021話 諦めない
少し短いです
ムクゲの声が頭に反響する。
(「私もユウリが言うんだったら、間違いないと思う」)
そして間を置かず、ユウリの脳裏にムクゲ、ハネズ、カクゲン、アサギ、婆ちゃんの姿が浮かぶ。
(「セツナならこんな時はどうする? 」)
『諦めるのはまだ早い。可能性を全部潰して、為す術がなくなってから絶望しろ。しかし殆どの場合において、可能性を探っているうちに解決の糸口が見つかるものだ。』
ユウリはセツナの伝記を思い出し、金槌を強く握った。
(「セツナならこんな時も諦めずに出来ることを探すはずだ。まだ諦めるな。僕の英雄なら、こんな時はやれることをやり尽くして、そして、みんなを助けるはずだ」)
ユウリは、セツナなら、こういう時はどうする?と考えることが癖となっている。
心の火を再度灯したユウリは、考え出す。
(「さっきのところが奥の院だとしたら、その前には通路があって、現在のツキヨミ神社の本殿に繋がっていたはずだ。それがここだ。たぶん、それは間違いない。だとすると、この先には今の神社の本殿があるはず。渡り廊下で二つは繋がっていたはず。」)
そこで一つの確かな手応えに思い当たる。
(「本殿の裏には洞窟があった。その中に入ったことはないけど、洞窟は深くまで続いてるっていうのを聞いたことがある。」)
思考を再開させたユウリは、金槌と釘を取り出すと、玉灯を地面において、突き当りの壁を叩き始めた。ポロポロと壁から剥離した石片が地面に山を作る。
ユウリは金槌で釘を打ち続ける。金槌を打つ手が痺れ始める。額には汗が滲み出し、体が熱を帯び始める。膝立ちになっている姿の今、膝に全体重がかかり、膝が痛みだす。しかしユウリは痛みなど感じないんだと言わんばかりに、金槌を振り続けた。
ピキッ。
金槌を打ち続けてからしばらくして、ユウリの振るう金槌が岩ではなく、空を打ち付けた。穴が貫通した感触。ユウリは尻をふくらはぎの上に載せ、正座の体勢になって慌てて穴の中を除くが、穴の先は真っ暗で何も見えない。間違ってたか…。
ユウリが落胆して、持っていた金槌を落としそうになった時、ユウリは確かに感じた。
風が肌をなぞって、顔の熱を奪っていく感覚。
(「風が吹いてる。この先は外に繋がってる?」)
この先は神社の裏手にある洞窟に繋がっている、と確信を持ったユウリは、金槌で直接岩を打った。厚みのない岩壁は、ボロボロと崩れ、なんとか人が一人通り抜けられるくらいの穴を開けることに成功した。ユウリは穴に身体をねじ込み、身体に擦り傷を作ることを厭わずくぐり抜けた。そこは闇。光の一筋も通っていない闇。
ユウリは開けたばかりの穴に腕を入れると、地面においていた玉灯を掴んだ。そしてそれを、掲げるように持ち上げた。
闇に浮かぶのは、木を組んで作った二米はありそうな内陣の裏側だった。高さは光が届かないため計り知れない。ユウリは内陣を迂回して、正面に回ってきた。年季を感じる木の質感、重厚な作りの社のような内陣の扉は開いていた。通常は閉められており、解放されていることはありえない扉の中には、何も入っていなかった。
(「たぶん、ここにはトヨ婆が持ってきた鏡が入っていたんだ。だから、ここは本殿の裏にある洞窟だ。間違いない。」)
確信を持ったユウリが百米ほどの洞穴を歩き進めると、見慣れた朱塗りの木造の社の裏側が見え、その奥には緑色の光が発せられ、今も続いている神主さんの祝詞や、子供の泣き声が聞こえる。
婆ちゃんを背負い、ハネズと駆け上がってきた時に見た緑色の光の記憶と違わない光が、早戻ししたように、網膜に映される。
ユウリはやってやったぞ、という歓喜で踊りだしたくなるのを堪え、洞窟の中に戻る、そして開けたばかりの穴に身体を押し込むと、来た道を大急ぎで戻った。長方形の部屋を過ぎ、ユウリの背丈ほどの洞穴を走る。
そこで異変に気付いた。
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