とあるお城のお姫様(設定年齢17歳)
第15話です。
ラスボスさんに転送された先は、如何にもヨーロッパの古い街並みといった風情の町でした。
たしか、古都クワトロと呼んでいましたが、成程確かに建物がかなりの年季の入った物ばかりに見えますね。
「……お姫様を助けろと言われても、何のことやらさっぱりです」
とりあえずクエスト受注履歴を確認したところ、内容は以下の通りでした。
***特殊クエスト 騎士姫の試練 ~助っ人編~***
セントールプリンセスの試練を手助けし、彼女を救え。
報酬:ウーノ転移陣解放権
ドゥーエ転移陣解放権
トーレ転移陣解放権
4SP
おや、何気に報酬にSPが追加されていますね。ラスボスさんが少し色を付けてくれたのでしょうか。
兎に角、ここで気になるのはセントールプリンセスという単語ですよね。
セントール……ケンタウロスともいう半人半馬の神様でしたっけ? こういう知識は愛利栖ちゃんが得意なので今度聞いてみましょう。
そのお姫様の試練ということですが、そもそもクエストタイトルが騎士姫の試練になってますね。
ひょっとしてあれですか? 馬上試合でもやるんですか? 僕が乗れるような馬なんて想像できないし無理だと思いますよ。
……僕が乗せる側になるとかじゃありませんよね?
しかし何にせよ情報が足りません。こういう時は――
『すみませんファリエルさん。今ちょっとよろしいですか?』
『おや、シンくんじゃないか。勿論大丈夫さ。どうしたんだい?』
『実は、いまクワトロの町にいるんですがクエストをやる羽目になってしまいまして』
『……何でまたそんなところに。いや、まあそこは置いておこう。総合ギルドで受けるクエストかい?』
『いえ、じつはかくかくしかじか……』
『……と、いうわけでして』
『……シンくん……それ、他の誰かに言った?』
『いいえ、まだ誰にも伝えていません』
『そうか。おそらくすごく特殊なクエストだから、公表は控えたほうがいいよ。とりあえず、そのクエストを進めなければいけないんだね?
よし、分からないことがあれば何でも聞いておくれ。情報のことでならいくらでも協力しよう』
『ありがとうございます。それで早速なんですが、このセントールプリンセスという単語について、何か心当たりはありますか?』
『……そうだね。一人、心当たりはあるよ。彼女は――』
『ありがとうございました』っと。
うん。やはり頼るべきは情報屋さんですね。お代はこのクエストの詳細な内容と交換で構わないと仰っていただけましたから、しっかり調べていきましょう。
「それにしても、シャルロッテさん……ですか」
ファリエルさんから伺ったその方の名前は『シャルロッテ』
βテスター時代に二人しか存在しなかった『上位種族』のうちの一人であり、おそらく一対一の戦闘においては――
「βテスター最強ですか。そんな人に僕の助けなんているんでしょうか?」
まあ、考えていても仕方ありませんね。
とにかく、シャルロッテさんを探すところから始めましょう。
「シンという名のリザードマンは貴様だな? 少々我々に同行してもらうぞ」
……えぇと。
誰ですか。僕を通報したのは。
僕まだ何もしてないじゃないですか。情報収集のために総合ギルドの扉をくぐっただけじゃないですか。
どうしていきなりギルドの中にいた全身鎧の兵士さんたちに取り囲まれなければいけないんでしょう?
というか、また貴方ですか傭兵さん。至る所にいるんですね。
「あの、すみません。できれば事情をご説明いただけると……」
「我々に同行してもらうぞ」
NPC相手にまともに会話が成立すると思った僕が浅はかでした。
いえ、確かに特殊な設定をされたNPCの中にはほとんど人間のような受け答えをする方もおられるそうですし、現にラスボスさんもそうでした。
……あの人の場合はひょっとしたら中の人とかいるのかもしれませんが。
とにかくここで抵抗してもあまりよい事にはならないでしょう。ただでさえ僕はモンスターに近い外見なのです。善良なリザードマンであることをアピールしないとどこで躓くかわかりません。
……手錠とか縄とかで縛られなかっただけ、マシだと思うべきなんでしょうか。
「……ここって所謂、謁見の間ってやつなんでしょうか?」
傭兵さんたちに連れられるまま、僕はクワトロの町の大通りを通り抜け、ひときわ大きなお城の中に連れてこられました。
てっきり留置場か取調室のような場所に連行されるのかとびくびくしていたのですが、通されたのはきらびやかな装飾が施された何とも立派な大広間です。
床には赤い絨毯。部屋の奥には玉座こそありませんが、数段高くなっています。
僕を連れてきた傭兵さんたちは、いつの間にかとても見栄えのいい全身鎧に着替えていますね。本当、どんな早着替えでしょうか。
「姫様の御前である。頭を垂れよ」
傭兵さんたちの一人が告げました。
はい。わかりました……と言っても、僕が跪いて頭を下げてもまだ周りの傭兵さんたちより視点が高いんですよね。
そうしていると、奥の高段に誰かが入ってきました。
その人は、とてもきれいなドレスにも似た鎧を身にまとっていました。
その人は、輝くような金色の髪を靡かせていました。
その人は、テンポよく蹄の音を鳴らしながら、ゆっくりと入ってきました。
「ご苦労。お前たちは下がってよい」
その女性のセントールさんの一声で、僕の周囲にいた傭兵さんたちは一礼して部屋を後にしました。
とりあえず、ですね。
「ええと、シャルロッテさんでよろしいでしょうか? 頭上げてもいいですか?」
「ああ! ごめんなさいごめんなさい! せっかく来てくれたのに!!」
うん。なんとなく感づいてましたけど、ロールプレイご苦労様です。
「ええと、初めまして。多分ご存知かもしれませんが、リザードマンのシンと言います」
「こちらこそ。セントールプリンセスのシャルロッテよ。こんな呼び出し方をして本当にごめんなさいね」
大広間に腰を下ろして自己紹介です。ええ、僕はまともに座ることのできる椅子なんてありませんし、シャルロッテさんはそもそも4本脚です。
……動くの大変そうですね。本当に。
「貴方のことはワンニャンから聞いているわ。私に関連したクエストを受けてくれて本当にありがとう」
「いえ、それより……本当に僕の助けなんて必要なんですか? その、シャルロッテさんはものすごく強いと聞いているのですが」
「……そうね。確かに、βプレイヤーで私とまともに戦える相手なんて数えるくらいしかいなかったから、それなりに強いと思うわ。でも、このクエストは一人ではほとんど不可能なのよ」
シャルロッテさんはそう言うと、自分のクエスト表示を展開しました。
***特殊クエスト 騎士姫の試練 ***
古都クワトロで王立騎士団長バルガ:Lv100及び、王立魔導団長サイラス:Lv100と決闘し、自らの力を示せ。
報酬:称号【尚武の騎士姫】
10SP
……は?
「クエスト内容はこの2人を倒すこと――悔しいけど、今まで全く歯が立たなかったのよ。そもそも決闘って銘打ってるのに1対2って酷いと思わない?!」
「ハイソウデスネ」
それ以前に何ですかこのレベル。両方ともクソ犬の倍のレベルじゃないですか。1対1でも嫌ですよこんなの。
だいたい僕の決闘の経験といえば。あのクソ犬のAIの動作不備を利用してハメ殺そうとしていたところを、無理やり一対一に持ち込みまれたという奴ですからね。そもそも、あまり褒められた戦い方じゃないかもしれません。
「と、いうわけでシン君には私と一緒に彼らと戦ってほしいの」
拒否権は――ありませんよねわかってました。いいでしょう。多少の肉壁くらいにはなってみましょう。
「そう思っていた時期が……僕にもありました……」
半ば以上自棄になって挑んだ結果、騎士団長さんの範囲攻撃スキルで切り刻まれた上に、魔導団長さんの魔法の連打を浴びてほぼ瞬殺されました。足止めにもなりませんごめんなさい。
案の定、シャルロッテさんも集中攻撃で撃破されています。
「シン君……貴方ひょっとしてものすごくレベルが低いの?」
「ええと、今19になったところです」
「……どうやってそれでここまで来たのよ。職業は?」
「…………無職、です」
「……オーケー。とりあえず職業の進路相談から始めましょう。……なんでまたゲームの中でまでこんなこと……」
ああ、仕事の安請け合いなんてするものじゃありませんね。本当に……
『そうか。ちゃんと彼と合流できたか。そいつは何よりだ。』
『ええ、でも、本当に来てくれるとは思ってなかったわ。本当にありがとう、ワンニャン』
『私が彼に依頼したわけじゃないさ。その子はたまたまそこに行くことになったから、ちょいと伝手を頼まれただけだ。感謝ならあの子にしてやってくれ』
『ええ、でも、これでやっと少し光明が見えてきたわ。まさか、種族固有スタートにしたらこんな罠があったなんて……』
『くくっ、まあ、記録だけはきちんと頼むぞ。今回の報酬はそれで相殺にしておこう』
『あら? それは流石にぼったくりすぎじゃない? ま、どちらにせよクエストがクリアできないと私はクワトロから出られないし、クリアした後にゆっくり話しましょうか? 商人さん』
『ああ、首を長くして待ってるよ姫様。シンくんをよろしく頼む』
ダイレクトメッセージを終了させ、私は商談が進んだことにほくそ笑む。
シンくんの居場所がわからなくなって数日、あの時無理やりでもウーノに叩き込んでおけばよかったと後悔しきりだったが、思わぬ展開になったものだ。
「シン君はうまくシャルロッテさんと合流できたようですね。これで、騎士姫が攻略に参戦できる目途が立ちましたか」
「まったくだ。やれやれ、あのお姫様め。寄りにもよって超高難度エリアの町に初期配置されるとかどんな悪運引くんだか。おかげでまともに到達すらできやしない」
古都クワトロ――現状、トーレの住人から情報のみで確認できている都市。
その周辺エリアの敵の平均レベルは40。
キングスライムと同等レベルの化け物たちを突破した先にようやくたどり着ける魔境だ。
「殲滅兎ならワンチャン突破できたかもしれんが、あいつが私の依頼を受けるとは思えんしな」
「無理でしょうね。それにたとえ突破できたとしても、彼女がシャルロッテさんと素直に協力するとも思えません」
ふむ。まあ、それもそうか。あいつは特にシャルロッテを嫌っていたからな。
もっとも、嫌われ具合で行けば私とファリエルも視界に入った瞬間PKしに来るだろうが。
まあ、ここにいない奴の話などどうでもいい。それより商談の話だ。
シン君が何故あの魔境にいるのかはわからないが、そんなことは些細な問題だろう。
「騎士姫を上手く引きずり出してくれれば御の字だが、上手く宣伝すれば彼の値段も更に上がるだろうな。本当にいい子だよ。シンくんは」
現状でも「キングスライムをほぼ完璧に抑え込める謎のリザードマン」の情報は、私が彼に支払った対価などはした金になるような値段で売れている。
「シンくん」個人の情報こそ売り渡すことはないが、あれだけ目立ったプレイヤーは生産職にとっては格好の広告塔だ。ほとんど初期装備に近かったこともあり、特に刀鍛冶のマゴロクの食いつきっぷりは凄まじかった。
直接の情報以外にも、『鋼の守護者』に売ってやった【ダメージカットスキル】による【アシッドレイン】の無効化の情報は、アイツらのギルド資産の半分近い価格で吹っ掛けてやれた位だ。もはや笑いが止まらん。
「そのせいで『鋼の守護者』による護衛受注クエストが増えていますね。生産職にとっては護衛が依頼しやすくもなりますし、いい環境です」
「稼がなきゃいかんからなあ……黒鉄やエクレールは今てんやわんやだろう?」
「ええ、『鋼の守護者』から依頼された大量の【ダメージカット】効果のあるアクセサリーや防具を作るために東奔西走ですよ。おかげで素材の価格も高騰しています」
……ああ、やはりあの子はいい。最高だ。実に、金の生る木だ。
「素材集めのクエストをさらに追加で出しておくか。新規の初心者組は当然だが、ガレスやヴァイスあたりにも受けさせておけ。こんな稼ぎ時を見過ごす手はない」
「勿論。たまには、貴女も出ますか?」
「阿呆。頭が現場ばかりに感けてどうする。大体、私の本体を放置しすぎると女神に何をされるか分かったもんじゃない」
私が手に入れた三人目の『上位種族』は、このゲーム最悪のペナルティ称号と引き換えだった。
故に、私の本体に戦闘能力は無く、おいそれと外に出ることさえ適わない。
カルマ値が本当に最悪になると、世界そのものから嫌われるからな。
しかし、対キングスライム用のプランに合わせたアバターは調整しておくべきか。
シンくんに会うために調整して作った『ルー・ガルー』の私も、アレ以降使っていない。どうせならあれを使うのも一興だな。
「それは失礼。では、私は引き続きシンくんへのサポートを続けましょう。彼から上がってくる報告はどれも興味深いものばかりだ」
「ああ、頼んだぞ。あの子は大事なお客様だからな」
ご覧いただきありがとうございます。
なお、この回で折り返しとなります。
おまけ
本編に関係はありませんがワンニャンの持つペナルティ称号です。
【欺神の魔】
ソレは、真なる女神の敵対者。神さえ欺いたものに与えられる称号。故に世界はこれを認めず。
全ステータスを0倍化。
全NPCとの絶対的な敵対状態へと強制移行。
一般フィールドにおいて継続スリップダメージ。
PvP拒否設定無効
被ダメージ10000倍化
スキル【アバタークリエイト】行使可能。
スキル【魂魄譲渡】行使可能。
アバター死亡時本体に強制連結ダメージ。




