ゴミパート2
俺は食堂の隅で一人、冷たいカボチャスープをすすっていた。
……氷を食ってるみたいな味だ。
(クソ、あの長蛇の列にずっと並んでたのに……これかよ)
今日の配膳は地獄だった。
まるで前の「バターパン争奪戦」を思い出す。
押し合い、叫び声、半分ケンカみたいな騒ぎ。
まあ……一応スープは手に入れた。ラッキーと言えばラッキーか。
イヤホンを耳に突っ込んで音楽を流す。
周りの騒音なんて、俺には関係ない――はずだった。
――なのに。
「――さっさと失せろ、このクソ変態!!!」
「……は?」
イヤホン越しでも響くほどの怒声。
思わず顔を上げた。
そこに立っていたのは、金髪ロングの少女。
冷たい視線、圧倒的な自信に満ちたオーラ。
隣には紫髪の女子――たぶん友達だろう。
彼女が睨みつけているのは……バスケ部のキャプテンだった。
「なぁ、サヤ。そんな怒るなよ。ちょっと遊びたかっただけじゃん」
……あぁ、あのウザい奴か。
「遊び? 正直、気づいてないの? あんた、ただの迷惑なんだけど」
男が口を開きかけた、その瞬間――
「いいから黙れ。自分がどれだけ気持ち悪いクズか分かってる? ……分かんないんだろ?」
食堂全体が一気に静まった。
キャプテンの顔が真っ赤になり、サヤに手を伸ばす。
だが――
「っ……!?」
サヤはその手を簡単に払いのけた。
「この汚い変態が!」
バキッ。
彼女の左拳が、男の頬にクリーンヒットした。
キャプテンは情けなく床に倒れ込み、涙目で頬を押さえる。
「く、くそ女が……!」
そう叫ぶと、情けない姿で食堂を飛び出していった。
……静寂。
あれだけ騒がしかった食堂が、一瞬にして凍りついた。
誰もが驚いていた。
(女が、あのデカいやつを一撃で……?)
正直、俺も驚いた。
でも――
(これがクラスFのサヤか。……面白ぇ)
彼女は苛立ちを隠さず、食堂を見渡す。
みんなすぐに目を逸らした。
けど、俺は……逸らせなかった。
(……クソ。なんでだよ。あの目――キレイだって思っちまった)
慌てて首を振る。
(いや違う。結局ああいう女はみんな同じだ。本気で向き合おうとする男をだって、ゴミみたいに扱うに決まってる)
俺は無表情のまま立ち上がり、食堂を後にした。
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「……あと10分で数学か」
ぼそっと呟く。
仕方ない、先に教室へ行くか。
そう思った矢先――校内放送が鳴り響いた。
『――三年生の生徒は全員、大食堂に集まってください』
「……は? なんだそれ」
周りもざわざわし始めた。
仕方なく俺も大食堂へと向かう。
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そこは……人で埋め尽くされていた。
(これ、全部三年生か? いや、どう見ても学校中のやつが集まってるだろ)
うんざりした気分のまま、俺は舞台を見上げた。
奥から現れたのは、校長・初見。
ビシッとスーツを決め、険しい顔。
まるで政治家みたいに見える。
マイクの前に立ち、彼は口を開いた。
「――三年生諸君。本日より、新たなプロジェクトを始める」
会場がざわつく。
「今年度、君たちは三人一組で共同生活を送ってもらう。男女混合のグループで、だ」
「……は?」
思考が止まった。
次の瞬間、会場全体が爆発する。
「ふざけんな! なんで女と一緒に暮らさなきゃなんねぇんだ!」
俺も頭を抱えた。
(……クソ、マジかよ。女と共同生活? なんの罰ゲームだ)
そのとき、サヤが前に出てきた。
「どうして私が、そんな気持ち悪い男どもと暮らさなきゃいけないんですか!?
みんな体しか狙ってないクズばっかり!
私は勉強に集中したいんです!」
……食堂で暴れてたばかりなのに、今度は校長にまで噛みつくのかよ。
だが校長は冷徹に言い放った。
「拒否権はない。従わない者は――退学だ」
空気が一瞬で凍りつく。
「詳しいことは明日。ここでルームメンバーを発表する。今日は解散だ」
そう言って舞台を去る校長。
会場は混乱に包まれ、みんな口々に不満を漏らしていた。
そして――サヤ。
苛立ちを隠さず、会場の中心に立ち尽くしていた。
……その視線が――俺に突き刺さる。
「っ……」
慌てて目を逸らす。
恐る恐るもう一度見ると、彼女の鋭いターコイズブルーの瞳が俺を真っ直ぐ射抜いていた。
(や、やべぇ……魂まで抜かれそうだ……!)
再び視線を逸らす。
次に見たときには――もう姿がなかった。
「……ふぅ」
深く息を吐き、会場を後にする。
(……あの目。何なんだよ……)
首を振る。
「……共同生活、か。最悪だな」
俺はそう呟き、無表情のまま学校を出た。




