はぐれ教師、熱血派
僕たちの学校には某先生という変わった先生がいるんです……。
【朝のHR】
「えー、三十、四十にもなってポケモンマスターを目指すとか言わないように。先生が言いたいのはこれだけです」
生徒「起立、礼」
「はい、おはよう。それじゃ授業始めるとするか」
【1限目・数学】
「今日は数学の岸原先生が謎の失踪のためお休みだから先生が授業します」
「えー、メラネウスの定理が…いや、メネラウスか?メウネラス?」
「えー、このメむにゃむにゃウスの定理により……」
「あー、もう後は答え見てください。解答が一番正しいはずです」
生徒「ちゃんと授業して下さいよ……」
「いいんだよ、数学なんて世の中に出てからも役に立たないから」
「足し算、引き算とあとスーパーの割引計算さえ出来れば生きていけるからさ」
生徒「……」
【2限目・現国】
「現国の大樫先生も昨日から行方不明なのでこの授業も先生がやります」
「はい、それじゃ教科書開いて。えー、『メロスは激怒した』」
「…………」
生徒「先生、さっきから黙ってどうしたんですか?」
「ちょ、今いいところだから話し掛けないでくれ」
「んー、このメロスって奴ひどいよな。いくら疲れたからって今にも死にそうな友人見捨てて寝るなんてな」
「えー、みんなもメロスみたいに途中で挫折しないように」
「…………」
生徒「先生……」
「ああすまん、読み耽ってた。それにしてもこの友人も結構お人好しだよな……えー、セリヌヌティウス? セリヌンティス? セリ、セリヌ……」
「あー、とにかくメロスとセリごにょごにょウスの友情パワーで暴君を倒しました。はい、授業終わり」
【3,4限目・体育】
「はい、体育は先生の担当だからな。いつも通り授業するぞー」
「えー、女子の体育担当の黒井先生も姿を消しているので、今日は男女合同で授業するぞー」
生徒「男女合同で何するんですか?」
「水泳です」
生徒「え?」
「うっひょひょひょーい! おい騒ぐな男共、いくらプールが嬉しいからってはしゃぐなよ!」
「水着! 水着! み・ず・ぎ! うひゃひゃひゃひゃ」
生徒「…………」
「おーし、準備体操するぞー。おいおい、男共みんな前かがみになってたら体操できないだろ」
男生徒「……先生も十分前かがみなんですけど」
「先生はいいんだよ、先生は。前かがみになってないと女子生徒達がみんな引いてしまうだろうが!」
男生徒「……もう十分ドン引きされてますよ」
「え? 本当だ! 女生徒達の視線が痛い」
女生徒「…………」
「いや、ちょっと待ってくれ! 先生は何にもやましいことなんか……」
先生は前かがみになるのをやめて、女生徒の方へ走り出した。
女生徒「きゃあああ!」
「え?」
男生徒「通報しますた」
〜プール〜
「むふふふ、最近の女子高生は発育がよくて……」
男生徒「……ちゃんと授業して下さいよ」
「ちょっと待て、お前達には男のロマンが分からんのか。濡れたスクール水着が映し出す美麗なボディライン、白日の下に晒された脚線美。ああ、スク水最高ぉお……バタッ」
先生は感動のあまり卒倒してしまった。
生徒「おい、誰か救急車呼んでくれ! 先生が鼻血出して倒れたー!」
生徒「せんせえぇええぇえぇぇええ!!」
【昼休み】
「えー、さっきは先生が倒れてしまってね、迷惑かけました。でも、あれだぞ? 鼻血が出すぎて貧血になったわけじゃないぞ。ちょっと朝から体調が優れなくてな。それに鼻血も興奮したとかそんなんじゃないからな! 偶然、たまたま、事故だ、アレは事故なんです」
生徒「…………」
「……えー嘘です。スクール水着に興奮して鼻血出して嬉し死にしました。すいませんでした」
【5限目・英語】
「ふあぁ、英語の織田先生もナンタラカンタラで休みだから、また私が授業します」
「ふわぁ、飯食べた後の英語って眠くなるけどみんな頑張れよ」
「じゃ、リスニングやるぞー。えー、ラジカセのボタンを押してとっ……」
ラジカセ「……Question No.1. Hey, Tom! What are you……(問1、やあ、トム! な、何をする貴様……)」
「……コクンッ……コクンッ……」
ラジカセ「Oh! Mary! You have a very bad smell……(おい、メアリ! 君、何かすごい臭うんだけど……)」
「…………ZZZ……」
ラジカセ「Get out of here,Mr.Koike! I hate you!……(出て行きなさいよ、バカ小池! べ、別にあんたなんて好きになるわけないじゃない!)」
「………むにゃ……スク水おかわり……ZZZ……」
生徒「…………」
【6限目・化学】
「えー、さっきの授業で寝るなとのご指摘がありましたが、残念ながらあれは狸寝入りです」
生徒「…………」
「嘘です、すいません」
「えー、今日最後の授業となりましたが、例のごとく化学の守山先生も一昨日から帰っておりません」
「そうです、また先生がやるハメになりました」
「正直に言うと、これは先生の意志じゃないです。すべては校ちょ……」
そのとき、先生は隣の校舎の屋上で校長と教頭が無線機を操作しているのに気付いた。
(もしや、この教室に仕掛けられた盗聴機ででこちらの会話はすべて筒抜け?)
(なら、下手なことは喋れないな……給料減額の恐れがある)
「……えー、今日の授業はすべて先生が勝手にやったことです、と。これで大丈夫かな」
「じゃ、化学は実験するぞー、実験」
生徒「なんか先生のことだから爆発とか起きそうなんですけど……」
「いやー、さすがに大丈夫だろ。食塩とか使った簡単な実験だし」
ところが先生がビーカーの中に食塩を入れた瞬間……。
ドォォンッッ! という爆音が学園中に木霊した。
【隣の校舎の屋上にて】
校長「何事だ!?」
教頭「どうやら実験室で爆発が起きたようですね」
校長「また、某先生か……今度は減給どころじゃ済まないないぞ」
校長の目には実験室からグラウンドに逃げ出した生徒達が飛び込んできた。
校長はグラウンドへ凄いスピードで走って向かった。
ハゲでデブの校長だが、こう見えても学生時代は神速のチーターと恐れられた陸上選手だったのだ。
しかし、そんなことは本当にどうでもいい。
【グラウンドにて】
校長「おい、君たち。大丈夫か!?」
生徒「ケホッ……僕達は大丈夫ですけど、まだ中に逃げ遅れた生徒と先生が!」
校長「何ぃ!」
教頭「校長、消防隊を呼びましたが渋滞で遅れるそうです!」
校長「クソッ、わかった。君はまず全校生徒達を避難させなさい! 他の校舎にも火が回る危険性がある!」
教頭「わかりました!」
火の回りは思った以上に早く、もはや消防隊の到着を待つしかなった。
校長「くそッ、某先生のヤツどれだけ不祥事を起こせば済むと思ってるんだ!」
生徒「校長先生、それは違います!」
校長「何が違うというのだ。あんなヤツは教師失格だ、失格教師だ!」
生徒「違います、先生は一生懸命なだけなんです!」
生徒「先生はバカでドジでちょっと変態だけど、いつも僕達生徒のために一生懸命頑張ってるんです!」
生徒「さっきだって先生は身を呈して爆発からみんなを守ろうとしました!」
校長「………」
生徒「だから、だから先生を信じてください!」
校長「君たち……」
教頭「おぉ、実験室の方から誰か出てきました!」
校長「何!」
そこには燃え盛る実験室から命からがら脱出した某先生と某先生に抱えられた数人の生徒達がいた。
生徒「せ、先生!」
「おう、こいつらを守りながらだったからちょっと時間が掛かってな」
生徒「大丈夫ですか、先生!」
「大丈夫だ、みんな大した怪我はしてないからな。女生徒Aも足挫いただけだし」
先生は背負っていた女生徒Aを下ろしてそう言った。
生徒「でも先生の足……」
「ああ、これか? ちょっと逃げてるときにな……」
よく見ると先生の右足は血を流して腫れ、見るだけでかなりの重傷だとわかった。
生徒「先生、どこが大丈夫なんですか! 折れてるかも知れませんよ!」
「先生はいいんだよ、先生はな。お前らが無事ならそれでいいんだよ……」
保健医「いーわけないでしょ!」
「ぐはッ!」
突如現れた学園のマドンナ、美人保健医が重症の某先生に飛び膝蹴りを喰らわせた。
保健医「ほら御覧なさい、ちょっと触っただけでこの通りよ。これは絶対折れてるわね」
「あ、保健医さん……もう少しやさしく触って下さいよ。もっとエロやさしく」
保健医「うるさいわね。鼻血に骨折、あなた一日に何度怪我すればいいの?」
「い、いや……俺は大丈夫ですよ……ほら、だいじょーぶ……」
保健医「問答無用よ。ほら、担架来たわよ。あなたもいい歳なんだから意地はらないの、ね?」
「……わかりました」
美人保健医に言われて先生はおとなしく担架に乗り、そのまま担ぎ込まれた。
そしてその担架には生徒や他の先生たちが心配そうに駆け寄って行った。
校長「某先生……」
「あ、校長先生。えー、すいません、実験室あんなにしちゃって」
校長「いや、それは気にせんでいい。それにしても某先生、君は善い生徒を持ったな」
「ははは、あいつらは俺の誇りですからね」
そう言うと先生は救急車で運ばれ、サイレンの音はだんだんと小さくなっていった。
【その後日、病院にて】
先生の骨折は命に別状はなく、先生の病室には毎日見舞い客が訪れた。
生徒「結局、あの爆発はなんだったんですかね」
「あー、警察の調べでもよく分からいらしいからな。まあでも、そのおかげで先生もクビにならずに済んだからな」
生徒「熱血教師の救出劇みたいな感じで世間の注目も集めましたね」
「それに警察から表彰。いやー、やっぱり先生の正義感にみんな曳かれるんだな、うん」
保健医「『看護婦さんが美人でラッキー!うひゃひゃ』とか言ってた人のどこに曳かれるんでしょうね?」
「ああ、保険医さん! それは言わないで下さいよ」
生徒「ははは、そっちの方が先生らしいですよ」
のどかな談笑が病室を包み込む初夏の昼下がり。
今日も某先生のまわりはいつも通り順調に回っていた。
でも、看護婦さんのお尻を触った某先生が、保険医さんにボコボコにされて入院が一ヵ月延びてしまったのはまた別のお話。




