女王さまと丸ノ内ホストクラブ
【前書き】
まったく、なんであたしがこんな記録をコンパイルしなきゃならないのよ。
丸ノ内のド真ん中にビルドした、意識高い系女子を完全ハックする生体デバッグサロン。
そこはいつの間にか、ウチの残念なメンズたちが黄色い歓声のパケットを集めるホストクラブへと変貌していたわ。
これは、完璧なビジネスアーキテクチャの裏で繰り広げられる、最高に理不尽でバグった日常のログ。
しっかり脳内メインフレームにダウンロードしなさいよねッ。
てか、なんで舞桜まで髪短くしてんだよッ。流行ってんのッ。琴葉先輩もショートにしたしさーッ。
「夏毛よ。旦那さん」
つる役の舞桜が律儀に答える。
夏毛て。アホなんか君ら。いやアホか。
降りしきる夜露が、古びた百姓家の杉戸を湿らせていた。
囲炉裏の火影で、与作役の白井勇希は問屋から渡された小判の重みを手のひらで確かめていた。
ただの太織りしか作れぬはずの雪深い村に、突如として現れた極上の絹織物。
それは、当時の最先端技術すら遥かに凌駕する、超高密度な二重反であった。
「……つる」
白井が呟く。
その視線の先、奥の間の障子には、夜通し規則正しく響く、重苦しい機音が映っていた。
ガシャン、ガシャンと、まるで鋼鉄の心臓が脈打つような、不気味なほど冷徹な律動。
舞桜は、村の者が噂するような鳥の化け物などではない。
江戸の巨大呉服問屋が抱えるからくり方たちの熾烈な派閥争いから逃れ、行き倒れていたところを拾った、一人の凄腕ハッカーであった。
舞桜の武器は、織機の構造を根本から書き換える、異端のハッキング・ノウハウだ。
「絶対に、中の作業は見ないで。このからくりのカム配置と糸の張力制御は、一目見られれば、すべてのコードが盗まれる。それが、ここに私がいるための絶対のプロトコルだから」
舞桜は部屋に籠る前、凍てつくような声でそう言い残していた。
しかし、白井の耳には、昼間に会った問屋の旦那の、ねっとりとした声がこびりついて離れなかった。
漆黒の羽織に極彩色の鶴が舞う、悪趣味な装束を纏った男。
『与作さんよ。これほど精緻な綾織、江戸の将軍家でもお目にかかれねえ。次はいつ出せる。期日を半分に縮めてくれりゃあ、今回の倍の金を握らせてやる。なあに、舞桜に少し寝る間を惜しませりゃあ済む話だろ』
ガシャン、ガシャン。
機音は、昨日よりも明らかに速度を増していた。
舞桜は、織機のクランク機構を物理的に限界突破させている。
それは文字通り、己の神経と肉体を削り落とす、狂気のデスマーチであった。
約束の3日目の丑三つ時。
白井は、欲望と焦燥に突き動かされ、ついに音もなく障子の隙間に指をかけた。
一筋の光が、暗室の闇を切り裂く。
白井が息を呑んだ。
そこにいたのは、美しい女房の姿でも、鶴の化け物でもなかった。
髪を乱し、血走った目で、無数の幾何学的なソースコードが壁一面に貼られた部屋の中央に座り込む、一人の狂気のエンジニア。
舞桜の両手は、高速で駆動する改造ジャカード織機の制御機構に直結され、限界を超えた摩擦で指先からは血が滲んでいた。
「……エラーだ、与作」
舞桜は機を止めることなく、首だけを機械的に振り返らせた。
その声には、怒りも悲しみもなく、ただシステムがシャットダウンを検知したときのような、冷徹なログだけが響いていた。
「ソースコードが見られた。これ以上の機密防衛は不可能。セキュリティは完全に破られた」
「つ、つる……俺は、ただ……」
「問屋に売り渡すつもりだったのだろう。この、私の命を削った最高効率のロジックを」
舞桜は、カチャリと織機のメインシャフトの暗号鍵を抜き取った。
その瞬間、凄まじい金属音と共に、世界にたった1台の超最適化織機は、ただの動かぬ鉄と木のクズへと還った。
舞桜は、血に染まった図面を囲炉裏の火へと投げ込み、壁に残されたすべての記録を抹消した。
「システムはここでクローズする。さようなら、与作」
夜明け前、地を這うような深い霧の向こうへ、一人の人影が消えていった。
あとに残されたのは、誰も再現することの叶わぬ、1枚の美しく冷たい絹織物と、二度と起動することのない、沈黙した機械の屍骸だけであった。
おいおい、なんだよ。このバグった絵面は。
俺、茅野万桜は、恐らく夢を見ている。
目の前には、白い着物に身を包んだ黒髪ショートの舞桜と、つぎはぎだらけの粗末な野良着に頭巻きをした白井勇希。
そして俺自身はといえば、真っ赤な髪を後ろに撫で付け、鶴の刺繍が入ったド派手な黒羽織を着流しているではないか。
てか、俺ダーティーな商売やらねえよ。だって無駄じゃん。
ああ、わかった。アホ女王さまと、ヤンデレがなんか話してやがんだな。
「なあ、あの悪徳問屋、絶対に裏でマージン中抜きしてる顔だよね」
「違いないわね。あの赤い髪のテクスチャからして、すでに市場を独占しようとする悪意のパケットが溢れ出ているものね」
聞こえてくるのは、間違いなく白井たちの好き勝手な音声ログだ。
俺の脳内メインフレームを勝手に間借りして、こいつら、なんの時代劇シミュレーションを走らせてやがるんだッ。
★ ◆ ★ ◆ ★
2020年7月中旬。東京丸ノ内にオープンさせた生体デバッグサロンのオフィスにて。
「てか鳥の化け物ってなんだよッ。テメエらには、情緒ってもんがねえのか」
ボッチこと茅野万桜が、あたしに向かって捲し立ててくる。
「だって、鳥類よ? 卵を産む生き物よッ。マンスリーバグだってないんだからッ」
あたし、黒木舞桜は、当然の理として反論のパケットを叩き込む。
「鳥類にはそもそも、哺乳類のような月経サイクルという概念自体が存在しないんだ」
あたしの彼氏である白井勇希が、淡々と生体学のウンチクをデプロイし始めた。
「鳥というハードウェアは、総排泄腔という単一のポートから、排泄と産卵のルーティングを統合して処理している。卵というカプセルに栄養を完全パッケージして外部へ排出するから、哺乳類のように胎盤を形成したり、それを定期的に剥がしてリセットしたりする無駄なプロセスが完全に省かれているんだよ」
へー。当てずっぽうで言ったのにあってんじゃん。
「つまり、鳥類の生殖システムは、ホルモンバランスの乱れによる熱暴走や出血という物理的なデバフを極限まで削ぎ落とした、超高効率なアーキテクチャってわけさ」
へー。そうなんだー。
勇希の解説パッチをダウンロードして、あたしは感心の息を漏らす。
ふと見ると、抗議してたはずのボッチも、完全に毒気を抜かれて「へー」と納得の表情をレンダリングしていた。
「てか、なんで鶴女房が機織りハッカー。あと俺は不正な取引はしてませんッ。俺いつも思うんだけど、なんで悪役認定」
我に返ったボッチが、再び不平のログを吐き出してきた。
「「チャラいから」」
あたしと勇希は、一切のパケットロスもなく異口同音に言い放つ。
冷徹な真実のナイフで、哀れな悪徳問屋の言い訳プロトコルをマッハの速度で切り捨てるのよ。
★ ◆ ★ ◆ ★
2020年7月中旬。東京丸ノ内にオープンさせたデバッグサロンのオフィスにて。
「てか、なんでオフィスで土足厳禁にしたのよボッチ」
このオフィスは、土足厳禁だ。
もちろん店舗スペースであるデバッグサロンの方も土足厳禁仕様となっている。
今後の議題は、顧客の靴の管理方法についてであった。
「俺、土足って嫌い。汚えじゃん」
まさかの主観ッ。
あたし、黒木舞桜が表情に呆れを差すと、
「あとは防疫だよ感染症対策」
ボッチこと茅野万桜は宣う。
「確かに、現代では欧米でも衛生面を意識してカーペットフリーにし、玄関で靴を脱ぐ家庭が増えているらしいね」
あたしの彼氏である白井勇希が、同意のパケットを送信する。
「それに、イスラム圏でも祈りを捧げる絨毯を清潔に保つために、外の汚れを持ち込むのは絶対のタブーとされているわ」
あたしも、世界のプロトコルを脳内から引き出して追従する。
「だが、日本の土足厳禁のアーキテクチャは一味違うぜ。上がり框という物理的な段差を設けることで、精神的にも外と中をパチッと切り替える仕様になっているからな」
ボッチが、得意げに日本のインフラを評価した。
「靴を脱ぐという前提のセキュリティがあるからこそ、床に直接敷く布団の文化が定着したのよね」
「中国東北部の炕や、東南アジアの高床式住居のマットも同じだ。朝起きたら寝具を畳んで片付け、昼間は同じ空間を居間や作業場としてマルチに運用する」
勇希が、アジアの空間利用の合理性をコンパイルする。
「日本の布団文化がチートなのは、クッション性と調湿作用を備えた畳というハードウェアの上で運用されている点だ。ベッドフレームという余分なリソースがなくても、最高のパフォーマンスを発揮できる」
「でもさ、江戸時代の裏長屋なんて、究極の引き算だったんでしょ」
あたしが問い掛けると、ボッチの眼光が怪しく鋭くなった。
「ああ。下層民の暮らす裏長屋は9尺2間、わずか3坪の空間だ。そのうち半分が土間で、残りの3畳がすべての生活スペースだった」
「部屋が狭すぎて靴を脱ぐしかなく、昼間は布団を畳むしかなかったという、物理的な強制力による土足厳禁だね」
勇希が補足のパッチを当てる。
「そもそも綿の詰まった敷布団なんて超高級品で、藁マットやむしろを敷いて寝るのが下層のリアルだった」
ボッチは、不敵な笑みを浮かべた。
★ ◆ ★ ◆ ★
店舗では、斧乃木拓矢が丸ノ内OLのおねえさんたちに囲まれながら、ガッツリ手作り風弁当の説明をしている。
身長185センチ。高身長で喋らなければ、まあイケメンの部類に入る。そこは認めてやる。
「こちらが、当サロン特製のリカバリー弁当です。メインには脂の乗った肉厚な鮭の塩焼きと、良質なタンパク質を補給する鶏の照り焼きをガッツリと盛り込んでいます。彩りのブロッコリーや、出汁をたっぷり含ませた厚焼き玉子も、すべて計算された栄養バランスに基づいているんですよ」
拓矢は、まるで一流ホテルのコンシェルジュのような洗練された紳士的な笑みを浮かべ、両手で持った木箱の鮮やかな中身を披露していた。
爽やかなグレーの半袖シャツからのぞく逞しい胸板と腕の筋肉が、見事にモブノードたちの視線をハックしている。
「ええ~ッ。でも、こんなにガッツリ食べたら、絶対に太っちゃうよぉ」
「そうそう、最近ちょっとお腹周りのお肉が気になってて……」
おねえさんたちは、口元に手を当てながら、その暴力的なまでのカロリーの質量を前に困惑のパケットを返している。
「なにを仰るんですか。理恵さんは、今のままでも十分に美しくて魅力的ですよ。ですが、これ以上ご自身を削ってしまっては、その美しい笑顔が曇ってしまいます」
拓矢は、甘く低い声で、おねえさんの一人の瞳を真っ直ぐに見つめて宣った。
「カロリーの数値を恐れて食事を減らせば、心と体を稼働させるための必須栄養素まで枯渇してしまいます。大切なのは、ビタミンやミネラル、そして良質な脂質とタンパク質をしっかりとインポートし、代謝のサイクルを力強く回すこと。この弁当は、理恵さんの美しさを内側から支えるための、最高のアップデートパッチなんですよ」
「あ、ありがとうございます……ッ」
完全に顔面をバーニングさせた理恵さんは、コロッと靡いた乙女の表情で両手を差し出す。
拓矢は、爽やかな青い波模様の風呂敷で丁寧に包み直した弁当を、その震える両手へと優しく手渡した。
周囲のおねえさんたちからも、黄色い歓声という名の同期信号がキュンキュンと鳴り響いている。
あたし、黒木舞桜は、その一部始終をバックヤードからジト目で観測していた。
あいつホストの方が向いてんじゃないの。幹部自衛官よりも。
「奇遇だね。僕もそう思う」
隣に立つ白井勇希が、深く同意のシグナルを発行する。
「俺もだ」
ボッチこと茅野万桜もまた、呆れたような溜息とともに追従した。
★ ◆ ★ ◆ ★
2020年7月中旬。東京丸ノ内にオープンさせた生体デバッグサロンのオフィスにて。
この生体デバッグサロンの仕組みは、課金制だ。
「月額のサブスクリプションではなく、専用ポイントのチャージによる従量課金制を採用している」
ボッチこと茅野万桜が、サロンの料金体系という名のビジネスアーキテクチャをコンパイルする。
「ポイント制にすれば、ユーザーは『今月は多めにチャージしておこう』と、金銭感覚のセキュリティを容易に突破される。そこへ出勤前の偽装弁当やアフター5の生体デバッグなど、複数のサービスを提示して『自分で選択させる』わけね」
あたし、黒木舞桜は、その悪魔的なマーケティングのバグを補足する。
「だが、当サロンは悪徳な課金中毒を生み出すマルウェアじゃない。事前の会員登録で収入状況をスキャンし、無理な課金はシステム側でロックする」
ボッチは、冷徹な経営者の眼光で告げる。
「その上で、収入に余裕がなくてもサービスを継続できる救済パッチとして『ポイントバック』のプロトコルを叩き込む。利用実績やタスクのクリアで還元率をブーストさせれば、ユーザーは『賢く運用している』という得心シグナルにハックされ、永遠にこのインフラからログアウトできなくなるって寸法さ」
完璧なマッチポンプだ。
このサロンは、丸ノ内を生き抜く意識高い系女子たちの人生を24時間支配する、究極のセキュア・コミュニティとして完成されている。
「さっきのガッツリ弁当。理恵さんは、きっと斧乃木の手作りだと錯覚しているだろうが、悪しからず」
ボッチが窓の外のオフィス街を見下ろしながら、呆れ顔で宣う。
「あいつは斧乃木ちゃんこ鍋しか作れないし、そもそも調理師の国家資格なんてインストールされてないからね」
あたしも同意のパケットを返す。
「中身は当然だが、外注だ。東京駅に集まる名産店などのガチの職人レイヤーにアウトソーシングして、地方の良質な必須栄養素をバルク買いで敷き詰めてある。まあ、安定収益になるから、交渉は楽だったぜ。言わばドロップシッピングだもん。女王さまのドレス姿も効いたんじゃねえの」
軽薄を宣うボッチ。
あたしにセクシードレスをめかし込ませる時に、こいつは決まってこう告げるのだ。
『お願いだから黙っててッ。ニコニコしててッ。高級焼肉店で奢るからッ。ご飯茶碗タワー建立していいからッ』
安いな、あたし。
ご飯の質量でマウントを取られ、完全にボッチの交渉用アセットとして使い倒されているじゃないのよ。
「お~い。白井くーん」
店舗スペースから、拓矢の爽やかな声のコールが掛かる。
それに呼応し、あたしの彼氏である白井勇希が立ち上がった。
「舞桜。これはお仕事なんだからね」
「わかってるわよッ」
あたしは、自分でも制御しきれない嫉妬という名のエラーログを吐き出しながら、店舗へと向かう勇希の背中をジト目で睨みつけた。
★ ◆ ★ ◆ ★
店舗スペースのメインフロアでは、巨大なディスプレイモニターを前に、白井勇希のプレゼンテーションがデプロイされていた。
勇希は、爽やかなリーフ柄の半袖シャツにベージュのパンツという、夏季仕様のカジュアルなテクスチャを纏っている。
その白髪と整った顔立ちが放つ圧倒的なカリスマの前に、4人の丸ノ内OLたちが完全にフリーズ状態に陥っていた。
「みなさん、直立二足歩行という人類の進化が、女性の骨盤内にどれほどの重力ストレスという名のバグを蓄積させているか、ご存知でしょうか」
勇希が、モニターの解剖図を指し示しながら、知性あふれる低い声で語りかける。
「当サロンの『水嚢サンドイッチ』は、身体を四足歩行の構造へと回帰させることで、下垂した内臓の重力エラーを物理的にデフラグします。腹部を水嚢のハンモックで吊るすことで、圧迫されていた子宮や卵巣が解放され、骨盤内の鬱血が一気にリセットされるのです」
「勇希様……すごーいイケメン」
「さあ、健康的な循環を始めましょう、お姉様」
おねえさんたちの脳内OSは、勇希の医学的な解説ログなど1ミクロンもコンパイルしていない。
ただひたすらに、その甘いルックスと「お姉様」という破壊力抜群のコマンドパッチにハッキングされ、うっとりとメモを取るふりをしながら、黄色い歓声のパケットを乱れ撃ちしていた。
「さらに、40度の温熱プレスで組織を可塑化させた後、15度でアイシングを行えば、劇的な血流のブーストが起こります。冷えや痛みのノイズがデリートされ、起き上がった瞬間に、まさに『強制再起動』された全盛期の身体の軽さを体感していただけるはずです」
試しに専用ルームで水嚢サンドイッチを実践してきたばかりの理恵さんが、目を輝かせて報告のログをアップロードする。
「本当にすごいですッ。内臓が元の位置に戻ったみたいで、長年の生理痛の重さが嘘のように消えちゃいましたッ。まるで自分の身体じゃないみたいに軽いですッ」
その確定レスポンスに、他のおねえさんたちも次々と「私もやりたいッ」「すぐ予約入れますッ」と、ポイントチャージの同期信号を発行しまくっている。
★ ◆ ★ ◆ ★
「じゃあ、最後は俺の番だなー」
そう言って、バックヤードにいたボッチこと茅野万桜が店舗へと向って行く。
これも国家資格が不要な、大量生産による冷凍アボカドスムージーの紹介である。
ファミレスにあるようなディスペンサー装置からグラスに注ぐだけの、極めて簡略化されたプロトコルだ。
ボッチは、赤い髪をラフに流し、ベージュのジャケットにグリーンの柄シャツを合わせた、チャラさと知性がマージされた独自のテクスチャでフロアに降臨した。
「やあ、美しい皆さん。内臓のデフラグが終わった後は、失われた必須ミネラルをインポートする時間だ」
ボッチは、鮮やかな緑色のアボカドスムージーが入ったグラスを片手に、不敵な笑みを明滅させる。
「アボカドは『森のバター』と呼ばれる良質な脂質のアセットだが、真の価値はその圧倒的なカリウム含有量にある。体内に滞留した不要なナトリウム(むくみの原因)を、細胞レベルから物理洗浄して排出してくれる最強のデトックス・パッチなんだよ」
ボッチの流暢なセールストークに、5人のおねえさんたちが完全に包囲網を形成している。
「きゃあッ、万桜くんッ。そのスムージー、私も欲しいッ」
「ねえねえ、今日の夜、この後空いてない。一緒に丸ノ内でご飯行こうよ」
おねえさんたちは、ボッチの差し出すスムージーを巡って、完全に熱暴走を起こしていた。
黄色い歓声と甘い香りが、デバッグサロンの空間を埋め尽くしていく。
あたしは、その光景をバックヤードのガラス越しに観測しながら、深いため息という名のエラーログを吐き出した。
「なんだろう。ホストクラブかな。ここ……」
まあイケメンが3人揃えば、丸ノ内OLに対する破壊力は抜群よね。
隔週くらいで、あいつら派遣してやろうかしら。
【後書き】
最後まで読み込んだかしら。
ボッチの見たバグだらけの時代劇シミュレーションから始まって、気づけば丸ノ内の店舗がイケメン特化型のデプロイ環境になってるんだから、本当にあたしのインフラは休まる暇がないわ。
でもまあ、白井勇希のカリスマ性は認めてあげる。……ちょっとだけよ?
次から次へと発生するエラーログも、畢竟、あたしたちの日常に欠かせない必須アセットなのかもしれないわね。
それじゃ、次のプロトコルでまた会うわよッ。




