『美琴と葵の旅行』第13話『君と楽しむ遊園地、君と見る夏の星空』
朝。
目を覚ますと、家の中は静かだった。
お母さんは、もう仕事に出かけたみたいだ。
私はスマートフォンを手に取ると、お母さんにメッセージを送った。
『お母さん、昨日はありがとう。いつもありがとう』
短い文章だった。
それでも、今の私には、それを伝えることが大切なことのように思えた。
スマートフォンを置いた私は、朝ごはんを食べ、身支度を済ませる。
そして、今日から始まる四日間の旅行に必要なものを、もう一度確認した。
着替え。
タオル。
歯ブラシ。
充電器。
財布。
通帳。
モバイルバッテリー。
その他の必要なものを一つずつ確認して、忘れ物がないことを確かめる。
「……よし」
準備を終えた私は、鞄を持って玄関へ向かった。
玄関の扉に手をかけた、そのときだった。
ピンポーン。
家のチャイムが鳴った。
「……葵かな?」
私は扉を開ける。
そこには、満面の笑みを浮かべた葵が立っていた。
「美琴、おはよ~!」
「葵、おはよ~」
自然と私も笑顔になった。
「準備できた?」
「うん。忘れ物もない……はず」
「じゃあ、行こっか!」
「うん!」
私は玄関を出て、家の鍵を閉める。
今日から始まる四日間。
どんなことが待っているのかは分からない。
だけど、不思議と楽しみだった。
私たちは笑いながら、今日行く場所を確認しながら駅へ向かった。
駅に着くと、目的地までの切符を買う。
そして、自分たちが乗る電車が来るまで、駅の椅子に並んで座って待つことにした。
「今日、遊園地で最初に何乗る?」
「やっぱりジェットコースターじゃない?」
「私もそれ乗りたい!」
「じゃあ、その次は?」
「メリーゴーランド!」
「急にかわいいの来たね」
「いいじゃん! 遊園地なんだから!」
二人で笑う。
「それからコーヒーカップにも乗りたいな」
「コーヒーカップかぁ……」
「美琴、苦手?」
「いや、乗ったことはあるけど……結構回るよね」
「じゃあ、どっちがたくさん回せるか勝負しようよ!」
「それは絶対酔うやつだよ……」
そんな他愛もない話をしていると、電車がホームへ入ってきた。
私たちは乗る電車をもう一度確認する。
「これで合ってるよね?」
「うん、大丈夫!」
二人で電車に乗り込んだ。
席に座ると、葵が私の顔を見て笑った。
「今日の美琴、すごく楽しそうな顔してるね~!」
「そうかな?」
「うん! 昨日よりずっと楽しそう!」
私は少し考えてから答えた。
「今は、気持ちが少し楽になったからかな」
「そっか」
「自分と向き合って、自分で決められたことが大きかったんだと思う」
学校を休むこと。
今までの自分なら、きっと選べなかった。
でも今回は、自分で考えて、自分で決めた。
「それをできたのは、美琴が頑張ったからだよ!」
葵は笑顔でそう言った。
「今日は暗いことは考えずに、楽しもうね?」
「もちろん!」
私は二つ返事で答えた。
「今日はいっぱい楽しもう!」
それからは、明日のことや、これから行きたい場所のこと。
好きな食べ物のこと。
そんな他愛もない話をしながら、電車に揺られていた。
話していると時間が経つのは早い。
気づけば、目的地の駅に到着していた。
電車を降り、今度はバスへ乗り換える。
そして、バスを降りた先に見えてきたのは――。
「着いた!」
「遊園地だ!」
二人の目の前には、大きな遊園地が広がっていた。
開園時刻の十五分ほど前。
すでに多くの人が集まっている。
「夏休みだから、やっぱり人多いね」
「うん。でも楽しそう!」
私たちは遊園地のマップを広げ、最初に乗るアトラクションを決める。
「最初はジェットコースター!」
「その次はメリーゴーランド」
「それからコーヒーカップ!」
「その三つだけでも、お昼くらいになりそうだね」
「じゃあ、お昼はどうする?」
そう話していると、コーヒーカップの近くにあるサブウェイの看板が目に入った。
「ここにしない?」
「いいね! お昼を食べながら、その後の予定を決めよう!」
そうして、今日の最初の予定が決まった。
そして、開園時刻になる。
ゲートが開き、人の流れが一気に動き始めた。
葵が私の方を見て、少しだけ恥ずかしそうに言った。
「ねえ、美琴……」
「ん?」
「はぐれたら嫌だしさ、手……繋がない?」
一瞬、葵の言葉が頭の中で止まった。
「嫌だったら、いいんだけどさ……」
私は少しだけ緊張しながら答えた。
「嫌じゃないよ。確かに、手を繋いでたらはぐれないしね」
「ほんと?」
「うん」
葵が嬉しそうに笑う。
私たちは手を繋いで、遊園地の中へ入った。
繋いだ手が、少しだけ熱く感じた。
でも、不思議と嫌ではなかった。
むしろ――。
少し嬉しかった。
最初に向かったのは、ジェットコースター。
順番を待っている間も、葵と話していると時間はあっという間に過ぎていった。
そして、いよいよ乗り込む。
安全バーが固定され、ゆっくりと車体が上へ上へと登っていく。
「結構高いね……」
「美琴、怖い?」
「ちょっとだけ……」
そう言っている間にも、どんどん頂上へ近づいていく。
そして――。
一気に急降下した。
「わぁぁぁぁ!」
久しぶりに乗ったこともあって、私は思わず大声を上げた。
隣を見ると、葵は両手を上げて楽しそうに叫んでいる。
「美琴、楽しいー!」
その姿を見ていると、私も自然と手を上げていた。
「楽しいー!」
風を切りながら、私たちは二人で笑った。
次に乗ったのは、空中ブランコ。
空中で大きく揺れるブランコに乗りながら、私たちは顔を見合わせた。
「楽しいね~、葵!」
「楽しいね~、美琴!」
二人がほとんど同じタイミングで言った。
思わず顔を見合わせて、笑ってしまう。
言葉にしなくても分かる。
今、私たちは本当に楽しんでいる。
そのことが、なんだか嬉しかった。
次はメリーゴーランド。
さっきまでの絶叫系とは違う、ゆっくりとした楽しさがあった。
馬に乗りながら話をしていると、時間はまたあっという間に過ぎていく。
そして最後に、コーヒーカップ。
二人で乗り込み、勢いよく回り始める。
「美琴、回しすぎ!」
「葵が勝負って言ったんでしょ!」
「目が回る~!」
「私も~!」
二人とも笑いながら、コーヒーカップを楽しんだ。
アトラクションを降りる頃には、少しふらふらしていた。
「……ちょっと回しすぎたね」
「うん……」
顔を見合わせて、また笑った。
そして、私たちはコーヒーカップの近くにあるサブウェイのお店へ向かった。
店内に入り、二人で注文する。
今日は夏の人気商品でもあるタンドリーチキンのサブウェイにした。
しばらくすると、注文したサブウェイが届いた。
二人で顔を見合わせ、手を合わせる。
「「いただきます」」
一口食べる。
「……美味しい」
思わず声が漏れた。
想像していたよりも、ずっと美味しかった。
「美味しい~! 美琴も美味しい?」
「もちろん、美味しいよ~」
葵は嬉しそうに笑っている。
私はサブウェイを食べながら、ふと思った。
一人で食べるご飯も悪くない。
でも、誰かと一緒に食べるだけで、こんなにも違うんだ。
同じ食べ物なのに。
同じ時間なのに。
一緒に笑いながら食べるだけで、こんなにも温かく感じる。
私はまた一つ、知らなかったことを知った。
昼食を食べ終えると、飲み物を飲みながら、この後の予定を話し合った。
「次、何乗る?」
「ゴーカート乗りたい!」
「じゃあ、ゴーカートにしよう」
その後、私たちはゴーカートへ向かった。
乗ってみると、想像していたよりも操作が難しい。
「わっ!」
私は壁にぶつかった。
「美琴、大丈夫?」
「大丈夫! 葵は?」
「私もさっきぶつかったよ!」
二人で笑いながらコースを走る。
上手くいかなくても。
壁にぶつかっても。
ただ二人で笑っていることが楽しかった。
そして、遊園地で最後に乗るアトラクション。
観覧車へ向かった。
待ち時間を終え、私たちは二人でゴンドラに乗り込む。
ゆっくりと上へ上がっていく。
さっきまでいた遊園地が、少しずつ小さくなっていく。
葵が窓の外を眺めながら言った。
「このままずっと、こうして楽しんでいたいね!」
そして、少しだけ笑って続ける。
「また来ようね!」
「もちろん!」
私はすぐに答えた。
「葵さえ良ければ、いつでも行こうね!」
私は窓の外を見ながら続けた。
「こんなに楽しめたの、初めてなんだ」
少しだけ胸が熱くなる。
「ずっと私も、こうしていたい」
その言葉のあと、二人の間に静かな時間が流れた。
さっきまで聞こえていた笑い声も、少し遠くなったように感じる。
隣に座っていた葵が、ふと私に寄り添ってきた。
そして、そのまま私を抱きしめる。
私は驚いた。
でも、葵の表情を見ると、どこか寂しそうだった。
私は何も聞かなかった。
ただ、葵の背中にそっと手を回した。
「急にごめんね……」
葵が小さな声で言う。
「離れたくなくてね……」
「……うん」
その気持ちは、私にも分かった。
私も、この時間が終わってほしくなかった。
「私も……離れたくないよ」
そう言って、葵を抱きしめる。
このまま時間が止まればいい。
そんなことを、私は初めて思った。
やがて観覧車が地上へ戻り、私たちはゴンドラを降りた。
遊園地を出る前、二人で顔を見合わせる。
「また来ようね!」
「また来ようね!」
言葉が重なった。
二人とも少し恥ずかしくなって、顔を見合わせて笑う。
そして、また手を繋いで遊園地を後にした。
バスに乗り、駅へ戻る。
そこから電車に乗り換えて、次の目的地へ向かった。
しばらくして、私たちはプラネタリウムに到着した。
館内が暗くなり、上映が始まる。
天井いっぱいに星が広がった。
「星って綺麗だね~」
「うん。まるで本物みたい」
「これが夏の大三角かな?」
「たぶんそうじゃない?」
「あれはさそり座かな?」
二人で小さな声で話しながら、星空を眺める。
時間が経つのは早かった。
上映が終わり、館内が明るくなる。
「もっと見たかったな」
「うん……」
「またここにも来ようね」
「もちろん」
私たちは、また一つ約束をした。
プラネタリウムを出たあと、近くのスーパーへ向かった。
今夜の夕食にする、夏野菜カレーの材料を買うためだ。
必要な野菜やカレーの材料を揃え、私たちは予約していた山の中のログハウスへ向かった。
ログハウスに到着すると、荷物を置き、二人で手を洗う。
「先にお風呂入っていいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて~」
葵がお風呂に入っている間、私は夕食の準備を始めた。
野菜を洗い、切っていく。
しばらくすると、
「美琴~、出たよ~!」
葵がお風呂から出てきた。
「じゃあ、次は私入ってくるね」
「うん! 任せて!」
私は交代でお風呂に入り、カレーのこともあるので少し早めに上がった。
戻ってくると、葵が台所に立っていた。
「美琴、私もカレー作りたい!」
「え? いいけど……」
「一緒に作ろうよ!」
「うん。じゃあ、お願いしようかな」
野菜はすでに切ってある。
そこで、二人で鍋に具材を入れ、煮込んでいく。
「ちゃんとできるかな?」
「大丈夫だよ!」
「本当に?」
「たぶん!」
「たぶんなんだ……」
顔を見合わせて笑う。
一人で作るよりも、時間があっという間に過ぎていった。
やがて、夏野菜カレーが完成した。
二人でお皿に盛りつけ、テーブルに並べる。
そして、手を合わせる。
「「いただきます」」
一口食べる。
「美味しい!」
「うん、美味しいね!」
旬の野菜が入ったカレーは、とても美味しかった。
でも私は、それ以上に嬉しいことがあった。
一人で作ったときよりも、ずっと美味しく感じる。
きっと、二人で作ったからだ。
「今日の遊園地も、プラネタリウムも楽しかったね」
葵が笑う。
「ずっと続けばいいって思えるくらいにさ」
「本当にそうだね」
私は葵を見る。
「葵のおかげで、こんなに楽しめてる。本当にありがとう」
「うん!」
葵は元気よく頷いた。
「明日も楽しもうね!」
「うん!」
ご飯を食べ終える。
食器を片付けたあと、私はふと思った。
「ねえ、葵」
「ん?」
「少し外に出ない?」
「分かったよ~」
二人でログハウスの外へ出る。
そして――。
私たちは、言葉を失った。
空一面に、星が広がっていた。
さっきプラネタリウムで見た星空とは違う。
ここには、天井もない。
決められた場所に映し出された星でもない。
本物の夜空が、どこまでも続いている。
「あ……」
私は思わず声を漏らした。
夕方に見たプラネタリウムの星座が、すぐに分かるほどだった。
「あれ……夏の大三角だよね」
「うん……」
「さっき見たのと同じだね」
「でも……全然違う」
二人はしばらく、何も言わずに星空を見上げていた。
静かな夜だった。
聞こえるのは、風の音と、遠くから聞こえる虫の声。
やがて、葵が小さな声で言った。
「ねえ、美琴」
「なに?」
「まるで、この世界に私たち二人しかいないみたいだね」
私は空を見上げたまま答える。
「……うん」
私も、同じことを考えていた。
「この世界に、二人だけいるみたい」
それから私たちは、星空を眺めながら今日あったことを話した。
遊園地で乗ったアトラクション。
食べたサブウェイ。
プラネタリウムで見た星。
明日はどこへ行こうか。
そんな話をしているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。
気づけば、一時間近くが経っていた。
「そろそろ戻ろうか」
「うん」
私たちは最後にもう一度だけ空を見上げ、ログハウスの中へ戻った。
そして、気づけば眠る時間になっていた。
部屋には二つの布団が用意されている。
私と葵は、それぞれの布団に入った。
「おやすみ、葵」
「おやすみ、美琴」
私は目を閉じる。
今日一日の出来事を思い返していると、少しずつ眠気がやってきた。
そのとき――。
「美琴……」
「ん?」
目を開けると、葵がこちらを見ていた。
そして、少し寂しそうな顔をしている。
「……一緒に寝てもいい?」
私は少し驚いた。
でも、その表情を見ていると断ることはできなかった。
「……うん。いいよ」
葵が私の布団に入ってくる。
「ありがとう」
同じ布団の中に葵がいる。
それだけなのに、私はなかなか眠れなかった。
葵も同じようだった。
「今日、楽しかったね」
「うん」
「明日はどこ行くんだっけ?」
「都会の方に行く予定だよ」
「明日、何食べようかな?」
「それは、明日決めることにする?」
「そうしよ~‼」
今日楽しかったこと。
明日したいこと。
そんな話をしているうちに、少しずつ声が小さくなっていく。
そして――。
いつの間にか、私たちは眠っていた。
茶葉と言います‼小説の投稿をしていくので今後ともよろしくお願いします‼
広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願いします。
また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、大変助かります。
コメントもぜひお待ちしております‼




