星の降る丘で、貴女と
第26話です
授業終了の終礼も終わり、固まった肩を伸ばします。
2時間目が終わったところではありますが、今日はやたらと長く感じますね。
それもこれも、昨日姉さんに部屋に乱入されて延々泣きつかれたのを宥め続けていたせいでしょう。
まさか、ゲームであんなことになってしまうというのは誤算でした。とりあえずもうあの称号は表示させず、シャルロッテさんにも会わないという事で終わりましたが、いつまた再発するかわかりません。
……少し、気に入っていたのですがね。仕方ありません。ゲームは引退することにしましょうか。宿題を8倍速でできないのは痛いですが、姉さんを泣かせるよりはずっとマシで――
「あ、新藤君。ちょっといい?」
「はい。何でしょうか」
えっと、確かクラスの委員長をやっていただいている方でしたかね。あまりお話したことが無いと思いましたが、一体なんでしょうか。
「新藤君って、BEOやってるって本当? 実は俺もやってるんだ」
「ああ、そうなのですか。奇遇ですね」
まあ、人気のゲームと聞きますし、同じクラスに一人や二人やっている人間がいたところで不思議でもないでしょう。
「なあ、新藤って種族何でやってんの? 俺リビングアーマーなんだけどさ」
「あ、俺アライブコープス。所謂ゾンビだよ。メイン狩場どこ? 今度一緒にハンティングしない?」
委員長さんの後ろから、今度は二人――ええと、何と仰いましたっけ? まあ、個人名は今は重要ではないでしょう。
「僕はリザードマンです。今はトーレの近くの荒野にいることが多いですね」
「「リザードマン!?」」
うわびっくりした。皆さん声をそろえて叫ばないでください。少し驚きます。
「リザードマンって、ひょっとしてめちゃくちゃデカいアバターの!?」
「背中に折れた刀とでかい大太刀背負ってる奴かよ!?」
「こないだ見た時は赤い鱗だったと思うけど、ひょっとしてあのリザードマンが新藤君だったの?」
「ああ、そうですね。たぶんそれ僕だと思います」
あ、そういえば少し掲示板で話題になっていたと聞きました。
正直、姉さんの件のほとぼりが冷めるまで少し放置しようと思っていましたし、そもそもウーノにはほとんど行きませんからね。関係ないとばかり思っていました。
「え! 嘘! あの赤いリザードマンさんって新藤君だったの!?」
あれ、今度は逆方向から声がかかりました。愛利栖ちゃんの席近くでたむろしていた生徒からですね。
「私もやってるの! ねえ覚えてる!? 黒狼の森で動けなくなってた私とベッキーを街道まで連れてきてくれたよね! あの時はありがとう!」
「もー! やってるならやってるって言ってよー、水臭いなー」
黒狼の森で……? ええと、そんなことありましたっけ?
……あ、そういえばドラゴン呼ばわりされてものすごく怯えられた覚えが――
「あ……ああ、その説はどうもすみません。称号切ってませんでしたから、怖かったですよね」
「へ、何で新藤君が謝るの?」
「恐怖……え、もしかして、「解析組」のHPにあったあの【狼の天敵】って称号持ってるの、新藤君!?」
あ
ええと、ゲームの中じゃないからセーフですかねこれ?
「あ、すいません。これ売り払った情報でしたから、ゲームの中では御内密に……」
「ああ、その辺任せろって。俺ら結構経験長いしな」
「まあ、「解析組」の情報なんてすぐに更新されるしな。陳腐化したらむしろ広めてもいいくらいだぜ」
「あのなあ……俺一応「解析組」所属なんだから大声で言うなよ。あ、そうだ。新藤、うちのギルマス――ワンニャン姐さんが、今度また話がしたいって言ってたぞ。次ログインしたら連絡してくれってよ」
ええと、彼は……河田? いえ川畑君でしたかね? まあ、どちらでもいいのでしょうけど、ワンニャンさんのお知り合いだったんですか。
ああ、そういえばクワトロの情報はやり取りしましたが、できればもう一度クワトロに行って城下町を探索してほしいと依頼されていましたね。
……むう、でもあれはお断りした方がいいでしょうか。
「あれ、新藤もBEOやってんのかよ。ひょっとしてこのクラス、先生含め全員やってんのか?」
「あー……あれ、これ企画倒れになったVRオン会できんじゃね?」
はい?
「いや、新藤がVRゲームやってる姿って想像できなくてよ。他のやつらは何だかんだで全員やってたから、VRゲームの中でクラス皆でつるんでみるのも楽しそうだなって話してたんだよ」
「そうそう。俺らクラス全員でも15人しかいねえじゃん? リアルじゃ都合つかなかったりすることも多いし、だったらゲームの中なら結構簡単に行けんじゃねって思ってさ」
……ええと、クラスのみんなで、ですか。
……ふむ。
……そうですね。ガレスさんたちと一緒にウーノに向かって旅をしたのは楽しかったです。
ユーヤさんやミーシャさんがくだらないことで漫才のようなやり取りをしている様子を見るのはとても面白かったですし、ペコさんに初めて防具を作ってもらえた時は嬉しかったですね。
あれ、なんででしょう。
なんで、僕あの人たちのこと、こんなにはっきり覚えているんでしょうか。
クラスの皆さんの事は――うん。申し訳ないですが、正直半分も名前がわかりません。
でも、彼らは紛れもなく僕の知人です。
ガレスさんたちは、面識すらない赤の他人だったのです。でも、あれほど楽しかったのですよ。
そんな彼らと一緒に遊べたら――ひょっとして、もっと楽しいかもしれませんね。
「どうよ、週末当たり皆でオン会しようぜ!」
あ、でも
姉さんが泣くのは、嫌ですね。
「と、いうわけで、私と辰也が参加しても問題ないでしょ? お姉ちゃん」
「 そうね。 校則に違反しないのなら、問題ないんじゃ ないかしら? 程ほどに ね」
生徒会室の、扉を開く。
正直、もう何もしたくない。
あの状況で、私に他に何を言えというのよ。
クラスメイトの有象無象共に囲まれているたっちゃん。BEOの話題でやたらと盛り上がるゴミ共に、たっちゃんは相槌を打っている。
あんなに、楽しそうに。
誘わなければよかった
一緒にいたいだなんて、思わなければよかった。
私は結局、自分の我儘に潰された。
彼らがしていたのは、只の他愛もないおしゃべりだ。
その中で、クラスメイト全員でVRゲームを使ってオン会――つまり一緒に遊ぼうという話になっただけだ。
たまたま、そう。たまたま全員が同じゲームで遊んでいるから、クラスの親睦を深めるために遊ぶというだけだ。
それに参加したいという妹の意見を、私がどんな理由で拒絶できるというの。
愛利栖ちゃんが参加するなら、当然たっちゃんも参加する。
これだって、私が拒める理由がない。たっちゃんを独占したくても、学校の中で優等生の私がそんなことが出来るものか
そこに、たまたま同じゲームをプレイしている担任教師が引率がてらつきs
「嵌めたわね……阿婆擦れ」
「人聞きが悪いわね。たまたまじゃない。偶然よ。これ」
聞いて呆れるわ。たまたま、今までBEOをプレイしていなかったクラスメートまで同時に始めたとでもいうつもり?
「まあ何とでも言いなさいな。どう? 自分の望みがかなった気分は」
違う。
私はこんなこと、望んでいない。
「違わないわよ。貴女は、自分の独占癖が異常だってことくらい自覚してたんでしょ。だから、仮想現実の世界からでも慣れさせようとした――――新藤君と妹ちゃんをわざわざ誘う理由なんて、それ以外にある?」
違う。
たっちゃんも愛利栖ちゃんも私の物だ
私だけのものだ
お前たちなんかに、お前なんかに渡さない
「だって、単純に時間加速効果だけなら他のゲームでもいいはずなのに、そうでもないのなら何でMMORPGなんて選んだのよ貴女?」
煩い
煩い煩い煩い煩い
「ま、今の貴女にこれ以上言葉をかけても無駄ね。なら――いいわ。チャンスをあげる」
「……何をくれるというのよ。私が欲しいものなんて、あんたたち全員いなくなってたっちゃんと愛利栖ちゃんだけが私とずっと一緒に――」
「ああ、じゃ、それでいいわよ」
あっけらかんと、
こともなげに
あいつは哂っていた
「ただし、今から私にPvPで勝てればね」
「ふざけているの? ここは学校よ? 校則にはゲーム機能の使用の禁止規定に――」
「馬鹿ねあんた。校則の適用条件は教師が認めれば除外できるのよ」
あの阿婆擦れが表示させたのは、私が今言った規則の除外要件。
「だいたいねえ、この学校の中だけのルールなんて教師がいつでも都合よく変えられるわけ。頭硬いわよ?」
フザケルナ。
それは頭を使ってるんじゃない。只のルール違反よ。
私が、どんな気持ちであんなくだらないルールを後生守ってきたのかも知らないくせに
「知りたくもないし知る気もないわ。御託はいいからさっさとかかってきなさいよ――クソガキ」
ええ、いいわよ
貴女を叩きのめして、私は―――――
ふぅ
うん。いやちょっと、かなり、相当、ね。
やりすぎたかしら? 悪役ロールプレイ。
いやー。珠樹を上手くこっちに乗せるために妹ちゃんと相談しながらやってみたけど、ちょっと覿面に効きすぎたわこれー。
妹ちゃんが「……先生、なんでそんなノリノリなんですか?」って若干引いてたけど、こちとらロールプレイはお手の物よ? 騎士姫様舐めちゃだめよん?
ま、冗談はさておきっていうか、冗談言ってたら本気でPKされるわこれ。
うん。妹ちゃんの言う通り。
アレ、真正面から相手しちゃダメな奴だわ。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねええええええええええっ!!!! さっさと私の前から消えてなくなれえええええええっ!!!!!」
いやー。あんな絶叫カマしながら全属性の最大級魔法、それぞれ10発づつ無詠唱で連撃してくるのよあの子。
いやほんと、ここが荒野で良かったわ。視界の大半が魔法効果で消し炭にされていくんですもの。一体いくつの魔法を同時に使ってきてんのよこの災害娘。
「あんたなんかいらない! あんたなんか! たつやによくも! ころしてやる! あとかたもなくけしてやる!!!」
うんうん。殺意がひりひり伝わってくるわ。語彙力なくすレベルでキレてるのねホント。
ってそんな悠長に言っとる場合じゃないわよこれ。
【早駆け】【クイック】の二重掛けでAGIを280%追加。さらに【極限集中】で反応速度を跳ね上げても、魔法と魔法の間隙がない。
成程ねぇ。完璧に同じタイミングで撃ってるわけか。いやー、何というか、魔法にも性格って出るのねえ。
オーヴが放つ魔法の一発一発が、荒野の地形を変えていく。
そこらにもしモンスターやプレイヤーがいれば、とりあえず彼らの運のなさを恨んでもらうしかないわね。
正直予想はしてたけど、実際戦ってみるとβ時代より数段凶悪になってたわこの殲滅兎。
あ、ちなみに妹ちゃんからこっそり殲滅兎のステータスデータ貰ってるけど、これ笑いしか出ないわね。
アバター オーヴ
種族 ヴォーパルプリンセス
レベル 42
職業 魔導姫
HP 128
MP 17467
STR 59
VIT 118
AGI 710
MAG 3312
LUC 188
スキル
【白魔術Ⅵ】【黒魔術Ⅶ】【時空魔法Ⅱ】【召喚魔法Ⅳ】【付与魔法Ⅲ】【無差別】【魔導の心得Ⅳ】【破滅の魔眼Ⅲ】【MP自動回復Ⅷ】【最大MP増大Ⅵ】【詠唱破棄Ⅶ】【多重詠唱Ⅸ】【並列思考Ⅵ】【魔術陣Ⅷ】【連立魔導式Ⅷ】【魔力強化Ⅷ】【見切りⅣ】【調薬Ⅱ】【錬金Ⅱ】【鑑定Ⅴ】【看破Ⅳ】【シックスセンスⅧ】【クラウンオブファンタズムⅤ】【ヴォーパルストライクⅣ】【アルス・マグナⅡ】
魔法
【ブレイズカノン】【メルトウォール】【マジックブースト】【フレア】【アイスコフィン】【ダイヤモンドダスト】【コキュートスゲート】【ゼロシフト】【バーストゲイル】【ストームサンクチュアリ】【エリクシールリメイク】【テュポーンライズ】【アースクエイク】【メテオ】【グランドボルケーノ】【リザレクション】【デス】【メガヒール】【ストップ】【完全物理無効】【カラミティ】【スターダストターミネーション】etc……
称号
【魔導兎】【殲滅者】【女神殺し】【アークエネミー】【上位種族】【災害】【魔王】
よし、どこのどいつだこのラスボスよりもひどい化け物に喧嘩売ろうって言ったやつ!
ハイ私です。ちょっと後悔してます。
いや、確かに要所要所のステータスでは私の方が上だけどさ。いくら何でもこれはひどくない? 4桁ステータスに5桁のMPとか何をどうやったのよこいつ。MAG極振りってレベルじゃないわよ。
なお、相手のMP切れとか狙おうかなって思いもしたけど、秒間1000以上回復する基地外じみたMP自動回復の前に早々に諦めたわ。
と、いう訳で。持久戦という選択肢は最初からなし。むしろこっちから仕掛けないと速攻で詰むわねこりゃ。
まさか、こんなところで特殊クエストの経験が生きるとは思わなかったけど。
私に殺到してきた、触れれば即死の魔法群。それら一切を――【薙ぎ払い】
いやまあ、正確には【薙ぎ払い】を同時に複数回発動させてさらに【ブレイクファンタズム】乗せただけだけどね。いやー。馬鹿みたいに時間差無しで魔法撃ってくるもんだから、同じタイミングの範囲攻撃で魔力削りきれれば、全部まとめて消せるって楽よねー。
「……何を……したのよ」
「何もくそも、あんたの魔法を切り払っただけよ」
確かに魔法威力はケタ違いだけど、この程度の数を同時使用する相手との戦闘は――それこそ嫌というほどやったわね。
「終わりかしら? まあ、何度撃っても同じことだけどね」
最も。何度も打たせるほどこっちは余裕ないのよ。
AGIのバフが消える前に、【ソニックチャージ】【ディバインランス】のセットで一気にオーヴとの間合いを詰める。
増加分を考慮すれば、実にAGIの差は2倍。音速以上で駆け抜ける私の速度に、オーヴ自身は反応できていないわ。
けどまあ、こいつがそんな簡単に負けるようなタマなら苦労しないのよね。
「……相変わらずバカみたいな速度ね。やっぱり罠貼った方が楽だわ。アンタ相手には」
「ったく、良い性格してるわよアンタ。さぞかし新藤君に好かれるでしょうね!」
突撃の過程で【ソニックチャージ】に【ブレイクファンタズム】を付与して貫いた【魔術陣】は、およそ30基。
問題は、それが壊されること前提で配置されていたせいで、その周囲に設置されていた200を超える【魔術陣】から一気に私目がけて迎撃用の魔法をぶっ放されたこと。
そう、これこそがこいつの本来の戦い方。
広域殲滅魔法の連発などという、わかりやすい攻撃方法は只のブラフ。
【魔術陣Ⅷ】
魔法を術式として封入し、任意の条件式を与えることで発動させる魔導技術。スキルレベルにより術式変換効率上昇。
【連立魔導式Ⅷ】
魔術陣に付与する条件式を複数同時に発動させる魔導技術。スキルレベルにより発動効率上昇。
無数の【魔導式】を組み込んだ大量の【魔術陣】を城砦のように自身の周囲に張り巡らせた、云わば高機動型魔法城砦。
「……最悪。これだから本職の魔導士って嫌いなのよ」
「奇遇ね。私も散弾銃目の前で撃ってほとんどの弾を切り払うような真似する変態は嫌いよ」
流石にそこまでひどくないわよ? 多分。
再び【早駆け】【クイック】【ブリンクステップ】も追加。こうなったら、片っ端からこいつの魔術陣を引っぺがすまでよ。
「無駄よ。はがされたところでまた設置すればいいだけだもの。そんなことより――ま、いいわ。死ね」
あ、やばい。
【気配察知】の警告は「空から」の脅威。
【スターダストターミネーション】
其れは天から降り注ぐ災厄。絶滅の星は一切を灰塵と帰す。
この中二病めいた説明書きの通り、私とオーヴは天から降り注ぐ無数の流星雨に飲み込まれた。
一発一発がアイツの使ってきた広域魔法より少し低い程度の威力。それが、さっきの【魔術陣】からの一斉射撃なんて目じゃない数で降り注いでくる。
その上、アイツが性格悪いのはここからよ。
自分が設置した【魔術陣】をわざと流星雨で壊して、明後日のタイミングから私に攻撃を仕掛けてくるわけよ。普通に魔法撃つだけじゃ飽き足らないわけアンタ。
あ、ちゃんと自分で魔法も撃ってきてるからさぼってるわけじゃないわね。少しはさぼりなさいよ。
つまり、今の私は流星雨と【魔術陣】からの魔法を避けながら【魔術陣】を壊して、その壊した【魔術陣】とオーヴが自分で壊した【魔術陣】からの攻撃もさばいて、その上でさらにオーヴ本体からの魔法を回避してるわけね。
と、ここまで説明すればわかると思うけど。余計なこと考えたり喋ったりしてる余裕まるでないわけよ。
「……嘘でしょ。人間じゃないのこいつ?」
失礼ね災害娘が。現在進行形でフィールドの地形を月面に変えてる化け物に言われたくないわよ。
思考回路の大半を回避行動へのリソースにつぎ込みながら、私はカウントダウンが始まったことを確認する。
それじゃ、使っときますか。【ブリューナク・イミテーション】
さあ、詰めに行くわよ問題児。
ご覧いただきありがとうございます。




