王様空回り劇場7~後輩鈴木の帰国
歌聖ピアディの計らいによって、演劇を見ているかのように夢見の中の「もう一人の自分」の経験を確認できるようになった。
ただしもうカズンのタイムリミットが迫っている。
あと半年もない……それ以内に蹴りをつける必要がある。
私は起きてても、寝てても、分身御米田ユウキの人生を見続けることになった。
とはいえ、あまりにも御米田ユウキが迷走するので、さすがにこれ以降は他者に見せなかった。
母など面白半分に知りたがるので、退けるのが大変だった……
己と協力者のジオライドのみで確認するに留めた。
となると、国王で日々の執務に追われる私に使える時間は、深夜か早朝のみ。
私は早朝を選んで、夜明け前頃に玉座の間に行くことにした。スペースが広いので夢見のスクリーンを展開しやすかったからだ。
「く……っ、……凝ってるな」
アケロニア王国の玉座は赤い布貼りの黄金製だ。そこに黒の軍服の上着を放り、ストレッチするとバキボキ関節が鳴った。
ここしばらく、カズンや仲間たちへの対応で休まる暇がなく、身体のメンテナンスがおざなりになっていたからだろう。
ある程度、全身の筋を伸ばし、簡単にマッサージしてから気を下腹部に収め、玉座に腰掛けた。
それから夢見のスクリーンを展開させて、異世界・日本の光景を確認していった。
誰もいないから独り言も言い放題だった。
「しかしまあ、オコメダ・ユウキか。妙な名前だな」
最後に確認したときより、夢見の内容が進行している。
もなか村にいた、かつて行方不明になった王族たちや、御米田ユウキは無事、この世界のど田舎村に転移できたようだ。
……村ごととは驚いたが……元々、もなか村も、ど田舎村も特殊な魔力が流れる土地だったようだ。その特性を上手く活用したものらしい。
と、そのときだ。
目の前の空間の端に真紅、私と同じ色の魔力のもやが生まれて、――そのまま人間の形を取った。
しかも全裸だ。体格の良い青年の姿には見覚えがある。私だ。
気づけば夢見のスクリーンが玉座の間、全体に広がっている。
ということは、この男は。
全裸の男は辺りをきょろきょろ見回している。まだ私に気づいていないようだ。
面白い、どのような行動をするのか、私は自分が夢見をしている内容を、既知のものも含めてわざとらしく呟くようにコメントを続けた。
すると男はなんと私に向かって腕を振り上げて来たので、呆れて声をかけてやった。
「ほう。夢を歩いてきたと見える。ようこそ、我が前世。いや来世か? あるいは――」
まさか、夢見の中の人物が、スクリーン越しとはいえ現実まで関与してくるとは。
とりあえず、自分と同じ姿形とはいえ全裸のままの見苦しい男に上着を放ってやった。
いや、決して私の肉体が醜いという意味ではなく。
ついでに、アケロニア王族が持つ人物鑑定スキルやバックラー、それに即位式のとき仲間たちから贈られた、聖賢の祝福の大剣も授けてやった。
夢見は行うだけで壊れた蛇口のように魔力を消費する。この大剣があれば御米田ユウキもそれなりに動けるだろう。
にしても、だ。
初めてユーグレンとして顔を合わせた御米田ユウキは、私と同じ気質なのに全然雰囲気も言動も違う。
よく似た他人というほうが、しっくりくる。
なるほど、確かに夢見の世界は可能性や他次元で、そこに入り込んだ自分は同じ魂を持つだけの他人なのかもしれない。
……私は奴ほど嫁取りにも、巨乳にも興味はないからな!
それから比較的スムーズに展開し始めた夢見を通じて、私はふと、カズンの言っていた甘い考えを思い出した。
『もっと話をしていたら、彼の苦悩を理解できたかもしれない』
あいつは自分の父親を殺した邪悪相手にすら、そうのたまった男だ。甘い。甘いにもほどがある。
だが、その甘さが私を庇い、助けたのも事実だった。
夢見の術は、可能性の世界の探索でもある。
「もし、あの邪悪が親しい家族や友人だったらどうなっていたか?」
「御米田ユウキである自分は、どう関わっていたか?」
それは些細な思いつきだった。
今なら大量の魔石があるから、魔力量も余裕がある。
この思いつきを、私は徐々に夢見に反映させてみることにした。
結果、カズンの前世の弟がクローズアップされ、夢見の中で御米田ユウキの職場の、とある後輩との接点が増えた。
そうして出現したのが、――鈴木オサム。カズアキの異父弟であり、御米田の血の繋がらない従兄弟だった。
☆ ☆ ☆
「って王様! 竜殺しのべっぴんとヤッてるじゃん!?!?!?」
俺は翌朝、布団から飛び起きた。
ず、ずるい! それはずるいぞ王様!?
何だよ、愛は捨てたけど本命手に入ってるじゃん!???
いや相手の気持ちは勇者にあるかもだけど、……ずるいー!!!
俺は髪を掴んで頭を大きく振った。
「くそっ、じゃあ初めて会った頃にはもう? その割にお祈りしても全然俺の嫁っこ運、カケラも上がらなかったんだけど!?」
ずるい! 王様ずるすぎだっぺ!!!
そのラッキーを少しは俺にも分けてけろ!?
ピロン♪
と暴れていたら、突如スマホの通知音が鳴った。
相手は……え、鈴木じゃん。
あれ? そういえば夢の最後でなんか重要なことを王様が語ってた気がする。
なんだったっけ?
翌週、バンコクから鈴木が一時帰国した。
本格的にあちらの支社に根を下ろすことになるそうで、本社の寮の部屋を片付け、引き上げに来たのだ。
「ちーっス、ユウキ先輩。お久し振りの可愛い後輩ですよー」
「………………可愛い後輩は自分を可愛いとは言わねえだろ」
今、俺がいる浅草のサイ◯リヤで待ち合わせして、のっけからこれだよ。
あれ? と俺は違和感に気づいた。
こいつ、俺よりだいぶ背の低い、中肉中背の体格だったと思ったが……バンコクのアジアン熱帯の洗礼を受けたせいか、日焼けして……めちゃくちゃデカくなってないか!?
いや、いつ見ても猫背ぎみのクソダルそうな姿勢だったのが、背筋がシャッキリ伸びて体格が大きくなったように見えてるようだ。
前は無難な黒い短髪だったのが、この数ヶ月でかなり伸びて後ろ長めのウルフカットになって、今は明るめの茶髪だ。
このまま湘南のサーファーと言われても違和感がない。
「随分明るくなったじゃないか。バンコクは水が合ったみたいだな」
「いやー最高ですよ南国! 美人な彼女にナンパされて喜んでたらニューハーフでしたけど!」
「え。それ付き合ったのか?」
「ははははは!」
「どっちなんだ鈴木ーっ!?」
「いやーバンコクサイコーっす!」
……楽しくやれてるようで、何よりだよ。まったく。
せっかくだからとワインのボトルを何本も開けて、俺は鈴木の自慢混じりのバンコク支社での活躍を聞いてやった。
驚いたことにかつての無気力さはなりを潜め、自分から飲み会を主催するほど現地に馴染んでいるらしい。
確かに、時や所が変われば関係はガラリと変わってしまう。
お前が正しかったのかもしれないな。……カズン。




