『美琴と葵の旅行』第16話『君と楽しんだ夏』
夏祭りを終え、私たちは旅館へ向かって歩いていた。
その間、今日一日のことを振り返りながら、いろいろな話をしていた。
「今日も楽しかったね」
葵が笑顔で言う。
「うん。葵と一緒にいるからかな。全部楽しかったよ」
そう答えると、葵は少し顔を赤くして、視線を逸らした。
そんな葵を見て、私も少しだけ恥ずかしくなった。
バス停まで歩いているときに聞こえた、蝉の声。
満開のひまわり畑で見た景色。
二人で撮った写真。
お揃いで買ったひまわりのペンダント。
夏祭りで初めて着た浴衣。
さまざまな屋台。
空一面に広がった花火。
そして、葵に告白したこと。
今日一日だけでも、たくさんの出来事があった。
思い返してみると、数え切れないほどの思い出ができた一日だったのだと、改めて感じた。
そんなことを考えているうちに、旅館へ着いた。
フロントで部屋の鍵を受け取り、二人で部屋へ戻る。
今日は一日中歩き回ったこともあり、二人とも疲れていた。
順番にお風呂に入り、就寝の準備をする。
「今日も一緒に寝ていい?」
葵が少し恥ずかしそうに尋ねる。
「うん。というか、私もこちらから言おうか迷ってたところだよ」
そう答えると、葵は少し嬉しそうに笑った。
少し照れながら、二人で同じ布団に入る。
付き合うことになったとはいっても、今までと何かが大きく変わったわけではない。
むしろ、今のままでいいんじゃないか。
そんなふうにも感じていた。
それに、付き合ったら何をすればいいのか、私にはまだよく分からなかった。
「明日は海だね」
「うん。いっぱい遊ぼうね!」
私たちは明日の予定について話しながら、楽しい時間を過ごしていた。
けれど、いつの間にか眠気に襲われていて――
気づけば、二人とも眠っていた。
翌朝。
目を覚ますと、隣では葵が気持ちよさそうに眠っていた。
時間を確認すると、朝食の時間までに身支度をするためには、そろそろ起きなければならない時間だった。
「葵、朝だよ〜。起きて?笑」
「……ねむぃ……」
葵は眠そうに呟きながら、目をこすって起き上がった。
「おはよ、葵」
「おはよ、美琴」
二人で朝の挨拶を交わし、軽く身支度を済ませる。
その後、朝食を食べるために食事処へ向かった。
朝食を食べ終えると、部屋へ戻った。
海へ行く前に、忘れ物がないか最終確認をする。
「忘れ物ない?」
「大丈夫! 美琴は?」
「私も大丈夫」
二人で確認を終え、準備が整った。
私たちは旅館を後にした。
今日の予定は、海へ行って夏を感じながら、たくさん遊ぶこと。
どんな一日になるのか。
そんなことを考えながら歩いていると、少しずつ潮の香りがしてきた。
「美琴、海が見えてきたよ〜‼︎」
葵が笑顔で言いながら、嬉しそうに指を差す。
その先には、青く広がる海があった。
「うわぁ……綺麗だな〜」
思わず声が漏れる。
青い海。
雲一つない青空。
その空に浮かぶ太陽。
そして、海から吹いてくる潮風。
どれも夏を感じさせるものだった。
私たちは砂浜へ向かい、マリンシューズに履き替えて、波打ち際まで走った。
足に触れた海水は、想像以上に冷たかった。
「冷たっ!」
思わず私の口から声が漏れる。
「びっくりしすぎだよ、美琴」
葵が少しからかうように笑った。
そんな葵の笑顔を見て、私は可愛いなと思った。
「思ったよりも冷たかったの笑」
私も笑いながら、足元に来た波を葵に向かって蹴った。
「冷たっ!」
海水がかかった葵が声を上げる。
そして、そのまま反撃するように私へ水をかけてきた。
「しかえしだよ〜笑」
「ちょっと、葵!」
私も負けじと水をかけ返す。
二人で笑いながら、何度も水を掛け合った。
波打ち際を走ったり、砂浜を歩いたり。
海を眺めながら、手を繋いで話したり。
何度も笑って、何度も遊んだ。
決して特別なことをしているわけじゃない。
それなのに、ずっと楽しかった。
太陽の光も。
海風も。
波の音も。
雲一つない青空も。
そのすべてが、夏だった。
気がつけば、お昼になっていた。
「美琴、お腹空いたね」
「うん。何食べようか?」
二人で何を食べたいか話し合いながら、海の近くにあるお店へ向かった。
「海といえば、焼きそばのイメージがあるな〜」
「確かに〜」
「じゃあ、焼きそば食べない?」
「うん! 食べよう!」
二人で焼きそばを注文し、海の見える席で食べることにした。
「やっぱり海で食べる焼きそばは美味しいね‼︎」
「夏をより一層感じるよね〜‼︎」
そんな会話をしながら、私たちは何度も笑った。
昼ご飯を食べ終えると、また砂浜へ戻った。
午前中にしたことと、ほとんど変わらない。
それでも、それが何よりも楽しかった。
時間が経つのも忘れて、私たちは夢中になって遊んでいた。
そして、気づけば夕方になっていた。
「もう夕方だね〜」
葵が海の向こうを見ながら呟く。
昼間は青かった海が、夕焼け色に染まっていた。
「……綺麗」
私たちは、海を眺めながら呟いた。
こんなに綺麗な景色を、私は今までちゃんと見たことがなかった。
「美琴? どうしたの?」
葵が私の顔を覗き込む。
「こんなに綺麗な景色って、あったんだな〜って思ってさ」
不思議と笑みがこぼれた。
「私もそう思うよ〜」
葵も笑う。
私たちは顔を見合わせて、二人で笑った。
「そろそろ帰ろっか」
「うん……そうだね」
「まだ遊びたかったね」
「うん。でも、また来ようよ」
「うん。そうしようね!」
私たちは夕方の海を背に、帰り道を歩き始めた。
振り返ると、夕焼け色に染まった海が、少しずつ遠くなっていく。
私は、その景色を忘れないように、もう一度だけ振り返った。
――この夏が、ずっと続いてほしい。
そして、この夏のことを、ずっと覚えていたい。
そんなことを思いながら、私たちは帰路についた。
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