カウントダウン
第27話です
その選択肢が出た時、私は思わず叫びだしそうになった。
一つ目は、『レヴィアタン』という名の、女性の悪魔――
二つ目は、『ファーヴニル』という名の、龍の姿をした女性の化け物
そして三つ目は――『ヴォーパルプリンセス』という名前の、使い慣れた兎の獣人
βテスターで私が殺してやった女神が、陰湿な笑みを浮かべて並べたのはこんな選択肢だった。
これが、私の適性から選ばれた種族だと。
その、私と同じ顔をした化け物達こそ、私が辰也と愛利栖に向けた感情そのものなのだと。
嫉妬の悪魔
強欲な竜
そして、女神を殺した兎の化け物
せめて、外見だけでも目を逸らしたかった。
辰也と愛利栖に対する、自分でさえ異常とわかってしまうほどの独占欲が、こんなにあからさまに分かってしまう姿など、認めたくなかった。
あの二人は、私の安らぎで、私の全てだ。
もう、いつからそうなのか、そんなことを考えもしないくらい、私はあの二人に依存している。
これでは、いけないことくらいわかっている。
愛利栖ちゃんは器用な子だから、上手く私と折り合いをつけてくれた。
でも、辰也の方は……駄目だった。
たっちゃんは、あまりにも私に優しすぎた。
そんなたっちゃんが大好きで、余計に依存して、気が付けば私はたっちゃんなしではいられなくなってしまっていた。
そして、そんな幼馴染と姉に引きずられて、私は結局妹まで私の犠牲者にしてしまった。
これでは駄目だと、私の冷静な部分はしつこいくらい警告を発している。
理屈で考えれば、このままではいずれ破綻すると簡単に答えも出てしまう。
だけど、駄目だった。
VRMMORPGなんていう、不特定多数の人間と交流を持たざるを得ない環境を自分で用意したくせに、私は自分の独占欲を抑えられなかった。
自分でも誤算だったのは、たとえ姿が変わったとしても私はあの二人がそうだとわかってしまうし、二人に向ける感情も抑えられないという間抜けな事実だった。
私は、愛利栖ちゃんやたっちゃんに近づくものが許せない。
二人を独占して、
二人に近づくものに嫉妬して、
二人に近づくものを、皆殺しにしてしまう化け物
私につけられた『殲滅兎』という仇名は、成程確かに、何一つ間違っていなかった。
カウントダウンが始まる。
【スターダストターミネーション】の効果時間は、およそ30秒。残りはあと三分の一といったところ。
もっとも、すぐに追加の【スターダストターミネーション】を繰り出してやるつもりだけれど
正直、目の前の化け物が此処まで人外じみた動きをしてくるだなんて想定外だった。
このゲームの魔法の弾速は、術者の魔力に依存して変化する。
MAGが3000を超える私の場合、その弾速はおよそ銃弾の速度に少し劣る程度にまで跳ね上がる。
それを、あの化け物はやすやすと避けてみせるのだ。
VRゲームは、その特性上体の動かし方を熟知していれば、その理想形通りの動きを再現することが出来る。
つまり――現実でそんな動きが出来なくても、もし人体の限界を超えた動きを完全に想像できるのであれば、スーパーマンの再現さえ可能という事になる。
あいつは、おそらくその手の化け物だ。特性としては辰也もその傾向があるのだろうけど。
だが、如何に化け物とはいえど必ず限界は来る。
一度目の【スターダストターミネーション】をほとんど回避しきって見せたのは、癪だけど評価には値するだろう。
大人しくそのまま、二度目の【スターダストターミネーション】に飲み込まれるがいい。
生憎こっちのMPはほぼ無尽蔵と言っていい。秒間1割のMPを回復させる【MP自動回復】は、元のMPが多ければ多いほどその恩恵が大きい。
――もとより、アイツに勝ち目なんて無いのよ――
私は勝負を急がない。最終的な目標が辰也と愛利栖の独占である以上、こんなゲームに執着する理由もない。
他にもゲームは沢山ある。二人と一緒に長く楽しめるゲームは、他にもいっぱいあるはずだ。
だから、もういい。こんなゲーム、もう願い下げだ。
カウントダウンが5秒を切る。
【スターダストターミネーション】は、その攻撃力、範囲ともに私が使う魔法の中でも最上位だが、その発動までに約2秒間の硬直時間と、25秒間のクールタイムを必要とするのが欠点だ。
逆に言えば、効果が切れる2秒前に発動させてしまえばノータイムで放ち続けることもできる。
硬直時間こそあるが、私の【魔術陣】をその時間内で突破することなどほぼ不可能だ。特攻してこようものなら、それこそハチの巣にできるだろう。
「死ね。死んで私たちの前から消えろ」
「5」
アイツの動きが変わったのは、そのカウントと同時だった。
それまで視認すら難しい速度で高速の回避運動を続けていた奴は、いきなりその足を止めてしまった。
その意図がわからなくて、思わず私も動きが止まってしまう。
後から考えれば、それこそが勝敗の分かれ目だった。
【ノーブル・テンペスト】
奴は、その手にした槍が分裂したかと思うような速度で無数の刺突を繰り出してきた。
目標は、私の周囲の【魔術陣】
瞬く間に数十の【魔術陣】が潰され、さらに続く刺突でさらに数十の【魔術陣】が潰される。
滅茶苦茶だ。
私が新しく【魔術陣】を作り上げる速度よりも数段速い速度で繰り出される槍は、見る見るうちに私を守る【魔術陣】を消し飛ばしていく。
だけど――愚か。
「4」
あー、覚悟はしてたけど、やっぱこれしんどいわ。
【ノーブル・テンペスト】は私が持つスキルの中で、最高のDPSと攻撃回数を叩きだすスキルだ。
ただし最大の問題は、移動しながら使えないという私の戦闘スタイルと致命的に相性の悪い特性を持つこと。
おかげで、ほら。
さっきから、流星雨だけはギリギリのタイミングでかわすものの、【魔術陣】からの反撃はほぼノーガードで食らい続けている。
うん。覚悟はしてたけど、とんでもない威力だわこれ。
だけど、【ブレイクファンタズム】で迎撃している余裕なんて無い。
少なくとも、こいつの邪魔になる魔術陣は全て潰しておかなくちゃ。
「3」
馬鹿が、私の魔法をノーガードで受けて見る見るうちにHPゲージを減らしていく。
装備の補正があるためか、ステータス数値よりも減り方が少ないけど、そんなことは些細な問題だ。
このペースなら、【魔術陣】が全て消し飛ばされるより前にアイツのHPゲージを全損できる。
なんだ。只のやけっぱちか。
もうそろそろ時間だ。このまま硬直時間になったとしてもアイツは勝手に自滅するだろう。
よしんばよけきったとしても、そのまま【スターダストターミネーション】で叩き潰してやる。
もうこのゲームはやらないだろうけど、最後がこんな閉まり方というのは少し――ほんの少しだけ、残念だった。
後で、たっちゃんに言われたけど。
勝敗は、ちゃんと相手の首を撥ねるまでは勝手に降りてはいけない。
この鉄則をちゃんと自覚していなかったのが、悔やまれたわね。
見る見るうちに削れていくシャルロッテが、一瞬薄く笑った気がした。
それが、勝利を確信した笑みだと気づいたのは、もう少し後の話。
「2」
勝った。
もう、アイツは間に合わない。
ボロボロになった私を見て、アイツは何を思っただろう。
まあ、あとでしっかりおちょくってやったけど。とりあえずこの時、私は勝利を確信した。
オーヴが次の【スターダストターミネーション】の開始硬直時間に入った瞬間、私は手にした「セントールオーダースピア」を全力でオーヴ目がけて投擲した。
【ブレイクファンタズム】を纏わせた投擲は、残った【魔術陣】の迎撃では止まらない。そうなるように、狙って壊していったのだから。
思わぬ行動に目を丸くしたオーヴの顔ったらなかったわね。
「1」
馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、ここまで無茶苦茶とは思わなかった。
いくら自棄になったからと言っても、持っている武器を投げつけてくるとか何を考えているんだろう。
一応、【ブレイクファンタズム】は付与されているみたいだから減らされた【魔術陣】での迎撃は意味が無いけど、私がこの程度で倒せると思われているなら酷い侮辱だ。
槍が、私の真正面で魔法障壁に阻まれる。
物理攻撃をしてくる相手に、【完全物理無効】もかけずに対応しているとでも思うのか。
ああ、やっぱりこいつはちゃんと殺そう。
流星雨の中で、自分の馬鹿さ加減を呪わせてから――
【ブリューナク・イミテーション】
私の両腕を、魔力の槍が貫いた。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。オーヴの小さな体の、両腕を2本の光の槍が貫き、まるで空中に縫い留められたように動かなくなる。
しかも、私は自分自身に付与された状態異常を見て愕然とした
「封魔」
私にかかっていた全ての魔法効果が消去され、残り29秒の間一切の魔法行使が禁じられる。
それは、私たち魔導士にとって死の宣告に等しい「状態異常」。
こいつの前で30秒も魔法が使えなければ、こいつは私を一体何回殺せるだろうか。
そうなって初めて、私は気が付いた。
こいつ、最初からこれが目的だったのだと。
「0」
はい。カウントダウン終了。
「あー、しんどかった。あんた調子に乗りすぎよ。これだからまともなPvP経験の少ない奴はスペック高くても雑魚だって言われんのよ。だいたい、【耐性】取得しておかないとか舐めプにも程があるっつーの」
まあ、そのためにわざわざクワトロの情報と交換までして解析組に情報を遮断させたんだけどね。
【ブリューナク・イミテーション】
光そのものに槍の概念を付与した魔術兵装。敵対した相手に「封魔」効果付与
こいつがこのスキルを知っていたら、ほぼ間違いなく私と戦う前に【封魔耐性】は取得してたでしょうね。
「……殺しなさいよ」
「うん。一応そのセリフは良く私の方が言えって言われるけどね。ま、いいわ……」
投げてしまった槍の代わりに取り出したのは、バルガたちから渡された槍。
うん。流石にここまで来て追加で煽るのはなしね。
「……ごめんね……たっちゃん……」
やっぱやめ。前言撤回。
「謝るなら、リアルで本人に面と向かってからにしなさい。このおバカ」
すとん、と。刺した感触もなくオーヴを貫いた槍は、兎が光になって消えた後にもまるで何事もなかったかのように鈍い光を放っていた。
「で、どう? 負けた気分は」
「……もう喧嘩を買う気力もありません。好きになさってください」
おーおーぶんむくれてるわ。
ただまあ、PvPで少しは感情の発散はできたのかしらね。
「はいはい。それじゃ、約束通り新藤君と愛利栖ちゃんはうちのクラスのBEOオン会参加ね。当然私も行くわ」
「……どうぞご自由に。私はオーヴのキャラクターを消して辞めますので」
「何言ってんのよ? 誰がそんなこと許すと思ったわけ?」
このクソガキ、ちゃっかり一番楽な手段に逃げてんじゃないわよ。
「アンタは、新藤君や妹ちゃんと一緒にまっとうにゲームできるようになるまで引退禁止よ。散々まわりに迷惑かけまくった後なんだから、マイナスからリスタートするもんだと思いなさい。さしあたって、アンタもうちのクラスのオン会参加よ? いいわね?」
……あら、面白い顔ね。埴輪かしら?
大体、本来の目的も達成してないのに放り出すんじゃないわよ。これでやっと、珠樹が本来描いた計画に戻せたんだもの。
迷惑行為については、新藤君が常に一緒になる以上必然的に考えないといけない課題だからね? 私もそう偉そうに言えたわけじゃないけど、ちょっとアンタの無差別っぷりは流石に目に余るわ。
……ま、最もあのゲームの住人にそんなうだうだ考えるようなのもあんまりいないけどね。そもそも全員PKみたいなもんだし。
「……それは、許してください。もう、たっちゃん……新藤君とゲームで……あ、会いたく……ありません。あの子が……他の人と一緒にいるのを見るのは……嫌なんです」
「……あのねぇ……というかよ。あんた何でそんなに不安がってるの?」
「……え?」
……なんだろう。すごくイラっと来たんだけども。
「そもそもよ。どうして新藤君と妹ちゃんが、貴女以外の人と交流したらあなたの傍から離れるだなんて思うのよ? 常識的に考えなさい?」
「……だって……だって! 私みたいな我儘で嫉妬深くていつもたっちゃんや愛利栖ちゃんに迷惑ばっかりかけてるダメな姉なんて! 普通に考えたら嫌われて当然じゃないですか!」
……what?
「私が悪い事なんてわかってます! 発生させたマイナスをプラスに転じるまで行動で態度を示せというのも理解できます! でも――」
「だあああああっ!! デモもストもあるかああああああっ!!!」
くっっっっそめんどくさいわこの子! 何? 何なの? 改めて直面すると幼稚園児か何かなのこいつは!?
そもそも! 自分以外が眼中にないレベルで惚れさせてる相手に何言ってるのよこいつは!
「―――決めた。私がPvPで勝った時の約束、まだ言ってなかったわよね?」
「は? でもそれはVRオン会の――」
「Shut up! いい? 貴女敗者。私勝者。オーケー?」
あー、なんだろう。もう帰ってゲームしたい。そういえばフォレストウルフロード倒してなかったわね。気晴らし代わりにアレでも狩るかー。
ごめんね妹ちゃん。ちょっと予定変えるわ。
妹ちゃんは、面倒くさいことになるから新藤君を直接珠樹に接触させない方向で行こうとしてたみたいだけど、この勘違い娘を一発で矯正させようと思ったらもうあの子使うしかないわ。
「そんなに新藤君に会いたくないのなら、ちょっと今から新藤君を振ってきなさい」
どうせ教師に生徒をボコさせるっていう荒療治使った後よ? もう一つくらいショック療法やっても一緒よね?
というか、私のストレス耐性的に無理だわ。
傍から見てもわかるレベルなのよ? 彼がこの娘にぞっこんで惚れこんでることくらい。
あんたが振ろうとしたところで、あのマイペース君がうなづくわけないでしょーが! 殴る壁は用意しておくから自分がどれだけ好かれてるのか思い知らされてくるがいいわ!
と、いうわけで拒否権はないからね? 爆ぜろこのおバカ娘。
ご覧いただきありがとうございます。
7/4 一部改訂




