過剰なサービスは無用な諍いを生む原因だと思うのです
第20話です。
おはようございます。日曜日です。
朝の日課を済ませて、さて今日はどうしましょうかね。
濡れた髪をタオルで拭きつつ、自室に戻ると――
「おっはようたっちゃーん。さあゲームしようぜぃ」
「遅かったわね。もう準備できてるわよ」
バタム
ふう。
仕方ありません。リビングでドライヤー使いましょう。
ですが、踵を返す前にドアの中から伸びた4本の腕に引きずり込まれました。
朝っぱらからホラーは要りません。
「ゲームなら自分の部屋からログインすればいいじゃないですか。なんでいちいち僕の部屋にたむろするんです」
「えー。だってたっちゃんまだウーノに来れないじゃない。ログインしたって一緒にいられないなら現実の方で一緒にいるしかないよネ♪」
酷い理由のつけ方です。
「ていうか辰也。あんた今どの辺まで来たのよ? もうトーレには着いたの?」
「そうそう! お姉ちゃんたちそろそろ待ちくたびれちゃうぞぉ! ていうか、待ちきれなくてトーレまで来ちゃった♪」
おおう……そういえば今日までにはウーノにつくようにと言われていましたよね。ハハハオボエテイマシタトモ。
しかし、トーレですか。まあ、クエストをクリアすれば行けるようにはなりますし問題はないでしょう。
「もう少しでクエストが終わりますから、それが終わればウーノでもトーレでも行けるようになります。もう少し待っててください」
「……クエスト? あれ? たっちゃんどこかの町にいるの? 町の外で受注できるクエストなんてあったっけ?」
「ああ、じつはかくかくしかじか……」
この一週間に起こったことをかいつまんで説明します。荒野で迷ってバグに巻き込まれて、結果クワトロの町に飛ばされて閉じ込められて現在進行形でボスをぶっ飛ばすクエスト中……。
あ、だんだん愛利栖ちゃんの目がジト目になってきました。これは呆れられているやつですね。
「……で? そのもう一体のボスを倒せばクエストがクリアできて、転移できるようになるってのはいいけど。そもそもそれ、勝てるの?」
「うーん……そこが問題なんですよね。一度状態異常がまぐれ当たりして倒すことが出来たはずなんですけど、結局クエストクリアにはなりませんでしたし」
「……魔法使って勝たなきゃいけないのかしら? 辰也は――そもそも魔法使えないわよね」
「ええ、もう一人の方も物理主体なので、少々手詰まりになってはいます」
「はあ、お姉ちゃんみたいなバ火力でもいればよさそうだけど……あれ? お姉ちゃん?」
そういえば、姉さんがさっきから一向に会話に入ってきませんね。
……あれ、なんだかうつむいてます。
「ねえ、たつや。そのもう一人の名前って、「シャルロッテ」って言わない?」
「え、何で知って――」
「いいそれいじょうそのおんなにちかづいちゃだめだからねぜったいだめだからねおねえちゃんとのやくそくよできればふれんどもきりなさいいやきるのよおねがいきってたつやのそばにいるのはありすちゃんとおねえちゃんだけでいいのたつやのことなんにもしらないくせにわたしのものだってことしらないくせにちかづきやがってそのうえたつやのそばになんにちもいっしょにいるとかあのあばずれみつけたらぶちころしてやるりすきるしてやるちょっかいかけないようにいっておいたのにあのくそばばあふざけるなたつやはわたしとありすちゃんのものだからねぜったいだからねそれいがいのやつなんてゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない……」
「お、お姉ちゃんステイ! 落ち着いて! 誰も辰也を取らないから!」
「落ち着いて姉さん! ハイ分かりました、わかりましたから! 姉さん大好きです愛してますお願いですから落ち着いて―!」
で、少々すったもんだもありましたが、なんとか姉さんを宥めすかして無事にログインです。退避とも言います。
というか、ハイライトの消えた目で吐息がかかるくらいの至近距離でアレやられると僕が持ちません。
僕が一番怖いものと言えば、まちがいなくああなった状態の姉さんです。
……兎に角です。クリアできたら適う限り急いで転移することにしましょうか。あの様子からどうもβテスター時代に知り合いだったみたいですしね。火種は小さいほうがいいでしょう。
「あ、おはようシンくん。今日は早いのね」
「おはようございますシャルロッテさん。……もう戦ってきたんですか」
「ええ。でも駄目ね。さっき上手く「封魔」が効いたんだけど、そのまま撃破してもクエストが進まなかったわ……うすうすわかっていたことだけど、何かのギミックを解除しなきゃいけないみたいね」
ああ、やっぱり駄目でしたか。
そうなると無策で挑戦し続けても時間の無駄というものです。それに、一刻も早くこのクエストをクリアしてトーレに行かないと、最悪の場合姉さんがこっちに来てしまう恐れさえあります。
なんでしょう、このダイナマイトの導火線に火をつけられてじりじりと燃えてくる様子を見つめながら、暗号付きの解除ボタン探しているような感覚。
とはいえ、あまり焦っても仕方がありません。時間の制限はありますがあくまで落ち着きましょう。
まずは現段階でわかっていることを整理するため、お互いに情報を提示しあいます。
そういえば、こうしてシャルロッテさんのステータスをまじまじと見るのは初めてかもしれません。
アバター シャルロッテ
種族 セントールプリンセス
レベル 40
職業 騎士姫
HP 2364
MP 170
STR 393
VIT 293
AGI 625
MAG 330
LUC 187
スキル
【ラピッドピアースⅧ】【薙ぎ払いⅦ】【デッドエンドⅡ】【ソニックチャージⅥ】【セントールキックⅤ】【ブレイクファンタズムⅣ】【早駆けⅨ】【気配察知Ⅶ】【神聖魔法Ⅲ】【HP自動回復Ⅴ】【MP自動回復Ⅱ】【時空魔術Ⅱ】【ノーブルバロールⅢ】【ベルセルクホーリーⅡ】【グランドクロスⅣ】【ディバインランスⅤ】【ノーブルテンペストⅣ】【毒耐性Ⅰ】【麻痺耐性Ⅰ】【宮廷作法Ⅶ】【鑑定Ⅳ】【看破Ⅱ】【採集Ⅱ】【指揮官Ⅱ】【ブリンクステップⅣ】【極限集中Ⅱ】【ソニックカウンターⅦ】【マジックカウンターⅨ】【セイントウォールⅣ】【ブリューナク・イミテーションⅧ】
魔法
【ヒール】【ホーリープロテス】【リザレクション】【クイック】
右手装備 セントールオーダースピア
左手装備 聖十字の騎士剣
頭 プリンセスクラウン
胴 ノーブルオーダーメイル
脚 ミスリルセントールレガース
足 ミスリルホースシュー
装飾1 王権の指輪
装飾2 騎士姫のイヤリング
称号
【尚武の騎士姫】【最速の姫君】【魔王殺し】【一騎当千】【流派:騎槍術】【上位種族】【英雄姫】
やっぱり僕の助け要りませんよねこれ。というか一人でほぼ完結してますよねシャルロッテさん。
「でも、生産スキルも碌に取ってない完全脳筋型ビルドよこれ。まあ、キミも同じようなものだけど」
「余計なお世話です。僕の場合他に選択肢が無いんだから仕方ないじゃないですか」
話がそれました。僕の能力値よりもサイラスさんへの対策です。
「そういえばバルガ師匠のところでクエストが終わった時、サイラスさんと話ができるようになったんです。シャルロッテさんは今までサイラスさんとお話したことってあります?」
「うーん……イベントみたいな会話は数回あったかな? でも、特に変わったことはなさそうだったなあ」
とりあえず、お互いがサイラスさんと会話した内容を出し合って確認してみました。
僕の方は、姫様――つまりシャルロッテさんの護衛としてやっていけるだろうという内容で、シャルロッテさんの方はと言うと……
「私の方はお転婆なお姫様に小言を言う爺やみたいな感じだったわね。種族の王家がどうとか、宮廷作法がなってないとか……ああ、そういえばそのせいで取らされたんだったわ。【宮廷作法】」
すごくげんなりした表情になっていますね。よっぽど面倒だったのでしょうか。
「ホント最悪よ。お辞儀の角度とか歩くテンポとかそんなどうでもいいことまで一々口出してきて……あー、思い出したらまたむかっ腹立ってきたわあの偏屈爺」
「ま、まあまあ。そういう役割なんですから仕方ありませんよ。……あ、そういえば少し疑問だったんですけど、サイラスさんって何の種族なんですかね?」
「え? サイラスの種族?」
「はい。バルガ師匠はドラゴンでした。サイラスさんは、見た目は只の人間のおじいさんですが、このゲームって確か人間いない設定の世界なんですよね? だから――シャルロッテさん? どうしました?」
どうしたんでしょう、目を見開いてます。
「……え。あれ。まさか、え、うそ。それじゃ今まで私何やって……ちょっと行ってくるわ!」
ものすごい速度で駆け出していきました。一体何を思いついたというのでしょうか。
と、唐突にメッセージが流れてきました。
《クエスト 騎士姫の試練 ~助っ人編~ をクリアしました》
《各町へのポータル機能が解放されます》
「ふ、ふふふふふ、やったわ……やったけど……ちょっと自分のおつむが心配になって来たわホント……」
「お、お帰りなさい。えーと、おめでとうございます?」
「ふふ……ありがと。でも、本当に助かったわ。サイラスの種族のことなんて今まで全く考えてなかったもの」
……どういうことでしょうか? サイラスさんを攻略するのに必要なのは種族の情報だったという事なんですかね?
「ああ、当たらずとも遠からず。ね。要は、あのサイラスを魔法だけで打倒する必要があったのよ」
「ええ、それは何となくわかってましたけど、それこそどうやったんです? シャルロッテさん攻撃魔法一つも持ってませんよね?」
「そうね。でも、攻撃魔法を使わなくても倒せる相手もいるのよ」
ぱーどぅん?
「はいはい頭の上にクエスチョンマーク浮かべない。つまりね、サイラスはその手段さえ使えるのであればもっと簡単に倒せる相手だったってことよ」
【最強?】不死者スレ3【最弱?】
1.名無しのゾンビ
ようこそ。ここはBEOの種族のうち、不死者と呼ばれるカテゴリーの種族たちが集うスレだ。
マナーを守って今日も墓場で運動会だ!
2.名無しのゾンビ
よくある質問
Q1.不死者って何
A1.固有スキル【不死者】を持っている種族のことだな。主にスケルトンやゾンビ、ヴァンパイアやリッチのような種族が該当するぞ。
Q2.どんな特徴があるの?
A2.スキル【不死者】の説明を読もう! 共通の特徴としてはそれが全てだ。念のために下に張っておくぞ。
【不死者】
パッシブスキル。デスペナルティ効果反転。夜間全ステータスに増加補正。「蘇生」効果のある魔法・スキルを受けた場合強制的に戦闘不能。【白魔法】【神聖魔法】「ポーション」による回復が反転。【暗黒魔法】によるダメージで回復。【即死】攻撃により完全回復。
Q3.戦闘中に倒されたんだけど蘇生できないじゃんどうするの
A3.HAHAHAそこにリスポーン地点があるだろう? 走れ同士! メロスのように!
3.名無しのゾンビ
総合質問スレ
http://************************
種族関連スレ
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スキル関連スレ
http://************************
4.名無しのゾンビ
テンプレ終わり。さあ語れ同士。
「これはひどい」
「掲示板なんてどこも似たようなノリよ」
いえ、そういうことではなくてですね。サイラスさん【不死者】だったんですか。ということは……
「そ、私が使える【リザレクション】一発で終わったわ。……ほんと、何で今まで気が付かなかったんだろ私」
まあ、とりあえず突っ込んでいくっていう戦法ばっかりでしたしね。というか今まではバルガ師匠が一緒でしたから魔法詠唱している暇すら与えられなかった可能性もありますけど。
「でもまあ、これで晴れてクエストクリアよ。なんか最後締まらなくなっちゃったけど、本当にありがとうシンくん」
「いえ。僕こそ色々お世話になりました。これで僕もやっとトーレの町に行けます」
……そうですよね。結局ゲームを始めてからすでに10日以上経過しているのに、いまだにまともに町を歩いたことがないのです。クワトロではいきなり連行されましたしね。
「そういえば、初期装備より酷いもんねシンくん……いや、改めてよくそれでバルガのスキル打倒できたわね。実はキミ、〇ルクか何かじゃないでしょうね?」
「僕がハ〇クならシャルロッテさんはワ〇ダーウー〇ンでしょうか?」
「はははこ奴め。よーしお姉さんとちょっとPvPしよっか」
謹んでお断りさせていただきます。自殺願望はありませんので。
そうしていると、不意に教会の扉が開いてバルガ師匠とサイラスさんが入ってきました。
お二人ともシャルロッテさんの前で跪くと、一本の美しい槍を差し出しました。
「姫様。よくぞ我らの試練を乗り越えられました。もはや姫様の旅の道行きを止める者はおりませぬ」
「されど、御身が尊き身であることは不変。せめてもの援けに、この槍をお持ちください。必ずや姫様のお役に立ちましょう」
おお……特殊イベントという奴ですか。装備を一つ頂けるとは、実に羨ましい話です。
僕も早く街に行って装備を整えませんとね。……いい加減半裸から卒業したいです。
「小僧。お前にもだ。お前の力はいまだ未熟。しかし、姫様の護衛獣を名乗るのであれば、相応の力を持つがいい」
ふわっ!? 僕もですか!?
バルガ師匠が僕に差し出してくれたのは、ひと振りの大太刀でした。斬馬刀よりも細かい装飾はされていますが、その武骨さでは変わりません。
「お前の持っている刃はいまだ折れてはいない。だが、それだけでは戦えぬ時も来るだろう。精進するがいい」
「ありがとうございます。お言葉通り、腕を磨いてきます」
《称号【騎士姫の護衛獣】を獲得しました》
あれ?
「ありがとう二人とも。この槍に恥じぬよう、私は私の護衛獣と共に世界の闇を払いましょう」
え、ちょっとまってくださいなんでいきなりロールプレイ始まってるんですか? うわ、ちょっと待って体が勝手に動く!
いきなり自分の身体の操作権を奪われた僕は、シャルロッテさんの後についてそのまま王宮を後にします。そして――
「では、行きますよシン。まずは最前線の要塞都市 ウーノからです」
まってー! 僕トーレに行きたいんです! 動いて僕の身体―!!
「シン様。依頼の達成、お見事でございます。僭越ながらこのままウーノまで送らせていただきたいと存じます。アフターケアも万全ですよ。なにせ私、ラスボスですので」
どこか遠くで、いらんことしてくれやがったラスボスさんの声が聞こえた気がしました。
ご覧いただきありがとうございます。




