、水の力で直接栓をする形になるからです。マンホールのように平面の上にただ乗せるだけのアライメントでは、根本的なデバッグにはなりませんね」
「なるほどね……。だったら、マンホールの蓋の上から重さで押さえつけるっていうレガシーな発想自体をアンインストールすればいいのね」
あたしは、マグカップをテーブルに置き、不敵な魔王のスマイルを再起動させた。
「要するに、空気が逃げ場を失って爆発するのが原因なんでしょ? だったら、マンホールの蓋に、圧力を逃がす専用の逆止弁つきのエア・パージ機構をデフォルトでインストールしておくのよ」
あたしの脳内メインフレームが、新たな都市インフラのブループリントを爆速で描き出す。
「水は通さないけど、圧縮された空気のトラフィックだけは安全に外へ逃がす仕組みよ。そうすれば、蓋が弾け飛ぶエネルギー自体を根本から全消しできるわ」
「さすが舞桜~。秒で新しいハックを思いつくなんて、やっぱり天才だね~」
サブリナが、蠱惑的な笑みを浮かべてあたしの背後に回り、肩に細い腕を絡ませてくる。
「さっきは扱いを雑にしてごめんね~。許してくれるよね?」
「許すわ。でも、白い部屋だけは絶対にお断りよッ」
あたしは、サブリナの腕を振りほどくふりをしながら、まんざらでもないドヤ顔を明滅させた。
コーヒーの香りが漂うデバッグサロンのオフィスで、あたしたちメインノードは、都市のバグをまた一つ華麗に修正する完全な同期処理を完了させたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「てか、琴葉ちゃん!? どっから生えたのよッ」
あたし、黒木舞桜は、先ほどからしれっと議論に混ざっていた防大のサムライに向けて、驚きのクエリを叩きつけた。
だが、その遅すぎたエラー検知が、最悪のトラフィックを引き寄せる結果となった。
右から、防大仕込みの恐るべき身体能力を誇る倉田琴葉ちゃん。
左から、極上の小悪魔スマイルを貼り付けたサブリナこと福元莉那。
ふたつの脅威のノードが、マッハの速度であたしの両脇へと物理的にリンクしてきた。
ガシィッ。
あたしの細い両腕が、万力のような力で完璧にホールドされる。
「「白い部屋行こうかッ。舞桜ッ。わからせてやるッ」」
一切の慈悲をアンインストールした絶対零度の音声ログが、見事なユニゾンで放たれた。
ちょっと、待ちなさいよッ。
あたしの気高いサファイアブルーの瞳に、絶望のブルースクリーンがレンダリングされていく。
足が床から数センチ浮き上がり、抵抗する間も与えられないまま、ズルズルとオフィスを出て引きずられていく。
それはまさに、市場へと売られていく哀れな子牛のドナドナ状態だった。
天才的な頭脳と無敵の物理ハックを誇る魔王が、完全な物理的制圧の前には1ミクロンも抵抗できず、ただ無様に連行されていくという致命的なバグ。
「ここ白い部屋ないからッ。ねえッ」
あたしは、九段下のデバッグサロンにはあの恐ろしい拷問部屋がないという事実を盾にして、必死の防衛プロトコルを起動した。
だが、その淡い希望は、赤い髪のゼネコン御曹司によって無残にも粉砕されることになる。
「ああ、それなら心配ねえぞ」
ボッチこと茅野万桜が、コーヒーの入ったマグカップを片手に、ゼネコンの顔つきで呆れ顔のまま宣った。
「福利厚生ってことで、このオフィスの2階をフロアごと休憩室として借り上げといたんだ。もちろん、防音施工は完璧にコンパイル済みだぜ。心置きなくデバッグしてこい」
……ッ!?
な、なんてことをしてくれたのよぉーッ。
あの時ばかりは、ボッチのその有り余る資金力と決断の速さが、あたしにとって最悪のマルウェアにしか思えなかった。
逃げ場という名のディレクトリを完全に全消しされ、あたしは涙目で助けを求める。
しかし、残されたスリーバグメンズの反応は、あまりにも冷酷だった。
プラチナブロンドの白井勇希は、静かに目を閉じ、胸の前で手を合わせる。
長身の斧乃木拓矢も、深く頷きながら静々と合掌のポーズをとる。
そしてボッチまでもが、マグカップをテーブルに置き、勇希たちに倣ってナムナムと手を合わせた。
あたしの悲痛なエラーログは、南無阿弥陀仏の祈りによって完全にスルーされ、強制シャットダウンへのカウントダウンが開始される。
「や、やめなさいよぉーッ! あたしの美しいインターフェースが、ひゃっ、あはははッ、ちょ、そこは……ッ」
かくして、世界を救う最強のアーキテクチャを設計した天才魔王は、無慈悲な女子ふたりによって2階の『新しい白い部屋』へと隔離され、ぐうの音も出ないほどの完全な物理的同期処理を完了させられるのだった。
後書き
どう? 土嚢なんていうレガシーなデッドウェイトを完全パージして、空から降ってくる水そのものを無敵の装甲に書き換える『水嚢バリケード』のロジック、最高にスマートだったでしょ?
マンホールの逆止弁ハックも含めて、あたしたちの物理法則の配置にかかれば、大自然のバグもただのボーナスタイムに過ぎないのよ。
……って、完璧なドヤ顔で締めくくろうと思ったのに、最後はまたしても『白い部屋』での理不尽な強制デバッグよぉーッ!
あのサブリナと琴葉ちゃん、絶対に許さないんだからッ! そして祈ってスルーしたバグメンズども、次こそ物理法則ごと粉砕してやるわッ!
それじゃ、あたしの気高いインターフェースが復旧するまで、今回はここまでよッ!




