安請け合いはトラブルのもと
第14話です
野生動物の狩猟と、人間の狩猟は何が違うでしょうか。
おそらく、最も違う点とは「道具」の使用方法にあるのではないかと僕は考えています。
そもそも野生動物には道具は必要ないのかもしれません。確かに彼等には人間にはない鋭い爪や鋭利な牙、強靭な肉体が備わっています。
ですが、見方を変えてみればそれらは自らの身体に備えられた「道具」と見ることもできるでしょう。
人間の場合を考えてみますと、確かに動物のような爪や牙、強靭な肉体はありません。
ですが、無数に存在し、また新しく作り出す「道具」を自由自在に使うことが出来ます。
決まったものを決まったようにしか使わない動物と、そもそも使い方から自由に決められる人間。
この差は隔絶したものと言えるでしょう。
「……ええ、ですので折れた斬馬刀の峰で撲殺しても問題ありません。ないんです」
ええ、りろんぶそうはかんぺきですとも。ですから僕は貴様らとは違うれっきとした文明的リザードマンです。
「ええと、ドロップアイテムは……ふむ。初見ですね。持っておきましょう」
【亀の爪】 レア度:コモン
陸亀の鋭い爪。簡単な工芸品の材料になる。
【水の魔石(細)】 レア度:コモン
水棲の魔物が落とす魔石の欠片。簡単な魔道具の材料になる。
【砕けた甲羅】 レア度:コモン
陸亀の甲羅の欠片。簡単な衣類や防具の材料になる。
正直インベントリの中の狼素材を捨てるに捨てられず死蔵している上に、戦う敵ほとんどが初見のアイテムを落としてくれますので荷物の管理が大変なのです。
こういう時に貧乏性な性格が恨めしいですね。
とりあえず、この荒野に来てからというもの蛇に亀、猪に鹿、熊と大蜥蜴、鷲に幽霊もどき等と繰り返し交戦してきました。
結論としては、十分戦えますね。幽霊もどきだけ殴れるのか心配でしたが、ちゃんと殴ったら死にました。安心です。
森を出てからはや2日。明日は土曜日ですので少々夜更かしもできそうです。できれば今日のうちにトーレの町にたどり着いておきたいところですが……
マップの片隅に何やら表示が浮かんでいますね。ああ、これはワンニャンさんからいただいた補助ツールの効果ですか。町から一定範囲内に入ったらその方向を示してくれるようです。
でも、おかしいですね。
「……南東って聞いてたんですけど、このマーカー北東の方指示してますね」
ひょっとして街を通り過ぎたんでしょうか? まあ、マップの方位磁針だけを頼りに移動していましたから、多少ずれてしまっていたのかもしれませんね。
ですが、こうして目印が出たのならなお安心です。さっそく向かうことにしましょう。
歩くことしばらく。途中で邪魔なモンスター共を駆除しながら順調に進んでいくと、荒野の丘の上から何やら西洋風のお城の様なものと、その周囲に広がる町が見えてきました。
かなり広くて大きな町です。ウーノの町のような要塞じみた城壁などはなさそうですね。
そういえばワンニャンさんが、ウーノの町は悪魔との戦いの最前線だと言っていました。さしずめ、ここは後方の大拠点なのでしょう。
丘を下り、町に近づいていくごとにだんだんとNPCらしき住人の数が増えていきます。
……むう、やはり【狼の天敵】は切っておいた方がよさそうですね。ただでさえこっちをぎょっとした目で見られています。無為に騒ぎを出したくはありません。
市街地にまで入ると、かなりの数の住人たちが歩いています。旧世代のRPGとかだとこうした人たちに片っ端から話を聞いて回るのがセオリーですよね。
「おい! そこのリザードマン! 止まってくれ!」
はい。僕のことでしょう。指示にはきちんと従いますよ。僕は善良なリザードマンですので。
見れば、僕の後方から鎧を身に着けた集団がやってきました。
あれ、よく見たらこの人たち、ワンニャンさんが召喚していた傭兵さんたちと同じ姿ですね。使いまわしのNPCさんなんでしょうか。
「何か御用でしょうか?」
「ああ、身分証明書を見せてくれるか?」
……はい?
え、そんなアイテムあるんですか? 御覧の通り半裸でして、持ちものと言えばあとは魔物の素材位……
はい。すみません。十分不審者ですね。職務質問不可避でしょう。
こういう時はおとなしく協力するのが最も効率的にことを済ませる手段だと、元警官のおじいちゃんも言っていました。
ですがとりあえず、わからないことは質問からですね。
「すみません。身分証明書とは何でしょうか?」
「身分証明書を持っていないのか? なら、ここは通せない。転移陣は向こうの噴水のところだから、そこから帰りなさい」
……えぇ……?
「すみません。実は僕、まだここ以外の町に行ったことがないのです。なので転移陣は使えないと聞いています」
「身分しょ――」
いきなり、時間が止まったように鎧の傭兵さんたちの動きが止まりました。
《システムエラーが発生しました。フラグ不成立。コード21020919726AC7》
《GMに通告。受理。順序バグを認定。フラグ処理を一時解除します》
……えっと、なんでしょうかこれは
ひょっとして、バグを引き当ててしまったんでしょうか僕。
「……君の身分が確認された。引き留めてしまってすまないね」
「え、あ、はい。お勤めご苦労様でした」
NPCの庸兵さんたちはそのまま帰っていきました。ひょっとして、この街本当は入るのに何かアイテムが必要なんでしょうか?
「失礼。シン様ですね?」
「へ? あ、はい」
唐突に名前を呼ばれたので振り返り――なんか今日こんなのばっかりですね。どうしてみんな僕の背後から近づくんでしょう。
「先ほどは大変失礼いたしました。少々ご説明したいことがありますのでお時間を頂戴できますでしょうか」
そう言ってこちらを見上げているのは、タキシードを着た山羊頭のキャラクターでした。
「あ、はい。あの、失礼ですが貴方はどなたでしょうか?」
「ああ、これは失礼しました。私、このゲームのラスボスでございます」
「は?」
ええと?
ラスボス?
ラスボスってあれですよね? 最後のダンジョンで3段階くらい変身するというアレ。
「ええ、そのラスボスでございます。まあ、今は一介のメッセンジャーの機能しか持ち合わせておりませんのでご安心を」
「は、はあ……」
ダメです。思考が追いつきません。これどうすればいいんでしょう? とりあえず目の前の自称ラスボスさんを殴り殺しておけばいいですか?
「はっはっは。確かに貴方様のお力なら今の私くらいなら殴り殺せますが、ゲーム自体の進行には影響いたしませんのでご遠慮いただきたいところですな」
ところで、さっきから気になってたんですが。
この人、僕の思考読んでません?
「ええ、勿論。なにせ私、ラスボスですので」
とりあえず、そうすることが正しいような気がしたので殴っておきました。
「いやはや、流石のリザードマンの豪拳ですな。HPを一撃で全損させられたのは久々でしたよ」
うん。頭砕いたはずなんですがぴんぴんしてますね。もう気にするのは止めましょう。
ラスボスさんに促されるまま向かったのは、僕が余裕を持って入れるほど大きな作りの酒場でした。
なんとイスやテーブルまで僕サイズのものがあります。驚きですね。
「ここ、交易都市セッテは大陸中からの物資を集積し、ウーノに送る大拠点ですからな。貴方様のような大きな体の種族もそう珍しくはありません」
「へえ、そうなんで……ちょっとまって、今町の名前なんて言いました?」
「交易都市セッテ、ですな。まさかこんな早々に見つかってしまうとは私どもも想定外でした」
……全然違う町じゃないですかぁ!!
聞けば、このセッテの町はまだデータの開発中で、仮の設置場所としてプレイヤーが立ち入る可能性のほぼないこの地点に置いていたところ、僕が迷い込んできてフラグ処理を進めてしまったという事だそうです。
……その、ごめんなさい。
「いえいえとんでもございません、元はと言えばワールドデータを杜撰にいじくっていた開発連中の失態ですからな。ですので、申し訳ございませんがシン様にはこの後、セッテからご退出頂くことなります」
それは仕方のない事です。だいたい、まだできていない町に入ったところでどうにもなりませんしね。
とりあえず、また荒野を歩く羽目になるんですね……はぁ。
「ふむ……ひょっとしてシン様はトーレかクワトロに向かうことをお望みでしたか?」
「途中通過点ですけど、トーレに向かうつもりでした……」
「ふむ。方向が全然違いますな」
言わないでください。あのまま南東に進み続けてればよかった……。
「くっくっく……実に面白い。まさか道に迷ってここに来られるとは。よくまああの荒野で生き抜けたものです……ふむ」
ラスボスさんは何か気が付いたような表情になりました。
「いえいえ、折れてしまった武器を随分大切にされているのですね」
「あ、ええ。その、代わりがなかったっていうのもあるんですけど、捨てるにも忍びなくて……」
「いえいえ……そうですな。これくらいならルール違反でもないでしょう。その刀、まだその機能は失われておりませんよ」
……何言ってるんですかこのラスボス?
「ぜひ大切になさいませ。……さて、名残惜しいところですが時間も近くなってきましたな。では……ん?」
ラスボスさんが何やらメッセージを打ちだしました。何かの業務連絡でしょうか?
「……あー。シン様、不躾で大変申し訳ないのですが、一つクエストを受けていただいても宜しいでしょうか?」
「クエスト、ですか?」
「はい。お恥ずかしいことに、私共の想定通りに進んでいない事案が一つございまして……お急ぎとは思うのですが、一度古都クワトロにお立ち寄り頂きたいのです」
むう、寄り道ですか。
姉さんたちを待たせている現状、あまり気は進まないのですが……。
「お受けいただいた場合、クエスト終了後にウーノの町に転送できるようデータの修正を行わせていただきたいと思います。勿論、トーレとドゥーエへのフラグもあわせて修正しておきましょう」
「やります」
むしろやらない理由がありませんね。クワトロで一つ仕事をすればウーノですよウーノ。
「ご快諾いただき誠にありがとうございます。では、早速転送を」
「あ、ちょっと待ってくださいそういえばクエストの内容は――」
ラスボスさんが指を鳴らすと、いきなり体を光が覆い始めました。
まずいです。仕事の内容を確認していないとかどんな凡ミスですか。
「ああ――お姫様を一人、助けてきてください」
「は?」
追加質問は受け付けてくれませんでした。
どうやら、また選択肢を間違えたようです。
ご覧いただきありがとうございます。




