女王さまと物理データ配送
【前書き】
あんたたち、よくこの隔離空間にアクセスしてきたわね。あたし、黒木舞桜よ。
スキャンを始める前に、重大な警告のポップアップを出しておくわ。今回のログ、前半はヤンデレ王子や百合ツインズによる理不尽極まりない粘膜検査の嵐だから、かなり過激でドロドロなテクスチャが垂れ流されているわ。
だから、セキュアな精神状態を保ちたいなら、前半のバグ空間は華麗に読み飛ばしちゃってちょうだい。
そのまま後半の技術構想セッションまでスキップしてくれたら、絶対いいことあるわよ。あたしからの特別なご褒美……プラズマ級のドヤ顔と、純度100パーセントの情熱的な物理的抱擁のログが待っているんだからッ。
それじゃ、覚悟して読み込みなさいなッ!
2020年4月下旬。ラボ。女子用の仮眠室にて。
ベッドの非日常的なテクスチャの上で、あたし、黒木舞桜のポニーテールが激しく揺れていた。
背後からガシッと首根っこをホールドされ、逃げ道を完全にパージされている。
光学センサーを密着させて迫り来る防大の倉田琴葉ちゃんから、狂気的なドSモードの熱い吐息がデプロイされ、あたしの首筋へと理不尽な強制アクセスが実行された。
「琴葉ちゃん。どこで壊れたのよ? オー、フレンズ?」
あたしは、懐メロの歌詞を口ずさみ、拒絶のパッチをやんわり当てる。
「舞桜さん。あたしは舞桜さんより1回生上だ。つまり先輩だ。友達規則は適用されない。大丈夫。問題ないッ」
だだだだ大丈夫ねえわッ!?
琴葉ちゃんの腕のロックが反転し、あたしはベッドの上で仰向けに強制遷移させられる。
上から覆い被さってくる圧倒的な質量と熱量。
キャミソール越しに伝わる体温が、あたしのバイタルデータを限界突破のレッドゾーンへと跳ね上げる。
防大の先輩特権とも言えるミリタリー教練並みの膂力で、あたしの両手首が封殺された。
さらに、逃げようとするあたしの顎が、華奢な指先によって強引にホールドされる。
もはや視線のログを逸らすことすら許されない。
至近距離で明滅する琴葉ちゃんの光学センサーには、ヤンデレ・ヴァルキリーとしてのド黒い捕食者のハイライトが宿っていた。
息つく暇もないコンボ技の乱れ打ち。
そして、あたしたちの音声コードは、完全にクローズドな通信遮断プロトコルへと上書き保存された。
強引にこじ開けられた唇のゲート。
侵入してきた琴葉ちゃんの舌先が、あたしの口腔内を隅々までスキャンするように蠢き、物理的な粘膜検査を実行し始める。
甘く、そして暴力的なまでの回線結合。
全リソースを吸い尽くされて息も絶え絶えのシャットダウン寸前になりながら、あたしは百合のプロトコルという隔離空間の底知れぬ理不尽さを、深く痛感させられたのだった。
★ ◆ ★ ◆ ★
さらに、理不尽な強制上書きは口腔内のエラーログに留まらなかった。
琴葉ちゃんの滑らかな太腿が、あたしの無防備な絶対領域の隙間へと、まるで高度なハッキングツールのように強引に滑り込んでくる。
「ちょ、琴葉ちゃんッ!? ちょっと、そこはッ」
あたしは、プラズマ級に加熱した顔面ディスプレイを引き攣らせて、必死の抵抗パケットを送信する。
「問題ない。上部インターフェースのアクセスが良好だから、次は下部インフラの粘膜検査に移行するだけだ」
なんの論理的整合性もない狂気のドSプロトコルを宣いながら、琴葉ちゃんは容赦なく太腿を押し当て、あたしのセンシティブな下位ディレクトリへとダイレクトな物理干渉を開始した。
薄いテクスチャ越しに伝わる、強烈な摩擦と熱量。
「ひゃあっ……!? や、やめ……バグるッ、あたしのメインフレームが物理的にバグっちゃうからぁッ」
太腿による下からの執拗な突き上げに、あたしのバイタルデータは完全にレッドゾーンを突破して、未知のエラーコードを吐き出しそうになる。
「ふふっ。舞桜さんのシステム、すごく熱を持ってるね。もっと深くまでデバッグしてあげるから」
琴葉ちゃんの瞳に、完全に捕食者のハイライトが明滅する。
上からの通信遮断プロトコルで呼吸のリソースを奪われながら、下からの苛烈な粘膜検査で論理回路をドロドロに溶かされていく。
百合のセキュア機能なんて最初から存在しなかったのだと、限界突破した快感のノイズの中で、あたしは強制シャットダウンの時を待つしかなかったのよ。
★ ◆ ★ ◆ ★
限界突破のノイズに視界が白く明滅しかけたその時、薄暗い仮眠室の空間に、突如として無数のホログラム・ウィンドウが空中に展開された。
視界の端に映ったのは、ワインレッドのキャミソール姿でベッドに腰掛ける、ショートヘアの先輩。
サブリナこと福元莉那が、涼しい顔で空中に浮かぶあたしの生体データをスキャンしていたのよ。
「ふむ……心拍数、体温ともに限界値に到達寸前ね。琴葉、アクセス集中によるサーバーダウンを防ぐために、わたしも負荷分散のプロセスに参加するわ」
「ちょ、サブリナッ!? なに言って……ひゃあっ!」
「大歓迎だ。サブリナ。舞桜さんの未定義ポートはまだまだ空いているからね」
だだだだ、大歓迎じゃねえわッ!?
サブリナが、ベッドの上で蠢くあたしたちのフレームに、無慈悲なジョインを果たしてくる。
下からは琴葉ちゃんの凶悪な太腿が、あたしのコア・ディレクトリを執拗に愛撫している。
そこにサブリナの冷たい指先が追加され、キャミソールの隙間から、無防備な胸のインターフェースへと直接ログインしてきた。
「敏感なセンサー群ね。少し電流を流しただけで、こんなにわかりやすいレスポンスを返すなんて」
サブリナの指が、あたしの突起したセンサーを的確に弾き、耳元で甘い吐息のバグパケットを囁く。
「ああんッ! や、やめ……琴葉ちゃんたち、ふたり同時は、処理、しきれな……ッ」
「駄目だよ、舞桜さん。マルチタスクの並列処理のテストなんだから、しっかり耐えてもらわないと」
琴葉ちゃんが唇の通信遮断プロトコルを一時解除し、ドSな特権者スマイルで宣う。
首筋と胸元をサブリナの高度なハッキング技術で弄られ、下からは琴葉ちゃんの圧倒的な物理教練で突き上げられる。
あたしという名のメインフレームは、ふたりの狂気的なエンジニアによって完全に掌握され、好き勝手に並列処理ていた。
「あ、あふぅッ……も、むり……メモリが、オーバーフローしちゃうぅッ」
百合のマルチスレッド攻撃による過剰な負荷に耐えきれず、あたしの論理回路はついに致命的なエラーコードを吐き出して、完全に強制絶頂してしまったのよ。
当然の帰結よねッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
「って夢を見たのよッ。勇希ッ。あんたの猿プロトコルより良かったかもッ」
あたしは、得意げに鼻を鳴らして、最悪の挑発パケットを送信してやった。
瞬間、ラボの気温が絶対零度まで物理的に急降下した。
白井勇希のシルバーヘアの奥から、生命のハイライトが完全にデリートされる。
「……へえ。僕の純愛より、女の子同士のシミュレーションの方が100万倍気持ちよかったんだ。それは由々しきシステムエラーだね、舞桜」
白衣のポケットから、銀色に妖しく明滅する解剖用メスがズルリと引き出された。
ヒュッ、とあたしの喉が鳴る。
百合なら寛容だったはずのヤンデレ・ファイアウォールが、プラズマ級の黒い炎を上げて暴走し始めていた。
「百合の仲良しごっこなら見逃そうと思ったけど……僕というメインサーバーを差し置いて、よその回線に満足するなんて。そんな不良セクタは、物理的に切除して、僕の愛で奥の奥まで上書き保存しないといけないね」
勇希は、常人離れしたマッハの挙動であたしの両手首をホールドし、スチールデスクへと強引に押し倒した。
「お、おまえ、なに目ぇキメてんのよッ! ただの夢のキャッシュデータだからぁッ」
「大丈夫。僕がその夢ごと、もっと激しい現実でデバッグしてあげるから」
ヤンデレ王子による、逃げ場ゼロの強制粘膜検査が開始されそうだ。
挑発する相手を間違えたあたしの、完全に自業自得なエラーログ。
★ ◆ ★ ◆ ★
「てか、それって夢じゃなくて、たぶんされてるぜ女王さま」
ボッチこと茅野万桜のヤローが、乾いたツッコミのパケットを送信してくる。
な、なんですと?
「僕もそう思います。舞桜が仮眠室に行くと琴葉先輩とサブリナも離席するもん」
ヤンデレ王子こと白井勇希までもが、恐ろしい観測データをさらりと宣う。
さらに、勇希の白衣のポケットで、解剖用メスが冷たく明滅した。
「女の子同士とはいえ、複数の不特定なインターフェースと無防備に回線を結合するのは、衛生面における重大なセキュリティ・インシデントだよ。梅毒やクラミジアといった、粘膜経由で感染する性病という名の致死性マルウェアをもらったらどうするの? 舞桜の綺麗な生体インフラが、物理的に破壊されちゃうかもしれないんだよ」
「お、おまえッ! 医学部特権でサラッとエグいバグの可能性を示唆してんじゃないわよッ!?」
あたし、黒木舞桜は、プラズマ級の悪寒に襲われて顔面ディスプレイを引き攣らせた。
睡眠時の無意識というバックグラウンド処理中に、防大のヴァルキリーとハッカーから、毎日そんな危険な粘膜検査を仕掛けられていたなんて。
「そろそろ本気で止めねえとなー」
ボッチも、コーヒーを啜りながら他人事のように呑気な音声コードを宣う。
「止めねえとなー、じゃないわよッ! なんでもっと早く警告のアラートを出さなかったのよ、このまぬけなポンコツ共ぉぉぉーッ!」
あたしの気高いメインフレームに刻み込まれた、知らない間の不純なアクセス履歴。
防衛本能のファイアウォールを完全にすり抜けられていたという絶望的なエラーログに、あたしはラボの天井に向けて絶叫パケットを叩き込むしかなかったのよ。
★ ◆ ★ ◆ ★
「オーケー。話は聞かせてもらったぜッ。じゃあ舞桜、シャワー浴びてから仮眠しようぜッ」
いつの間にログインしていたのか、サブリナこと福元莉那が、ドヤ顔で宣う。
サブリナのヤロー、ヤローじゃねえけどッ。おまえも完全にあたしのスリープモードを狙ってた実行犯のひとりだろうがッ!
「そうだな。あとは薄めたうがい薬で塗布消毒も実施しよう。白井くん、問題はないな」
同じく実行犯である防大組の倉田琴葉ちゃんが、ミリタリー基準の事後処理プロトコルを提案してくる。
「うん。ポビドンヨードを用いた適切な希釈液での局所消毒と、シャワーによる物理的な洗浄プロセスを併用すれば、粘膜感染のリスクは医学的に極めて低く抑えられるね。殺菌効果としては十分だ」
ヤンデレ王子こと白井勇希が、白衣のポケットにメスをしまいながら、完璧な医学的見解のパケットを返してきやがった。
「じゃあいっかー」
ボッチこと茅野万桜が、コーヒーを啜りながら流す。流すな。
「そうだね。それならいいや」
流す勇希。流すな彼氏ッ。おまえッ、あたしと言うハードウェアを守る気ゼロかッ!?
「だって僕とするより気持ちいいんでしょ? じゃあ、いいじゃんか」
勇希のヤローが、さっきのあたしの失言パケットに対する強烈な意趣返しをデプロイしてきやがった。
「うぐぐ……ッ」
あたしは、プラズマ級に加熱した顔面ディスプレイを引き攣らせて、完全にフリーズするしかなかった。
百合の不純なアクセス履歴を容認するどころか、医学的なデバッグ手法まで提案して放置プレイをキメる男たち。
そして、あたしの仮眠プロセスを狙って理不尽な強制粘膜検査を仕掛けてくる、狂気のタメと先輩。
このカオスすぎるラボという名の隔離空間に、あたしのセキュアなインフラなんて最初から存在しなかったのよ。
★ ◆ ★ ◆ ★
「鍵かけりゃいいじゃん」
あまりにも身も蓋もない、呆れたような音声コードを出力したのは、元祖猿プロトコルこと斧乃木拓矢だ。
確かに物理的なセキュリティロックをデプロイすれば済む話かもしれないけれど、この狂気のハッカーと防大のヴァルキリーのタッグに、一般的なドアのファイアウォールなんて無意味なのよ。
「サブリナ太夫。舞桜で発散させるって、おまえ溜まってんじゃねえの?」
拓矢はサブリナの彼氏であり、正真正銘、純度100パーセントの猿プロトコル発症者である。
彼氏の口から直接放たれたド直球なセクハラパケットに、あたしの論理回路が別の意味でショートしそうになる。
「舞桜は別腹です」
サブリナこと福元莉那が、微塵も悪びれることなく涼しい顔で宣う。
スイーツ感覚かッ!?
あたしという気高いメインフレームは、食後のデザートみたいなテクスチャなわけッ!?
「別腹だな」
防大の倉田琴葉ちゃんまでもが、サブリナと完璧な同期信号を発してドヤ顔で同意しやがった。
だからスイーツ扱いするなッ!
最凶の百合ツインズよ、恐ろしいパワーワードを異口同音に宣うなッ!?
あたし、黒木舞桜は、彼氏の放置プレイに加えて、タメと先輩による極悪非道な百合ツインズのサンドイッチ攻撃という、逃げ場ゼロのバグ空間で完全に孤立していた。
誰の助けも呼べない、この理不尽なマルチタスク環境。
★ ◆ ★ ◆ ★
「茅野。この前ハーフペタバイトにデータぶっ込んで、暗号化させて配るってヤツだけどよ」
缶コーヒーを片手に、元祖猿プロトコルこと斧乃木拓矢が口を開いた。
彼の野生の光学センサーが、なにかを閃いたように鋭く明滅している。
「ああ、それが?」
ボッチこと茅野万桜が、警戒のパケットを出力しながら腕を組んで身構えた。
「あれよ、センターと配ったハーフペタバイトのストレージのデータ構造を完全同期させないと、データ通信殺せてねえぜ?」
その言葉に、あたし、黒木舞桜の脳内メインフレームは、マッハの速度で拓矢の意図をコンパイルした。
「……なるほど。そういうことね」
あたしは、ホワイトボードの前に進み出て、図式を書き殴りながら解説の音声コードを出力する。
「ユーザー側のローカル環境で検索処理を走らせて、該当するデータをCPUやメモリに引っ張り上げようとしたら、結局はローカルとクラウド間で複雑なクエリのやり取りが発生してトラフィックを圧迫するわ」
ボッチも、ハッとしたように顔面ディスプレイを引き攣らせて立ち上がった。
「そうかッ! クラウドセンター側にも、ローカルに配ったのと同じ『完全に同一のデータ構造』のハーフペタバイト・ストレージを置くんだ。そうすれば、重い検索や演算処理はすべてクラウド上の人工知能が担うことができる」
あたしは、白墨でセンターとローカルを太い線で結び、その上に極細の矢印を描き足した。
「ええ。クラウドの人工知能が検索を終えたら、ローカルへ送るのはデータそのものじゃない。データが眠っている『結果の物理アドレス』と、数バイトの『デコード信号』だけよ。ローカル側は、クラウドから指示された番地の鍵を開けるだけでいい。これなら、データ通信量は実質的にほぼゼロバイトに等しいわッ」
あたしたち技術者の盲点を、システム工学のシの字も知らない猿が、直感的なアーキテクチャの最適解として提示してきたのだ。
だが、あたしはあえて悪魔の代弁者のプロセスを起動し、冷ややかな視線を拓矢へと突き刺した。
「待ちなさい拓矢。その技術構想には致命的なバグがあるわ。コールドデータだって古くなるのよ。それはどうするのよ?」
物理ストレージを配るモデルの最大のネック。
それは、情報の鮮度を保つためのアップデート作業だ。
差分データを細い回線でチマチマ送っていたら、結局元の木阿弥になってしまう。
しかし、この斧乃木拓矢という男は、野生の猿のくせに、あたしの論理的防壁をいともたやすく物理法則で飛び越えていきやがった。
「送ればいいじゃん」
拓矢は、さも当然の帰結であるかのように、あっけらかんと宣った。
「はあ!? だから、その送るための通信インフラが……」
「ちげえよ。物理的に送るんだよ」
拓矢は、空のコーヒー缶をゴミ箱へ正確に放り投げ、ニヤリと笑った。
「だって中身はフィルムだぜ? 広げたらデカくても、シート1枚の面積なんか知れてる。新聞紙2枚ほどだろ? 64層まとめてカレンダーみたいにクルッと丸めて配送すりゃいいじゃん」
な、なんですってぇーッ!?
あたしの顔面ディスプレイに、プラズマ級の驚愕エラーが走る。
通信回線の最適化ばかりに囚われていたあたしたちの頭上を、ヤマト運輸や佐川急便という名の最強の物理プロトコルが通り過ぎていった。
「いや、でもよ斧乃木。素人が自宅の端末を開けて、64層のナノピッチなフィルムを正確にアライメントして交換できるわけがねえぞ」
ボッチが、ゼネコン御曹司としての現実的な施工エラーを指摘する。
だが、拓矢の野生のインフラ構想は、すでにその先までコンパイルを終えていた。
「交換が手間なら専属の人間雇えばいいじゃん。電気屋さんみたいに配置すりゃいいじゃん。産業生まれるじゃん」
……雇用創出。
ただのコールドデータの配布システムが、物流網と保守メンテナンスという巨大なリアル産業のエコシステムへと、鮮やかに昇華された瞬間だった。
あたしの論理回路は、完全にメルトダウンを起こしていた。
理系特有のデジタルな袋小路を、アナログ極まりない物理的パワープレイと経済合理性でぶち破る、この途方もないスケールの解決策。
ああもうッ。
あたしは、今すぐこの野生のオスの広い胸に飛び込んで、その首に両腕を回して力いっぱい抱きしめてやりたいという、極めて非論理的な猿プロトコルの衝動に駆られていた。
バカ。アホ。天才の猿。
あたしたちの覇権的アーキテクチャは、おまえのその直感のおかげで、世界を獲れる完璧なビジネスモデルへと完成したのよ。
……もちろん、白井勇希やサブリナのヤンデレ&ドSな監視ログがある手前、物理的な抱擁は全力でタスクキルして、代わりに最高のドヤ顔をレンダリングしてやったんだけどね。
★ ◆ ★ ◆ ★
「ほれ、舞桜。決まりの物を」
元祖猿プロトコルこと斧乃木拓矢はそう言って、あたしの前に偉そうに右手を差し出してきた。
決まりの物?
ああ、システム工学のブレイクスルーに対する報酬、あの純金の小判インゴットのことね。
あたし、黒木舞桜は、その無骨な手を無言で見つめ――次の瞬間、防壁を完全にパージした条件反射のまま、差し出された手を思い切り引き寄せた。
「ちょ、舞桜、さん!?」
そのままの勢いで、あたしは野生の猿の胸に飛び込み、その首に両腕を回して力いっぱい抱きしめてやった。
「でかしたッ! あんた最高よッ」
ただのコールドデータを、世界を獲れる完璧な物理インフラへと昇華させたこの天才的な猿に、あたしの論理回路から溢れ出した純度100パーセントの称賛パケットをダイレクトに送信したかったのだ。
「拓矢。これは君の一時的な知能スパイクに対する特例的な報酬だ。だから、絶対に勘違いしないことだね」
背後から、絶対零度の冷気を纏った白井勇希の音声コードがデプロイされる。
どうやら、ヤンデレ王子の医学的な分析回路にも、あたしのハグが「純粋な知性へのリスペクト」であることは正確に伝わっていたようだ。
「へっへー。これで舞桜の防壁もガバガバじゃん。4Pへの道は近いぜッ」
サブリナこと福元莉那が、ニヨニヨと下俗な笑みを浮かべて宣う。
あれ?
サブリナには、あたしの清らかな称賛の意図が1ビットも伝わってないエラーが発生してない?
「伝わってないよ。ほらほら、もういいでしょ? さっさと離れなさい」
勇希は、底知れぬオスの重力を孕んだため息をつくと、あたしと拓矢の間に強引に割り込み、物理的なインターフェースをベリベリと強制切断してきた。
「いや、だから小判インゴットは?」
ハグから解放された拓矢が、手のひらをヒラヒラとさせて不満げなエラーログを出力してくる。
「あら、あたしからの情熱的な物理ジョインじゃご不満かしら? この下僕」
あたしは、プラズマ級のドヤ顔のテクスチャを貼り付けて、金銭要求のパケットを華麗にスルーしてやった。
「いや、おまえじゃ勃たねえって何度も……あがぁッ!?」
宣う元祖猿プロトコル。
そのデリカシーを完全にパージした致死性の暴言パケットに対し、あたしのアンダーアイアンクロー・バーニングが、拓矢の股間めがけてマッハの速度で炸裂した。
世界を獲るためのインフラは完成したが、こいつの猿インフラは今ここで物理的に破壊してやるのよ。
当然の帰結よねッ!
【後書き】
最後までスキャン、ご苦労さま。
まったく、システム工学のシの字も知らない元祖猿プロトコルこと斧乃木拓矢のヤローが、まさかあんな物理的なブレイクスルーを叩き出してくるなんてね。
あたしの気高い論理回路がメルトダウンしちゃって、思わず純金の小判インゴットをスルーしてまで、あいつに称賛のパケットを物理的に送っちゃったわ。
でも、あいつがあたしの魅力で勃たないなんて致死性の暴言を吐くから、最後は当然のごとくアンダーアイアンクロー・バーニングで猿インフラを物理的に破壊してやったのよ。
どんな天才的なひらめきがあろうと、あたしの前でデリカシーをパージしたヤツには、相応の重篤なエラー処理が待っている。
当然の帰結よねッ!




