アルス山脈
すいません、なかなか話にまとまりがつかなくて四苦八苦していた2週間経ってしまいました。
あと、今更感すごいですが、あけましておめでとうございます。今年もこの話を読んでいただけたら嬉しいです。
「何があった?!って、これは一体?!」
駆けつけた数人の衛兵さんたちは、すでに倒された男達の方を見てから驚愕の表情を浮かべた。
しばらくその光景に呆然としていたようだけど、その後ろに立っている僕とルカを見つけてから、慌ててこちらに駆け寄ってきた。
「君達、無事かい?一体何があったんだい?」
「えっと、この人達に攫われそうになったので、僕が倒しました」
「えっ?!た、倒した?」
簡潔に説明すると、驚愕の色を浮かべる衛兵さん。
「ええっと……と、とりあえず、怪我は無いかい?」
「はい。僕は無傷です」
「わ、私も……」
ルカはまだ戸惑い気味だったが、ひとまず僕達が無傷だという事に、胸をなで下ろす様子の衛兵さん。
しかし、その表情は後ろから聞こえてきた他の衛兵さんの声でさらなる驚きに染まる。
「こ、こいつら、指名手配書にあったジャンキー盗賊団です!!」
「なっ?!なんだって?!ジャンキー盗賊団と言えば、C級冒険者と同等の実力があるから俺達衛兵でも手が出せない相手だぞ……」
へ~、C級冒険者相当の力って、あんなものなんだ。
手応えが全然なかったけどなぁ。
「そ、それで、君は本当にあの男達を倒したのかい?嘘じゃなくて?他の誰かが助けに来てくれたとかでは無く?」
「はい。僕が倒しました」
衛兵さんの疑うような視線に答える。
「君は、一体何者なんだい?」
ついさっき聞かれたから質問。今度は、迷いなく答える。
「ダークウルフ殺しのアリエル、って言われてます」
衛兵さんに、A級冒険者の証拠であるギルドカードを見せる。
衛兵さんとルカが息を飲む音が聞こえた。
「ッ!そ、そうか。君が王都で噂の……」
「本物の、ギルドカード……アリエル、本当にA級、なんだ……」
それから、10分ほどの事情を聞かれた後、盗賊団を倒した事に感謝されて、僕とルカは今度こそ帰路についた。
「今日は驚く事尽くしだったなぁ~。アリエル、凄くお金持ちだったと思ったら自分で稼げる仕事をしてるって言うし。かと思えば、アリエルはA級冒険者だったし。その上、なんか有名人っぽいじゃん」
10分ほど歩いていると、ルカは元の調子を取り戻していた。
「あはは、そんなに大したものじゃ無いよ」
僕達は王立学院が100メートルほど先に見える所まで戻ってきていた。
盗賊団から逃げていたせいで、学院からだいぶ離れてしまっていたけど、会話のネタは尽きなかったために道のりが遠く感じることはなかった。
「あと、趣味がダークウルフを狩ること、って言うのが冗談しゃなくて、本当の事だったとはね~」
「みんな信じてなかったよね」
「それはそうだよ、アリエルみたいな可愛い子が、ダークウルフを狩るA級冒険者だなんて思わないもん」
「可愛いって、褒めても何も出ないよ?」
本日2回目の褒め言葉に、思わず照れる。しかし、1度目と同様になぜかルカは微妙そうな顔をする。
「………いや、うん。まぁ、褒めてるんだけどさ」
ルカ、待ち合わせ場所でも同じ顔してたよね。なんでだろ?まぁ大した事じゃ無さそうだし、気にしないけど。
一度ルカから意識を逸らし、学院に目を向けると、そこまでの距離は十メートルも無くなっていた。
再びルカへと意識を向けると、彼女は思いついたように呟いた。
「あ、でも!」
少し大きい声を出したルカは、立ち止まって僕の方を向いた。
「私を助けてくれた時は、すっごくかっこよかったよ!」
ウィンクをして、少し頰を赤くするルカ。
「そうかな?そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとう」
「うん!」
そうして話をしているうちに、僕とルカは学院へたどり着いた。
学生証をかざすと、軽く金属が擦れる音がして、門が開く。
それと同時に、軽快とは言えないものの、テンポの速い駆け足が聞こえてきた。
どんどん僕に近づいて来る音。
驚いて音の方を見ると、すぐ目の前に、半泣きのお姉ちゃんが両手を広げて突っ込んで来ていた。
「あ、セレーナ先輩」
ルカの言葉に反応する前に、僕の視界いっぱいにお姉ちゃんが入り込んできた。
「アリエル~~~~~~~~~!!」
「えっ?お姉ちゃ……むごっ?!」
突然の事に戸惑う僕だったけど、お姉ちゃんに一方的に抱きしめられたせいで喋る事は愚か、息ができなくなる。
「アリエル、盗賊団に攫われそうになったって聞いたわよ?!怪我してない?!大丈夫?怖かったでしょ?ごめんね、お姉ちゃん助けに行ってあげられなくて。今度からはアリエルが出かける時は、お姉ちゃんもついて行くからね」
頭は完全にお姉ちゃんに抱きしめられていて動かせないため、視線だけ見上げる。
見ると、お姉ちゃんは酷く心配そうな顔で、涙をボロボロと溢していた。
「お姉ちゃん、アリエルに何かあったらって思うと……あぁアリエル!本当に無事でよかった!!」
「むぐ、むぐっ!」
いや、心配してくれるのは嬉しいけど、僕今お姉ちゃんのせいで絞め殺されそうなんだけどっ!!
お姉ちゃんの背中を何回も叩いて腕を緩めてもらえるように伝えるが、その意図は伝わらない。
「む、むぐぅ……」
そうしているうちに、頭がクラクラしてきた。
「セ、セレーナ先輩!アリエルが先輩の胸で窒息しそうですっ!!」
そこで、僕の様子を見たルカが、慌てて叫ぶ。
「この声は……ルカちゃん。あなたも攫われそうになったんでしょう?大丈夫だったの?」
どうやら、今の声でルカがここにいる事に気付いた様子のお姉ちゃん。普通にルカと会話をしているけど、お姉ちゃんの腕の力は一向に弱まる事がない。
あ、もうだめ……
「あ、あぁっ?!私よりも、アリエルが!!」
「え?アリエル?……」
ここで初めて、自分でも虚ろだと分かる目をした僕と、お姉ちゃんの目がじいっと合う。
「……もう、だ、め」
が、時すでに遅し。身体からはガクンと力が抜けて、僕の意識は薄れていく。
「「アリエル~~~ッ?!」」
お姉ちゃんとルカが慌てるの様子が、掠れた視界の中でうっすらと見えた。
「ごめんねアリエル!お姉ちゃん、アリエルがあまりに心配で!!」
肩を掴まれた気がする。それで、なんだか首が上下に揺らされているような……
「あぅ……あぅあぅ、あぅあぅあぅあぅ?!うわぁっ?!や、やめて、やめ、お姉ちゃ、首が。もげ、る、もげる、もげる、から!!」
肩を激しく揺らされた事で、僕の意識は完全に戻った。
「はぁっ、はあっ。お姉ちゃん、盗賊団と戦った時よりもよっぽど危機を感じたよ……」
「ごめんね、アリエル。お姉ちゃん、あまりに心配で心配で。アリエルの強さなら大丈夫だろうなぁ、とは思ったんだけどね?やっぱり、攫われそうになったって聞いたらいてもたったもいられなくって」
軽く息切れをしながらお姉ちゃんの方を見ると、お姉ちゃんはとても申し訳なさそうな顔をしていた。
「気にしないでよ、お姉ちゃん。僕の事を心配してくれているだけなのはわかってるから」
そう笑いかけると、お姉ちゃんの顔から力が抜けた。
それを見て僕も一息つくと、ルカが不思議そうに尋ねてきた。
「アリエル、随分と落ち着いてるんだね?」
「うん。昔からこういう事はよくあったから」
「昔から……?」
「森の散歩で帰りが遅くなると、帰るたびにこうされたんだ~。さすがに、気を失いそうになる事はなかったけどね」
正確には、散歩っていう名目の修行をしてたんだけどね。
僕の言葉を聞いたルカは、少し怪訝そうな目でお姉ちゃんを見た。
「アリエルといる時は全然雰囲気違うし……セレーナ先輩って、もしかしなくてもブラコンですか?」
「え?う~ん……」
お姉ちゃんは軽く首を傾げてから、にっこり笑う。
「私は、アリエルの事が大好きなだけよ?」
「そ、そうですか」
「ええ」
あれ?なんだろう、お姉ちゃんを見るルカの目が、若干引き気味になったような気がする。
「そういえば、アリエル。今日はとってもおめかししてるのね。すっごく可愛いわよ」
「ふふっ、ありがとうお姉ちゃん。今日はルカとお出かけする事になったから、ちょっと頑張ったんだぁ~」
「そっか、じゃあ今度はお姉ちゃんとお出かけしよっか?」
「あ、そうだね!それいいかも」
王都に来てからは、お姉ちゃんとはあんまりゆっくりできてなかったから、いい機会かも!
「じゃあ、その時にお姉ちゃんとお洋服買いに行こっか?」
「うん!」
そして、僕とお姉ちゃんが楽しく会話している横では、なにやら打ちひしがれているルカがいた。
「あぁ、セレーナ先輩、アリエルにデレデレ……成績はトップクラス、品行方正で美少女、完璧という名が相応しい先輩のイメージが壊れていく……」
お姉ちゃんって、そんなイメージ持たれてたんだ。
その後、盗賊団に襲われた時の話を交えながらその場で立ち話をした。僕達が衛兵さんに話を聞かれている間に学院長のエイヴァンさんに話が伝わり、そこから僕の家族であるお姉ちゃんに話が伝わったらしい。
しばらく経ち、気がついた時にはあたりは真っ暗になり、街灯が目立ち始めていた。
「そろそろ暗くなってきたし、寮に戻ろっか」
「そうだね、もう夕飯時かも」
お姉ちゃんの一言で、僕達は立ち話をやめる。
ふと、ルカが学院についている大時計を見た。
「やばっ、もう7時?!」
なにやら慌てた様子だ。
「どうかしたの?」
「友達と7時に食堂で待ち合わせして、夕飯食べる事になってたの忘れてた!」
顔を真っ青にして、口元を引きつらせている。
きっとその友達は、待ち合わせに厳しい人なんだろう。
「ええっ、早く行きなよ!」
「それは大変ね、早く行ったほうがいいわ」
僕とお姉ちゃんも軽く焦って言うと、ルカは大きく頷いた。
「ちょっと慌ただしい別れになっちゃったけど、それじゃあね、アリエル。セレーナ先輩も、さようなら」
「うん、また明日」
「今日はアリエルを誘ってくれてありがとうね。話を聞くに、とっても楽しそうだったから、また誘ってあげてね」
「いえいえ、私も楽しかったのですから!」
一言だけ交わした後、ルカは僕とお姉ちゃんに背を向けて食堂へと向かって行った。
「あ、忘れてた」
ふと、彼女が足を止めて振り返った。
慌てるような足音を作りながら、僕に近づいてくる。
僕が口を開く前に、ルカの声が耳元で聞こえた。
「助けてくれて、ありがとう」
一瞬だけ、頰に柔らかい感触が触れて、すぐに消えた。
「……えっ?」
目を閉じたり開いたりする僕に、ルカはいたずらっぽく片目を閉じて笑った。
「今のは、ささやかなお礼だよ」
頰を赤くしながらも、それだけ言うと、今度こそルカは食堂へと走って行った。
「あれは、落ちてるわね……日常の可愛いさと、戦う時のギャップにやられたってところかしら。ルカちゃんとは今日会ったばかりなのに、さすがはアリエルね」
お姉ちゃんは厄介そうな顔をした後、僕には聞こえない程の小声で何かを呟いた。
「?」
自分の顔を指で触ってみて何も付いてない事を確認すると、首を傾げながらも、お姉ちゃんと向かい合った。
「ねぇお姉ちゃん、僕の顔に何かついてるかな?」
「何もついてないけど、どうして?」
「いや、もしかして昼間食べた串焼きのタレが頰に付いてたのかな?って思って。それを取ってあげるのがお礼っていう事なのかな~、と」
僕がそう言った瞬間、お姉ちゃんは顔を引きつらせた。
「………それ、ルカちゃんの前では絶対に言っちゃダメだからね?」
「えっ?何で?」
「何でも!!」
その後、お姉ちゃんと同様にハルさんとティアさんに心配された後、湯船に浸かりながらアークさんと今日あったことを話して疲れを落とした。
結局、ルカの行動の意味はよくわからないまま1日が過ぎていったのだった。
教室のドアを開けるのと同時に、話声が聞こえて来た。
「だから、本当なんだって!アリエルが盗賊団を撃退してくれたの!」
「「「またまたぁ~」」」
ルカの机には、人が群がるように集まっていた。
「みんな、おはよう~」
席につきながら挨拶をすると、彼らの視線がいっきに僕に向けられた。
「アリエル君、昨日盗賊団に襲われたんだって?」
「大丈夫だったの?」
「ルカが、盗賊団はアリエル君が倒しだって言ってるんだけど、相手はC級冒険者相当の強さだったんでしょ?」
そして、質問の嵐が僕めがけてやって来た。
「う、うん。ルカの言ってる通りで合ってるけど」
とりあえず、状況が掴めないのでルカに話を振る。
そこで一度席を離れて、我関せずといった感じで席に座っているレンド君に話を聞いた。
「ねぇレンド君。どうしてみんな、僕が盗賊団を倒したって知ってるのかな?」
「中等学院の中では結構噂になってるからね。みんな、盗賊団という非日常的な事に興味があるんだと思うよ」
「そう言うレンド君は、いつも通りなんだね」
僕の事を心配してくれてないのかと思って、少し意地悪な言い方をしてみる。
すると、レンド君は少し困った顔で肩をすくめた。
「そうでもないさ。これでも、最初に話を聞いた時は心配したんだよ?でもルカさんが、盗賊団はアリエル君が撃退したと言うじゃないか。その上、盗賊団はC級冒険者相当。A級冒険者である君の敵じゃないと思ってね。僕はみんなと違って非日常的な事には興味がないから」
なーんだ、心配してくれてたんだ~。
友達が自分の事を心配してくれていた事に心の中で安心しつつ、席に戻った。
「だーかーらー、本当にアリエルが倒したんだってば!」
「もぅルカ、その話はいいからそろそろ本当の事を教えてよ」
「そうだよそうだよ!どんな人が盗賊団を倒したの?」
ルカの方はまだみんなと話しているようだ。席に戻った僕を見てみんなが質問しようとこちらを向く。
「はい、皆さん席についてください」
が、ここでエスプリ先生が来た事でしぶしぶ自分の席へ戻っていった。
それを目で追ってから、僕は少し疲れた顔をしているルカに話しかけた。
「なんか大変そうだったね、ルカ」
「うん、まあね。ここまで噂が広がってるとは思ってなかっただけにびっくりしたよ。あ、でも!アリエルがA級冒険者だって事は言ってないから安心してね」
最後だけ小声になるルカ。僕はその様子を不思議に思った。
「別に言っても良かったけど?隠してるわけじゃないし」
「いやいやいや、なに言ってるの?!学院の生徒がA級冒険者だなんて知れたら、学院中大騒ぎになるよ?!それこそ、クラスメイトが王族だった、くらいの衝撃よ!」
そのあまりの形相に、僕は少しだけ身をのけぞらせた。
「へ、へ~。そんなに大変な事なんだ。なら、言いふらさない方がいいのかな?」
「当たり前だよ!」
僕達は小声で話していたけど、先生が話し始めた事によって、一度話しを止めた。
「皆さんもご存知かとは思いますが、昨日アリエル君とルカさんが盗賊団に襲われました。今回は偶々大事になりませんでしたが、皆さんも街を歩くときは十分に気をつけてください」
僕とルカが攫われそうになった事を学院側が認めた事に対し、クラスが少しざわつく。
「それと、学院長からこの件に関しては詮索しないようにとのお達しが出ています。アリエル君やルカさんに事の次第を聞きたい気持ちはわかりますが、あくまでもこれは事件です。子供が関わるべき事じゃありませんから、2人に何か聞くような事はしないようにしてください。いいですね?」
僕とルカを除くクラスメイトが返事をすると、満足そうな顔をして先生は授業を始めるのだった。
「アリエル、学院長はあなたがA級冒険者だって事を知ってるの?」
「うん、勿論。ていうか、編入試験の時、身分証明書代わりにA級冒険者のギルドカード出したから、結構たくさんの人が知ってると思うよ?」
「……それ、多分学院長が気を使って、噂が広がりすぎないようにしてくれてるんだよ。なにもしなかったら、今頃アリエルの元には王立騎士団とかからスカウトが来てただろうし」
それだけ言うと、ルカは授業を受け始めたので、僕も真面目に授業を聞く。
今度、エイヴァンさんにその事を聞いてみよう。それで、もしスカウトが来ないようにしてくれてたらお礼を言わなくちゃね。
学院長が時間の空いている時に話を聞きに行く事にして、その日を過ごした。
今日の授業が終わってから、僕は着替えて外に出ていた。ギルドに行くからだ。
エイヴァンさんに話を聞きに行くタイミングは、お姉ちゃんに相談しようと思ったので、ひとまずは最近行っていなかったギルドに行く事にしたのだ。
慣れた道を進んで行くと、これまた見慣れた大きな建物が見えて来る。
「ニ週間近く来てなかった事になるのかな」
一人で呟くと、僕はギルドの中に入る。
エフィーさんは……あ、いた。
少しギルドの中を眺めると、いつもの窓口にエフィーさんがいた。
今の時間は空いているらしく、ギルドの中にはあまり人がいない。窓口には、ほとんど人が並んでいなかった。
そのため、僕は難なくエフィーさんの窓口へ行く。
「ぁ、アリエルちゃんじゃない!」
僕に気付いたエフィーさんが、僕が話しかけるよりも先に、僕に声をかけた。
「こんにちは、エフィーさん」
「久しぶり!2週間近く来てなかったけど、どうかしたの?私、寂しかったのに」
本当に寂しそうな顔をするエフィーさんに、これまでの次第を話す。
「そうなんだ、じゃあ今は王立学院の生徒なんだね」
「はい。なので、これからは午前じゃなくて午後にくる事がほとんどになると思います」
「うん、わかった。それにしても、アリエルちゃんが来てくれて嬉しいなぁ、私。ここは男ばっかだから、アリエルちゃんみたいな癒し要素は欠かせないの!!」
癒し要素って、なんだろう?まぁいいけど。
僕は苦笑いを浮かべてエフィーさんに返事をする。
「そんなこと言ったら、他の冒険者の方が可哀想ですよ。というか、一応僕も男なんですけどね」
「その見た目で言われてもねぇ……」
エフィーさんが視線で撫でるのは僕の髪。長く伸びていて、腰くらいまである、お姉ちゃんの綺麗な髪と酷似したもの。
「あはは、それもそうですね。でも、今までギルドにはこの格好で来てましたから。その必要がなくなっても、なんとなくこの格好で来ちゃうんですよね。個人的に結構気に入ってるので」
僕は逆転の腕輪を軽く撫でてから、エフィーさんに視線を戻す。
「私としては普段のアリエルちゃんも見てみたいんだけど、まぁ今のままでも全然いいわね」
「いつか、そのままの状態で来ますね」
そういえば、エフィーさんは普段の僕を見た事ないんだったね。
そこでふと、エフィーさんが気まずそうな顔をした。
「あのさ、もしかしてこれからダークウルフ狩に行くつもりだったりするかな?」
「はい。久しぶりだったので挨拶をしようと思っただけで、これから魔物の森に行ってダークウルフを狩ってくるつもりですけど、それがどうかしましたか?」
「いやぁ、なんていうか、その。ね?言いにくいんだけどさ」
言いにくい事?なんだろう……
「アリエルちゃん、ダークウルフ狩ってるでしょ?」
「はい」
「はじめのうちは増えすぎていたダークウルフを狩ってたから良かったんだけどさ。最近、ダークウルフが森から消滅しかけて森の生態系が壊れてるっていう話が出てるんだよね」
「し、消滅ですか?!」
減っているとかそういう単位の話じゃないんだ……
「ダークウルフをたくさん狩ってるのってアリエルちゃんだけだから、ね?」
「つまり魔物の森には行かないで欲しい、という事ですよね?」
エフィーさんの言いたい事を察して、肩をガックリと落とす。
「うん、そうなんだよね。本当、ごめんね」
そんな僕を見て申し訳なさそうに謝るエフィーさんを慌てて止める。
「エフィーさんのせいじゃないんですから、気にしないでください!!ダークウルフとはあくまでも修行の一環で戦ってただけですから、他の方法を探せばいい話ですし」
「そう言ってくれると助かるわ。それで、代わりと言ってはなんだけど。修行っていう事なら、もしよければここから少し遠いけど魔物の森よりも強い魔物が沢山いるところを紹介しようか?」
魔物の森よりも、強い魔物が沢山いる……つまり、ダークウルフよりも強い魔物がいるっていう事だよね。
「ぜひ、お願いします!!」
僕は即答してから、エフィーさんに聞いた場所へと向かった。王都から近場にある魔物の森とは違い、何本か馬車を乗り継いだ。
そして、2時間ほどして目的の場所へとつく。
目の前には関所のようなものが設けれており、衛兵さんのような人達が並んで検問のようなものをしている。
そしてその後ろには、見渡す限りの雄大な山々が広がっていた。
「す、すごい……これがアルス山脈かぁ」
思わず感嘆の息が漏れてしまう。山々の頂上付近は雲を突き抜けていた。
そんな僕を見て、近くにいた衛兵さんが楽しそうに笑った。
「すごいだろう?何と言っても、神獣が住んでるって言われてる霊峰だからね」
突然話しかけられて少しびっくりしたけど、話かけてきた衛兵さんがとても優しそうな顔立ちだったので、あまり人見知りせずに会話を続けることができた。
「し、神獣……というと、初代勇者さんの仲間の?」
「そう。初代勇者の仲間として世界の危機に立ち向かった上位の魔物。それが神獣だよ。今もあの山脈の何処かにいるって言われてるよ」
親切に解説してくれた衛兵さんにお礼を言う。
神獣に関しては、どうも家にある本の数が少なかったんだよね。
勇者に関わる事柄で家にあった本は全て読んだ。何百冊という大量の本が書斎にあったため、勇者に関しては大分詳しくなったと自負している。
しかし、いくつか意図的に抜き去られたと思われる系統の本があったのだ。そのうちの一つに神獣に関しての情報も該当する。
神獣に関しては、一般常識の範疇でしか僕も知らないのだ。
「というか、これは一般常識だけど、知らなかったの?」
「し、知らなかったです……」
どうやら、僕は一般常識すら知らなかったようだ。
若干落ち込んでいると、衛兵さんが励ましの言葉をかけてくれた。
自分が一般常識を知らないかもしれない事を頭の片隅に入れる。
そこでふと、衛兵さんは不思議そうな顔をした。
「それで、君は何をしにここへきたんだい?子供が1人で見物にくるような場所じゃないよ?」」
少し諭すような口調だ。
「アルス山脈に入ろうと思ってるんです」
衛兵さんは目を丸くしてから、関所の方を指差した。
「見てごらん」
そこには、たくさんの人が並んでおり、行商人かハンターのような格好をした人がほとんどを占めていた。
思いっきりスカート履いてきちゃったけど、ちょっと浮いてるかもなぁ……次に来ることがあったら、もう少し普段着から離れた服着てこよう。
「あそこにいるのは、完全武装した屈強な男達だよ。アルス山脈は、君みたいな子供が行ける場所じゃないんだ。入ろうとするためには、最低でもC級冒険者の資格がないといけないんだ」
「はい、それは知ってますけど?」
僕が答えると、衛兵さんはますます怪訝そうな顔をしてから、関所に並んでいる内、筋骨隆々で屈強そうな人の所へ行き、僕に話を聞くように言った。
「というわけで、このお嬢さんに話をして欲しいんだ。お嬢さん、この人はC級冒険者だ。話を聞くと良い」
「それは良いけどよ……」
僕は言われるがままにしていると、筋骨隆々の男の人が僕に向いて何かを話そうとする。
「嬢ちゃん。世間知らずは街では可愛いが、こういう所だと命とりに……」
初めは子供を見る目つきだったものの、僕を見るにつれて真面目なものに変わる。
そして、10秒ほど経った後、男の人は笑った。
「嬢ちゃん、大人をからかっちゃあいけないぜ」
「ええっと。僕、何かしました?」
「おっと、こりゃすまねえ。素だったか。噂通り、可愛い性格してるな」
ニカッと笑う男の人。
からかったりなんかした覚えはないんだけど……
僕と同じ感想を抱いたのか、衛兵さんも不思議そうな顔をして男に尋ねる。
「イマイチ意味がわからないんだが。どういう事だ?」
「衛兵さん、この子をよく見な。隙がまったくないぜ?」
衛兵さんは男の人に言われて僕を見るが、眉をひそめてから呟く。
「……?ますます言っている意味がわからないんだが」
「あんたじゃわかんないか……なぁ嬢ちゃん、ギルドカード持ってるんじゃないか?それを見せなきゃここは通れないんだ。俺たちみたいな大人ならともかく、嬢ちゃんみたいな子が口で何か言っても信じては貰えねぇからな。証拠を見せなくちゃいけないんだ」
あ、そっか。ギルドカードを見せればよかったのか。
僕はギルドカードを取り出そうとする。
突然僕の味方になった男の人に、衛兵さんがいよいよ訳がわからないと言おうとした時だった。
「逃げろおおお!!!ガンラビットが関所を越えたぁあああ!!」
怒号とも取れる悲鳴が聞こえた。
「が、ガンラビットだと?!B級の魔物じゃないか!!皆殺しにされるぞ?!」
「誰か、誰かB級の魔物とも戦える冒険者はいないのか!!」
「こんな所に都合よくいるわきゃねぇだろ!!無駄口叩く暇があったら逃げるぞ!!」
波紋のように広がっていく悲鳴。
B級ね、ダークウルフよりも弱いなら、大丈夫かな。
僕は辺りを見渡してガンラビットを探す。大人2人分の背丈を持った兎とは名ばかりの白い魔物は、牙から涎を垂らし、今にも人に襲いかかりそうにしている。逃げる人を楽しそうに眺めながら、ガンラビットは重心を下げ足に力を溜めていた。
「ま、まずいぞ……お嬢さん、逃げるんだ。あいつは瞬発力が凄まじいんだ!!瞬殺されるぞ!!!」
慌てて僕に伝える衛兵さんの声を、男の人が制した。
「衛兵さん、この子は大丈夫だ。あの魔物よりも……いや、この場にいる誰よりも強い。な、そうだろ、嬢ちゃん?」
「この場にいる誰よりも強いかはわかりませんけど、少なくとも、あの魔物よりは強いですかね」
戦々恐々としている場で落ち着いている、僕と男の人のやり取りを見て衛兵さんが怒鳴る。
「君達は何を言ってるんだ!相手はB級の魔物なん……」
ガンラビットが足のバネを一気に解放して、逃げている人に襲いかかろうとした。
ガンラビットの描く軌跡が、白い線へと変わり、一瞬で赤く染まった。
「ふぅ。それなりに速かったけど、やっぱり、ダークウルフほどじゃないかなぁ」
僕の右手で鷲掴みにされて食い込んだ頭からは、ガンラビットの血が噴水のように吹き出す。
「い、一体。君は……」
血が服につかないように注意しながらガンラビットの死体を地面に下ろす。
「衛兵さん、噂で聞いたことないか?ダークウルフを容易く狩る美少女の話を」
「なっ?!あ、あれはホラ話では……」
一応、周りを見渡して怪我人が1人もいない事を確かめておく。
ここの人達が無事だったのは良いことだけど、ちょっと時間を使ったのはあんまり良くないかなぁ。
時計を確認して、まだ山の中を1時間ほど散策できそうな余裕がある事に胸をなでおろす。
僕は衛兵さんのところへ、先ほど出しそびれたギルドカードを手に持って近づく。
「衛兵さん、これならアルス山脈に行ってもいいですか?」
「なっ?!え、A級冒険者……」
「やっぱりな。そうだと思ったぜ。嬢ちゃん、ダークウルフ殺しのアリエルだろ?王都付近の魔物の森が活動範囲って聞いてたんだが、なんでここに来たんだ?」
男の人は腕を組んで不思議そうにしている。
「なんでも、僕がこれ以上ダークウルフを狩ると、生態系が崩れるそうで、エフィーさん……ギルドのお姉さんに止められたんです。それで、強い魔物がいるのはここだと言われまして」
衛兵さんと男の人は顔を青くして、口元を引きつらせた。
「一体どんだけ狩ったんだよ……」
「こ、こんな子供がダークウルフを……」
小声だったので良く聞こえなかったけど、気にしない。
「あの~、C級以上の冒険者なら、
この先に行ってもいいんですよね?」
「あ、ああ。君なら問題無いだろう。引き止めて悪かった」
その場にいた人達にたくさんお礼を言われたので、また少し時間を食ってしまったけど、それは気にしない事にする。
「さてと、アルス山脈にはどんな魔物がいるのかなぁ~」
僕は山頂の方を軽く流し見てから、山を登って行くのだった。
1話1話に面白みをつけようとすると、どうしてもこういうパターンになってしまいます。
それと、文章を読みやすくするように少しずつ色々変えているのですが、どうでしょうか?アドバイス等あれば感想に書いて頂けると嬉しいです。
ーー 現在、各キャラクターの絵を製作中です。酷い絵になった場合は描き直すため、時間がかかってしまうと思います。過度な期待はしないでお待ちください。




