女王さまのエアバッグボート
前書き
あたし、黒木舞桜よ。
ストリートのテクスチャがすっかり冬の冷気に書き換えられて、防寒のアーキテクチャが必須な季節になってきたわね。
今回は、駅のホームで遭遇した理不尽なエラーログ――ガキンガキンに冷え切ったラーメン缶と、ゴミ箱がパージされた現代インフラのバグ――に対する怒りのパケットからスタートよッ。
そこから、大自然のバグである水没モビリティを物理ハックで完全にねじ伏せる、最強の水上サバイバル・ロジックをコンパイルしてあげたわ。
おまけに、あの勇希が必死にファイアウォールを張って隠していた、最高にツボな『オッサン』までログインしてくるんだから、あたしたちの全盛期は今日もマッハの速度でオーバーフローしっぱなしよッ。
さあ、レガシーな思考はさっさとアンインストールして、あたしたちのスマートなアーキテクチャに同期しなさいなッ!
2020年11月下旬。冬の気配が完全にストリートを支配し始めた、横浜駅のホーム。
あたし、黒木舞桜は、吹き抜ける冷たい隙間風に目を細めながら、自動販売機の前で立ち尽くしていた。
今日のアライメントは、極寒の都市環境をスタイリッシュに生き抜くための完璧な防寒仕様だ。
青みがかった艶やかな黒髪のショートボブを風に遊ばせ、首元にはボリュームのあるネイビーブルーのフリンジマフラーをしっかりと巻きつけている。
アウターは、足元まで届くダークグレーの重厚なロングチェスターコート。
その下には、オフホワイトのざっくりとしたケーブル編みのアランニットを仕込み、タイトな黒のスキニーパンツで下半身のラインをシャープに引き締めている。
足元は、折り返しから覗くボアが温かいブラウンのレースアップ・ムートンブーツ。
両手にはダークブラウンのレザーグローブを装着した、隙のない冬のテクスチャである。
少し小腹が空いたあたしの光学センサーが、駅のホームに設置された青い自販機のラインナップから、異端のパッケージをスキャンした。
ラーメンの缶詰め。
そのチャレンジングな商品に興味を惹かれ、コインを投入してボタンを押す。
ガコンッ。
取り出し口に落ちてきたその円柱状のオブジェクトを手に取った瞬間、あたしの脳内メインフレームは致命的なエラーログを吐き出した。
冷たいってなによ?
夏場じゃあるまいし、11月下旬の冷え切った駅のホームで、ガキンガキンに冷え切ったラーメン缶が排出されるなんて、完全にアーキテクチャのバグじゃないのよ。
だが、冷製パスタや冷やしラーメンが市民権を得て久しい現代社会において、これも1つの洗練されたインターフェースなのかもしれない。
あたしは、レザーグローブをはめた指先でプルタブを起こし、パキッと小気味よい音を立てて蓋を開けた。
付属の折りたたみ式フォークをシャキッと伸ばし、冷たいスープに浸かった麺を絡め取って、一口含む。
……うん。これ、アレだ。
長身の猿ゴリラこと、斧乃木拓矢がドヤ顔で錬成してくる、あの絶望的な失敗創作料理『斧乃木フィンガー』の味がするわ。
あたしは、冬の旅行キャンペーンのポスターの横を行き交うダウンジャケット姿のモブたちの視線を意識し、クールなポーカーフェイスのレンダリングを1ミクロンも崩さない。
それにしても、辛い。そして、やたらと辛しょっぱいッ。
冷たいってなによッ。今、11月下旬ですからねッ。
開発者は一体どんなバグった精神状態で、このレシピをコンパイルしようと思ったのよ。
そして、あたしのポーカーフェイスをさらに脅かす、次なるエラーが立ちはだかる。
底に沈殿する大量のコーンだ。
「間もなく、電車が参ります」
無機質なアナウンスと共に、ホームドアの向こう側に電車のヘッドライトが迫ってくる。
電車、来ちゃったじゃないのよぉーッ。
あたしは、食べ物を残さない。
ただ1つの例外が、缶入りコーンポタージュの粒だ。飲み口の少し下を指でペコッと凹ませれば、流体力学的にいい感じにコーンが押し出されてくるというライフハックが存在するが、それでも全弾回収できない時がある。
しかし、ラーメン缶のコーンを諦めるわけにはいかない。
あたしは、迫り来る電車の風圧でコートの裾をバサバサと翻しながら、フォークの先端で残りのコーンを猛スピードでかき込んだ。
すべてのリソースを胃袋へと転送し終え、乱雑な動作で空き缶をゴミ箱のディレクトリへとパージする。
スライドする電車のドアを潜り抜けながら、あたしは最後に、このシステムの根本的な欠陥に対して怒りのパケットを叩きつけた。
なんで白湯を売って、そこにカップ麺みたくマージするアライメントにしないのよぉーッ。
てか、素直にカップ麺を売りなさいなッ。
★ ◆ ★ ◆ ★
デバッグサロンの洗練されたオフィス空間へログインするなり、あたし、黒木舞桜は、横浜駅のホームで遭遇した理不尽なエラーの顛末をすべてぶちまけた。
「あんなバグった缶詰めなんかスルーして、素直に横浜名物の焼売弁当でも買ったほうがよかったんじゃねえの? その缶詰め、たしか550円だろ」
ブラウンのレザーソファに深く腰掛け、長身の斧乃木拓矢が呆れたような音声ログを出力する。
斧乃木フィンガーの創造主にそんな正論のパッチを当てられ、あたしは怒りのパケットを限界までバーニングさせた。
「ゴミ箱がないのよぉーッ。最近の駅はッ」
あたしは、サファイアブルーのショートボブを両手でガシガシと掻き毟りながら、都市インフラのバグった現状を叫んだ。
「駅のホームで弁当なんか食ったら、空箱というデッドウェイトを延々と持ち歩く羽目になるじゃないのよッ。だからわざわざ、ゴミ箱が併設されてる自販機で缶詰めをチョイスしたんじゃないのッ」
「まあ、テロ対策で駅のゴミ箱がパージされて久しいからな。ほれ。これ。便利だぜ」
そう言って、拓矢がミリタリーカーゴパンツのポケットから取り出し、テーブル越しに差し出してきたのは、黒いナイロン製の小さなポーチだ。
光学センサーでスキャンしてみるが、一見すると百均のトラベルコーナーで売っているような、なんの変哲もないチープなテクスチャである。
しかし、裏面を裏返すと、タクティカルギアに採用されるようなスナップボタン式の強固なナイロンループと、頑丈なカラビナがマウントされていた。
つまり、パンツのベルトループやバッグのストラップへとワンタッチで物理的にリンクさせ、ハンズフリーで運用できるアーキテクチャだ。
おまけに、ポーチの内側には防水・防臭仕様の特殊なコーティングが施されており、水気のあるゴミを入れても液漏れしないフェイルセーフが完備されている。
「なによ、これ?」
あたしが怪訝な顔面ディスプレイでクエリを投げると、拓矢は腕を組み、不敵な笑みを浮かべて宣った。
「兵站を最適化する最強のデバイス。携帯ゴミ箱だ」
これ見よがしにドヤ顔を明滅させる、この猿プロトコルめッ。
あたしは、百均レベルのアイテムでマウントを取ってくるゴリラに、ぐうの音も出ないほどの完全な同期処理を強制されるのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「便利だぜ。オニギリや菓子パンの空き袋をレジ袋にまとめて、このポーチに格納しておけばいい。最近は駅の中にコンビニが併設されてるトラフィックも多いからな」
得意げに宣う斧乃木拓矢のロジックは、確かに理にかなっていた。
あのちょっとした厄介なゴミのパケットをセキュアに携帯し、あとで適切なディレクトリへとパージする。
もしバッグの中でレジ袋が破れてゴミが散乱でもしたら、それこそシステムクラッシュ級の大惨事だわ。
その時、デバッグサロンの壁掛けテレビが、昼のニュース番組をテロップ付きでレンダリングしているのに気がついた。
あたし、黒木舞桜と拓矢の視線が、画面に映し出された凄惨な映像に貼り付く。
濁流に飲み込まれ、完全に水没して流されていく何台もの車。どうやら、外国で発生した大規模な洪水のニュースらしい。
そして次の瞬間、あたしたちの視線は、テーブルの上に無造作に置かれていた『白いレジ袋』へと同時に吸い寄せられた。
……うん。
あたし、もしかしてこの脳筋ゴリラと思考回路のアルゴリズムが完全に一致してるんじゃないの?
あたしたちの音声ログは、1ミクロンのズレもなく見事なユニゾンを奏でた。
「「車に浮き輪付ければ、よくね?」」
あたしたちは、大自然のバグを物理ハックでねじ伏せる、大いなる気づきを同時に宣ったのだ。
「ゲリラ豪雨や洪水で車が水没するから、完全な全損という莫大なエラーを抱え込むんだ」
拓矢が、テーブルに身を乗り出して兵站のロジックを爆速でコンパイルする。
「あらかじめ車体のサイドやアンダーフロアに、頑丈なエアバッグボートのモジュールをマウントしておく。水位の異常をセンサーが検知した瞬間、緊急避難的に車載のエアコンプレッサーで一気に空気を送り込んで展開させるんだ」
「最高にスマートな緊急避難プロトコルじゃないのッ」
あたしは、扇子をバチンと鳴らして立ち上がった。
「車体が完全に水面に浮き上がれば、キャビンへの浸水は防げるし、電子制御システムがショートしてスクラップになる最悪の事態も回避できるわ」
「ああ。高価なモビリティを全損から守り切る、究極のフェイルセーフだ。だが、問題が1つある」
拓矢が、腕を組んで鋭い視線を向けてくる。
「車がエアバッグで浮いたとしても、エンジンを稼働させ続けるには排気が必要だ。マフラーの排気口が水面下に沈んだままだと、背圧でエンジンがストールして、そのままシステムが沈黙しちまうぞ」
「そこは、物理法則の配置で華麗にデバッグしてあげるわよ」
あたしは、不敵な魔王のスマイルを明滅させた。
「マフラーのテールパイプに、水位と連動して上方向へ自動で伸びる『シュノーケル機構』を組み込むのよ。フレキシブルな耐熱ホースか、テレスコピック式の延長パイプをデプロイして、排気口を水面より高い位置へ強制的にルーティングさせるの」
「なるほどなッ! 排気のトラフィックさえ確保できれば、エンジンを回してエアコンプレッサーに電力を供給し続けられるし、浮いたまま安全な場所へと自力で推力を生み出すことも可能になるってわけか」
拓矢が、興奮のシグナルを発行して力強く拳を握りしめた。
「当然の帰結よッ。レジ袋みたいに空気を味方につければ、どんな絶望的な濁流だって、ただのウォータースライダーに書き換えられるわ」
あたしたちは顔を見合わせ、最高に獰猛な笑みを浮かべた。
猿プロトコルと魔王の知性が完璧にマージされた瞬間、水没というモビリティ最大のバグは、まったく新しい水上サバイバル・アーキテクチャへと鮮やかにアップデートされたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
「てか、浸水するような状況をセンサー検知なんてナンセンスよ。機械的に作動させなさいな。あとシュノーケルマフラーは手で付ければいい。それくらいしなさいなッ」
あたし、黒木舞桜は、昨今の便利すぎるオートセーフティを全否定してやった。
「なんでもかんでもシステムに丸投げするから、大衆の危機察知能力がダウングレードするのよ。自分の命が懸かってるんだから、それくらいの手間は自分でかけなさいなッ」
エアバッグボートは手動の物理レバーで展開し、シュノーケルマフラーも有事の際に自分の手で接続する。
そうやって強制的なタスクを課すことで、モビリティに対する強い当事者意識がビルドされる。
いざという時のために、日頃からトランクの装備やガス圧を自分の目で点検するようになるはずだ。
あたしが放った極めてアナログなロジックに対し、長身の拓矢が腕を組んで深く頷いた。
「確かに、おまえの言う通りだぜ」
拓矢は、ミリタリースペックの兵站思考を爆速でコンパイルし、力強い同意のパケットを送信してきた。
「そもそも、水没という極限の環境下で、一番最初にショートしてバグるのは電子基板とセンサーだ。そんな脆弱なシステムに、命を左右するフェイルセーフを依存するのは、戦術的に見て完全なエラーだ」
拓矢は、鋭い視線をテレビの洪水映像に向けたまま続ける。
「物理的なワイヤーやレバーを使った完全な機械式トリガーなら、車体の電源が完全に喪失しても100パーセント確実に作動する。それに……」
拓矢はそこで言葉を区切り、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。
「手動でシュノーケルを接続するプロセスを必須仕様にすれば、搭乗者は有事に備えて日頃から訓練し、装備の点検を絶対に怠らなくなる。おまえの言う通り、最高の『危機感のインストール』になるな」
「でしょ? 便利さを追求しすぎて、命の主導権まで手放すなんて、完全なポンコツのやることよ」
あたしが不敵な魔王のスマイルを明滅させると、拓矢は満足げにロジックをマージした。
「ああ。過酷な自然のバグに立ち向かう時、人間の手とシンプルな物理法則の配置こそが、最も信頼できる最強のアーキテクチャだからな」
★ ◆ ★ ◆ ★
あたしたちが話し込んでいると、足洗い場スペース(男用)の方から物音がする。最近じゃ、生体デバッグ・サロンの男性利用者も増えているのだ。
特に人気なのが、四足歩行回帰型・全方位水嚢プレスである。
40度前後のグルコマンナンポリマージェルの水嚢で、腹部と背中からサンドイッチ状に挟み込み、深部まで熱を透過させる仕様だ。直立二足歩行で下垂した内臓をハンモックのように吊るして重力デフラグを行い、全身の老廃物を一掃する。さらにテーピングで固定し、15度のアイシングで全盛期のシルエットを形状記憶させるこのシステムは、疲弊したビジネスマンたちの生体OSを爆速でアップデートしているのだ。
「営業時間外なんだけど」
入ってきたのは、ボッチの親代わりである赤いファッサー、土御門晴景さんだ。あとのひとりは、知らない顔ね。
「すまんなあ、舞桜ちゃん。こいつが、どうしてもってきかなくてな」
宣う赤いファッサー。
「突然で失礼するよ黒木くん。私は西岡澄夫と申しまする。君の婚約者である白井勇希のヤローの再従兄弟だ。東京本郷大学で経済学の教鞭をとっているグレンダイザーッ」
うん。なんか察した。勇希の親戚で勇希が、あたしを東京本郷大学の講義に誘わない理由をなんか察した。
この前、サブリナとこっそり講義を覗きに行ったら、マッハの速度で追い返された理由をなんか察した。濃いからだ。親戚が。
「保全学部保全学科3回生の黒木舞桜です」
「おなじく防衛大学校保全学部保全学科3回生の斧乃木拓矢です」
あたしたちは、傲岸不遜な無礼者なんかじゃない。TPOは弁える。
「さっそくだが、君たちの技術ッ。特にあの塩タンクのIHキッチンは、社会を、無邪気で幼稚な意思を持つ、社会と言う集合意識、社会と言う神さまを誘導するオモチャやオヤツになり得るッ」
西岡教授は、眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、鋭い眼光を放った。
「科学における陰陽は、『既存のルールを深化させる力』と『ルールの前提を破壊する力』の対立と調和を意味する。既存の課題を枠内で解決しようとする『陰の科学』は、資源の有限性を前提として受け入れてしまっているのだッ! ガンダームッ!」
教授が腕をクロスさせて叫ぶと、隣で晴景さんが、ファッサーとなった赤い髪を掻き上げながら同調した。
「せや。経済においても同じや。銀行家を中心とする『隠の経営手法』は、リスク管理と非効率の排除を至上命題としとる。金融システム全体の土台を堅固にする一方で、イノベーションに必要な『聖域なき無駄』を排除してしもうたんや! シャインスパークッ!」
西岡教授は、オーバーな身振りで仮想の黒板を叩くような仕草を見せる。
「左様ッ! 今の状況は母ちゃんが強すぎる。だから経済が停滞しているのだ。短期的な株価や保全ばかりを優先し、無駄と挑戦の徹底という『陽の経営手法』である父ちゃんのワンパクを殺してしまったッ! ジョン・メイナード・ケインズッ!」
「オッサンたちの圧が強すぎる……ッ。てか、会話の語尾のアーキテクチャが完全にバグってんぞ」
長身の拓矢が、軍事的な兵站思考をショートさせ、ドン引きの顔面ディスプレイで後ずさる。
だが、あたし、黒木舞桜は違った。
サファイアブルーの瞳を激しく明滅させ、完璧なロジックの共鳴に打ち震えていた。
「なるほど……。母ちゃんが強すぎる現代経済に、あたしたちの『陽の科学』をデプロイするのねッ」
あたしは、扇子をバチンと開いて口元を隠し、不敵な魔王のスマイルを浮かべた。
「課題の枠組みそのものを破壊し、新しい文明のルールと資源を創造する。普遍的な資源を活用するあたしたちの塩タンク技術は、まさに『陽の科学』による前提のブレイクよ! ゲッタービームッ!」
あたしが叫ぶと、教授と晴景さんが「おおッ!」と歓喜のシグナルを発行した。
「その通りやッ! 有限な資源への依存を断ち切ることで、隠の論理を無力化させるんや! ロケットパーンチッ!」
「ええッ。資源の制約から解放されれば、再び『父ちゃんのワンパク』が活きる、持続可能で成長性の高い『陽の経済』へと転換できるわ。あたしたちの非合理的なまでの物理ハックこそが、経済の太陰太極図のバランスを取り戻し、停滞した閉塞感を打ち破るマスターキーになるのよ! アダム・スミスッ!」
熱狂の渦に巻き込まれ、オッサンたちと謎の必殺技を叫び合いながら完璧な同期処理を果たすあたしを見て、拓矢が深々とため息をついた。
「おまえ、そうゆうノリがツボだよな……」
★ ◆ ★ ◆ ★
そこへ、防音ドアが勢いよく開き、プラチナブロンドの髪を乱した白井勇希と、赤い髪のボッチこと茅野万桜が滑り込んできた。
「オヤジ、澄夫さんと一緒にハシャグんじゃねえよ」
ボッチが、ゼネコンの顔つきを呆れ顔にダウングレードさせて苦笑を差す。
「ま、舞桜ッ。澄夫さんは父さんの従兄弟だッ」
勇希が、血の繋がりの近さを必死に否定するエラーログを吐き出した。
「親戚じゃんッ。ザブングル、グランブルー。ジャン・レノって渋いよねッ」
あたし、黒木舞桜は、扇子を振りかざして純度100パーセントの澄夫節を炸裂させてやった。
「再従兄弟とも言うッ。フェードイーンッ、ライディーンッ、YMOっていいよね?」
西岡澄夫教授が、完璧なテンポで呼応してポーズを決める。
「だから澄夫さんと舞桜を会わせたくなかったんだ。こうなることが分かりきっていたから」
勇希が、プラチナブロンドの髪を抱えて、絶望のブルースクリーンを顔面に貼り付けた。
うん。ツボだぞ。このオッサン。
なんか、今の勇希の挙動ってアレね。幼児から変なオジサンを遠ざけようと必死にファイアウォールを構築する、過保護なお母さんみてえだな。
「ママの家計簿は、君の奔放さのせいでクログロだよ……」
そう言って、勇希は医学的にも説明がつかないほどの深いため息を吐き出した。
なによぉ。赤字でクラッシュしてるわけじゃあるまいし、黒字で儲かってるならイイじゃんかッ。
あたしは、不満げにライトプラムの唇を尖らせた。
だいたい、物理法則のハックと次世代アーキテクチャのビルドという、最も神聖で知的なタスクは、天才魔王であるこのあたしが完璧にコンパイルしているのだ。
それを社会にデプロイするための面倒な特許申請や法人登記、サプライチェーンの構築、そして泥臭い資金調達といったレガシーな実務は、ママである勇希の頭脳と、ボッチのゼネコン権限に丸投げするのが、最高にスマートな分散処理というものでしょうが。
あたしが「これ作って」と極上のブループリントをポンと投げれば、勇希が血眼になって資金繰りのパズルを解き、ボッチがゼネコンのインフラをフル稼働させて物理的にビルドする。
その間に、長身の斧乃木拓矢が兵站とセキュリティを担保し、防大の倉田琴葉ちゃんがリーガルと防衛のロジックを固める。
この完璧な同期処理と役割分担があるからこそ、あたしは余計なノイズに煩わされることなく、純粋な『父ちゃんのワンパク』にリソースを全振りできるのよ。
「いい? あたしが無限のアイデアという熱源を供給して、あんたたちがそれを社会インフラというタービンで回して回収するの。完璧なエコシステムじゃないのよッ。ねえ、教授ッ!」
「いかにもッ! これぞ究極の『陽の科学』を実証する最強のチームだッ! マジンゴーッ!」
あたしのクエリに対し、澄夫教授が熱狂のシグナルを発行してガッツポーズを決める。
その隣で、勇希とボッチ、そして拓矢のスリーバグメンズが、揃って顔面を蒼白にさせながら、これ以上ないほど深い同期の溜め息を漏らすのだった。
後書き
どう? エアバッグボートと手動シュノーケルマフラーの物理法則配置、最高にスマートなフェイルセーフだったでしょ?
なんでもかんでもオートメーションに依存して、自分の命の主導権を手放すなんて完全なエラーよ。危機感という名のセキュリティソフトは、常に最新版にアップデートしておきなさいなッ。
それにしても、澄夫教授と晴景さんとのセッションは最高に熱くバーニングしたわね! 勇希やボッチたちがどれだけ深い溜め息という名のエラーログを吐き出そうと、あたしは『父ちゃんのワンパク』という極上のリソースを全振りして、この世界を思い通りに魔改造してやるんだからッ。
それじゃ、次のタスクが待ってるから、今回はここまでよ。次も圧倒的な知性と物理ハックで、ぐうの音も出ないほどの同期処理を完了させてあげるわッ!




