たかが倒した程度で終わると思ったか?
第19話です。
想定外の事態が発生したときに、まず重要なこととは何でしょう。
まず、この「想定外」という言葉の定義ですが、大まかに三種類ほど考えることが出来ます。
一つ、本当に、予測もできていなかった事態
一つ、予測こそできていたが、発生可能性を考慮した場合対策の除外となった場合
一つ、予測できていたが、その対応を行うための制約から、対策の上限を引き下げて対策しなかった場合。
さて、これらの「想定外の事態」を、事前の準備具合によって回避できるのであればそれに越したことはありません。
ですが、それでも起きてしまった場合。まず最初に必要なことは――
「とりあえず、落ち着きましょうシャルロッテさん」
「だってだってだって!! クエストが進んだのよ! これが落ち着いていられますか! もーシンくん最高! 大好き! 愛してる!」
目の前でハイテンションになられてしまっては、こちらとしては冷静にならざるを得ないというものです。
いや、僕の方もスキルが進化したり変化したり称号が増えたり、さっきからバルガさんと会話できるようになったりと変わりまくってアレなのですが。
あ、なんだかすごい勢いでファリエルさんとワンニャンさんからメッセージが届いています。シャルロッテさんから何か伝わったんでしょうかね?
とりあえず僕自身まだ整理できていませんので、落ち着いたら改めてご連絡する旨を伝えましょう。
「はー、でもまさか倒さなくてもよかったなんて思わなかったわ。これであとはサイラスに認めさせればオーケーってことになるわね」
「そうなんですか? ええと、僕の方はクエストの記載内容特に変わってないんですけど、シャルロッテさんの方は変わってるんです?」
「ええ、こんな風になってるわ」
***特殊クエスト 騎士姫の試練 ***
古都クワトロで王立魔導団長サイラス:Lv100と決闘し、自らの力を示せ。
報酬:称号【真理の騎士姫】 10SP
成程確かにバルガさんの記載がなくなっていますね。ということは、あとはサイラスさんと戦えばいいという事でしょうか。
「そういうことね。ふふふ、まさか2段階のクエストとは思わなかったけど。称号もSPも取れたし結果オーライよ! ほんとシンくんありがとねー」
今僕が戦闘したのにシャルロッテさんが報酬貰ったんですか? それはまた、ええと。おめでとうございます?
「さあ! そんじゃちょいとサイラスはったおしてくるわ! まっててねー」
はい。行ってらっしゃい。
それじゃ僕はステータスの更新でもしましょうか。もう職業を「狂戦士」にしておく必要もありませんし、教会で変更してきましょう。
と、いうことで、整理してみました。
アバター シン
種族 リザードマン
レベル 27(+1)
職業 護衛獣
HP 5037(+4294)
MP 0
STR 263(-88)
VIT 321(+275)
AGI 134(+43)
MAG 210(+196)
LUC 0
スキル (余剰SP:26)
【豪剣Ⅰ】【スケイルナックルⅧ】【ヘヴィシュートⅧ】【テイルアタックⅥ】【末那識Ⅰ】【龍鱗装甲Ⅳ】【HP自動回復Ⅷ】【水中行動Ⅱ】【毒攻撃Ⅲ】【毒耐性Ⅲ】【麻痺耐性Ⅲ】【剛体Ⅳ】【グレンデルロアⅢ】【逆鱗Ⅰ】【ハウルオブフューリーⅡ】【ブレイクファンタズムⅠ】
右手装備 折れた斬馬刀
左手装備 なし
頭 なし
胴 なし
脚 レザーレギンズ
足 なし
装飾1 なし
装飾2 なし
称号
【決闘者】【狼の天敵】【七転八倒】【流派:龍剣術】
【ブレイクファンタズムⅠ】
実体のない存在を物理攻撃によって撃破する狂戦士の奥義。スキルレベル上昇により威力上昇。
【末那識Ⅰ】
パッシブスキル。第六感の外にあるものを感知する。物理攻撃による有効対象が拡大。スキルレベルにより効果上昇。
【流派:龍剣術】
最強種、龍の力を宿した豪剣を振るう者に与えられる称号。龍剣技を習得可能。体格により全能力に追加補正
ふふふ、HPがついに5000を超えました。これならキンスラ複数匹と我慢比べしても結構いいとこ行けるんじゃないでしょうか?
狂戦士の職業補正で紙同然になっていたVITも激増して復活しましたし、これで今まで以上に戦えそうです。MAGの方もかなり上がりましたから、いまならサイラスさんの魔法もある程度受けられそうな気もしますね。
それにしてもよくわからないのはこの【流派:龍剣術】という称号です。龍剣技というものを習得できるという事なのですが、SPで取得できるスキルにそれらしきものは追加されていませんでした。
ひょっとして、これから刀を振ったりしていけば習得するんでしょうか?
あ、そういえばバルガさんとお話しできるようになりましたし、そのあたりを含め聞いてみてもいいかもしれませんね。
そういえば先ほどの戦闘以来会話できるようになりましたので分かったことなのですが、バルガさんの種族は正真正銘のドラゴンだったそうです。もどきの僕とは違ってちゃんと角も翼もあるんですよ。
僕もあと角と翼が生えたらああなるんでしょうか? いや、あまり気は進みませんが。
あれ、となるとサイラスさんは何の種族なんでしょう? 見た目は只のおじいさんなんですけどね。
そんなことを考えていると、真横に憔悴した表情のシャルロッテさんが死に戻りしてきました。
……あー、負けたんですね。
「うう……なんでよぉ。バルガと一緒だった時の方がまだ対応できたわよあんの爺ぃ……」
「ええと、つまりサイラスさんは無詠唱で初手から魔法を連発してくるようになったと……」
「それだけなら【ブレイクファンタズム】でどうにかなるのよ。問題はあいつに物理攻撃やスキルが全く効かなくなってることなのよぉ!」
「えっと……それこそ【ブレイクファンタズム】でダメージが……ひょっとして入らないんですか」
「初手で【完全物理無効】なんていうふざけた魔法使ってくるのよ。おかげで魔法以外効かなくなってジリ貧よ」
なるほど。魔法ですか。
はい、お手上げです。
「そうなると僕完全に要らない子ですよ? なんせMP0ですから」
「うう、そこは『僕が貴女の盾になります』ってかっこよく言うところよシンくん」
ふむ、そうですか。姉さんに言う時の参考にしましょう。なかなか言う機会はなさそうですけど。
「はあ……せめて『い〇つくはどう』みたいなスキルがあればいいのに……」
「……なんでしたっけそれ……ああ、たしかかかっている魔法を無効化するってやつでしたか」
「そうよ。今SPで取れるスキルにそんな効果のあるスキルはないし、かといって相手に「沈黙」や「封魔」の状態異常付与しようとしても上手くいかないし……」
「沈黙」なんていう状態異常もあるんですね。まあ、僕には関係のなさそうな状態異常です。何しろ最初から魔法が使えませんしね! 悔しくなんてありませんから!
「とりあえず僕が行ってみたところで解決策にもならなそうな気もしますけど、転職もしましたのでちょっと試運転がてら胸を借りてきます。何か試しておくようなことありますか?」
「うーん、今はまだ何も思いつかないわ。とりあえず、私も一度ステータスを整理しないといけないし、自由にやられちゃっていいわよ」
「……『ところで、倒してしまっても別に構わんのだろう?』ってセリフがありますよね」
「あるわねえ」
「今、言うべきなんでしょうかそれ?」
すみません。サイラスさんをほぼ一方的にボコボコにする結果になってます。
おかしいですね。ただ初手で【ハウルオブフューリー】使っただけなんですが。
ものの見事に【完全物理無効】の魔法を使われる前に恐怖とスタンが両方かかったせいで、あとは一方的に僕のターンです。
「おかしくないですか? 今まで一度たりとて成功しませんでしたよこれ? もうちょっとこう頭を使って戦うとかそういう展開をですね」
「いいからトドメ差しちゃいましょ。ほらほら、やっちゃえバーサーカー」
もうバーサーカーは卒業しましたよ。
「すみません。こんな形になってしまって……後で謝ります。」
【グレンデルロアⅢ】発動。VITをSTRに上乗せします。これで、実質STRは狂戦士だった時を大きく上回りました。
ここまで上げれば、流石にサイラスさんの防御位は貫けます。
全力の【スケイルナックルⅧ】を叩きつけると、サイラスさんのHPは全損しました。すると――
あれ? 何も起こりませんね?
「……ちょっと待ちなさいよ。サイラス倒したじゃない。なんでクエストがクリアできないのよおっ!!!」
おお、お姫様がお怒りです。しつこく運営に抗議メールを連打してるみたいですね。
でも、これでクリアにならないのは何となくわかります。
「だって、倒せとは一言も書いてませんでしたからね。多分サイラスさんが使う魔法を何とかして無効化するとかしないとクリアにならないんじゃないでしょうか」
「ぐぬぬぬぬ……どうしろっていうのよこんなのおおおっ!!!」
お城の中にお姫様の悲痛な叫びがこだましました。
「も……もう、無理。ちょっと今日は……落ちるわね。また、明日ね。シンくん」
「あ、はい。お疲れさまでした」
あれから、シャルロッテさんはひたすらサイラスさんに挑戦し続けましたが、結局解決の糸口は見つかりませんでした。
シャルロッテさんは固有スキルとして「魅了」と「沈黙」の状態異常を付与する【ノーブルバロール】というスキルを持っているそうなのですが、それを発動させても一向にサイラスさんには状態異常がかかるように見えません。
あ、それと僕ももう一回戦わされましたが、やはり前回のあれはまぐれ当たりでしたね。結局物理攻撃を無効化されて一方的にやられてしまいました。
そういうわけで、シャルロッテさんがサイラスさんに挑戦し続けている間僕が何をしていたかと言うと――
「気の練りが甘い。龍の全身とは兵器と同義である。己の気迫もまた兵器と化せ」
「はい、師匠」
バルガ師匠の指導の下、龍剣技の習得訓練です。
いや、実はあのあとバルガさんに話しかけてみたところ、剣技を教わるクエストが発生したのです。
***一般クエスト 龍の剣技を学べ ***
古都クワトロで王立騎士団長バルガの指導を受け、龍の剣技を習得せよ。
報酬:2SP
これ幸いと入門し、そのまま師匠の指導を受けることになったという話ですね。
バルガ師匠はその見た目に反して非常に物静かな方でした。
いや、最初に技を教わるときこそ体で覚えさせられますのでデスペナ必至の超スパルタなんですが、それ以降はこうして僕の反復練習を確認し、修正するところを指導してくれています。
それにしても、この龍剣技は非常に特殊な剣術ですね。確かに剣は使うのですが、あくまでそれは龍の闘気を纏わせる媒体としての活用でした。
ですので、折れた斬馬刀でもスキルを使えば――
【龍気斬Ⅰ】
アクティブスキル。龍剣術の基礎となる技。スキルレベルの上昇により威力・攻撃範囲増大。
折れる前以上に刀として自由自在に使うことが出来るのです。なるほど、ラスボスさんのおっしゃっていたのはこういう事だったんですね。
「上出来だ小僧。今の感覚を忘れるな。それが我が龍剣術の基礎であり、奥義の一つと心得よ」
《スキル【龍気斬Ⅰ】を取得しました。【豪剣Ⅰ】に上書きされます》
《クエスト 龍の剣技を学べ をクリアしました》
ふふふ、やりました。徒手格闘も悪くはありませんが、やっぱり僕は刀振り回すほうが好きなのです。
バルガ師匠は満足げに頷いていました。
「お前は呑み込みが早い。筋も悪くはない。……そうだな。次はお前がもう少し先に進んだころに来るがいい」
「おお、するとまた新しい剣技を教えていただけるという事ですね? その時はぜひよろしくお願いします師匠」
「当然だ。お前には姫様をお守りする役目があるのだからな。ゆめゆめ忘れるなよ」
あ、はい。そういう設定なんですか。
「ふふふ、君が付いているのなら頼もしいが、姫様ご自身はまだまだだねえ」
「何だ、来ていたのかサイラス」
おおう、いつの間にいたんでしょう。ていうか、いつのまにサイラスさんまでお話しできるようになったんでしょうか?
「まぐれとはいえ、この私を打ち破って見せたんだ。私は君が気に入ったよ少年」
「珍しいな。貴様が生者を認めるか」
「心外だねバルガ。私は強者には生死問わず敬意を払っているにすぎんよ。最も、私はより智者を貴ぶ傾向にあるのも事実だがね」
な、なんだかNPC同士でえらく人間臭い会話が成立しているような気がします。NPC同士だから、とも言えるかもしれませんね。
……あれ? なんでしょう。なんだか違和感が。
「えっと、サイラスさん? ちょっとお伺いしたいことが……」
「では、私は失礼させてもらうよ。明日もまた姫様にお付き合いせねばならんからねえ」
話の流れを叩き切られました。やっぱりNPCでしたね。会話が成立すると思った僕は何度やれば気が済むんでしょうか。
はあ……なんだかどっと疲れた気がします。今日は僕もログアウトしましょう。
……はあ、明日までに姉さんを迎えに行けるんでしょうか僕。
ご覧いただきありがとうございます。




