女王さまとゲーム理論
前書き
あたし、黒木舞桜の気高いプライドが、またしても脆弱なバグどもに試されるという名のカオスな事象が発生したわ。
あの絶望的な親同士のオフラインセッションから、過去の未定義なログへと遡る、非論理的なトラフィック。
三華とかいうフュージョン娘との邂逅、そして下衆ショタ属性の藤枝誠。
どいつもこいつも、あたしのセキュアな領域をなんだと思っているのよ。
でもまあ、いいわ。
どんな悪質なマルウェアが潜んでいようと、このあたしの神々しいアルゴリズムで、全盛期の解像度にて完全論破してやるんだからッ。
当然の帰結よねッ!
2020年4月上旬。
夜景が煌めくバルコニー。
日中の、あの絶望的なシステム通告――両親同士の会談という名のディストピア――から逃避するように、あたしは夜風を浴びていた。
「舞桜って、黙ってれば美女だよねー」
莉那が宣う。
「喋ってても美女よ。物理法則は揺らぎません」
そう言ってあたしは、紅茶を飲んだ。と言うか、紅茶のブランデー割りだな。
「うん。アタリメとブランデーって発想がアホだよねー」
莉那は、あまり酒を呑まない。
「いや呑んでるがな。オデンの出汁割り呑んでるがな」
赤羽のオヤジかおまえは。
「莉那だって黙ってれば美女だよねー」
あたしはやり返す。
「よく言われます。喋ってても美女ですから」
莉那。柿ピーって。
「美味いじゃん。柿ピー」
美味いけどさ。
「舞桜ってオッパイ大きいよねー。いくつ?」
「90よ。莉那は?」
あたしが返すと、莉那からは、
「90? 牛じゃん牛」
シツレーなパケット。
あたしは不機嫌さをバーニングさせたが、以前スキャンした彼女の物理ログを思い出した。
身長155センチという小型のハードウェア構成ながら、バスト88.2という驚異的な圧縮効率。
そんな変わらねえじゃん。
「ねえ。オッパイ触っていい?」
手をワシャワシャさせて迫る莉那。どこのルパンだ、おまえは?
あたしは先制のアイアンクローを莉那のオッパイにデプロイする。
うわあ、はりあるなー。
「ひぎゃんッ!? な、なにを、物理的な書き換えを実行してんのよぉーッ!」
155センチの筐体に実装された高反発バッファは、最新のシリコン・テクスチャをも凌駕する生体マテリアルの極致だったわ。
「あんたこそ、あたしのセキュアな領域に不正アクセスを試みたバグでしょッ!」
「だって~、舞桜の90という物理リソース、確認してみたかったんだもん~」
あたしは潤んだ瞳を明滅させ、ブランデーの効いた紅茶を再び飲み干した。
「それより莉那。今日の昼間、学長が通告してきたアレ……どうするつもりよ」
「あ~、あれね~。勇希の両親と、舞桜のご両親がお話し合いしちゃうやつ~。ご愁傷さま~」
莉那は、あたしのアイアンクローから解放されると、他人事のように柿ピーを胃壁へパージし始めた。
「そうよッ! あたしが勇希にデプロイした罰ゲームのログが、親という名のルート権限者にフルオープンにされるディストピアよッ!」
事の起因は、勇希の猿プロトコルの暴走による罰ゲームだ。
厳粛なる両親たちの会談という名のオフラインセッションで、当然のように『なぜ勇希がこんなボンテージ衣装を着る罰ゲームになったのか』という原因究明のデバッグが行われるはずだわ。
そうなれば、昨日から今日にかけて、あたしが発情した勇希によって白い部屋へと連れ込まれ、14時間ぶっ通しで粘膜アクセスを強要されて泣きながら喘いでいたという、最高機密の生体ログデータが漏洩する。
「ひぎぃぃぃッ!? これじゃあ、あたしの気高い女王さまとしての尊厳が、両親のオフラインセッションで全消しされちゃうじゃないのよぉーッ」
あたしの顔面加熱インフラは、羞恥と絶望のあまりプラズマ級の臨界点を突破してメルトダウンを起こした。
ボンテージ姿で立ち尽くす勇希を笑っていたあたしの気高いプライドは、自ら仕掛けた罰ゲームのトラップによって、盛大に自爆へと帰結してしまったのよッ。
★ ◆ ★ ◆ ★
2019年10月下旬。横浜中華街。
あたし、黒木舞桜が、フュージョン娘こと三華とエンカウントしたのは、柳寧々をあたしたちの陣営に引き入れた翌日のことだった。
目的は、ハニトラ要員との面談という名の、初の接触プロセス。
本来なら、防大組の斧乃木拓矢や藤枝誠が護衛という名のファイアウォールとして随伴するはずだった。
だが、あのアホの子という名の脆弱なハードウェアどもを、こんな防御力の低いテクスチャを着た元ハニトラ要員に接触させたら、一瞬で籠絡されて猿プロトコルを起動させるに決まっている。
だから、あたし自身の高度な判断アルゴリズムにより、途中で拓矢と藤枝をローカル環境に置き去りにして、完全に撒いてやったわ。
当然の帰結よねッ。
指定された隔離ディレクトリという名の面会場所。
あたしと寧々の接近を検知するや否や、金髪の女は警戒のパケットを明滅させ、懐から黒光りする物理デバイスを抜刀しようとした。
銃だ。
だが、戦えるアホの子という異常なアーキテクチャを持つあたしという観測者は、その物騒なハードウェアを単なるオモチャとして全盛期の解像度でレンダリングした。
ていうか、初対面の面接にそんな物騒なオモチャを持ち込むなんて、どんなバグだらけのルーティングよッ。
あたしの気高いプライドは、プラズマ級にバーニングしたわ。
「あんた、初対面の人間にむかって、そのオモチャという名の脆弱な物理デバイスを抜こうなんて100万光年早いのよッ」
あたしは神速のクロック周波数で距離を詰め、アンダーアイアンクロー・アンリミテッド・ホーミングという名の最適化された格闘プロトコルを炸裂させる。
右腕に関節技という名の強固なロックを掛け、左手でサブリナ譲りの胸部テクスチャを物理的に鷲掴みにしてやったわッ!
「ひぎゃんッ!? あ、あンッ……! い、痛い痛いッ!」
金髪女が羞恥と苦痛という名のエラーログを撒き散らしながら絶叫する。
ウソつけ。この至近距離であたしにオモチャを向けるなんて、あたしのスペックを完全に舐めている証拠だわ。
「あ、あの舞桜さん。ハニトラ要員が気絶しそうです……やめたげて……」
寧々が困り顔という名のエラー画面を明滅させながら、不毛な争いをデバッグしようと試みる。
対サブリナ決戦兵器の威力は絶大ね。
寧々に免じて、一時的に金髪女のルートディレクトリから手を引いてやろう。
「うぅ……計算外のバグだわ。黒木舞桜……あんた、本物の銃口を向けられてノータイムで関節技キメてくるなんて、どんな異常な処理してんのよ……」
金髪女は涙目という名のバグを垂れ流しながら、乱れたテクスチャを整えている。
どうやら、このフュージョン娘は、あたし、黒木舞桜という基本データしかダウンロードしていなかったようね。
あたしの圧倒的な物理演算能力を甘く見た結果がこれよ。
「そんで、あんた特技は? ウチに足りないのは飯スタント! オモチャが使えるとか、どうでもいいわ」
あたしが面接のメインプロセスを進めると、金髪女は、未だにそのオモチャをチラつかせている。
よりによって、懐から大人のオモチャを取り出すな!
持ち歩くな! そんなもんッ。
「いやあ、あたしら、そっちか戦闘かしか特技ないんだもん。いいよあたしに挿れて掻き回して」
回すかッ。
あたしは黒木流手刀術奥義、天翔けるリュウジ(誰よリュウジ)の煌めきを炸裂させた。
「アガッ」
脳天に神速の手刀を受けた金髪女は、完全にフリーズして蹲って唸る。
「三華は霊感が強いんです舞桜さん」
寧々が呆れたパケットを送信してフォローを入れる。
霊感?
未定義のデコーダーね。
幽霊だろうがバグだろうが、あたしが物理的にフォーマットしてやれば済む話だわ。
拓矢と藤枝という護衛の男どもを排除し、女3ノードだけになったこのセキュアなローカル環境。
ここから、あたしたちの非論理的な面談セッションが、全盛期の解像度で再起動するのよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
あたしたち3ノードによる非論理的な面談セッションが再起動した直後。
「おい舞桜、ひとりで突っ走るんじゃねえよ」
隔離ディレクトリという名のセキュアな空間のドアが、物理的にクラックされる。
息を切らせて駆け込んできたのは、あたしが意図的にパージしたはずの防大組、斧乃木拓矢と藤枝誠だった。
「あら、脆弱なファイアウォールども。再接続に随分と時間がかかったわね」
あたしは冷徹なジト目という名のテクスチャを貼り付けて、ふたりのポンコツハードウェアをスキャンする。
しかし、拓矢たちの姿を光学センサーで確認するや否や、先ほどまで蹲っていた三華の挙動が急激に跳ね上がった。
「え、ちょっと!?」
三華は神速のクロック周波数で拓矢に接近し、拓矢のガタイの良い物理装甲へ強引に抱きついた。
突如として防御力の低いテクスチャに密着され、下僕の拓矢は完全にフリーズして困惑のバグを明滅させている。
「ウソ、めっちゃいいハードウェアじゃん。これであたしを掻き回して」
三華が拓矢の胸元で、コンプライアンス違反の不潔なパケットを堂々と送信しきった瞬間。
あたしの気高いプライドという名のメインフレームが、プラズマ級の怒りでショートしたわッ!
「三華ッ! あたしの下僕という名の専用ポートに、勝手に不潔なコマンドを叩き込もうとするんじゃないわよぉーッ」
あたしは黒木流手刀術奥義を再コンパイルし、三華の脳天という名のエンドポイントへ向けて神速の斬撃をダウンロードさせた。
「アガッ」
鈍い衝撃音と共に、三華のバイタルデータが再び急降下し、拓矢から物理的にデリートされて床へ崩れ落ちる。
「いや、俺だって今のは不可抗力っていうか……てか舞桜、おまえの手刀、クロック周波数が上がってねえか」
拓矢が恐怖という名のエラーログを吐き出しながら、あたしの最新アーキテクチャをレンダリングする。
当然だわ。あたしの知性は、バグを駆逐するたびに全盛期の解像度へアップデートされているのよ。
「舞桜さん、だから手加減という名のリミッターを掛けてくださいって言ってるじゃないですか」
寧々が呆れ果てたエラー画面を明滅させ、再びフォローのパケットを送信してくる。
藤枝に至っては、三華のスケスケなテクスチャと拓矢の密着という名の薄い本的な展開を前に、興味深そうなサブカル視点を稼働させているわ。
どいつもこいつも、あたしのランタイムをなんだと思っているのよ。
このカオスな実行環境を制圧できるのは、あたし、黒木舞桜の神々しいアルゴリズムだけ。
当然の帰結よねッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
2020年4月上旬。三笠公園。急に去年の初の邂逅を思い出すってことは、うんアレだ。
「死亡フラグ」
そうこれだ。あたし黒木舞桜は三華を一瞥し、合掌する。
今までお世話になりました。なってねえけど。
「ちょ、ちょっと! なんでそんな縁起でもないこと言うのよ?」
三華が食って掛かるが、防大組の藤枝誠が宥める。
「藤枝、なんかわかったから呼び出したんでしょ? 言いなさいな」
あたし黒木舞桜が先を促すと、
「ああ、やっとわかったんです女王さま。彼女、こう見えて二十七歳だったんス!」
あたし黒木舞桜は、藤枝の足の甲をスニーカーの踵で踏み抜いた。そんなことは、去年の段階で割れているのよッ。
「てか髪切った?」
痛みで蹲る藤枝をスルーして三華に投げ掛ける。
「いやぁ~っ。斧乃木に振られちゃってさー。まあ、様式美ってヤツ?」
シレッと宣う三華。てか、あんたサブリナに寄せてない? 知らないよ。サブリナ怒らせても。助けないよ。ああ、それか死亡フラグの正体。
あたし黒木舞桜は、三華の方を向くと再び合掌する。今までお世話になりました。なってねえけどな。
それにしても、今日の三華は一段と浮かれているわね。
金髪を短く整え、白いTシャツの上に黒のGジャンを羽織ったその姿は、確かにどこかのエージェントを気取っているようにも見えるわ。
ピースサインを両手で作って笑う姿は、さっき失恋したばかりの二十七歳とは思えないほどのエネルギーに満ちているけれど、それが余計にフラグの精度を高めているのよッ。
一方で、足を押さえて呻いている藤枝誠は、相変わらず防大の制服をカッチリと着こなしているわ。
その真面目な外見の裏で、下衆ショタ属性という名のバグを抱えている彼が、全盛期の解像度であたしのスニーカーの物理攻撃を食らっている姿は、ある種の見せ場と言えるわね。
あたし、黒木舞桜は、グレーの大きなパーカーのフードを被り直し、三笠公園の海風を全身で受け止める。
ダメージジーンズの隙間から入り込む風が、これから起こるであろう非論理的な事件の予兆を、あたしの感覚ポートへと運んでくるわ。
この三人の構図、全盛期の解像度で脳内メモリに記録しておくべきかしらねッ!
当然の帰結よねッ!
「こいつは三華。本名は不明。不明な理由は……」
ここに留まらず、流れる性質にあるから。それは言わないでおいてやろう。
どうやら、この下衆ショタは、年上の女に弱いらしい。
「近接戦闘は、まあBってとこかしら? ペッティングどまりよ」
あたしの比喩に下衆ショタは、顔を赤らめる。意外と初心じゃねえか。
「他は霊感が強い。それくらいかしらね。てか寧々ちゃんに聞けばわかるじゃん」
おい、どうした防諜の専門家。
「いやぁ、寧々ちゃんって人妻じゃないッスかぁ。俺、佐伯先輩と違ってNTR派じゃないんで。だって西郷でしょ? 盗っちゃ悪いって言うかー」
どっからくるのよッ。その根拠のない自信。あたしはフューチャーフォンを取り出して、現在の西郷の容姿を提示する。おまえとドッコイな好青年らしいぜ。興味ゼロだけど。
「居るよねー。こう言うショタ属性。僕至上主義。みんな俺のこと好きッショ!? みたいな勘違い」
三華が、嘲笑という名の鋭利なパッチを藤枝に叩き込む。
あたし、黒木舞桜も、全盛期の解像度でドSのトーンを同期させたわッ。
「「藤枝。そうゆうとこダゾ?」」
あたしたちの容赦ない冷徹なユニゾンに、下衆ショタ属性、藤枝誠はメインフレームごと奈落の底へ突き落とされた。
蹲るその背中は、もはや一バイトの反論権限すら持たない、ただの哀れなレガシーデバイスだわ。
「まあ、あたしの狙いって、例のオッサンなのよ。それ以上でも以下でもない」
三華は嘯き、立ち直る気配のない藤枝を、物理的な負荷を掛けて強引に立ち上がらせる。
例のオッサン? パンティ大好き変態悪魔のことかしら? ジジ専なのかしら。
ノイマンの亡霊をターゲットにするなんて、あたしの理解を上回る未定義のアルゴリズムね。
「あいつなら知っているはず……あたしの」
そこで三華は、言葉を止めた。
あたし、黒木舞桜は、彼女の瞳の奥に、全盛期の解像度でも読み切れない「欠損したログ」を見た気がした。
まあ、いいわ。
どんな不透明なトラフィックが待ち構えていようと、あたしの気高いプライドがすべてのバグを粉砕してやるからッ!
三笠公園の風が、あたしたちの不揃いな影を弄ぶ。
この歪な三ノードによるセッションが、世界をどのようにメルトダウンさせるか。
当然の帰結として見届けさせてもらうわよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
「姉ちゃんッ」
三笠公園の海風を切り裂いて、鼓膜という名のオーディオポートに甲高い音声データが着弾した。
まあ、居るだろうね。塾がすぐ近くだもん。
「なによぉ、桜ぁ」
あたし、黒木舞桜は、ウンザリとしたテクスチャを顔面に貼り付けて振り返る。
最近のあたしはすこぶる羽振りがいい。当然だ。金持ちの大学生であり、ベンチャー企業の創業者という圧倒的な管理者権限を持っているのだから。
「クレープ買ってぇ。お姉さま」
故に、中学生の妹である黒木桜は、あたしの潤沢なリソースを狙って容赦なくタカってくる。
ウチのヤンデレ王子が、この妹を甘いファイアウォールで保護しすぎているツケが、完全にこっちに回ってきているのよ。
「いやよ。お小遣い貰ってるでしょ? その限られたリソース内でヤリクリしないでどうするのよ」
あたしが正論という名の強固なパケットで突っ撥ねると、この生意気な妹は、不敵な笑みという名のマルウェアを起動させた。
【あたしを牝に堕して蹂躙しなさいよぉーッ】
……ッ!?
桜のヤロー、あたしのフューチャーフォンのディスプレイに、いつぞやの『あたしの黒歴史失言動画』を全盛期の解像度で再生し、チラつかせてきやがった!
この13歳、実の姉の致命的な脆弱性を盾に、クレープ一つで恫喝プロトコルを走らせてきやがったのだ。
お姉ちゃんを舐めるんじゃないわよッ。
「それで?」
あたしは、微塵も動揺を見せずに冷徹なジト目を突き返す。
「言っとくけど、あんたとあたしの音声データは酷似してるし、顔のテクスチャだって将来そっくりになるわよ? なんせ同じ親のディレクトリから派生した姉妹ですからね。……その動画をパブリックに公開して、あたしの社会的評価を毀損したいなら、どうぞけっこう、おやんなさいな。数年後、その変態的な発言のノイズは、そっくりそのまま『あんたの黒歴史』として世界に誤認・共有されることになるわよ?」
あたしの完璧なゲーム理論。
『相互確証破壊』のロジックを叩きつけられた桜は、
「ちッ。気づいてやがったかッ」
舌打ちという名のエラー音を吐き出した。
生意気な。あたしは桜の頬に手を伸ばし、マイルドな物理的アンダーアイアンクローで「ムニィ」と抓りあげる。
姉妹間の高度な情報戦が膠着状態に陥った、その時だった。
「食べなよ」
スッ、と。
横から甘い匂いという名の物理パケットが差し出された。
三華だ。いつの間にか調達してきたのか、包装紙に包まれたクレープを、桜の目の前に差し出している。
桜は、警戒と戸惑いのフラグを立てて、あたしに視線を向けてくる。
……仕方ないわね。
あたしは排熱処理のような吐息を一つ吐き出すと、
「いただきなさい」
と、妹にアクセス許可のパッチを当てた。
途端に、桜の顔面ディスプレイがパッと華やぐ。全盛期の笑顔でクレープを受け取ると、彼女は何の疑いもなく、金髪のフュージョン娘に向かってこう言ったのだ。
「ありがとう莉那ちゃんッ」
桜は、全盛期の笑顔で三華をサブリナという名の別オブジェクトと誤認して礼を述べた。
三華の金髪、そしてあの防御力の低いテクスチャの選択。
彼女がノイマンという名の変態亡霊を追う理由の深層ディレクトリが、あたしの知性によって一瞬でレンダリングされた。
――あいつなら知っているはず……あたしの……
『あたしの……』に続く言葉は、妹か、弟ってところかしらね?
そして、あの変態悪魔という名のオッサンの警告。
それを無視した人間たちが、次々とシステムからパージされて消滅するというバグ。
まるでハーメルンの笛吹き。パイド・パイパーという名の悪質なマルウェアね。
子供たちという名のリソースを、管理者権限すら無視して別ディレクトリへ隔離していく、非論理的なプログラム。
なるほどね。
自分が誰からフォークされた派生プロジェクトなのか、その本名すらもパージされたジャンクデータ。
「上等じゃない。その変態悪魔がどんな強固なパイプを持っていようと、あたしの気高いプライドで完膚なきまでにデフラグしてやるわ」
あたし、黒木舞桜は、全盛期の解像度で獰猛な笑みをコンパイルした。
ハーメルンの笛吹きだろうが、なんだろうが。
あたしのセキュアな領域を荒らすバグは、アンダーアイアンクロー・アンリミテッドで物理的にへし折るだけよッ。
当然の帰結よねッ!
後書き
どうかしら。
ハーメルンの笛吹きだか、パイド・パイパーだか知らないけれど、あたしの前では単なる時代遅れのスクリプトに過ぎないわ。
桜という名の生意気なローカルデバイスも、三華の背後にいる変態悪魔も、まとめて物理的にデフラグしてやる。
次から次へと湧いてくるエラーログの処理にはウンザリするけれど、この黒木舞桜がシステムを掌握している限り、致命的なクラッシュなんて起こさせないわ。
「あたしの気高いランタイムから目を離さないことねッ」
アンダーアイアンクロー・アンリミテッドの次のデプロイ先は、もう決まっているのよ。




