020話 失われた本殿
ユウリ一行は歩き出したが、地面は凹凸が目立ち、所々、根っこがあったと思われる真円の穴があり、足元に注意しながら進むあまり、速度が上がらなかった。
未知の洞窟探検を初めてから十分ほど経つ頃。下流にはなかった岩が所々に見えるようになってきた。幻想的な光の原因を知らなければ、妖精の国の岩山を探検するような雰囲気を味わえたのだろうが、特に少女達は、足元の光を踏まないように気をつけて歩く始末である。川沿いを歩く彼、彼女らは順調に歩を進める。出発地点からしばらく行くと、大きく湾曲した川は、それ以降大きな変化もなく、単調な行軍となった。ムカデの起こす震動もここまでは届かないのか、水の流れる音以外は聞こえない。
「ユウリ、今どっちの方角に向かってるのだわさ?」
先の見えない行軍にアサギが不安になり、ユウリに尋ねた。
「僕達の秘密基地の洞窟は、入り口から北西に向かって伸びているんだ。その奥を降りたこの洞窟を西に向かって歩いて、途中で川が左に湾曲してたから、今は南西に向かってる。だから、このまま進めば神社の近くに当たるはず」
「でも、この川この先で右に曲がっているだわさ」
ユウリも目を向けると、水面を反射する青白い光が、右の方に曲がっているのが見える。
(「ここから上流を川に沿って歩いたら、神社から遠ざかってしまう。村から遠い所に出たら、カイブツが上流に先回りして、待ち構えられてしまうのは間違いない。どうする。迷ってなんかいられないのに」)
ユウリが結論を出せずに悶えていた時、アサギが何かに気づく。
「ねぇ、ユウリ。あの壁さぁ、なんか斜めになってるだわさ。」
アサギが指差す方をユウリが見てみると、手前から奥に向かって、傾斜があるのが見て取れる。「山の上に溶岩が降ってきて、固まったのかな。もしかしたらヤミグラシコウモリの出入り口があるかもしれないね」
「その可能性はあるけど、登っていけるのはアンタだけだわさ。」
「わかった。僕が行って登ってみる。通路がありそうだったら、降りてきて、相談しよう」
ユウリはムクゲ達にも伝えると、カクゲンから秘密基地から持ってきた金槌と、数本の釘、鎹を受け取り、左手で持っていた鏡をカクゲンに渡した。しかしこの時、ユウリには、この斜面の上から神社に抜けられるのではないか、という確信めいた自信があったため、カクゲンとアサギに持ってきた材料で縄ばしごを作るようにお願いした。そして、金槌と釘をベルトに差し込むと、斜面を登りだした。修行と称し、毎日秘密基地の崖を登っていたユウリにとって、この崖も修行感覚で、スルスルと登り、すぐに頂上に到達した。
斜面を登り着いたその場所を、玉灯で照らしてみると、畳の大きさ程度の空間が広がっていた。奥の方は光を飲み込んでいるいため、まだ先に進めそうだ。
「奥に道が続いてそうだから、ちょっと行ってみるね」
ユウリは下にいるカクゲン達に伝え、玉灯を持ったまま前進すると、両手を広げた位の幅に、背丈より少し高い円状の通路が奥に続いている。
しばらくそのまま進んでいくと、突如広大な部屋に着いた。幅は六米、縦は十米、高さは四米。ところどころ崩れてはいるものの、元は直方体であった物の上に溶岩が振り注ぎ、この空間になったと思われる。
ユウリは左右に玉灯を振り、頭もそれに合わせて動かしながら直方体の中を歩き、中央付近まで来た時に、右手に玉灯の光を反射するものを見つけた。ユウリが傍に行って確かめると、トヨ婆からもらって、今はカクゲンが持っている鏡と同じものが立てかけられるように置いてあった。鏡の後ろには神社の本殿を小さくしたような内陣が、触ると崩れそうなほど朽ち果てているが、その姿を保っている。
(「これは昔の神社? 溶岩に埋まる前にあった神社の本殿? 斜面の高さは今の神社の丘と同じくらいだ。ってことは、これは神社にあった奥の院かな?」
ユウリは仮定しながら、部屋の奥へと進む。行き止まり。ここからは外に出られないのかと諦めかけた時、見落としていることがあると気付いた。
(「ここが奥の院だとすれば、あの鏡のある内陣の正面に通路があるんじゃ?)
ユウリはすぐに確かめに行く。行き止まりを転回して、部屋の中央付近に戻ると、右手の方向に向きを変え、内陣の反対側の壁に行き、玉灯で照らす。
(「あった。予想通りだ」)
地面に開く、ユウリの腰の高さくらいまでの横穴。幅はユウリがギリギリ通れるくらいしかない。
ユウリは赤ちゃんのようにハイハイの体勢になると、玉灯を口に咥えて進みだした。横穴は緩やかな傾斜があり、徐々に上がって行っているようである。ユウリは膝と掌の痛みに堪えながら進むと、やがて平坦になった。そして突き当り。手で壁を触るが、幻覚ではなく、壁が行く手を塞いでいた。
(「ここから婆ちゃんが避難している神社に行けると思ったのに。もし、ここから戻って、また川に沿って進んだら外に出られるかもしれない。でも村から離れた所に出たら、ムカデに襲われるかもしれない。そしてそこで食われてしまうかもしれない」)
ユウリは「かもしれない」が連続する、悲観的消極思考となり、蹲ってしまった。
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