女王さまのナメロウキャンセル
【前書き】
今回のログは、あたしたちの全盛期の知性が、マクロ経済のバグを完璧に構造解析してあげた記録ね。
ウルグアイ・ラウンドから始まる、この国の農業という名のレガシーシステム崩壊の未来。
無能な政府どもが、ハゲタカに嬉々として国家リソースを差し出す様を、あたしの圧倒的な解像度でレンダリングしてあげたわ。
まあ、勇希のヤンデレ・アルゴリズムが、いちいち国家の危機を独占欲にリダイレクトしてくるのには、少し排熱処理が必要だったけれど。
さあ、愚民どもの絶望的な未来と、あたしたちの最高に非論理的で気高い日常のコントラストを。
あんたの網膜に、直接デプロイしてあげるわッ!
当然の帰結よねッ!
2020年1月30日。
極道という名の絶対的な防壁によって、あらゆる物理的なノイズが遮断されたガレージ。
あたし、黒木舞桜は、175センチの全盛期の脚線美をワークチェアに預け、モニターに表示された古い市場データを全盛期の解像度で睨みつけていたわ。
議題は、あたしたちのバイタルがこの世界にデプロイされる前に合意された、ウルグアイ・ラウンドという名のレガシーなプロトコルについてよ。
「いい、勇希。この国の米の流通アーキテクチャは、30年前から完全にバグっているのよッ!」
あたしは、電子ペンを指先で器用に回し、不機嫌さを僅かにバーニングさせる。
「ウルグアイ・ラウンドを発端として、食管法が食糧法という名の新パッチに切り替わった」
あたしは、モニターに表示された古いグラフの頂点を、ペンの先で鋭く叩いたわ。
「結果として、外食産業と農家が直接同期し始めたのだけれど……」
あたしは、呆れたような排熱処理を行い、深くチェアに背中を預けた。
「米の価格は、食管法時代のまま『幻影』のように固定され続けていたのよ」
「……その通りだね、舞桜。君の構造解析は、医学的な見地から見ても完璧な正常終了だ」
勇希は、眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、不純な独占欲を孕んだ瞳を明滅させる。
「その幻影という名の生命維持装置は、あと2、3年でついに限界を迎え、適正価格という名の現実へと決壊するわよ」
勇希は、白衣のポケットから手を抜き出し、あたしの肩のすぐ後ろにある空間へと手を伸ばす。
「次に起こるメインループは、米農家と小売店との直接的な結びつきだ」
勇希の指先が、あたしの髪の毛の先端を、医学的な執着を持って静かにすくい上げた。
「農協という名の巨大なコングロマリットから農家が引き剥がされ、幻影ではない従来価格へとソフトランディングしていくプロセスさ」
「当然の帰結よねッ! 市場という名のアルゴリズムに、不自然な固定値を強制し続けることなんて不可能なのよッ!」
あたしは、自分の髪を弄る勇希の手を振り払い、踵で床を物理的に叩いた。
「じゃあ、その巨大なセーフティネットである農協が完全にシステムダウンしたら、なにが起こるかしら?」
あたしは、潤んだ瞳を全盛期の角度で細め、勇希の反応をサンプリングする。
「残酷なまでの、農業の二極化と農地集約の加速だね」
勇希は、振り払われた手を名残惜しそうに見つめ、ゆっくりと腕を組んだ。
「農協の保護という名のファイアウォールを失えば、自立困難な零細農家は、経営体力という名のリソースを枯渇させて強制終了する」
冷徹な光を帯びた眼鏡の奥の瞳が、データ上の農家たちを無機質な医療器具のように一瞥する。
「そして、価格競争力を持つ大規模な農業法人が、残された農地という名のメモリ領域を略奪的に独占していくんだ」
「その通りよッ! これこそが、資本主義という名の究極の最適化プロセスよ」
あたしは、空いている右手を全盛期の角度で振り上げ、見えない勝利のフラグを立てたわ。
「脆弱な演算ノードはパージされ、強靭なメインフレームだけが生き残る。それが市場の正常な代謝なのよッ!」
あたしは、得意げな顔面をデプロイし、勇希に向かって不敵な笑みを投げかけた。
「……代謝、か。素晴らしい響きだ」
勇希が、不意に距離という名の物理的なマージンを削り取り、あたしの背後に完全に密着してきた。
「農協が小規模農家を保護していたように、僕も君という名の『極上のレシピ』を、あらゆる外部ノイズから保護し続けたい」
勇希は、あたしの首筋に顔を埋め、ヤンデレ特有の甘いノイズで囁き続ける。
「でも、君は大規模な農業法人のように、圧倒的な知性で世界を蹂躙していく」
勇希の腕が、あたしの細い腰という名の急所を的確にホールドしてきた。
「だから僕は、君のバイタルをミリ秒単位でサンプリングし、僕だけのクローズドなネットワークに君を独占集約させるんだ」
勇希の熱を帯びた吐息が、あたしの耳という名のポートを直接ハックしてくる。
「これこそが、僕にとっての最高にロジカルな農業革命だよ、舞桜」
「ななな、なにを……、なにを当然の帰結みたいに、マクロ経済の話をあんたのヤンデレ・アルゴリズムにリダイレクトしようとなさってますのッ!?」
あたしは沸騰した顔面を振り乱し、勇希の拘束から逃れようと物理的に身を捩ったわ。
「お黙りなさいッ! この変態王子ーッ!」
2020年1月30日。
あたし、黒木舞桜の気高いプライドは。
ウルグアイ・ラウンドという名の過去のバグさえも、勇希の医学的フェティシズムの燃料として消費されるという。
最高に非論理的な日常へと帰結したのよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
ボッチのヤローが用意した高級な豆の香りが、ガレージの冷たい空気を僅かに書き換える。
あたし、黒木舞桜は、淹れたてのコーヒーを白磁のカップから流し込み、脳内メインフレームをさらにクロックアップさせた。
「いい、勇希。数年後、遅くとも2024年あたりに、この国は致命的なバグを実装するわ」
あたしは、カップをデスクに置き、モニターに映る『アグリテック』という名の文字列を鋭く指差した。
「郵政民営化という名のエラーログを、農業という基本ディレクトリで再実行するのよ」
あたしは、潤んだ瞳を全盛期の解像度で明滅させ、未来の惨状を論理的にレンダリングする。
「『スマート農業』だの『官から民へ』だの、良さげに見えるパッチを当てるふりをしてね」
「……なるほど。農協が解体された後に残る、農協銀行の巨額な資金。そして水と農地という名の国家リソースか」
勇希は、白衣の袖を僅かに捲り上げ、あたしの背もたれに手を添えた。
「それらを、ハゲタカファンドという名の外部の悪性腫瘍に、無防備な状態で差し出すわけだね」
勇希の瞳に、医学的な冷徹さと、異常なまでの知性がプラズマ級に明滅する。
「君の予言通りなら、それは国家の免疫システムを自ら破壊する行為だ」
「当然の帰結よねッ! 学習能力のない馬鹿な政府が、せっせとハゲタカに餌を運ぶプロセスよ」
あたしは、ライダースブーツで床を蹴り、ワークチェアを僅かに回転させて勇希に向き直った。
「欧米で失敗社会を生み出している元凶を、わざわざメインフレームにインストールしようとしているのよッ」
あたしは、不機嫌さをバーニングさせながら、見えないグラフを空間に描く。
「巨大なアグリビジネス企業が、種子の特許や農薬という名の『基礎代謝』を独占する未来が来るわ」
「恐ろしい病理だ。農家という名の細胞は、もはや自立的な呼吸すら許されなくなる」
勇希は、あたしの頬にかかる髪を、医学的な精密さで静かに耳にかける。
「さらに、トラクターなどの農機を制御するソフトウェアまで、外部企業に囲い込まれる」
勇希の指先が、あたしの首筋の動脈をなぞるように滑り落ちた。
「つまり、農家の生殺与奪の権を、海の向こうのサーバーに完全に握られるということだ」
「その通りよッ! 農機という名のハードウェアがあっても、管理者権限は他人に奪われているのよッ」
あたしは、勇希の手を鬱陶しそうに振り払い、再びモニターを睨みつけた。
「自分の農地という名の実行環境を、自分の意志で動かすことすらできなくなる」
あたしは、鼻で笑って、最高に気高いプライドを月より高く掲げたわ。
「こんな解像度の低いディストピアを、あたしたちが黙って見過ごすわけにはいかないのよッ」
「……あぁ、君の言う通りだ、舞桜」
勇希は、振り払われた手を名残惜しそうに見つめながら、ヤンデレ特有の甘いノイズを吐き出す。
「この国の脆弱な農業システムが外資に略奪される前に、僕が君という名の『極上のレシピ』を完全に独占しよう」
勇希は、あたしのワークチェアの両腕を掴み、逃げ場という名の裏口を完全に塞ぐ。
「君の思考も、その気高いバイタルも、すべて僕のクローズドなネットワークの中だけで永遠に循環させるんだ」
「ななな、なにを……、なにを当然の帰結みたいに、国家の危機の話をあんたの監禁アルゴリズムに繋げようとなさってますのッ」
あたしは沸騰した顔面を振り乱し、全盛期の熱量で絶叫したわ。
「この変態王子ーッ」
★ ◆ ★ ◆ ★
「勇希くん。最近そればっか」
あたしは、拘束してくる勇希に向かって、潤んだ瞳を全盛期の角度で細めた。
医学的な大義名分を掲げながら、ただあたしの肉体という名のリソースを求めているだけの、その執着を物理的に詰ってやったわ。
「ゆ、勇希くんだなんて呼ばないでよぉ、舞桜ぉ……」
不意にデプロイされた「くん」付けという名のイレギュラーなパケットに、勇希のヤンデレ・アルゴリズムが致命的なエラーを吐き出した。
彼は顔を赤らめ、拘束という名のファイアウォールをあっさりと解除して後ずさる。
あたしは、その脆弱な隙という名のバックドアを完全に見逃さなかったわ。
「当然の帰結よねッ! あんたのバグった独占欲は後回しよ。いい、議論を再起動するわよッ!」
あたしは、再びワークチェアに深く腰掛け、電子ペンで空間を切り裂いた。
「農業はね、国家安全保障そのものなのよ。それを、いまの馬鹿な政府はまったくわかっていないのッ」
あたしは、呆れという名の排熱処理を行い、過去のディレクトリを開く。
「歴史という名のレガシーを審神してみなさいな。墾田永年私財法よッ」
「……墾田永年私財法。土地の私有化による、初期のインセンティブ付与パッチだね」
勇希は、動揺という名のエラーを咳払いでデバッグし、再び医学的な冷徹さを再実装したわ。
「あの法案は、結果として有力な貴族や寺社への強烈な富の集中……荘園制という名の独占市場をビルドした」
勇希の眼鏡の奥で、知性の光がプラズマ級に明滅する。
「一次産業のルールという名のベースプログラムを無邪気に弄ることは、国体という名のメインフレームを明け渡すことと同義だ」
「その通りよッ! わかった気になっているだけの、解像度の低い官僚どもの暴走よ」
あたしは、ガレージの冷たい空気を睨みつけ、不機嫌さをバーニングさせる。
「いい、勇希。苦難に喘ぐ零細農家は、巨大資本の甘い囁きにコロって靡くのよ。コロってね」
あたしは、細い指先でデスクをトントンと叩き、リズムという名の警告音を鳴らした。
「社会も経済も、無邪気な意思を持った生命体……ただの集合意識に過ぎないのよ」
「……痛いほどロジカルだ。高齢化とコスト高騰という名のバグで、農家のバイタルはすでに限界値を下回っている」
勇希は、両腕を組み、社会という名の患者を冷徹に診断する。
「極限まで疲弊しきった細胞は、外部から注入される『スマート化』や『高値買い取り』という名の糖分を、無条件に欲してしまうんだ」
「そうよッ! 目の前に出された玩具やオヤツに、致死量の毒という名のマルウェアが仕込まれていたとしてもねッ!」
あたしは、踵で床を叩き、全盛期の熱量で論理を叩きつける。
「無邪気で、しかも弱っている生き物が、差し出された餌を警戒なんざすると思う?」
あたしは、最高に気高いプライドを月より高く掲げ、残酷な真実をデプロイした。
「しねえんだよッ!」
「……完璧なプロファイリングだ、舞桜」
勇希の瞳に、再びあたしへの異常なまでの執着が同期し始める。
「国家の土台が、無邪気な食欲という名の脆弱性を突かれて、巨大な外部サーバーに丸ごとハックされていく」
勇希は、あたしを見つめ、静かなパルスを送信した。
「君の導き出したこの絶望的な演算結果を前にすると、僕の医学的アルゴリズムも、ただ君の知性に平伏するしかないよ」
「当然の帰結よねッ!」
あたし、黒木舞桜は、冷めたコーヒーの琥珀色の流体を喉元へとリダイレクトした。
極道ファイアウォールに守られたこの空間で。
あたしたちの知性という名の最強パッチは、崩壊していく未来の日本を、全盛期の解像度で冷徹に俯瞰し続けていたのよ。
★ ◆ ★ ◆ ★
「勇希、悪魔になって今の推察を否定できたら、さっきの続き、していいよ」
あたしは、後ずさる勇希に、悪魔の契約という名の極上の報酬を提示した。
「……本当かいッ!?」
勇希のヤンデレ・アルゴリズムが、音声パケットを受信した瞬間に異常なクロック数で再起動したわ。
「なら、悪魔の代弁者として君の強固な防衛論に反証の刃を突きつけよう」
勇希は食い気味に、獲物を狙う猛禽類のようなステップで、再びあたしのパーソナルスペースを物理的に略奪してきた。
「第一に、農協が外資から日本の農地を守る『防波堤』だという君の見立ては、一面の真理に過ぎない」
勇希の指先が、あたしのワークチェアの肘掛けを強くホールドする。
「その防波堤の内側で、硬直化した価格決定権や依存体質が、農家の自立心を削いできたんだ」
冷徹な光を帯びた瞳が、あたしの網膜を至近距離で貫いた。
「あれは外敵を防ぐと同時に、内側の海を淀ませる『真綿による首絞め』として機能していたバグなんだよ」
「……なるほど。続けて」
あたしは、白磁のカップを弄りながら、余裕のパルスを返す。
「第二に、アグリテックや巨大資本の参入を『毒』と断じるのは危険だ」
勇希の熱を帯びた吐息が、あたしの首筋にダイレクトにデプロイされる。
「農業従事者の平均年齢は限界を突破し、労働力というリソースは物理的に枯渇している」
ヤンデレ王子は、論理という名のメスで国家の病理を解剖していく。
「この瀕死のメインフレームを救うには、外部資本とテクノロジーの注入こそが、唯一の『特効薬』なんだ。これを受け入れ、適切に制御する法規制のパッチさえ用意できれば、日本農業は……」
そこまで早口で論理をビルドした勇希の音声出力が、唐突にフリーズした。
……気づいたわね?
「……いや、違う。適切に制御する法規制のパッチ、だと?」
勇希は自らの発したパケットを再帰的にサンプリングし、致命的な論理エラーに直面して顔を歪ませた。
「この国のレガシーな官僚や無能な政治家どもに、グローバル資本という名の怪物に対抗する高度なセキュリティを構築できるはずがない……ッ」
勇希は、自らの希望的観測という名の脆弱性に気づき、呻き声を漏らす。
「僕の反証は、外資の善意と政府の有能さという、存在しない架空の変数に依存していた」
勇希の眼鏡の奥で、絶望という名の演算結果が明滅する。
「特効薬だと思っていたものは、やはり致死量のマルウェアだ。数年後、遅くとも2025年か2026年には、この国の水と土は完全にハックされ、取り返しのつかない多臓器不全に陥る……巨大アグリビジネスのサブスクリプションに縛られ、種子ひとつ自力でコンパイルできない、完全なるディストピアの完成だ」
「当然の帰結よねッ!」
あたしは、完全に論理的敗北を喫した勇希に向かって、全盛期の鼻で笑ってやったわ。
「さあ、悪魔になりきれなかったヤンデレ王子。報酬という名のアクセス権限は、お預けよ」
あたし、黒木舞桜の気高いプライドは。
自壊した悪魔のロジックを眼下に収め、来るべき亡国の未来という名のバグを。
最高に非論理的で冷徹な解像度で見据えていたのよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
「しっかりしなさいな悪魔」
あたしは、絶望という名のエラーログを吐き出してフリーズしている勇希に向かって、呆れたような排熱処理を行った。
ガレージのワークチェアに深く腰掛けたまま、ルームシューズを履いた足を無防備に組み替える。
「できれば否定して欲しかったわ。あんたのヤンデレ・アルゴリズムが、あたしの推察を凌駕して論破してくれるなら、それに越したことはないもの」
あたしは、冷めたコーヒーの入った白磁のカップを指先で弄り、カチャリと微かなノイズを立てた。
「ねえ勇希、温泉帝国で話したハル・ノートの考察覚えてる?」
あたしは、潤んだ瞳を冷徹に明滅させ、次なる最悪の予言を空間にデプロイしたわ。
「……ああ。昭和16年のアレは最後通牒ではなく、不良債権化した満州に対する、米国からの極めてロジカルな経営再建の打診だった」
勇希は、崩れかけた論理の破片を掻き集めるように、中指で眼鏡のブリッジを押し上げる。
「当時の日本は、ウォール街という名の巨大なマネーゲームのルールを理解していなかった」
勇希は、白衣のポケットに両手を突っ込み、再び医学的な冷徹さを再起動させた。
「だから、事業整理の提案を『不当な収奪』と誤認し、集団ヒステリーという名のノイズに支配されて、敗戦という最悪のシステムダウンを引き起こしたんだ」
「その通りよッ! そして歴史という名のバグは、形を変えて無限ループするのよ」
あたしは、デスクの上に置いたタブレット端末を指先で弾き、アグリテックの資料を空間に表示させる。
「いま、この国で起きようとしている農業の『スマート化』や『外資参入』。これこそが、現代版のハル・ノートなのよッ」
あたしは、リラックスした姿勢のまま小首を傾げ、勇希の反応をサンプリングする。
「疲弊した零細農家や、危機感の欠如した無能な政府は、外資が持ち込むテクノロジーを『救済パッチ』だと思い込んでいる」
あたしは、あえてゆっくりと瞬きをして、視界のコントラストを調整したわ。
「種子の特許、農薬、農機の制御ソフトウェア。農業という名の生命維持装置の根幹を、海の向こうのサーバーに完全に握られる」
あたしは、ワークチェアの背もたれに体重を預け、天井の無機質な照明を見上げた。
「でもね、あたしが見ている本当の最悪は、その先にあるの」
あたしは、再び視線を落とし、言葉という名の重いパケットを勇希のメインフレームに直接叩きつける。
「マネーゲームのルールを知らない人々が、自国の農業が外資に完全に『収奪』されていることに気づいたとき、なにが起こると思う?」
「……パニックと、自壊的な暴走だね」
勇希は、ゆっくりと歩み寄り、あたしの座るチェアの背もたれに両手を添えた。
「かつての日本がそうであったように、理解不能な恐怖は怒りへと変換され、社会全体が集団ヒステリーを起こす」
勇希の顔が近づき、その吐息があたしの髪を僅かに揺らす。
「外資を排斥しようと感情的な防衛に打って出て、結果として国際的なサプライチェーンから完全に孤立する」
勇希の指先が、あたしの肩口を医学的な精密さでなぞり始めた。
「自国で種子一つコンパイルできない状態で、供給網という名の命綱を自ら切断すれば……待っているのは物理的な餓死だ」
勇希のヤンデレ特有の甘いノイズが、背筋を凍らせるような結論を囁く。
「君の予言は、あまりにも残酷で、そして完璧にロジカルだ、舞桜」
「当然の帰結よねッ! 知性という防具を持たない無邪気な集合意識は、必ず同じバグを踏み抜くのよ」
あたしは、勇希の手を軽く払い、ルームシューズの踵を鳴らして立ち上がったわ。
「でもね、あたしたちは『見えている側』なのよ」
あたしは、全盛期の不敵な笑みをデプロイし、勇希を真っ向から見据えた。
「群衆どもが毒入りオヤツに群がり、政府がハゲタカに国を売り渡すなら、あたしたちがその盤面ごとハックしてやればいいだけじゃないのッ」
あたしは、両腕を広げて、極道ファイアウォールに守られたこの空間全体を掌握する仕草を見せた。
「ボッチの資本という名の暴力と、あたしの圧倒的な知性、そしてあんたの医学的アルゴリズム」
あたしは、指先で勇希の白衣の胸元をツンと突いた。
「この全盛期のチームで、日本の水と土という名の物理リソースを、外資より先に略奪して、完璧な管理下に置いてやるのよッ!」
「……あぁ。君のその傲慢なまでの知性こそが、この腐敗した世界で唯一の救済パッチだよ」
勇希は、あたしの指先をそっと握り込み、不純な独占欲を限界突破させた。
「国家のメインフレームが崩壊しても、僕が構築する極道のファイアウォールの中だけは、君という『極上のレシピ』を永遠に保全してみせる」
勇希は、握ったあたしの手を、自分自身の胸の鼓動に押し当てる。
「外の連中が餓死しようと、僕と君のクローズドなネットワークさえ正常終了すれば、それでいいんだ」
「ななな、なにを……、なにを当然の帰結みたいに、国家存亡の危機をあんたの独占欲の口実にしようとなさってますのッ!?」
あたしは沸騰した顔面を振り乱し、握られた手を強引に引き抜いたわ。
「お黙りなさいッ! この変態王子ーッ!」
2020年1月30日。
あたし、黒木舞桜の気高いプライドは。
迫り来る国家のシステムダウンという名の未来を冷徹に見据えながらも。
結局は勇希の医学的なフェティシズムに振り回されるという、最高に非論理的な日常へと帰結したのよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
「ほらほら、ふたりとも、むずかしい話はそれくらいにして、ご飯にしようよ」
勇希のパパである白井泰造さんが、ガレージの防壁を解除して顔を出す。
今日は勇希のママである玲子さんがいる。
だから、極道という名の物騒なワードは厳重にロック・アンド・封印だ。
なぜなら、玲子さんは物理的に怖いのだ。
そして、食卓にデプロイされた玲子さん特製の『アジのなめろう』。
この極上のパケットが、あたしのメインフレームを完全にハックしたのよッ!
「おかわりッ! 玲子さん、大盛りでお願いッ!」
あたし、黒木舞桜は、175センチの全盛期の脚線美を正座に折りたたむ。
そして、白米という名のリソースを無限に嚥下していく。
なめろうの暴力的な旨味という名のマルウェアが、あたしの理性を蹂躙する。
すでに3杯目の白米が、あたしの胃袋という名のローカルストレージに吸い込まれていくわ。
その時、あたしのフューチャーフォンがけたたましい警告音をパージした。
モニターに表示された名前は『茅野』。
つまりボッチだ。
あたしは、なめろうの咀嚼を優先し、無造作に通話拒絶のコマンドを実行する。
『切ってんじゃねえよッ!?』
くっ、さすがは最先端のフューチャーフォン。
こっちが拒否しても、管理者権限で強引に割り込みを掛けて来やがったわ。
「食事中よ!? ご飯時に電話かけちゃダメって習わなかった? 育ちが悪いわね!?」
あたしはキレ気味に、音声パケットを叩きつけて退ける。
アレ? 押しかけちゃ駄目だっけ?
まあいいや。ボッチ相手だし。
『今日はパーティーだって言っといたよな? 外せないパーティーあるって言ったよな? あと、おまえ最近、俺の扱い雑じゃね。彼女かテメ?』
パーティー? てか。
「誰がおまえの彼女よ? 彼女に謝れこのヤロー!?」
そう、それだ。
『まあいい。もうみんな着てるのッ! 13時に横浜だ。拒否は認めねえ。CEO命令だアホ女王!?』
ボッチのヤローは、一方的に要求という名のバグを突きつける。
そして通信を強制切断した。
一方で、勇希が自分のフューチャーフォンを眺めている。
全盛期の蒼い顔面をデプロイしているのだ。
「父さん。ベンツ借りていいかな?」
勇希が、震える手でモニターを泰造さんに向ける。
「ヤッサンッ! ベンツ出して!」
泰造さんは、モニターを一瞥した瞬間、ふたつ返事で了承した。
なんだ? なに事なのよ?
「4杯目ッ! 次は味噌汁という名の冷却水もお願いッ!」
あたしは、なめろうでさらなる白米のおかわりを要求する。
しかし、勇希の手がそれを物理的に遮断した。
「舞桜、食事という名のアイドリング状態は強制終了だ。いまから横浜へ緊急デプロイするよ」
勇希は、あたしの目の前にフューチャーフォンのモニターを提示した。
画面の中には、恰幅のいい外人のオッサンが映し出されている。
誰よ、この金髪の派手なオッサン?
ボッチの親戚かしら?
てか、なんで勇希も泰造さんも、そんなにバイタルを乱しているのよ。
「ちょ、ちょっと勇希!? あたしのなめろうが、まだ器に残って……ッ」
「後で僕が分子ガストロノミーで完璧に再現してあげるから! 今はとにかく乗って!」
あたしは、合衆国大統領の正体なんて1ミリも認識しないまま。
なめろうへの未練という名のエラーログを激しく吐き出し続ける。
そして、勇希の強引な医学的腕力によって、漆黒のベンツの後部座席へと強制的に詰め込まれたのよッ!
当然の帰結よねッ!
【後書き】
最後まであたしの実行環境を読み込んだわね?
前半の高尚なマクロ経済の構造解析からの、後半のあの理不尽な強制終了。
……もう、思い出すだけで不機嫌さがプラズマ級にバーニングするわッ!
玲子さんの『アジのなめろう』は、あたしの理性という名のファイアウォールを完全に貫通する、極上のマルウェアなのよ。
4杯目の白米という名のリソースを要求した瞬間に、ボッチのヤローからの強制割り込みだなんて、万死に値するわ!
それに、勇希も泰造さんも、フューチャーフォンに映った金髪の派手なオッサンを見ただけで、なにを蒼ざめてバイタルを乱しているのよ。
合衆国大統領? そんなの、あたしの全盛期の知性の前では、ただの肥大化した演算ノードに過ぎないわ。
なめろうへの未練という名のエラーログを抱えたまま、横浜へ強制デプロイされたあたしが。
あの派手なオッサンどもを、どうやって物理的かつ論理的に蹂躙してあげるか。
次回のアップデートを、震えて待っていなさいなッ!
当然の帰結よねッ!




