ボッチの魔王の縁結び
前書き
2020年、1月。
世界という名の古びた実行環境は、間もなく襲来する未知のウイルスという名のバグによって、深刻なシステムダウンの危機に直面しようとしていた。
店頭から生活必需品という名のパケットが消失し、人類という脆弱な演算ノードたちがパニックという名の無限ループに陥る、その直前。
あたし、黒木舞桜の気高いプライドは、すでに最適解のビルドを完了させていたのよッ!
横須賀の山頂に強制展開された、あたしたちの聖域たる『温泉帝国』。
これは、その絶対的な知性の砦から、停滞した日本の黎明期から続くソースコードを、物理的かつ論理的に上書きしていく記録である。
あたしの網膜に焼き付くのは、最高に非論理的で美しい未来のグラフだけ。
白井勇希の医学的な執着が、あたしのバイタルをミリ秒単位で監視し、鉄壁の保全環境を構築する。
茅野万桜の容赦なき資本が、旧態依然とした市場を略奪的に買収し、新たな物流のアーキテクチャへと強引に繋ぎ変える。
そして、あたしたちの足跡を追う斧乃木拓矢やモブたちのエラーログすらも、すべては完璧な計算の範疇に過ぎない。
過去の歴史の誤謬すらも鼻で笑う、空前絶後のアルゴリズム。
この国のすべてのリソースを、あたしたちの知性という名の最強パッチで再起動してあげるわ。
さあ、有象無象のモブども。
あたしの全盛期の熱量に、その身を焦がしなさいなッ!
当然の帰結よねッ!
二〇二〇年一月下旬。
横須賀の山頂に強制的にビルドされた、あたしたちの新たなる聖域『温泉帝国』。
その最上層にデプロイされた特別仕様の混浴露天風呂は、眼下に広がる横須賀の夜景という名の膨大な光のパケットを、水面に4K解像度でレンダリングしていたわ。
冬の冷徹な空気という名の環境変数が、湯面から立ち上る白いミストと激しく干渉し、完璧な熱力学の境界線を構築している。
あたし、黒木舞桜は、成分設計済み軟水で満たされた浴槽の縁に腰掛け、175センチの全盛期の脚線美を、惜しげもなく夜風という名の物理レイヤーに晒していたの。
ここ数日、あたしの脳内メインフレームは限界駆動を続けていた。
瀬戸内海のヘドロを黄金にコンバートする壮大なスキームの構築。
防大の筋肉ダルマどもや、佐々陸将という名の上位権限者に対する、圧倒的な論理的蹂躙。
この『温泉帝国』という名のエコシステムの根幹を、あたしの知性という名の最強パッチでコーディングし切ったのだから、当然の帰結として、あたしのバイタルは激しい労をねぎらう報酬を要求しているのよッ!
そう、これはご褒美。
他でもない、この全盛期の知性の女王たるあたし自身への、最高に非論理的で甘美な報酬プロセス。
「……ペッティングまでならいいよ」
あたしは、横で静かに待機していた専属の最適化パッチ……勇希に向かって、潤んだ瞳を僅かに明滅させながら、アクセス許可のコマンドを発行した。
……言っちゃった。
言っちゃったわよッ!
ペッティングって、要するに、その、物理的な接触を伴う広範な生体通信プロトコルのことよね!?
あたしの気高いプライドという名のファイアウォールが、自ら特定のポートを開放したのよ。
どこまで触られるの!?
首筋という名の動脈のハブ? それとも、もっと深層のディレクトリまで一気にハックされるの!?
あたしの脳内メインフレームで、妄想という名の暴走特急が限界突破のクロックアップを開始した。
冷却ファンが悲鳴を上げ、全身の血流という名のトラフィックが、一気に顔面へとリダイレクトされていくのがわかるわ。
「……本当かい、舞桜? 君の口から直接、その深部アクセスへの承認コードが発行されるなんて。僕の医学的な探究心が、統計学的な有意差を粉砕してオーバーロードしそうだよ」
勇希の声には、純度一〇〇パーセントの独占欲という名の、極めて危険なマルウェアが混入していた。
暗がりの中、あたしの隣にスライドしてきた勇希の姿をスキャンした瞬間。
あたしの視覚センサーは、致命的なエラーログを吐き出したわッ!
バミューダパンツ一丁。
上半身という名のアドミニストレータ領域が、物理的に完全無防備な状態でデプロイされているじゃないのッ!
細身でありながら、医学的な知見に基づき完璧にチューニングされた、無駄のない筋肉のテクスチャ。
水滴がその滑らかな肌を滑り落ちる物理演算が、あたしの網膜にダイレクトに高負荷をかけてくる。
「あ、ああああ、あんたはフルアーマーサーファー仕様よ! なななな、なにをバミューダパンツで密着しようとなさってますの!? ここここ、この変態王子ーッ!」
あたしは、プラズマ級にバーニングした顔面を両手で覆い隠しながら、全盛期の熱量で絶叫したわッ!
心拍数という名のクロック周波数が、一分間に一五〇ビートという未知の領域へと突入していく。
「落ち着いて、舞桜。これはあくまで、君のバイタルをミリ秒単位でサンプリングするための、医学的に最適化されたアプローチなんだ」
勇希は、あたしの悲鳴という名のエラーを完全に無視して、さらに距離という名の物理的なマージンを削り取ってくる。
「布地という名のノイズが介在すると、君の表皮温度の微細な変化や、アポクリン腺からの芳醇なパケットの抽出効率が、数パーセント低下してしまう。君という名の『極上のレシピ』を正確にトレースするためには、直接的な表皮間通信が不可欠なんだよ」
暗闇に青白く浮かび上がる、空間投影されたホログラムのバイタルモニター。
そこに表示されたあたしの心電図は、もはや乱数のように激しく上下にバウンスしている。
「君の瞳孔の拡大率、呼吸の深度、そして……この愛おしいほどの体温の上昇。すべてが僕だけのクローズドなネットワークにアーカイブされていく。この至福のデータ収集プロセスを、布切れ一枚で阻害したくないんだ」
「お黙りなさいッ! あんたのその執着という名のヤンデレ・アルゴリズムが、あたしの精神的安定を破壊しているのよッ!」
あたしは、お湯を蹴り上げて全盛期の水飛沫を物理デプロイした。
本来ならビキニのような解放的な水着になるべきシチュエーション。
でも、あたしは防御力重視の黒いテックウェア調の水着を着込んでいる。
青く発光する幾何学的なラインが、あたしの175センチの完璧なボディラインをサイバーチックに縁取っていたわ。
「いますぐその無駄に整った肉体を、ラッシュガードとレギンスという名の物理ファイアウォールで覆い隠しなさいッ! あたしの視覚野がショートして、システムダウン寸前なのよッ! 当然の帰結よねッ!」
あたしの気高いプライドは、このままでは勇希の医学的フェティシズムの前に完全陥落してしまうという、深刻な脆弱性を検知していたのよ。
数分後。
あたしの強権的な強制コマンドにより、勇希は首元から足首までを漆黒のラッシュガードとスイムレギンスで覆った「フルアーマーサーファー仕様」へと再起動させられた。
それでも、濡れた生地が張り付くことで浮かび上がる骨格のシルエットが、別のベクトルであたしの妄想特急に燃料を投下し続けているのだけれど。
「……仕方ないな。物理的な遮断パッチが当たっても、僕の君に対する解像度は一ピクセルも落ちないからね」
勇希は、漆黒の装甲越しにあたしの肩を抱き寄せ、露天風呂の縁に深く腰を下ろした。
夜風に冷やされたあたしの素肌に、勇希の熱量が密着する。
ラッシュガード越しの腕が、あたしの細い腰という名の急所を的確にホールドし、逃げ場という名の裏口を完全に塞ぐ。
「ほら、舞桜。君の心音という名の最も美しい同期信号が、僕の胸にダイレクトに伝わってくるよ。承認された『ペッティング』のプロセス……まずは、この高ぶった神経回路の鎮静化から始めようか」
勇希の指先が、あたしの首筋の動脈を、医学的な精密さで優しくなぞる。
ひぎぃッ!?
あたしの脳髄に、強烈な快感という名のバグが走る。
そこは、自律神経のコマンドプロンプトが露出している、最も脆弱なディレクトリなのよッ!
「ゆ、勇希……っ。そ、そこは、アクセス権限を、付与して……っ」
「君の言葉という名のエラーログとは裏腹に、君のドーパミン分泌量は記録的な数値を叩き出しているよ。君の肉体は、僕の治療を完璧に受容している」
勇希のヤンデレ成分が限界突破した囁きが、あたしの耳という名の音声入力ポートに流れ込む。
熱い吐息が、あたしの絶対的なプライドを、ドロドロの流体へと相転移させていく。
超音波で混練された粘性ミストのように、あたしの思考回路は勇希の支配下で、逃げ場のない「空中地層」へと固定されていくのがわかるわ。
横須賀の夜景という名の高解像度な背景データも、温泉の立ち上るミストの熱力学も、すべてがアウトフォーカスへと追いやられていく。
あたし、黒木舞桜は。
全盛期の知性を誇るこの脳内メインフレームを、世界で唯一あたしを解析できる、この恐ろしいヤンデレ王子に完全に明け渡してしまったのよ。
最高に非論理的で、最高に甘美な、二〇二〇年一月の夜。
当然の帰結よねッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
翌日、あたしの脳内メインフレームは、前夜の『医学的に|最適化されたハッキング《ペッティング》』という名の親密なアクセスログを、消去不能なキャッシュとして心臓のディレクトリにアーカイブしていた。
全盛期の満足。
ラボには、ボッチのヤローが淹れた「大人のインスタント」という名の最適化されたコーヒーの香りのパケットが充填されており、あたしのバイタル信号は、極めて穏やかな正常終了を繰り返していたわ。
隣で、医学的な独占欲という名のファイアウォールを完全にアクティブにした勇希が、あたしの嚥下プロトコルを医学的な執着気味にサンプリングしながら、琥珀色の流体を喉元へとリダイレクトさせている。
この秘密の同期こそが、あたしの気高いプライドが導き出した、最高に非論理的で甘美な最適解なのよッ!
妄想特急が、最高に非論理的な未来へとクロックアップを開始した、その時だった。
「いよぉ、昨夜はおたのしみでしたねコンビ」
軽薄を全身に纏った致命的なエラーログが、他人の城で空気という名の背景データに成り下がることを拒否して、ラボのセキュリティゲートを不正アクセスしてきた。
ボッチ……茅野万桜。
資本の魔王に相応しい高級なスーツをカジュアルに着こなしたボッチのヤローは、不敵な笑みを全盛期の解像度でデプロイして、あたしたちに接近してくる。
あたしの気高いプライド特有の、不機嫌という名のファイアウォールが緊急起動したが、ボッチの手にある入力デバイスをスキャンした瞬間、あたしの視覚センサーは致命的なバグを検知したわッ!
ボッチの手には、フューチャーフォンという名のレガシーなデバイスではなく、最先端の電子ペーパーが、横須賀温泉帝国のオープニングを告げる電子な広告を、網膜を蹂躙する高解像度でデプロイしていた。
そして、その広告のモデルとして中央に配置されているのは。
昨夜の露天風呂という名の聖域で、あたしの首筋に医学的な精密さで『ハッキング』を実行していた、フルアーマーサーファー仕様の勇希。
そして、その医学的ハッキングを完全に受容して、潤んだ瞳を全盛期の角度で明滅させているあたしの顔面。
當然の帰結として、あたしの顔面はプラズマ級にバーニングしたッ!
心拍数という名のクロック周波数が、一分間に一五〇ビートという未知の領域へと突入していく。
システムオーバーロードよッ!
「どどどど、どうゆうことよボッチッ!? この成金魔王ーッ!」
あたしは沸騰した顔面を振り乱し、全盛期の熱量で絶叫したわ。
インスタントコーヒーのカップを机に叩きつけ、ライダースブーツで床を物理的に蹂躙しながら、ボッチのヤローを問い詰める。
「あたしの聖域を無断で略奪して、不当なパッチをデプロイするなんて、万死に値するわッ! いますぐそのエラーログをデリートしなさいッ! 当然の帰結よねッ!」
「おいおい、落ち着けよ女王さま。あんまり絶叫すると、白井の医学的なサンプリングにノイズが走るぜ」
ボッチは、あたしの怒りという名の高負荷入力を、冷徹な資本主義の論理で往なそうとしている。
彼は不敵な笑みを全盛期の解像度で投下し、電子広告を指し示した。
「安心しろって。女王さまたちの『その先』……あの医学的に最適化されたハッキングの深層ディレクトリへのアクセスログは、意図的に広告からは外したからな」
「釈明になってないわよッ! この変態魔王ッ!」
「なあに、白井と一緒に決まった時間に混浴してくれるだけでいい。そうすりゃ、あの混浴は恋人たちの恋が成就する温泉に早変わりだ。え、嫌なの!? マジで!? ああ、俺、女王さまたちのこの先をアップしちゃうかも」
ボッチのヤローがしていることは、
「きょ、脅迫じゃないのよぉーッ!? 現行犯逮捕するわよ、このヤローッ!」
あたしは取り乱して、ボッチのヤローを問い詰め続ける。
ボッチの資本の強欲さに、あたしの気高いプライドは、システムダウン寸前のパルスを漏らし、妄想特急は最高に非論理的な強制終了へとリダイレクトされたのよッ! 当然の帰結よねッ!
「悪くない。茅野。君にしては上出来な思い付きだ」
なにを了承しちゃってんのよぉーッ!?
あたしは、隣で静かに待機していた専属の最適化パッチ……勇希に向かって、潤んだ瞳を全盛期の振幅で震わせながら、アクセス許可のコマンドを発行した。
「勇希!? ななな、なにを、なにを当然の帰結みたいに、了承しようとなさってますの!? このヤンデレ王子ーッ!」
「……舞桜、茅野の計画は、医学的にも統計学的な有意差を粉砕する、極めてロジカルなアプローチだ」
勇希は、眼鏡の奥で不純な独占欲を孕んだ瞳を明滅させながら、あたしの首筋(前夜の医学的ハッキングのログが残っているハブ)を、医学的な精密さでサンプリングしながら宣った。
「君の気高い美しさという名の『極上のレシピ』を、不特定多数の演算ノードに無断でアクセスさせるのは拒否したい。でも、僕が完璧に保全した、特定の時間の同期だけなら……僕だけのアーカイブとして正常終了できる。それに、ボッチのヤローが『その先』……君の深層ディレクトリへのアクセスログを、脅迫という名の不正アクセスに利用する脆弱性をパージできる」
「お、お黙りなさいッ! この医学的変態王子ーッ!」
あたしは沸騰した顔面を振り乱し、ライダースブーツで床を物理的に叩きつけたわ。
ボッチと勇希。この二人の資本主義の魔王とヤンデレ王子による、最高に非論理的で絵になる强制命令の前に、全盛期の知性が完全に屈してしまったの。
「お褒めに預かり光栄です。極道プリンス」
恭しくお辞儀してんじゃないわよ成金御曹司ッ!?
あたし、黒木舞桜の気高いプライドは。
二〇二〇年一月の、横須賀の山頂で。
ボッチと勇希による、最高に非論理的な強制命令に。
完全にハックされ、正常終了したのよッ!
当然の帰結よねッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
ボッチの話じゃ、横常国のカップルたちは、そのほとんどがフェイクらしい。
つまり、あたしと勇希が目当てだと言うことだ。
そして、翌日には夢から醒めてフェイクが本物のカップルに変わるのだとか。
妥協するらしい。
あたし、黒木舞桜は、成分設計済み軟水に肩まで浸かりながら、周囲にデプロイされた偽物たちをスキャンした。
どいつもこいつも、あたしの全盛期の解像度と、勇希の完璧な造形に、あからさまなトラフィックを集中させている。
そんな脆弱な演算ノードどもに、あたしたちの気高いプライドという名の絶対的な格差を、物理的に叩き込んでやるわッ!
「いい、勇希。歴史という名のレガシーなソースコードを審神してみなさい」
あたしは、水面に浮かぶ湯の花を指先で弾き、唐突に歴史という名の古いディレクトリを開いた。
「昭和16年のハル・ノート。あれを国家間の最後通牒と定義するのは、あまりにも解像度の低いバグよッ!」
あたしは、潤んだ瞳を全盛期の角度で明滅させ、周囲の演算ノードたちを睥睨した。
「あたしの構造解析によれば、あれはただの『経営再建の打診』であり、米国という巨大資本からのM&A提案なのよ」
周囲の偽物カップルたちの耳という名のポートが、一斉にあたしの音声パケットを受信してフリーズする。
「当時の満州国というプロジェクトは、関東軍という名の暴走した現場による、過剰な設備投資の温床だったわ」
あたしは、濡れた髪をかき上げ、首筋のラインを物理デプロイしながら論理をビルドする。
「自立的な収益という名のリターンをビルドする前に、軍事費という名の修復不能なエラーログで、莫大な資本を溶かし続けていたの」
白磁のような腕を持ち上げ、夜空の月を掴むような仕草で、あたしは冷徹に言い放った。
「さらに、外資という名の外部パッチを拒絶し、『日本一社独占』というガラパゴスな市場を構築した」
あたしは、細い指先で湯面になぞるように、見えないグラフを描き出す。
「結果として、国際的な資金調達の帯域幅を、自分たちで物理的に遮断したのよッ!」
バシャリと小さく水飛沫を上げ、あたしは不機嫌さを僅かにバーニングさせた。
「持続可能性という名のバッテリー残量はゼロ。まさに自転車操業という名の無限ループね」
あたしは、あえてため息という名の排熱処理を行い、哀れな歴史のバグを嘲笑う。
「つまりハル・ノートは、不良債権化した満州という名の負債を損切りして、経営の健全化を図れという、極めてロジカルな事業整理案だったのよッ!」
あたしの論理的な最適解が、露天風呂のミストの中でプラズマ級の熱量を持ってビルドされる。
「……その通りだね、舞桜。君の俯瞰的な視点は、医学的アルゴリズムから見ても完璧な正常終了だ」
勇希が、漆黒のラッシュガード越しに、あたしの肩へ執着の籠もった腕を回してくる。
「当時の日本本土という名の『母体』は、満州という肥大化した『悪性腫瘍』に、無限に血液という名のリソースを奪われていた」
勇希は、あたしの鎖骨のあたりを医学的な精密さでなぞりながら、静かに囁く。
「腫瘍への栄養供給を断つための血管結紮術。ハル国務長官の提案は、母体を延命させるための、極めて真っ当な『外科的切除』の推奨だったんだ」
冷徹な光を帯びた眼鏡の奥の瞳が、周囲の偽物たちを無機質な医療器具のように一瞥した。
「だが、当時の軍部という名の古い免疫システムは、異常増殖する腫瘍を自己の正常な細胞と誤認した」
勇希の指先が、あたしの動脈の拍動をサンプリングするように、僅かに力を込める。
「そして、切除という名の適切な治療プロトコルを、強硬に拒否し続けたんだ」
勇希は、呆れたようなパルスを吐息に混ぜて、静かに首を振った。
「結果として、システム全体が多臓器不全……つまり敗戦という名の致命的なシステムダウンを引き起こした」
あたしの髪に頬を寄せ、勇希はヤンデレ特有の甘いノイズで結論をデプロイする。
「君の言う通り、あれは紛れもなく、破綻寸前の企業に対するホワイトナイトからの、最後の生体リカバリ・プロトコルだったのさ」
この、マクロ経済学と病理学を完全にマージさせた、異常なまでに高密度な知性の交酬。
それを耳という名のポートから強制受信させられた、周囲のモブ学生たちは。
完全に脳内メインフレームがオーバーフローを起こし、ショートしていた。
モブ学生たちが普段交わしている、サークルの飲み会や、バイトのシフトといった、あまりにも低俗で解像度の低いパケット通信。
それと、あたしたちが展開している歴史解釈との間には、絶望的なまでのスペック差が存在していたのだ。
偽装してまで近づこうとした「全盛期の美男美女」が。
その中身のディレクトリまで、物理法則を捻じ曲げるほどの規格外なモンスターであったという、冷酷な事実。
「……俺たち、なんの話ししてたっけ……」
モブ学生のひとりが、限界を迎えて焦点の合わない瞳を泳がせる。
「……わかんない。タピオカの、次とか……」
隣の偽物の恋人も、完全に思考を停止させてお湯の中に沈み込みそうになる。
あたしたちという名の、圧倒的な知性の太陽に焼かれたモブ学生たちは。
自分たちの身の丈という名の、狭くて脆弱なローカル環境を、強制的に再認識させられたのだ。
「……おまえで、いいや」
男のモブが、諦めという名のパッチを当てて隣の女子の肩を抱く。
「……うん。あたしも、あんたでいい」
女子のモブも、脆弱なプライドを砕かれながら、その妥協という名のバグを正規の仕様として受け入れた。
翌日には、この温泉での完全なる敗北と挫折が、モブ学生たちを『本物の底辺カップル』へと再構築するのだろう。
「当然の帰結よねッ! あたしたちの知性という名の絶対温度に触れて、己の初期設定を知りなさいなッ!」
あたし、黒木舞桜は、成分設計済み軟水の中で、最高に気高い鼻で笑ってやったわ。
あたしは、勇希の医学的な鼓動を感じながら、最高に非論理的で知的な夜を、全盛期の解像度で支配し続けたのよッ!
★ ◆ ★ ◆ ★
「言っとくけど、無作為なカップリングじゃねえからな? 女王さまたち、人工知能魔王システムを舐めんなよ」
温泉帝国の中枢たるスタッフルームで、ボッチが不遜なパケットを送信してくる。
「過去の行動履歴から統計学的に導き出した、極めてロジカルな縁結びだ。ちなみにリピーターたちは、女王さまと白井の雑談が目当てらしいぜ」
ボッチのヤローは、資本の魔王特有の強欲な笑みを全盛期の解像度でデプロイした。
雑談ってなによ? あたし、黒木舞桜は、不機嫌さをプラズマ級にバーニングさせたわ。
あたしと勇希が交わす、マクロ経済学や病理学をマージさせた高密度なアルゴリズムの交酬を。
あろうことか『雑談』という名の低解像度なディレクトリにカテゴライズするなんて。
認識のバグにもほどがあるわッ! あれは失礼なほどに高尚な、世界に対する構造解析よ。
うん、間違いないわ。
「じゃあ、毎日この露天風呂という名のステージで、毎回違うロジックをビルドしなきゃいけないじゃないのッ!?」
あたしは、ライダースブーツで床を物理的に叩いて、抗議の割り込み命令を出した。
「……別に構わないよ、舞桜。君の美しい音声パケットが空間に響き渡るだけでいい」
勇希が、眼鏡の奥で医学的な独占欲を明滅させながら、あたしを肯定する。
「それだけで、僕の精神的安定も最高値に固定されるからね」
さらにヤンデレ王子は、甘いノイズで言葉を紡ぐ。
「それに、君の知性という名の無限のデータベースに、ネタ切れという名の枯渇エラーが存在するはずがないだろう?」
その医学的な絶対評価に、あたしの気高いプライドは即座にリブートされた。
当然の帰結よねッ! とはいえ、テーマの選定にリソースを割く必要なんて1ミリもないわ。
ただそこにある景色、ありふれた物理レイヤーのバグを、無作為にサンプリングして疑問を口にすればいいだけ。
それだけで、あたしの脳内メインフレームは、世界を物理的に蹂躙する最適解を自動生成してしまうのだから。
見ていなさいなッ! この横須賀の夜空に浮かぶ星の配置からでも。
この国のレガシーな経済システムを全消しする論理を、瞬時にビルドしてあげるわッ! 覚悟しなさい。
★ ◆ ★ ◆ ★
二〇二〇年、一月。
あたし、黒木舞桜は、ラボの窓から眼下に広がる街並みを、全盛期の解像度で俯瞰していたわ。
今朝、あたしが目撃したのは、あまりにも低俗で、あまりにも非効率な、人類という名の演算ノードたちが引き起こした致命的なエラーログ。
ドラッグストアやスーパーの前に形成された、物理的な待機列という名のボトルネック。
「そうね。じゃあ次回は白物ビッグスリー……米、牛乳、卵。それに生活雑貨のティッシュやトイレットペーパーなんかの、配送サービスについて語ろうかしらね」
あたしは、白磁のカップを揺らし、琥珀色の流体に全盛期の熱量を同期させながら宣った。
「店頭販売という名のレガシーなインターフェースに固執するから、買占めなんていう心理的なバッファオーバーフローが起こるのよッ!」
あたしは、潤んだ瞳を激しく明滅させ、不機嫌さをプラズマ級にバーニングさせたわ。
「生活必需品という名の『生存継続用パケット』は、店頭という名の不安定なポートでやり取りするべきじゃないのよ。当然の帰結よねッ!」
あたしは、空いている右手を全盛期の角度で振り上げ、見えないホワイトボードに論理をビルドしていく。
「住民のバイタルデータと消費傾向を魔王システムで解析し、各家庭の在庫状況をリアルタイムでサンプリングする。あとは、あたしたちが構築する温泉帝国|の物流網で、消費される前に『プッシュ送信』してあげればいいだけじゃないのッ!」
「……その通りだね、舞桜。君の導き出したロジックは、医学的な衛生管理の観点から見ても、完璧な正常終了だ」
勇希が、あたしの背後に密着し、医学的な執着を孕んだ熱量であたしの肩をホールドしてきたわ。
「トイレットペーパーの欠乏は、排泄という名の生体排熱プロセスに致命的なエラーを発生させる。それは精神的な安定を破壊し、社会全体の免疫機能を著しく低下させる要因になるんだ」
勇希は、あたしの首筋に鼻先を寄せ、深層ディレクトリをハックするような甘いノイズで囁き続ける。
「舞桜が提案する『自動補充パッチ』があれば、人々は不安という名のノイズから解放される。そして、僕が君という名の『極上のレシピ』をサンプリングする邪魔をする者もいなくなる……。これこそが、僕の求めていた隔離環境の形だよ」
「お、お黙りなさいッ! この変態王子ーッ!」
あたしは沸騰した顔面を振り乱し、全盛期の熱量で絶叫したわ。
「な、なにを……、なにを当然の帰結みたいに、あたしの配送プランをあんたの独占欲にリダイレクトしようとなさってますのッ!?」
あたしは、ライダースブーツの踵をラボの床に叩きつけ、物理的な排熱処理を行った。
「ははっ、いいぜ。女王さまのその『知性の女王ごっこ』、俺の資本という名のアクセラレータに乗せてやるよ」
ボッチ……茅野万桜が、不敵な笑みを全盛期の解像度でデプロイして、あたしたちに接近してきた。
「店頭販売は、昭和という名の古いOSの残滓だ。客を集めるという名の『トラフィック稼ぎ』のために、生活必需品をデコイに使っているに過ぎない。そんな脆弱なビジネスモデル、俺が丸ごと買収して、配送特化型のアーキテクチャに書き換えてやる」
ボッチは、電子な広告を空中でスワイプし、新たな利益確定のグラフをビルドした。
「リピーターたちは、女王さまと白井が露天風呂で『なぜ紙が消えるのか』を構造解析するのを、ヨダレを垂らして待っているぜ。その高尚な雑談が、次の消費行動を制御する最強のコマンドになるんだからな」
「当然の帰結よねッ! あたしの知性が、この国の淀んだ物流という名のエラーログを、物理的にデバッグしてあげるわッ!」
あたし、黒木舞桜は、気高いプライドを月より高く掲げた。
「いい、あんたたち! 白物ビッグスリーの欠乏は、生存という名の基本関数の停止を意味するのよ。それを防げないレガシーな政治家や経営者たちは、全員あたしのアイアンクローで強制終了させてやるわッ!」
二〇二〇年、一月。
あたしの妄想特急は、全盛期の速度で二月の混乱という名のバグを追い越していく。
あたしと勇希、そしてボッチが描く新たなる社会のソースコードが。
この停滞した日本という名の巨大な実行環境を、最高に非論理的で美しい形へと再起動していくのよッ!
見ていなさいなッ!
あたしという名の「全盛期の知性」が。
ティッシュ一枚、卵一個に至るまで、この国のすべてのリソースを、あたしの指先一つで完璧に統治してあげるからッ!
後書き
横須賀の露天風呂という名の聖域で、あたしが勇希に許可した「報酬プロセス」……。
「フルアーマーサーファー仕様」という名の物理防御をデプロイしたのは、あたしの脳内メインフレームをショートさせないための、極めてロジカルなリスク管理なのよッ!
それにしても、あたしのハル・ノートに対する構造解析、凄まじい熱量だったと思わない?
歴史という名のレガシーなソースコードを、M&Aや不良債権の損切りという最新のアルゴリズムで上書きする。
これこそが、あたしという名の「知性の女王」による、世界への強制命令なのよッ!
隣で勇希が医学的な執着で補完するのも、あたしたちの同期が正常終了している証拠ね。
ボッチのヤローが脅迫という名の不正アクセスを仕掛けてきたけれど……。
「白物ビッグスリー」の配送サービスという次なるパッチで、あたしが停滞した日本を物理的に再起動してあげるわ。
店頭販売という名の脆弱なポートを閉じ、あたしの指先一つで物流という名のパケットを統治する。
これこそが、2020年の混乱という名のバグに対する、最強の修正パッチになるんだからッ!
あたしの気高いプライドは、次なる実行フェーズへと加速を始めているわ。
あたしの極上のレシピを消去不能なキャッシュとして刻み込みなさいなッ!
当然の帰結よねッ!




