『美琴と葵の旅行』第14話 君と過ごす都会での一日
朝。
葵より先に目を覚ました私は、軽く身支度を済ませると、朝ごはんを作ることにした。
昨日買った食パンに、ピザ用のチーズ、卵、ベーコン、マヨネーズを乗せ、トースターで焼いていく。
焼き上がるまでの間に冷蔵庫を確認していると、昨日のカレー作りで余った夏野菜とお肉が残っていることに気づいた。
「これ、まだ使えるね」
せっかくなので、それらを使ってさっぱりした煮込み料理も作ることにした。
料理を作っていると、時間はあっという間に過ぎていった。
朝ごはんをお皿に盛りつけようとした、そのときだった。
「……んぅ……」
振り返ると、葵が眠そうな顔をしながら起きてきていた。
「おはよう、葵」
「……おはよ~、美琴……」
まだ眠そうに目をこすりながら、葵はテーブルの上に並んだ朝ごはんを見る。
その瞬間、眠そうだった葵の目がぱっと輝いた。
「わぁ……! 朝ごはん作ってくれたの?」
「うん。昨日の残りもあったから、それも使ってみた」
嬉しそうに料理を見る葵を見て、私は思わず、
――可愛い。
そう思った。
けれど、その言葉を口にすることはなかった。
二人分の料理をお皿に盛り、食べられる準備ができたところで、向かい合って座る。
そして二人で顔を合わせ、
「いただきます」
そう言って、朝ごはんを食べ始めた。
一口食べた葵は、すぐに嬉しそうな顔をする。
「美琴! これ美味しいよ! 美琴、料理ほんとうまいね~!」
「ありがとう~。家で料理してた甲斐があったかな」
「うん!」
葵は満面の笑みで頷いた。
そんな葵を見ながら、私は自然と笑っていた。
朝ごはんを食べながら、私たちは今日の予定について話し始めた。
昨日の一日目とは違って、今日は普段ならほとんど行かない都会へ向かう。
人も多いだろうし、行きたい場所もたくさんある。
「ちゃんと予定を決めておいたほうがいいよね」
私はそう思いながら、葵と相談していった。
話し合った結果、駅に着いてから和菓子やスイーツを楽しみながら有名な神社へ行き、その後は気になったお店があれば入ってみることにした。
細かい予定を詰めすぎず、その場で見つけたものも楽しむ。
そんな一日にすることにした。
朝ごはんを食べ終え、荷物をまとめる。
ログハウスをあとにした私たちは、電車に乗るまでの間も、
「どんなスイーツ食べたい?」
「私はクレープ食べたいな~」
「私は和菓子も食べたいかも」
そんな話をしながら歩いていた。
そして気づけば、もう電車の中だった。
そこからはあっという間だった。
窓の外の景色が少しずつ変わっていき、見慣れない建物が増えていく。
そして――。
「着いたね」
都会の駅に降り立った。
駅を出た瞬間、私は思わず周囲を見渡した。
「……人、多いね」
「ほんとだね~!」
想像していた以上に人が多い。
少しでも離れたら、すぐにはぐれてしまいそうだった。
私と葵は顔を見合わせる。
「……手、繋いどく?」
「うん。そのほうが安心かも」
昨日も繋いだ手。
それでも、今日は少しだけ違う気がした。
そんなことを考えながら、私たちは手を繋いで目的地へ向かった。
少し歩くと、たくさんの出店や屋台が並んでいた。
色とりどりの食べ物が並ぶ中、最初に目に入ったのは――いちご飴だった。
「美琴!いちご飴あるよ!」
「ほんとだ!食べよっか~」
「うん!」
屋台の前には思っていたよりも長い列ができていた。
けれど、葵と話していると時間はあっという間に過ぎていった。
そして、ようやく私たちの番になる。
いちご飴を受け取って、一口。
「……美味しい」
「美味しいね~! いちご飴、絶対食べたかったんだ~!」
葵は嬉しそうに笑う。
「私も食べたかったんだよね。甘いの好きだからさ。結構楽しみだったんだけど……美味しかった~」
その後も、クレープやアイスを食べながら街を歩いた。
普段なら、こんなに食べ歩きをすることなんてない。
でも今日は、不思議なくらい楽しかった。
しばらく歩いていると、近くにあったお店に入ることになった。
店内を見て回っていると、バッグにつけられる小さなクマの人形が目に入った。
どうやら、それに目を引かれていたのは私だけではなかったらしい。
葵が真っ先にその前へ向かう。
「美琴~! これ、お揃いにしない?」
「私も気になってたんだよね。どっちにする?」
二人でしばらく悩んだ。
そして最終的に選んだのは、白色に赤いリボンがついたクマの人形だった。
「これにしよっか」
「うん!」
二人で同じものを購入した。
店を出ると、それぞれのバッグにクマの人形をつける。
「お揃いだね!」
「お揃いだね!」
顔を見合わせて、二人で笑った。
その後、私たちは近くに有名な神社があることを調べ、そこ行くことにした。
私はスマートフォンだけではなく、持参したカメラも持ってきていた。
せっかくだから、二人で写真を撮りたかった。
神社に着くと、近くにいた人にお願いして、二人の写真を撮ってもらった。
「ありがとうございました」
お礼を伝えて、撮ってもらった写真を確認する。
そこに映っていた私は――。
とても自然に笑っていた。
以前の私なら、こんな笑顔をしている自分を見ることなんて、ほとんどなかったと思う。
葵と出会ってから、私は少しずつ変わっている。
不思議だった。
でも、不思議と驚きはなかった。
むしろ、
――変われたんだ。
そう思えたことが、少し嬉しかった。
神社では、お守りも買うことにした。
たくさん並んでいるお守りを見ながら、私はあるものに目を止めた。
縁結び・恋愛成就のお守り。
私は、もう自分の気持ちに気づき始めていた。
葵に惹かれている。
一緒にいると楽しい。
もっと一緒にいたい。
その気持ちを、私は少しずつ自覚していた。
だから――。
「これにしよう」
私はそのお守りを一つ買った。
後で葵に渡そうと思った。
一方で、葵も同じお守りを買っていた。
けれど、私はそのことをまだ知らなかった。
気づけば、もう昼になっていた。
私たちは近くにあったカフェへ入ることにした。
調べてみると、そこのパンケーキがとても美味しいと評判らしい。
先ほどまで食べ歩きをしていたこともあって、二人ともそこまでお腹は空いていなかった。
「一つ頼んで二人で食べる~?」
「うん、それがいいね~」
しばらくして運ばれてきたパンケーキには、たっぷりのメープルシロップとホイップクリームがかかっていた。
見るからに美味しそうだった。
パンケーキを眺めながら、私はふと今日一日を振り返る。
「今日も楽しいね!」
「うん!」
「こんなに楽しめたの、初めてだよ。本当にありがとうね、葵」
葵は少し照れたように笑った。
「こちらこそだよ。本当に楽しいもん! でも……自然に笑える美琴が見れて、よかったよ~」
「……そっか」
葵と出会ってから、まだそれほど時間は経っていない。
それなのに、人はきっかけがあれば、ここまで変わることができる。
私はそんなことを思った。
パンケーキを二人で分けながら、この後の予定を話す。
近くには見晴らしの良い観光地があるらしい。
そこへ行ったあと、少し買い物をして、予約していた旅館へ向かうことにした。
見晴らしの良い場所から見えた景色は、とても綺麗だった。
高さもあり、足元の一部が透明になっている場所では、
「ちょっと怖いね……」
「うん。でも、こういうのも楽しいね!」
と、少し怖がりながらも二人で楽しんだ。
その場所を後にした私たちは、今日楽しかったことや、美味しかったもの、嬉しかったことを話しながら街を歩いた。
そして、いくつかのお店を見て回り、買い物を済ませる。
気づけば、夕方になっていた。
旅館に着くと、受付で予約していた名前を伝え、部屋の鍵を受け取った。
「思ったより疲れたね~」
「うん……今日は全力で楽しんだからね」
部屋に入ると、二人とも荷物を置いて一息ついた。
順番にお風呂へ入り、せっかく旅館に来たのだからと、用意されていた浴衣を着てみることにした。
「美琴、似合ってるね~」
「葵もね」
「なんか旅館っぽくなったね!」
「ほんとだね」
そんな他愛もない話をしながら、二人で笑った。
しばらくすると、旅館で頼んでいた夕食が運ばれてきた。
二人で食事を楽しみ、お腹いっぱいになったところで、今日は早めに眠ることにした。
布団に入る前。
私は、バッグの中から昼間に買ったものを取り出した。
「葵」
「ん?」
「寝る前に渡したいものがあってさ。もしよかったら、受け取ってくれない?」
葵は少し驚いた表情をした。
「何がもらえるのかな?」
私は、昼間に神社で買ったお守りを葵へ差し出した。
「これ……」
葵はお守りを見る。
そして、その意味に気づいたのか、少しだけ頬を赤くした。
「……嬉しいよ。まさか、もらえるとは思ってなくて…」
葵はお守りを大切そうに見つめたあと、私を見る。
「そのお守りの意味って……美琴は分かって渡してるんだよね?」
「うん…」
私は少しだけ視線を逸らした。
「そういう意味で渡したんだ」
言葉にするだけで、顔が熱くなる。
「これ以上は恥ずかしいから言えないけど……その気持ちは、後日改めて言わせてほしい」
今までの人生で、一番緊張した。
心臓の音が、自分でも分かるくらい大きく感じる。
すると葵は、嬉しそうに笑った。
「実は私も、美琴に渡したいものがあったんだよね」
「え……?」
葵が取り出したものを見て、私は言葉を失った。
それは――。
私が今渡したものと、全く同じお守りだった。
「……同じだね」
「うん……」
二人とも、同じことを考えていた。
それに気づいた瞬間、言葉が出てこなくなった。
しばらく、静かな時間が流れた。
お互いに何かを言おうとしても恥ずかしくて言えない。
やがて私たちは、照れながらお互いのお守りを交換した。
「……大切にするね」
「私も大切にするね」
それだけを言って、二人で小さく笑った。
そして、眠る時間になった。
昨日と同じように、葵が私の布団に入ってくる。
「今日も一緒に寝てもいい?」
「……うん。いいよ」
布団に入ると、私たちは今日あったことを少しだけ話した。
「今日は楽しかったね」
「うん。明日も楽しみだね」
そんな話をしているうちに、疲れていたのだろう。
葵はあっという間に眠ってしまった。
私は昨日と同じだから、きっと今日も眠れる。
そう思っていた。
けれど――。
明日が楽しみで仕方がない。
そして何より、私は葵のことを意識してしまっている。
そのことに気づいてからは、なかなか眠りにつくことができなかった。
隣から聞こえる静かな寝息。
今日一日の出来事。
そして、交換したお守り。
いろいろなことを考えているうちに、いつの間にか私も眠っていた。
――こんなに楽しい日々が、ずっと続けばいいのに。
そんなことを思いながら。
茶葉と言います‼小説の投稿をしていくので今後ともよろしくお願いします‼
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