急がば回れというけれど
第13話です。
再び一人旅に戻ってしまいました。
「さて、辰也? 言い訳を聞こうじゃない?」
「……面目次第もございません」
ニコニコとした笑顔が非常に恐ろしいです愛利栖ちゃん。現実にステータスがあるならば、僕は今恐怖の状態異常が掛かっていることでしょう。
うどんの食券を購入してカウンターへ。出した瞬間丼に冷凍うどんが入った状態で出てくるあたり、食堂のおば様たちの練度はすさまじいものがあります。
「辰也は私と約束したよね? 連休中にウーノに到着するって。私頑張ってお姉ちゃんが過剰に暴走しないように抑えてるのに、辰也はそんなに私のストレス耐性をテストしたいの?」
「もう愛利栖ちゃん、たっちゃんイジメてもしょうがないでしょ」
「……辰也が来るのを邪魔したからって理由でキレて、北平原にいたプレイヤーをキングスライムごと吹き飛ばしたのはどこの誰よ」
「むう、あのスライム結構しぶといのよね。ちゃんと準備しないとお姉ちゃんでも倒しきれないもん」
「そうじゃなくて! 他のプレイヤーさんごと攻撃するんじゃないわよ!」
あいも変わらずの姉妹喧嘩ですね。愛利栖ちゃんのツッコミゲージが尽きるのも時間の問題かもしれません。
冷凍うどんをテボ網で温めて、蛇口から出汁を投入。ネギと天かすを少々放り込んで見慣れたかけうどんのできあがりです。おっと七味は忘れないようにしませんと。
食堂のテーブルに戻ると、珠樹姉さんも愛利栖ちゃんもすでに昼食の準備を終えていました。二人とも今日は定食なんですね。
白身魚に箸を伸ばしながら、愛利栖ちゃんは現状の整理を始めます。
「まあ、そこのポンコツお姉ちゃんの事はさておきよ、北平原がまともに通れなくなっちゃったのは困るわよね」
「ええ、なにしろ何時行ってもキングスライムがうじゃうじゃ湧いてますから。流石にあれは突破できません」
黒狼の森を抜けたら、そこには無数のキングスライムが出待ちしているのです。あの後、単独での突破を試みましたが、初手で【スライムフレア】を何十発と食らう羽目になって、敢え無く湖畔に死に戻りました。
どうやらあのキングスライムは増殖する第二形態になると、あの平原にいる全てのプレイヤーと同じ数にまで増えてしまうそうです。その上、フィールドにいるプレイヤー達が全滅しない限り、増えたままの状態で居座り続けるようなのです。
全く、数を頼みにするとは卑怯極まりないですね。
ぞぞー。
「だからぁ。私があのフィールドのプレイヤー全部PKしちゃえば解決……」
「もうお姉ちゃん黙っててイチゴあげるから。そもそもよ。辰也がやらかさなきゃ皆競ってキングスライムを召喚しようとしなかったわけよね? つまりこれ、あんたの自業自得じゃない」
「流石にそこには反論したいところです。ああなるだなんて想像できるはずないじゃないですか」
実は現在、『Beast Eden Online』では空前のボスアタックブームになっていました。
今までは、キングスライムがあまりに隔絶して強すぎるためになかなか全力で挑戦するプレイヤーが集まらず、ボスアタックそのものが滅多に実行されなかったそうです。
ですが、僕が実際にやってしまったことが、キングスライム対策に大きな影響を与えてしまったのです。
キングスライム第一形態は、相手の触手をすべて抑え込めばほぼ完封させることが可能である――
キングスライム第二形態の打倒方法はまだ手探りですが、あの後僕のやり方をまねて第2形態まで到達させたプレイヤーたちがいたそうです。
そして、これが何より重要だったのですが。
「『ボスキャラはたとえ勝てなかったとしても、与えたダメージ量に比例して大量の経験値を取得できる』かぁ……そりゃダメもとでいいから突っ込むわよね」
そういうことです。最初から勝つつもりはなく、とりあえず相手が大人しい第一形態の間ひたすらに殴っていれば、通常の狩りの何十倍もの効率でレベルやスキルが成長していくという事でした。
おかげでウーノ北平原では、ほぼ常にキングスライムの召喚が行われ続ける事態になってしまったわけです。
「まあそれはさておき、こうなると困るのは私たちの合流についてよ」
その通りです。あのキングスライム共が居座り続ける限り、僕はウーノに近づけなくなってしまいました。
おかげで森の中を彷徨っていたら、通りすがりのプレイヤーの女の子たちに怯えられたり新種のモンスター呼ばわりされたりと大変でした。
「方法としては、ドゥーエって町に行ってそこからウーノに転移するって方法があるらしいわ。お姉ちゃん、これはできる?」
愛利栖ちゃんも色々と調べてくれたようです。ですが、姉さんは渋い顔のままですね。
「……無理ね。都市間転移は行ったことのある街にしか行けないもの。そもそもウーノに来たことのないたっちゃんは、ドゥーエに行けたとしてもウーノに転移できないのよぉ」
まあ、そうですよね。行ったことのない街にまで行けるのなら、最初から敵が滅茶苦茶強いところに行ってスパルタ式レベリングなんてこともできてしまいます。
「なら、黒狼の森を東に突っ切って荒野に出て、大回りして東からウーノに向かうっていうのは?」
「……まぁ、多分できなくはないわ。でも、物凄く時間かかっちゃうのよ? 単純に距離が遠いし、荒野の敵は結構しぶとかったと思うしね」
「そうですか。でも流石にフォレストウルフロードより強いってことはないでしょうし、突っ切るだけなら何とかなりそうです。スキルも一つ進化しましたし」
ふふん。何を隠そう【鱗装甲】先生が【龍鱗装甲】に進化したのです。
加えて、キングスライム戦で手に入れた【剛体】というスキルがありますから、多分今の僕、すっごく硬いですよ。
【龍鱗装甲Ⅰ】
パッシブスキル。真紅に染まる龍の眷属が持つ鋼の鱗。炎に対する高い耐性を持つ。自身のVITを強化、かつ一定量のダメージを軽減。スキルレベルにより強化量及び軽減量増加。
【剛体Ⅰ】
パッシブスキル。自身のSTR、VIT、AGIを強化、より強大な身体を得る。スキルレベルにより強化量及び補正量増加。
なお、これらのスキルを得たためか僕のアバターはさらに巨大化し、ついでに全身が緑色から赤く染まっています。
緑のた〇きから赤いき〇ね……お揚げ追加してきましょうかね? それとも稲荷寿司……。
「……たっちゃんって、ドラゴンだっけぇ?」
「うわぁ……なにこれボスキャラ? もしくは召喚獣?」
端末から表示させた僕のアバター……「シン」をご覧になられた幼馴染姉妹の感想でした。
……おかしいですね。ほんのちょっと人より大きな只のリザードマンなんですが。
「ま、まあそれはさておき、今後の方針としては僕が大回りしてウーノの町に向かうという事で落ち着きましょう。合流にはまだ少し時間がかかりそうですが、なるたけ急いでウーノに向かえるように頑張りますよ」
「……お姉ちゃん、念のために聞くけどさ。私を連れて平原突っ切るってのは……」
「だからぁ、あのフィールドのプレイヤー全員PKすれば大丈夫なのよ? 何で怒るのよぉ……」
ああ、愛利栖ちゃんががっくりと肩を落としています。
……申し訳ありませんが、もう少しだけ姉さんの御守りを任せないといけないようですね。
「……辰也。早くお姉ちゃんを迎えに来てね? 週末までには、絶対よ? お姉ちゃんが我慢できなくなる前に本当、マジでお願いね?」
……期限は少し余裕をもってお願いします。
今日が月曜日だから最大限の配慮ですか? アッハイ……。
あー……きょうもうどんがおいしい。
ぞぞー。
《レベルが上がりました》
背後から飛び掛かって来た狼を【テイルアタック】の一撃で駆除すると、久々のアナウンスです。
いや、正直全力での戦闘中に上がってたりとかしてもあまり気に留める余裕がないんですよね。今位余裕が出来てくれば楽なんですが。
とりあえず、折角ですので確認しておきましょう。
アバター シン
種族 リザードマン
レベル 18(+2)
職業 なし
HP 1443(+106)
MP 0
STR 91(+7)
VIT 91(+7)
AGI 57(+4)
MAG 28(+2)
LUK 0
スキル (余剰SP:10)
【スラッシュⅤ】【スケイルナックルⅣ】【ヘヴィシュートⅤ】【テイルアタックⅢ】【直感Ⅳ】【龍鱗装甲Ⅰ】【HP自動回復Ⅵ】【水中行動Ⅱ】【毒攻撃Ⅲ】【毒耐性Ⅲ】【麻痺耐性Ⅲ】【剛体Ⅰ】
右手装備 折れた斬馬刀
左手装備 なし
頭 なし
胴 なし
脚 レザーレギンズ
足 なし
装飾1 なし
装飾2 なし
称号
【決闘者】【狼の天敵】
……ええ、実は見たくなかった現実から目を背けていただけです。
ゲーム開始からずっと付き合ってくれていた斬馬刀が、折れてしまいました。
そりゃもう、ぽっきりと。
それもこれもあのスライム戦の後で気づいたのです。ペコさんに作って頂いた外套は背後からの【スライムフレア】で全損しロスト扱いになっていたのですが、この斬馬刀の方もいつの間にか刀身の中ほどからぽっきりと折れてしまった姿になっていたのです。
他の防具と違って折れても使えるという事は不幸中の幸いでしたが、武器としての攻撃力は半減してしまいました。
何より、リーチが短くなってしまいましたので気分よく薙ぎ払いが出来ません。おのれキングスライム。
それに第一、折れた刀を振り回すというのも恰好がつきません。おかげで、こうして徒手空拳で狼を屠りながら森の中を進んでいく羽目になっていました。
え? 【狼の天敵】はどうしたって?
……あれ、発動させていると【狼】系統種族のプレイヤーにまで影響を与える大迷惑称号ですからね。
しかも、黒狼の森は今ドゥーエを拠点にしているプレイヤーたちのメイン狩場になっています。必然、プレイヤーさんたちとエンカウントすることも結構な回数ありまして。
……もう、モンスター呼ばわりされて攻撃魔法ぶつけられるのは嫌です。
あ、そういえば僕の明確な弱点が判明しました。どうも僕、魔法攻撃に極端に弱いみたいです。
あの【スライムフレア】は何で耐えられたのかと悩みましたが、ファリエルさんに伺ったところ、アレ実は魔法じゃなくて、炎熱系統物理攻撃というドラゴンのブレスに近いものだったそうです。
ダメージ判定の参照ステータスがVITの方なので耐えられたみたいですね。
話がそれましたが、そんな理由で【狼の天敵】は封印中です。せめて他のプレイヤーとエンカウントしなくなる位遠くにたどり着いたら有効にしましょうか。
尻尾で背後から近づいてくる不届き者を薙ぎ払いつつ、僕は森の中を進んでいきました。
で、そんなこんなで森の中を歩き続けること3日。ようやっと森の終わりが見えてきたのです。
あ、別に3日間ゲームしっぱなしというわけじゃありませんよ。一応僕は学生ですので、ゲームは1日1時間くらいで押さえています。
それに、このゲームはゲーム内時間を現実の8倍まで引き延ばすことが出来ますので、体感時間は8時間ほどゲームで遊んでいるという事になりますね。流石に飽きます。
ちなみに、このゲームは現実世界の時間で最初にログインしてからの24時間中、21時間以上のログインはできないようになっているそうです。ほかにも、現実時間で3時間ごとの警告や、身体に異常や変化が発生したときなどの強制ログアウトなどもありますから、本気でそんな長時間ゲームし続けている人はいないでしょうね。
森を抜けると、そこは荒涼とした原野が広がっていました。
ウーノの北の平原にくらべて植物の絶対数が少ないせいか、随分とさみしい印象ですね。
ええと……この先の予定を確認してみると、とりあえず森を出たら次は南東方面に向かって歩けとあります。
また本気で何もない場所ですが、マップを頼りにしながら進んでいきましょう。
ぶにっ
……今、明らかに地面じゃないものを踏んだ気がします。
はい。僕の足の下にあるこれは……ひょっとして蛇でしょうか?
……あ、どうもこんにちは。日向ぼっこの最中でしたか。それは大変失礼しました。
『ヒュージウルフイーター』:Lv32
おや、ひょっとして御同類でしょうか? 生憎僕は狼を食べはしませんが、何となく親近感がわきますね。
「だからと言って人を丸呑みにしようとするんじゃありませんよこのクソ蛇が」
人様の頭に齧りつこうとした大口を掴むと、毒毒しい色の唾液が牙を伝ってきます。
とりあえず、開きにしておきましょうかね?
ご覧いただきありがとうございます。




