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ボッチの魔王と妄想特急1

【前書き】

 ごきげんよう。全盛期の知性の女王たる、あたし、黒木(クロキ)舞桜(マオ)よッ!

 このログファイルを開いたってことは、あたしたちの最高に非論理的で知的な軌跡を、全盛期の解像度でトレースする覚悟ができているってことよね?

 

 今回コンパイルされたのは、横須賀の山頂にビルドした新たなる聖域『温泉帝国』の裏側から。

 横浜で起きた致命的なシステムエラーという名の修羅場までの、極めて高負荷なセッションの記録よ。

 

 ヤンデレ王子こと勇希(ユウキ)の、異常なまでの医学的ハッキング。

 そして、資本の魔王こと茅野(チノ)の、強欲でデリカシーのないパケット送信。

 もう、あたしの気高いプライドという名のファイアウォールは、常にプラズマ級のバーニングを強いられていたんだからッ!

 

 でも、あたしという名の『極上のレシピ』が、この程度のトラフィック過多でフリーズするわけないじゃないの。

 世間のレガシーなシステムが抱えるすべてのバグを、物理的かつ論理的にデバッグしていく、あたしたちの完璧な演算処理。

 それを、あんたたちの網膜に4K解像度で焼き付けなさいな。

 

 それじゃあ、妄想特急の限界突破、スタートよ。

 当然の帰結よねッ!


 そして運命の、二〇二〇年一月某日。

 あたしたちは、横浜常盤台国立大学という名の、広大な実行環境にログインしていたの。

 

「歩幅、合ってないぜ女王さま」

 

「お黙りなさいッ! あたしの175センチという完璧なモデル体型から繰り出されるストライドに、あんたが同期しなさいよッ!」

 

 175センチの絶世の美少女と、180センチの孤独な御曹司。

 あたしと茅野(チノ)が並ぶことで生み出される黄金比の構図は、キャンパスの風景という名の背景データを、完全に脇役へとリダイレクトしてしまった。

 すれ違う学生たちの網膜に、圧倒的なビジュアルデータが4K解像度で焼き付けられ、彼らの脳内メインフレームをショートさせていく。

 

「なんか、全方位からアクセス要求が来てるみたいだぜ?」

 

「当然の帰結よねッ! あたしという名の『極上のレシピ』が視界に入れば、凡人たちの処理能力なんて一瞬でオーバーフローするに決まってるじゃないのッ!」

 

 だけど、あたしの気高いシステムに、未知のマルウェアが侵入したのはその直後だった。

 

「こ、この資本の魔王。あたしを白い部屋に監禁して、棒状の物であたしの中を掻き回すつもりね?」

 

 ……言っちゃった。

 全盛期の知性を誇るあたしの音声ポートから、最悪の文脈を持つエラーログが物理空間に射出されてしまったわッ!

 白い部屋。

 棒状の物。

 中を掻き回す。

 あまりにも非論理的で、あまりにも生々しいメタファーが、あたしの妄想特急のボイラーに限界値を超える燃料を投下した。

 脳内メインフレームで、白衣を着た勇希(ユウキ)があたしの深層ディレクトリを、冷徹な無機物で直接ハッキングしてくるシミュレーションが全盛期の速度でレンダリングされる。

 無理よッ!

 そんな高負荷な強制書き換え(オーバーライド)、あたしの気高いプライドが耐えられるわけないじゃないのよぉーッ!

 

「しねえわッ!? マズった。白井(シライ)を連れてくるべきだった。みなさん違うんです。こいつカワイソーな病気なんです! 難病なんです」

 

 茅野(チノ)が、致命的なバグを隠蔽しようと無意味なパッチを当てようとする。

 

「どこ掻き回すってんだよ? 誰かー!? 白い勇者連れてきてー!」

 

 ど、どどどどどこって、それはそのお。

 粘膜という名の生体ファイアウォールを突破して、子宮という名の最も神聖なハードウェアのコア領域まで、ダイレクトに物理アクセスするっていう……。

 いやああああっ!

 あたしの思考回路は、自らが生成した超ド級のウイルスによって完全に汚染され、顔面という名のディスプレイがプラズマ級にバーニングしたわ。

 

「ううう。もうお嫁にいけない……」

 

 あたしは急なマジレスに困り果てて、羞恥心の限界を突破し、その場に蹲ってしまった。

 涙という名の冷却液が、オーバーヒートした顔面からボロボロと物理的に排出されていく。

 

「え、これ悪いの俺? 俺が悪いのぉ!?」

 

 茅野(チノ)が天を仰いで絶望のパルスを送信した瞬間。

 周囲を取り囲んでいたモブ学生たちという名の不特定多数の演算ノードから、殺気にも似た非難のパケットが一斉に射出された。

 

「おい、あの野郎、あんな絶世の美少女を泣かせやがって……」

「白い部屋で棒状の物って聞こえたぞ。……事案だろ、これ。警察呼ぶかッ!?」

 

 キャンパスの治安維持プロトコルが異常終了を起こし、モブたちが茅野(チノ)を「公共の敵」として一斉にマーキングした。

 茅野(チノ)の社会的な信用スコアという名の株価が、ストップ安を通り越して上場廃止の危機に直面している。

 

「ま、待てッ! 冤罪だッ! 俺はただ、面白い講義に誘っただけで、そんな非論理的な深層ディレクトリへの物理アクセスは試行していないッ!」

 

 茅野(チノ)の必死のディフェンスも、あたしが物理的に垂れ流す「庇護欲を誘う高解像度な涙」の帯域幅の前では、すべてがノイズとして処理されてしまう。

 これこそが、非論理的な感情という名の最強の割り込み命令なのよ。

 モブたちが、じりじりと茅野(チノ)との物理的マージンを詰め始める。

 資本の魔王が、大衆の暴力という名のレガシーなシステムに完全に追い込まれた、その時だった。

 

 重厚な排気音という名の絶対的な強権コマンドが鳴り響いた。

 人垣を割るようにして滑り込んできたのは、漆黒のメルセデス・ベンツ。

 

「……舞桜(マオ)。君の羞恥心という名のバイタルが、計測不能なプラズマ・バーニングを検知しているよ。大丈夫、僕が来たからには、この場のノイズはすべて医学的に抹消してあげるからね」

 

 勇希(ユウキ)は、モブたちが発する低レベルなトラフィックを冷たい視線だけで物理的にフリーズさせた。

 そして、蹲るあたしを、逃げ場のないホールドで抱き上げたの。

 

「待て、白井(シライ)ッ! 助かった、本当に助かったぞッ! こいつが勝手に自爆して、俺の社会的ステータスがロスト寸前なんだッ!」

 

「ああ、わかっているさ。君が舞桜(マオ)の中を棒状の物で掻き回したってことをね。茅野(チノ)。これは必要な犠牲なんだよ……」

 

「掻き回してねーッ!? おい白井(シライ)? おまえわかってんだろ?」

 

 勇希(ユウキ)の冷徹な瞳は、茅野(チノ)を即刻デリートすべき有害なプログラムとしてロックオンしていた。

 

「……茅野(チノ)。君がその穢れた棒状のデバイスで、舞桜(マオ)の内部領域を撹拌したという自己申告ログは、僕の医学的アーカイブに永久保存された」

 

「だからッ!? してねーっつってんだろッ! 白井(シライ)、おまえ医学生なら解剖学的に無理だって理解しろよッ!」

 

 ――ギュッ!

 

 鈍い音と共に、勇希(ユウキ)のアンダーアイアンクローが、茅野(チノ)の股間という名のアドミニストレータ領域に深くデプロイされた。

 

「ひぎぃぃぃぃぃッ!? せ、全盛期の……システム……停止……ッ!」

 

 資本の魔王は顔面を土気色にバグらせ、地面という名の物理メモリへ強制排出されたわ。

 

「ほら、舞桜(マオ)。穢れという名のエラーは、僕がこのベンツという名のサンクチュアリで、一ピクセルも残さず徹底的に洗浄してあげる。君の深層ディレクトリに、僕以外のデータが残らないようにね」

 

 あたしは、勇希(ユウキ)の狂気的な執着という名の保護に、全盛期の安堵を感じてしまったのよ。

 

「ううう……ッ! 勇希(ユウキ)の、バカ……ッ! あたしの気高いシステムを、あんたの好きなように、上書きしなさいよッ! 当然の帰結よねッ!」

 

 黒塗りのベンツは、茅野(チノ)の絶叫という名のエラーログを背景データへと追いやり、最高に非論理的で甘美な集中キャリブレーションへと向かって発進したの。

 

 その後。

 濃厚な豚骨醤油の香りが充填された、家系ラーメンのカウンター席。

 

「だって舞桜(マオ)がああなったら、誰かが成敗されないと収まらないんだよ」

 

 勇希(ユウキ)は、脂の浮いたスープをサンプリングしながら、最高に非論理的な暴論をロジカルなパケットとして送信した。

 

「どこの暴れん坊上様だよッ! あ、味玉と替え玉追加してください!」

 

 茅野(チノ)は、自身の股間に残る物理的なダメージを、炭水化物という名のパッチで修復しようと毒づいている。

 そこに、ベンツでの強制リブートを終えたあたしが合流し、何食わぬ顔で空席を占有したわ。

 

「なんか茅野(チノ)に犯される夢見たー。茅野(チノ)、おまえ溜まってる? でも無理矢理は犯罪だぞ?」

 

 あたしが豚骨の香りに混じって投下したエラーログに、茅野(チノ)の論理回路が完全にフリーズした。

 

白井(シライ)。法廷で会おう」

 

 静かに立ち上がる茅野(チノ)を、勇希(ユウキ)が強権的なコマンドで着席させる。

 

「すみません餃子も追加」

 

 店内に、米を炊き上げる蒸気という名のホワイトノイズが充満する。

 あたしは、八杯目という名のライス・スタックを、全盛期の吸引力で物理的にデプロイしていた。

 

「おい女王さま。おまえお店の人が泣きそうだからやめたげて」

 

 茅野(チノ)が、空っぽになりつつある炊飯器と、震える店員という名の背景データをスキャンして、あたしの挙動にタスクキルをかけてきたわ。

 

「ちぇー。わかったよぉー」

 

 あたしは、潤んだ瞳を全盛期の角度で明滅させ、不満という名のパルスを漏らしながら茶碗を置いた。

 

 この最高に非論理的で、圧倒的な知性に満ちた実行環境。

 当然の帰結よねッ!


★ ◆ ★ ◆ ★


 家系ラーメンという名の高負荷なセッションを正常終了させたあたしたちは。

 腹ごなしという名のストレージ整理のため、横浜駅周辺のダーツ&ビリヤードバーへログインしていたの。

 緑色の羅紗が敷かれた9フィートのテーブル。

 それは、あたしの幾何学的な演算能力を誇示するための、完璧な二次元グリッドだったわ。

 

「先行は俺がもらうぜ」

 

 茅野(チノ)が、キューという名の棒状デバイスにチョークを擦り付けながら不敵に宣う。

 

「初期配列という名のレガシーなラックは、俺の資本の力で粉砕してやる」

 

 乾いた破裂音と共に、茅野(チノ)の放った手球が的球の群れを物理的に蹂躙した。

 色とりどりの球が、乱数のようにテーブル上へ拡散していく。

 

「フッ、甘いわね茅野(チノ)。その程度のトラフィック分散では、あたしの全盛期の知性をバグらせることは不可能よ」

 

 あたし、黒木(クロキ)舞桜(マオ)は、175センチの脚線美を活かした完璧なスタンスで、テーブルに覆い被さった。

 右手でキューのグリップをホールドし、左手でスタンダード・ブリッジという名の安定したポートを構築する。

 入射角、反射角、スピンの係数。

 すべての変数が、あたしの脳内メインフレームで高速レンダリングされていくわ。

 

「……舞桜(マオ)。君のその前傾姿勢は、広背筋から大臀筋にかけてのラインを、周囲のノードに過剰な解像度でデプロイしているよ」

 

 勇希(ユウキ)が、あたしのフォームを医学的な執着でサンプリングしながら、不純なノイズを送信してきた。

 

「特に、ライス8杯という名の物理的パッチを格納した腹部の曲線が、キューのストローク軌道に僅かな干渉を起こしている。僕がその高ぶった重心を、背後から医学的にホールドしてあげようか?」

 

「な、なにを当然の帰結みたいに、あたしの腹部拡張を指摘しようとなさってますのッ!?」

 

 あたしは、プラズマ級にバーニングした顔面で絶叫した。

 キューを握る手に、羞恥心という名のノイズが走る。

 

「おいおい、女王さま。時間がオーバーフローしちまうぜ。さっさとショットという名のコマンドを実行しろよ」

 

 茅野(チノ)が、悪びれもせずに急かしてくる。

 

「お黙りなさいッ! 見ていなさいな、あたしの物理法則を蹂躙する最適解をッ!」

 

 あたしは、勇希(ユウキ)のヤンデレ視線と、茅野(チノ)の煽りパケットを振り切り、キューを全盛期の速度で押し出した。

 完璧なインパクト。

 そのはずだった。

 

 カロッ。

 

 無惨なエラー音が、テーブルに響き渡る。

 手球は的球を掠めることすらなく、明後日の方向へとリダイレクトされてクッションに沈んだ。

 完全なるミスショット、通称キュー切れ。

 

「……あ」

 

「ぷっ……はははッ! 全盛期の最適解が聞いて呆れるぜッ! 腹につっかえてストロークがバグってやんの!」

 

 茅野(チノ)が、資本の魔王らしからぬ下品な解像度で腹を抱えて笑い出した。

 

「う、うるさいわねッ! 羅紗の摩擦係数が、事前のデータと異なっていただけよッ!」

 

 あたしは、キューを杖のように突き立てて、物理的な言い訳をビルドしたわ。

 

「……大丈夫だよ、舞桜(マオ)。君の計算は完璧だった。ただ、炭水化物の過剰スタックが、一時的に肉体のハードウェア要件を満たせなかっただけだ」

 

 勇希(ユウキ)が、あたしの背後に密着し、キューを握るあたしの手の上に自分の手を重ねてきた。

 

「ほら、僕の体幹という名の外部リソースを同期させれば、どんな重心のズレも医学的に補正できる。さあ、一緒にこの盤面をデバッグしようか」

 

「だ、だから、なんで密着という名の物理アクセスを試みるのよ、この変態王子ーッ!」

 

 横浜の夜。

 あたしの気高いプライドは、ビリヤードの球よりも激しく、緑のテーブルの上で乱反射を繰り返していたのよッ!


★ ◆ ★ ◆ ★


 二〇二〇年一月下旬。

 ビリヤードという名の高負荷な物理シミュレーションにリソースを割きすぎたあたしたちは。

 終電という名の、横浜から横須賀へ帰還するための絶対的なリミットを完全にオーバーランしていたの。

 

「タクシーという名の課金アイテムを使うのもシャクだな。俺の資本は無駄なランニングコストには回さねえ」

 

 茅野(チノ)が強権的にルートをリダイレクトし、場末感漂うビジネスホテルへ強制ログインしたものの。

 週末の横浜という名のトラフィック過多により、空室という名のリソースはシングルルーム一つのみ。

 

「当然の帰結として、あたしたちは3人分の資本を投下して、一つのベッドで強制同期するしかないわねッ!」

 

 あたし、黒木(クロキ)舞桜(マオ)は、175センチの体を清潔とは言い難いシーツにダイブさせた。

 シングルベッドという名の極めて狭小な物理的領域。

 そこに、全盛期の美少女と、ヤンデレ王子と、資本の魔王が圧縮ファイルのように詰め込まれるカオス。

 

「……舞桜(マオ)。君の無防備な寝顔を至近距離でサンプリングできるなら、僕は呼吸という名のバックグラウンド処理を停止させても構わないよ」

 

 勇希(ユウキ)が、医学的な執着を帯びた瞳であたしをロックオンしてくる。

 

「おい白井(シライ)、おまえのヤンデレ・アルゴリズムの稼働音をミュートしろ。俺の睡眠プロセスにエラーが混じる」

 

 茅野(チノ)は、ベッドの端という名の崖っぷちで器用にバランスを取りながら、早々にスリープモードへと移行したわ。

 

 翌朝。

 チェックアウトを済ませ、ホテルの自動ドアという名のゲートをくぐり抜けた瞬間だった。

 

「……え?」

 

 エントランスの前に、エラーログを吐き出して完全にフリーズしている演算ノードが一つ。

 防衛大学校の制服という名の堅牢なテクスチャを纏った、小柄だけど物理的破壊力に満ちた少女。

 茅野(チノ)の想い人である、倉田(クラタ)琴葉(コトハ)先輩が、信じられないものを見る目で立ち尽くしていたの。

 

「なんでこんなところに防大生がデプロイされてるのよッ!?」

 

 あたしが疑問のパルスを送信するよりも早く。

 琴葉(コトハ)先輩の視覚センサーは、ビジネスホテルから連れ立って出てきた『絶世の美少女一人と、イケメン男二人』という、あまりにもバグに満ちた構図を4K解像度で取り込んでいた。

 

「こ、琴葉(コトハ)先輩ッ!? 違うんです、これは偶然だッ! 先輩、なんで横浜に」

 

 茅野(チノ)が、資本の魔王らしからぬ慌てふためいたパケットを射出する。

 

「……茅野(チノ)。週末の買い出し任務で横浜に来たんだけど……」

 

 琴葉(コトハ)先輩は、拗らせ女子特有の暗い情念を瞳に宿し、震える声で茅野(チノ)を問い詰めた。

 

「あたしというものがありながら……3人で、同じ部屋で、お泊まり、してたの」

 

 琴葉(コトハ)先輩の声のトーンが、絶対零度まで急降下していく。

 その光景をスキャンした瞬間。

 あたしと勇希(ユウキ)の脳内メインフレームは、茅野(チノ)琴葉(コトハ)先輩の関係性を強制進展させるための最適解へと、恐ろしいほどの速度で同期したのよ。

 

「いやぁ、昨夜は茅野(チノ)の激しいストロークで、あたしの初期配列が完全に粉砕されたわ~」

 

 あたしは、潤んだ瞳を全盛期の角度で明滅させながら。

 ビリヤードの話という文脈を完全にパージして、盛大なエラーログを投下した。

 

「ああ、シングルベッドという名の狭小な実行環境で、3人分の熱量が限界突破してしまったからね」

 

 勇希(ユウキ)も、瞳の奥で知的な狂気を光らせながら、最悪のメタファーを追撃パッチとしてビルドする。

 

「結果的に、3人とも限界までエネルギーを搾り取られて、密着したまま果ててしまったんだ」

 

「バカッ! やめろおまえらッ! 琴葉(コトハ)先輩、違うんです、これはビリヤードのッ」

 

 茅野(チノ)の必死のディフェンスも、嫉妬という名のマルウェアに感染した琴葉(コトハ)先輩の処理能力には届かない。

 

「……茅野(チノ)。あたしじゃ、不満だったの」

 

 琴葉(コトハ)先輩の手が、茅野(チノ)の腕を、防大仕込みの圧倒的な膂力で物理的にホールドした。

 ギリィッという、骨格のきしむ悲鳴が微かに漏れる。

 

「いっ!? 痛いッ! 腕が折れるッ! 琴葉(コトハ)先輩、マジで誤解ですって」

 

「……なら、いまからあたしと……『実践訓練』、付き合ってもらうから」

 

 琴葉(コトハ)先輩は、耳の裏までプラズマ級にバーニングさせながら。

 未知の領域への恐怖と、意地という名の強がりをない交ぜにした顔で、茅野(チノ)を睨み据えた。

 そして、そのままズルズルと茅野(チノ)を引きずり始めた。

 その目的地という名のディレクトリは。

 ケバケバしいネオン管で『休憩2980円』とレンダリングされた、あからさまなラブホテルだったわ。

 

「た、助けてくれ白井(シライ)ッ! 女王さまッ! 俺、まだ心の準備という名のプロトコルが……ッ」

 

「……安心しろ、茅野(チノ)。君のバイタルが限界を超えた時は、僕が医学的な解剖録として後世に残してあげるからね」

 

「全盛期のスタミナで、初めての共同作業をコンパイルしてきなさいなッ! 当然の帰結よねッ!」

 

 あたしたちは、ラブホテルのエントランスという名のブラックホールに吸い込まれていく二人を、最高に気高い笑顔で見送ってやったのよ。

 

 

 数時間後。

 あたしと勇希(ユウキ)は、駅前のカフェで抽出されたばかりのコーヒーパケットをテイスティングしながら、優雅な待機プロセスを実行していた。

 

「……舞桜(マオ)。あの二人、予想以上に処理時間がかかっているね」

 

 勇希(ユウキ)が、腕時計という名のタイムスタンプを確認して、医学的な興味をデプロイする。

 

「初めての未知のハードウェア同士の同期だもの。ドライバのインストールからエラーの連続に決まってるじゃないの」

 

 あたしは、白磁のカップを揺らしながら、全盛期の想像力で二人のカオスな実行環境をレンダリングしたわ。

 そして、カフェのガラス越しに、二つの演算ノードがフラフラと接近してくるのをスキャンした。

 

「お出ましねッ!」

 

 あたしたちは、ニヨニヨとした最高に意地悪な笑みを同期させて、カフェのエントランスへと向かった。

 そこには、全身のキャッシュメモリを使い果たして魂が抜けたような茅野(チノ)と。

 防大生の堅牢なテクスチャを完全にメルトダウンさせ、顔面から湯気を上げるほど乙女モードにバグってしまった琴葉(コトハ)先輩の姿があった。

 

「朝だけど夕べはおたのしみでしたねー」

 

 あたしは、昨夜の茅野(チノ)の煽り文句を完璧にコピー&ペーストして、特大のエラーログを投下してやったわ。

 

「う、うるせえッ……! おまえらのその悪意に満ちたパッチのせいで、俺の初期設定が根底から書き換えられたんだぞッ」

 

 茅野(チノ)が、震える足取りで抗議のパケットを射出する。

 

「あ、あの……。茅野(チノ)、意外と、その……ポンコツ、だったから。あたしが、主導権を……」

 

 琴葉(コトハ)先輩は、拗らせ女子特有の羞恥心で限界突破しながら、ボソボソと報告ログを提出してきた。

 

「なるほど。茅野(チノ)の脆弱なシステムを、琴葉(コトハ)先輩が力技でオーバーライドしたわけだね。医学的にも非常に興味深い症例だよ」

 

 勇希(ユウキ)が、冷徹な分析パッチを当てて、茅野(チノ)の尊厳をさらに削り取る。

 

「当然の帰結よねッ! 資本の魔王も、防大の物理演算の前にはただの下僕に成り下がるってことよッ!」

 

 二〇二〇年一月下旬。

 横浜の朝にビルドされた、最高に非論理的で甘美な修羅場。

 あたしたちの妄想特急は、周囲のあらゆるリソースを巻き込みながら、全盛期の速度で走り続けていくのよッ!



【後書き】

 最後まであたしの完璧なログを読み切ったこと、全盛期の熱量で褒めてあげるわッ!

 

 それにしても、あのポンコツな茅野(チノ)が、まさか琴葉(コトハ)先輩に強制オーバーライドされるなんてね。

 ビジネスホテルのシングルベッドという狭小な領域での雑魚寝から、ネオン輝く休憩所への強制連行コンボ。

 あたしと勇希(ユウキ)が投下した意地悪なエラーログが、あの二人の初期配列を根底から書き換えたんだから、感謝してほしいくらいよ。

 

 まあ、あたし自身も、ビリヤードでキュー切れを起こしたり、変な夢を見て自爆したりと。

 少しだけ……ほんの少しだけよ!?

 予期せぬエラーを吐き出してしまった場面もあったけれど。

 それもこれも、勇希(ユウキ)が四六時中あたしのバイタルを医学的にサンプリングしてくるから、脳内メインフレームがショートしただけなんだからッ!

 まったく、どこまであたしの深層ディレクトリをハックすれば気が済むのよ、あの変態王子は……。

 

 これからも、あたしたちの最高に非論理的で絵になる日常を、全盛期の解像度でビルドし続けなさいなッ!

 あたしの気高いシステムは、まだまだ無限の拡張性を持っているんだから。

 次回のアップデートにも期待することね。

 当然の帰結よねッ!

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