022話 狐の少女
いつも楽しみにしていただいている読者がいらっしゃいましたら申し訳ございませんが、一時休止いたします。レビューや感想などで読者様が増えるようでしたら、再開いたします。
「嫌ー、何これ。来ないでー」
「こら、コウモリ、さっさとエサを取ってこいだわさ」
ハネズ、アサギの動転した声が聞こえる。
「ユウリーッ! 早く戻ってこい!」
カクゲンの叫んだ声が洞窟内を反響するのが聞こえる。
ユウリはスピードを上げて、斜面の縁まで戻ると、そこには、驚きの光景が広がっていた。
ムクゲは両方の掌でもう一方の二の腕を掴んで、胸の中で守っている狐を抱きしめるように、俯いている。
エサを取りに出ているはずのヤミグラシコウモリの大群が、大きな足音をたてながらムクゲ達を襲っている。いや、何かから逃げるように飛んでいる。ユウリは大声で叫んだ。
「みんなーっ、神社に抜ける道を見つけたんだ。縄ばしごはもう出来ている?」
下の喧騒に負けないように声を張って尋ねる。
「もう出来てるぞ! 早く引き上げてくれ」
「わかった。このロープに縄ばしごを繋いでくれないか」
ユウリは自分が降りる時に使おうと思って、斜面に垂らしたままになっていたロープを示すと、カクゲンに指示をした。
カクゲンはすぐに縄ばしごの一端をロープに結んだ。ユウリはそれを引っ張り上げた。
ユウリは引っ張り上げた縄ばしごを近くの岩場に結ぶと、合図をした。先程と同じようにムクゲが一番最初に登ってきた。ムクゲの白くて小さい手を握ると、引っ張り上げた。次はハネズ。タッ、タッ、タッとリズムよく縄ばしごを上がってくる。次はアサギ。左右に揺れる縄ばしごを懸命に登り、最後はユウリが引き上げる。最後はカクゲン。こちらも危なげなく登りきった。ユウリは全員が登り終わったのを確認すると、縄ばしごを引き上げ、岩に結んでいたロープを解いて、カクゲンの布袋に突っ込んだ。
「いきなりコウモリの大群が西側から飛んできて、ウチらの方に向かってきたのよ」
「ユウリと離れ離れになると大変だから、そのまま縮こまってたんだわさ」
ハネズ、アサギが説明してくれた。
「この子、さっきからずっと怯えてる」
ムクゲは抱いている狐が小刻みに震えているのを肌で感じ、胸に入れていた狐を取り出すと、優しく抱きしめた。
「ムカデがヤミグラシコウモリの巣の入り口までやってきたのか…」
「多分そうだと思うぜ」
「なら、すぐに神社の結界に行こう」
斜面を登った一畳ほどの空間で状況を確認したユウリは、奥に続く洞穴を指さし、この先に昔の本殿があることを伝えると、先頭に立って、移動を開始した。
失われた本殿まで戻って来たユウリは、鏡が置いてある内陣の前で立ち止まった。
「ここが数百年前に失われた昔の本殿だ。僕がトヨ婆に渡してもらった鏡と同じものが置いてある。」
「たしかに、同じみたいだわさ」
「そうね。溶岩で埋まってしまった鏡を、後の時代にもう一枚作成したみたいね」
ユウリに続いて、アサギ、ハネズが追従する。
「じゃあ、これも持って出よう。ここに置いておいても、意味がないから。」
そういうと、ユウリは鏡を手に取った。すると、ムクゲが抱いている白狐が白色の光を放ち出した。白狐はムクゲの腕の中から飛び降りると、四本の脚でしっかりと立った。狐から飛び散る白い光は、やがて人の形を形取り、十歳ほどの少女の姿に収束した。
絹糸のような肩まで伸びた白い髪、やや吊り上がった大きくつぶらな目、目の色は、蒲公英のような黄色だ。白磁のように滑らかな肌、ツンとした鼻。美少女は白地に真っ赤な彼岸花をあしらった、膝上丈の着物を召し、彼岸花の赤が、少女の足の白さを際立たせる。首には銀色の襟巻を巻いている。
ユウリ達はしばしその傾国の姫君と形容できそうな姿に見とれ、漏れ出るのは吐息ばかりとなった。それに人形となった白狐からは、微かに甘い香りが漂う。
しかしそんなため息が漏れるほどの美少女の中で、白髪の頭から飛び出る、一対の尖った耳と、太く、毛先に向かうに連れて細くなる尻尾は神秘的な美しさを湛え、その神々しさを際立たせていた。
「みなさま、私をお守りいただき、ありがとうございます。私はグラハと申します。」
グラハと名乗った狐少女は、水琴窟で反響する水音のような澄んだ声で、皆に自己紹介した。
「私はムクゲ、この黒い服の男の子がユウリ、芥子色の服の女の子がアサギ、緑色のベストを着ている
のがハネズ、この男の子がカクゲン」
ムクゲが代表して、皆の名前をグラハに伝えた。
「はじめまして皆様。私は、夜の世界を支配する神、ツクヨミ様の眷属でございます。生まれたばかりで力が少なく、人形になれなかったのですが、この場に残されていた強い祈力を取り込むことで、皆様とお話できるようになれました。不躾であることは重々承知しているのですが、皆様にご協力をいただきたいことがございます」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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