アニメ放送開始記念SS
皆様の応援のおかげで逃げ釣りアニメになります!!
放送開始はとうとう明日4/1(水)24:00~
エイプリルフールのウソではなくて、ほんとに放送開始です^^
お疲れ様の水曜日に、元気いっぱいのミミを見て週末まで頑張りましょー!
なんて素晴らしい演奏だろう。
私は滂沱の涙を流し、立ち上がって頭の上で全力の拍手をした。
「ミ、ミミ。一度座って落ち着こう」
レナートの声にハッとして、私はとすんとソファに腰を下ろした。
隣に座るレナートがハンカチで私の涙を優しく拭ってくれる。
「ミミがこんなにも感動するなんて……」
侍女の皆さんが気合を入れてメイクしてくれた顔を崩さないよう、レナートが慎重にハンカチで撫でる。涙を流してしまった時点でもうマスカラにもアイラインにも影響が出てしまっているだろうけれど、それでも彼は精一杯気遣ってくれている。その優しさに再び私の瞳が潤む。
「だって、だって。こんなにも迫力があって心に迫る演奏を聴いたのは初めてだもの。いくら拍手したって足りないくらいよ!」
私はレナートの手に自分の手を添えて、そうこたえた。
「確かにこのオーケストラは王国一と名高い」
レナートはそう静かに言うと、困惑したように目を細めた。
「しかし、まだ一曲目だよ」
今夜はレナートと共にオーケストラの公演に招待されたのだ。王族専用のボックス席からはオーケストラの様子がよく見えた。それぞれの楽器の奏者の華麗な演奏。よく見ればひとりひとり個性があって、それらをまとめる指揮者の動き。瞬きするのを惜しんで私は演奏に聴き入った。いつの間にか席から身を乗り出していたので、レナートに肩を押さえられたくらいだ。
「はああ、一曲目からこんなに素晴らしいだなんて。最後まで身が持つかしら」
私はサイドテーブルに置かれた冷たいジュースに口をつけた。喉をひやりと通るさわやかさに、少しだけ頭がすっきりとした気がした。
肩と背中が大きく開いたドレスは大人っぽくて恥ずかしかったけれど、今となっては涼しくてちょうどいい。高く上品に結い上げてもらった髪も、首もとに風が通って気持ちがいい。
今夜のレナートは黒を基調にしたシックな正装だった。黒いシャツにダークレッドのタイがよく合っていた。ちなみに、タイピンは私が先日プレゼントしたものだ。
いつもの煌びやかな王子様レナートもいいけど、たまにはこういう落ち着いた装いも良い。とても良い。すごく良い。
「気に入ってくれたようで良かった」
オーケストラのことよね? 私はあわてて手で口を押えた。レナートのタイピンがキラッと輝く。
二曲目の演奏は落ち着いた楽曲だった。耳をくすぐるようなフルートの音が心地よい。
「確かアイーダの親戚に世界中を回っているフルート奏者がいるって聞いたことがあるわ」
「へえ。ミミの親戚ではない?」
「私の方とは違う親戚ね。うちの系統にそんな優雅なことしてる人いないわ。そもそも、がさつなわが家の縁戚がアメーティス公爵家の縁戚とつながっていたことが奇跡みたいなもので」
私とアイーダは遠い親戚だ。生まれ育った国も違うから、もしかしたら一生出会うことも、名前を知ることすらなかったかもしれない。アイーダが持病の治療のために空気の良い田舎を探した時に、ムーロ王国のわが家のことを思い出してくれた人がいたらしい。アイーダと出会えたのはその人のおかげと言っても過言でもない。きっと神様のように素晴らしい人に違いない。
「さすがアメーティス公爵家の血筋は優秀な人ばかりなのね。アイーダのピアノの腕前だってプロ並みだもの」
「ああ。確かに。恥ずかしがってなかなか人前では弾いてくれないようだが」
レナートが宙に両手を広げてピアノを弾く真似をする。黒の正装もあいまって、その姿はまるでおオーケストラの一員のようにも見え、とても様になっていた。
「こんな素敵な人がステージにいたら見るのに夢中で演奏が耳に入ってこなくなっちゃう」
「うん? 何て言ったの、ミミ?」
「そういえば、レナートってバイオリンを弾けるって聞いたことあるわ」
「弾けるよ。でも、王族の嗜みとして基礎を習っただけで人前で弾くほどではないんだ」
「アイーダみたいなこと言ってるわ。じゃあ、プラチド殿下も弾けるってこと?」
「ああ。一緒に習っていた。あいつはそのままいろいろな楽器も習っていたな。ピアノにフルート。そうだ、アルトサックスは気に入って、自分でもいくつか買っていたはずだ」
「ええっ、意外!」
私は叫んだ。サックスはスポットライトを浴びる目立つポジションという印象がある。あの朗らかなプラチドにそんな一面があったとは。
「聞いたことはなかったが、ミミは楽器の演奏をすることはできるのか? 一度聞いてみたいな」
「えー、……恥ずかしいわ」
私は両手で頬を押さえてはにかんだ。
「何ひとつ弾けないの」
「そっちか」
レナートが、ガクッと肩を揺らす。
私がアンノヴァッツィ公爵家の跡取りに決まった後、四人の姉たちは淑女教育の一環としてピアノを習っていた。サンドラ姉なんかはなかなか上手だった記憶がある。しかし、後継者となった私は修行一辺倒で、姉たちが弾くピアノの音を聞きながらランニングするのが日課だった。今でもあの曲を聴くと足が勝手に走り出しそうになるくらいだ。
「一応聞くけど、ガブガブは……」
私がおそるおそるそう尋ねると、レナートがにこりと口の端を上げた。
「ああ、ガブリエーレも何の演奏もできない」
「良かった! そうだと思ったわ!」
あの人はやっぱり私と同じだ! 私は手を叩き飛び上がって喜んだ。そんな私を見てレナートがくすくす笑う。
オーケストラの演奏は続いている。指揮者が大きく腕を振り上げ、オーケストラの演奏が最高潮に盛り上がる。レナートの笑い声がかき消され、私たちの会話が途切れた。
私は静かに目を閉じて想像する。
グランドピアノの前に座るアイーダ。黒いドレスは装飾が無くてシンプルだけど、光沢のある艶やかな生地がライトに反射してキラキラ輝いている。細い腕を広げたアイーダがまるで天使の羽が広がるような軽やかな旋律を奏でる。いつのまにかステージに立っていたレナートが、伏し目がちにバイオリンを構える。溶け合うようなピアノとバイオリンの音色。観客たちはうっとりと目をつむり、恋をしたかのように頬を染めた。漏れ出てしまった誰かのため息の声。ステージの中央にスポットライトが当たる。足元からゆっくりと映し出されたのはプラチドだった。黄金色のアルトサックスが輝き、胸をかきむしるような切ないソロパート。
そして、ステージの端からゆっくりと姿をあらわしたのは……私だった……。
「そうだわ。楽器の演奏はできないけれど、私にはこの喉がある。歌声がある」
「ミミ?」
「体幹の強さだったら誰にも負けない。腹筋だってたいしたものよ。歌は得意中の得意なの」
「ミミ、座って」
「即興で作詞作曲歌唱は得意なの」
「オーケストラに飛び入り参加はやめるんだ」
レナートに腕を引っ張られ、私はやっと夢から覚めた。
そうだったわ。今日はただの観客だった。いきなりステージに上がってオリジナルソングを歌い始めたら、世界中が困惑してしまう。
「意外と早く夢から覚めてくれてよかったよ。ミミの歌は確かに素晴らしい。しかし、運動神経がいいのだからきっと楽器も練習すればきっとうまいはずだ。何ができるか一緒に考えてみよう」
「そうかしら。何が向いてるかしらね。ピアノは無理なの。指がこんがらがっちゃう。金管楽器も楽器をついつい力が入って握りつぶしちゃいそうになるのよねえ」
「大きなドラムはどうだろう。あれくらいならミミは軽々持ち上げて叩くことができるだろう」
「お腹に抱えるやつね! 景気よく叩くのも楽しそうね!」
「打楽器が向いているかもしれない。ダンスも得意だから、踊りながらタンバリンを叩くのも似合いそうだ」
「楽しそう!」
私は両手を高く上げて手を叩くふりをした。
「シンバルもいいね」
「わあ、派手な音がなるやつよね。大きな音で叩いたらスッキリしそう!」
「ふふっ、シンバルを叩くお猿の人形みたいでかわいいらしいだろうな」
「ん? 猿?」
「どうした? ミミ」
「今、レナート」
「見てごらん、トランペットの三人が立ち上がって演奏している」
「さっき、猿って」
「何のことだ」
「私のこと」
「はて、ミミは可愛いって言ったのだが……?」
「レナート……?」
オーケストラの演奏が最高潮を迎えた。打ち鳴らされるドラムとシンバルの音に、私とレナートの声はかき消された。
逃げ釣りアニメ明日から放送開始です。
皆様、視聴どうぞよろしくお願いいたします!
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