ノベル7巻&コミックス10巻 同時発売記念SS
明日4/7(火)逃げ釣り ノベル7巻、コミックス10巻 同時発売です!
ノベルは6巻の続きでムーロ王国第二王子ゾルターンの捜索、コミックス10巻はドキドキハラハラのミミの結婚式編。
よろしくお願いいたします<(_ _)>
右手に本を、左手に書類を抱えたライモンドが廊下を歩いてゆく。私は柱の陰に隠れながら、その後を追った。
階段を上り右に曲がったあたりで、さりげなく駆け寄る。
「ライモンド様! 偶然ですね!」
「おや、マリーア様」
本を抱え直してライモンドが軽く身をかがめる。眼鏡を直したいようだが、書類が邪魔なようだ。
「重そうですね。手伝います」
そう言って、私はライモンドの手から本を奪い取った。比較的新しい本ばかりで、異常気象や自然災害についてまとめた本だった。そういえば、大雨で川が氾濫したから何とかしてくれって陳情に来ている人たちがいたわね。国王陛下の側近が話を聞いて、陛下がレナートにその調査や対応を任せてたっけ。
ライモンドがじぃっとこちらを見ているのに気付いて、私はにっこりと口の端を上げた。すると、ライモンドもまた同じように微笑む。
「それで、何の用ですか?」
「あっ、バレてた?」
「用もないのにマリーア様が私のところになんて来ないでしょう」
「そんなことないけど」
私は本を両手で抱えて口を尖らせた。そして、言葉を続けた。
「実は参考までにライモンド様の意見を聞こうと思って」
「私の意見がお役に立つのなら」
「えっと、……これは私の友達の話なんだけど」
「えっ」
ライモンドが意外そうに眉を大きく上げた後、口をきゅっと引き締めてこちらを見返した。
「なるほど。そういうお話ですか。それを私に……そうですね、殿下のことを聞くならばまず私ですよね。ああ、いえ。ただの独り言です。どうぞ、続けてください」
「うん? ありがとう。それで、えーと、私の友達のとっても大切な人が最近疲れてる様子なんですって。だから元気付けてあげたいらしいんだけど何をしたらいいと思います?」
「定番ですが甘いものでも持って行くとか」
「甘いものはいつも持って行っているみたいだから、別のものがいいのよね。ほら、特別感? がほしいっていうか」
私が宙にふわふわと手を広げて特別感を表現すると、ライモンドが困惑した表情で首を傾げた。
「確かに、殿下は甘いものがそれほど好きというわけではありませんしね。そもそも、持ってきたところでマリーア様がほとんど食べてしまっていますしね。別のものがいいかもしれません」
「何をぶつぶつ言っているの? 聞こえなかったわ」
「いえ、独り言です」
「ライモンド様も疲れてるのね。肩でも揉みましょうか?」
「私の肩を握りつぶすおつもりですか。ああ、でもそれはいいかもしれません。物を贈るよりも、そのお疲れの方の肩を揉むとかそういった労わりの方が疲れた心に沁みるものですよ」
「そうかも! 王族は望めば何でも手に入るんだもの。気持ちが大事よね、気持ちが」
「ええ、喜ぶ姿が目に浮かびます」
ライモンドが微笑んで頷く。
そういえば、髪を結ってくれる侍女がたまに頭皮のマッサージをしてくれることがある。血行が良くなって頭だけじゃなく目や首の疲れも取れて、とっても体が軽くなるのだ。私は空いている方の手を髪に差し込んで、頭をわしわし撫でた。確か、髪を梳かしたら頭皮のマッサージになるブラシがあるって言ってた気がする。
「ライモンド様、私お買い物に行ってくるわ」
「どうされました、突然」
「髪を梳かすだけで頭皮マッサージになるブラシがあるって侍女たちが話しているのを聞いたの。それを買いに行ってくるわ、友達と一緒に」
「ああ、私も聞いたことがあります。ピノッティ侯爵家が運営する美容関係の会社が開発したとか。じわじわと評判が広まり、男女問わず流行っているそうですよ」
「ロザリア様が! さすがだわ」
「殿下の長い御髪を美しく保つために、それもまた良い発想かと。マリーア様に髪を梳いてもらえば、殿下の疲れなんてすぐに吹っ飛んでしまうことでしょう」
「え?」
「え?」
私が声を上げると、ライモンドもつられて声を上げた。目の合った私たちは立ち止まり、しばらくの間見つめあっていた。
「何で私が髪を梳くの。それに、その相手は髪が長くなんてないわよ」
「この流れで本当に友達の話なことあるんですか」
「最初っからそう言ってたじゃない」
「そうでしたね。マリーア様が回りくどいことなどするはずがなかった」
はあ、と小さなため息をついて、ライモンドが歩き始めた。が、すぐに立ち止まってこちらに振り向く。
「待ってください。あなた、王族は望めば何でも手に入る、とか言ってませんでした? これで勘違いするなと私が責められるのはおかしな話では」
「あら、私そんなこと言っちゃってたかしら……」
「そのお友達とはアイーダ様のことでしたか……」
「あちゃあ、バレちゃった」
私は指で頬を搔きながら顔をしかめた。レナートが忙しいので、プラチドが代わりに王城の外に出る公務を担ってくれているのだ。もともと自分の分の仕事もあるので、遠方の公務が続いてしまうこともあり、何日も帰ってこないこともあった。にこにこと朗らかなプラチドだけど、やはり疲れている様子は見えるのでアイーダが心配していたのだ。
「と、いうわけで、ライモンド様お小遣いちょうだい」
「なぜ私が」
手を差し出すと、ライモンドが冷めた表情で私の手を一瞥した。
「マリーア様、あなた……まさか……王太子妃のための予算を使い切ったんですか。何を買ったんです。純金のバーベルですか。ダイヤをちりばめた兜ですか」
「違うわよぅ。誰がそんなもの買うっていうのよ。私のお財布係の侍女頭が今日はお休みなの。そんな時は代理の管理係に申請しなきゃいけないんだけど、ライモンド様が許可すればそういう申請をすっ飛ばしてお小遣いもらえるって聞いたから」
私はお財布をすぐに落としてしまうので、お金を使う予定のある時は使う分だけを都度もらうシステムなのだ。と、言っても、今まで街で買い食いする小銭程度しか持って歩いたことはないのだけれど。
聡いライモンドは私のざっくりとした説明を聞いただけで会得した表情で頷いた。
「はぁ、わかりましたよ。すっとばせるわけではなく、その申請を私が用意して私が承認するっていう話なんですけれども、やっておきます」
「ありがとう。ライモンド様」
「で、どれくらい用意すればよろしいのですか」
「アイーダとそのブラシを買いに行ってこようと思うの。ブラシはアイーダが自分で買うだろうし、ええと、途中でアイーダとお茶したいからカフェ代金くらいかしら」
「そんな程度ですか!? 本当にお小遣いじゃないですか」
「これも最初っからそう言ってるわ」
話が終わったのはちょうどレナートの執務室の前だった。
恭しく礼をしながら、ライモンドが扉を開く。
「マリーア様、どうぞ。プラチド殿下同様、レナート殿下もお疲れです。あなたの笑顔を見ればきっと元気になるでしょうから」
その声に、眉間にしわを寄せ執務机につくレナートが顔を上げる。腕まくりをして、ちょっと髪がボサッとしている。確かにお疲れのようだ。
私の顔を見ると、ぱあっと明るい笑みを見せた。そんな表情をされたら、入らないわけにはいかない。
仕事の邪魔をしないように少しだけ話をして、肩を揉んであげたら少しスッキリしたみたい。
執務室を出ようとしたら、ライモンドにレナートの執務机の引き出しから取り出したお金を渡された。案外面倒くさがりのレナートは引き出しにちょっとした現金をそのまま入れているのだそうだ。
「肩を揉んでくれた謝礼だよ」
へそくりを快くくれたレナートはいつもみたいに美麗に笑っていた。
あんなに喜んでくれた上に、報酬ももらえるなんて。いろんな人の肩を揉んで歩けば商売になるかもしれないわ。
「私の握力があれば、あっという間に大金持ちになっちゃうかも!」
「なあに? ミミったらずいぶんと楽しそうね」
王都一オシャレなカフェで、隣に座るアイーダが可笑しそうに笑った。
逃げ釣りアニメ放送中!
元気いっぱいのミミの活躍をご覧ください!
放送の日時などはアニメ公式サイトやXなどを見てね~~




