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『君の夏を書き継ぐ。』  作者: 茶葉


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15/21

『美琴と葵の旅行』第15話『夏を楽しめるようになったのは君のおかげ』


朝。


今日は、私より先に葵が起きていた。


「美琴、おはよ~!」


「おはよう、葵」


昨日はかなり疲れていたはずなのに、葵はぐっすり眠れたのか、すっかり元気そうだった。


私たちはそれぞれ身支度を済ませ、朝ごはんを食べに向かった。


朝ごはんは、お味噌汁に白ごはん、魚の煮付け、卵焼きなど、旅館らしい和食だった。


量もそれほど多くなかったため、二人ともきれいに食べ終えることができた。


部屋に戻り、着替えを済ませる。


そして、今日の予定を改めて確認することにした。


旅館を出たあとは、しばらく歩きながら夏を感じる。


途中で気になるお店があれば入って、昼ごはんを食べる。


その後、少し歩いた先にある満開のひまわり畑へ向かう。


そして夜には――夏祭り。


それが今日の予定だった。


「今日も楽しみだね!」


「うん。昨日とはまた違った一日になりそう」


話し合いを終えると、私たちは旅館をあとにした。


まずはバス停まで歩いて向かう。


私たちが泊まっていた旅館は山に囲まれた場所にあった。


歩いていると、山の方からたくさんの虫の声が聞こえてくる。


その中には――セミの鳴き声もあった。


昔の私なら、この声を聞くだけで嫌な気持ちになっていたと思う。


だけど。


「……あれ?」


私は足を止めることなく、セミの声を聞いていた。


不思議だった。


嫌いだとは、感じなかった。


あの頃の私は、何が楽しいのかも分からなかった。


生きていて何がしたいのかも分からなかった。


そんな私にとって、生きようと必死に鳴いているセミの声は、ただ眩しく感じていたのだと思う。


でも、今は違う。


葵と出会ってから、私は少しずつ変わった。


楽しい。


嬉しい。


もっと一緒にいたい。


そんな、自分自身の気持ちを感じられるようになった。


だからなのだろう。


今は、セミの声を聞いても嫌だとは思わなかった。


むしろ――。


私は、この声が好きになっていた。


「……私、夏が好きになったんだ」


小さく呟く。


そのことに気づくと、なんだか少し嬉しくなった。


そうしているうちに、バス停へ到着した。


バスが来るまで少し時間があった。


私は葵の方を向く。


「葵」


「ん?」


「改めて言いたかったんだけど……」


少しだけ照れながら、私は言葉を続けた。


「葵のおかげで、自分のことを考えられるようになった。楽しいって思えるようになったし、人って暖かいんだってことも知れた」


そして、


「いろんなことを教えてくれて、ありがとう」


葵は少し驚いた顔をした。


「急に言われたから、びっくりしたよ?」


そして、優しく笑う。


「でも、いいの。お互い様だしね。私も楽しいし、美琴も楽しいなら、それでいいじゃん?」


「……そうだね」


私たちは顔を見合わせて笑った。


すると、ちょうどバスが到着した。


二人でバスに乗り込み、目的地へ向かう。


目的地まではかなり遠かった。


しばらく会話をしていたけれど、二時間ほどかかることもあり、私たちは途中から眠ることにした。


気づけば、私も眠っていた。


しばらくして目を覚ます。


窓の外を見ると、目的地はもうすぐそこだった。


私は隣で眠っている葵を起こす。


「葵、もう着くよ?」


「……ん……」


葵は眠たそうに目をこすった。


「起こしてくれて……ありがとう」


「うん」


バスを降りると、ちょうど昼ごはんの時間だった。


「何食べようか?」


「近くにうどん屋さんがあるみたいだよ」


「冷たいうどんなら食べやすそうじゃない?」


「確かに!」


私たちは近くのうどん屋さんへ入った。


席に座り、冷やしうどんを二つ注文する。


運ばれてきたうどんは、冷たくて、コシもしっかりしていた。


「美味しいね~!」


「うん。暑い日にちょうどいいね」


お腹を満たした私たちは会計を済ませ、お店をあとにした。


目的地のひまわり畑までは、歩いて十分ほどだった。


そして――。


「うわぁ……!」


「綺麗~!」


二人の声が重なった。


目の前いっぱいに広がっていたのは、満開のひまわり畑だった。


一面に咲く黄色い花。


夏の日差しを浴びながら、どのひまわりも空に向かって咲いている。


私たちは、あまりの美しさにしばらくその場から動けなかった。


そして私は、隣にいる葵を見る。


ひまわりに囲まれた葵は、まるでその景色の一部みたいだった。


その笑顔も、ひまわりのように明るく見えた。


「葵」


「なに?」


「一緒に写真撮らない?」


「撮ろう!」


近くにいた人に声をかけ、二人で写真を撮ってもらった。


「ありがとうございました!」


お礼を伝え、カメラを確認する。


そこに映っていた私は、やっぱり自然に笑っていた。


以前の私なら、こんなふうに笑っている自分を想像することすらできなかった。


葵と出会ってから、私は本当に変わったんだ。


「いい写真撮れたね!」


「うん。すごくいい写真」


私たちは写真を眺めながら、ひまわり畑をあとにした。


ひまわり畑の近くに小さなお店があったので、入ってみる。


すると、ひまわりをモチーフにしたアクセサリーが並んでいた。


「これ、可愛いね」


二人で悩んだ末、私たちはひまわりのペンダントを購入することにした。


気づけば、お揃いのものも少しずつ増えている。


「はい、葵」


「え?」


私は買ったばかりのペンダントを葵に渡した。


葵も少し照れながら、自分のペンダントを私に差し出す。


「……交換しよっか」


「うん」


「ありがとう」


「こっちこそ、ありがとう」


お揃いのペンダントを身につけた私たちは、顔を見合わせて笑った。


私たちがひまわり畑を少し早めにあとにしたのには、理由があった。


今日は夜に夏祭りがある。


せっかく夏祭りに行くなら、浴衣を着たい。


そう思っていた。


「葵」


「ん?」


「夏祭り、夜に行くならさ……せっかくだし浴衣着たくない?」


葵の顔がぱっと明るくなった。


「浴衣……私、着たい! せっかく夏祭りに行くなら着たい!」


「じゃあ、今から浴衣を探しに行こう?」


実は、そうなるかもしれないと思って、私はあらかじめ浴衣をレンタルできるお店を調べていた。


幸い、そのお店は夏祭りが行われる場所の近くにある。


バスに乗っている間も、私たちは今日楽しかったことや、夏祭りでやりたいことについて話した。


話していると時間はあっという間に過ぎ、気づけば夏祭りが行われる街に到着していた。


まだ始まっていないというのに、浴衣姿の人もちらほら見える。


スマートフォンで場所を確認しながら歩き、目的の店へ向かった。


店に着くと、店員さんが私たちに似合いそうな浴衣をいくつか選んでくれた。


二人で相談しながら、その中から青色を基調とした浴衣を選ぶ。


店員さんに着付けをしてもらい、しばらくすると二人とも浴衣姿になっていた。


「なんか、もう夏祭り始まってるみたいだね!」


「本当だね」


私は葵の姿を見て、少しだけ照れながら言った。


「葵、浴衣似合ってるよ」


「美琴も似合ってるよ」


お互い少し照れながら、そんなことを言い合う。


着付けが終わり、レンタル代を支払う。


すると、ちょうど夏祭りが始まった。


私たちは顔を見合わせ、手を繋いだ。


そして、そのまま屋台を見て回る。


最初に目に入ったのはチョコバナナだった。


「これ食べたい!」


「私も!」


二人でチョコバナナを買い、一緒に食べる。


「美味しいね~」


「うん!」


その後は射的にも挑戦した。


けれど、なかなか当たらない。


結局、二人とも景品を取ることはできなかった。


「全然当たらなかったね!」


「難しすぎるよ~!」


それでも、二人で顔を見合わせて笑った。


その後はりんご飴を食べ、さらにかき氷も買うことにした。


二人ともブルーハワイ味を選ぶ。


青いかき氷を食べながら、


「なんか、すごく夏って感じするね」


「うん。今日一日ずっと夏だったけど、これは特に夏って感じする!」


そんな話をしているうちに、花火が始まる時間が近づいてきた。


私たちは花火が綺麗に見える場所へ移動した。


そして――。


夜空いっぱいに、花火が広がった。


大規模な夏祭りということもあり、次々と花火が打ち上がっていく。


大きな音が響く。


夜空が明るくなる。


その光に照らされた私たちは、ほとんど同じタイミングで顔を見合わせた。


私は胸の奥にある気持ちを、今度こそ言葉にしようと思った。


「葵」


「うん?」


「葵と出会ってから、私……ずっと楽しいんだ」


少しだけ息を吸う。


「まるで、色のなかった世界に色がついていくみたいに……」


花火が夜空に咲く。


「好きじゃなかった夏も、葵のおかげで好きになれたんだ」


緊張で声が少し震える。


それでも、伝えたかった。


「葵。もし良かったら……これからも私と一緒にいてくれませんか?」


言葉にした瞬間、今まで生きてきた中で一番緊張したような気がした。


恥ずかしくなって、私は少しだけ視線を逸らす。


しばらく返事がなかった。


隣を見ると、葵の頬を一筋の涙が伝っていた。


私はどうしたらいいのか分からなかった。


けれど、自分が泣いたときに葵がしてくれたことを思い出す。


私はそっと葵のそばに寄り添った。


しばらく静かな時間が続いたあと、葵が口を開く。


「美琴……ありがとう。本当に嬉しい」


そして、涙を拭いながら笑った。


「私でよければ……これからもよろしくお願いします」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がいっぱいになった。


夜空には、また大きな花火が咲いていた。


その光を見上げながら、私は思う。


今日という日は、きっと忘れない。


花火が終わる頃、私たちは少し照れながら手を繋いで、夏祭りをあとにした。


これからも、こんな時間が続いてほしい。


そう思いながら、私たちは旅館へ向かった。


この時は、まだ知らなかった。


私たちの夏が、静かに終わりへと近づいていることに。

茶葉(ちゃっぱ)と言います‼小説の投稿をしていくので今後ともよろしくお願いします‼


広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、大変助かります。


コメントもぜひお待ちしております‼

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