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『君の夏を書き継ぐ。』  作者: 茶葉


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13/21

『美琴と葵の旅行』第13話『君と楽しむ遊園地、君と見る夏の星空』

朝。


目を覚ますと、家の中は静かだった。


お母さんは、もう仕事に出かけたみたいだ。


私はスマートフォンを手に取ると、お母さんにメッセージを送った。


『お母さん、昨日はありがとう。いつもありがとう』


短い文章だった。


それでも、今の私には、それを伝えることが大切なことのように思えた。


スマートフォンを置いた私は、朝ごはんを食べ、身支度を済ませる。


そして、今日から始まる四日間の旅行に必要なものを、もう一度確認した。


着替え。


タオル。


歯ブラシ。


充電器。


財布。


通帳。


モバイルバッテリー。


その他の必要なものを一つずつ確認して、忘れ物がないことを確かめる。


「……よし」


準備を終えた私は、鞄を持って玄関へ向かった。


玄関の扉に手をかけた、そのときだった。


ピンポーン。


家のチャイムが鳴った。


「……葵かな?」


私は扉を開ける。


そこには、満面の笑みを浮かべた葵が立っていた。


「美琴、おはよ~!」


「葵、おはよ~」


自然と私も笑顔になった。


「準備できた?」


「うん。忘れ物もない……はず」


「じゃあ、行こっか!」


「うん!」


私は玄関を出て、家の鍵を閉める。


今日から始まる四日間。


どんなことが待っているのかは分からない。


だけど、不思議と楽しみだった。


私たちは笑いながら、今日行く場所を確認しながら駅へ向かった。


駅に着くと、目的地までの切符を買う。


そして、自分たちが乗る電車が来るまで、駅の椅子に並んで座って待つことにした。


「今日、遊園地で最初に何乗る?」


「やっぱりジェットコースターじゃない?」


「私もそれ乗りたい!」


「じゃあ、その次は?」


「メリーゴーランド!」


「急にかわいいの来たね」


「いいじゃん! 遊園地なんだから!」


二人で笑う。


「それからコーヒーカップにも乗りたいな」


「コーヒーカップかぁ……」


「美琴、苦手?」


「いや、乗ったことはあるけど……結構回るよね」


「じゃあ、どっちがたくさん回せるか勝負しようよ!」


「それは絶対酔うやつだよ……」


そんな他愛もない話をしていると、電車がホームへ入ってきた。


私たちは乗る電車をもう一度確認する。


「これで合ってるよね?」


「うん、大丈夫!」


二人で電車に乗り込んだ。


席に座ると、葵が私の顔を見て笑った。


「今日の美琴、すごく楽しそうな顔してるね~!」


「そうかな?」


「うん! 昨日よりずっと楽しそう!」


私は少し考えてから答えた。


「今は、気持ちが少し楽になったからかな」


「そっか」


「自分と向き合って、自分で決められたことが大きかったんだと思う」


学校を休むこと。


今までの自分なら、きっと選べなかった。


でも今回は、自分で考えて、自分で決めた。


「それをできたのは、美琴が頑張ったからだよ!」


葵は笑顔でそう言った。


「今日は暗いことは考えずに、楽しもうね?」


「もちろん!」


私は二つ返事で答えた。


「今日はいっぱい楽しもう!」


それからは、明日のことや、これから行きたい場所のこと。


好きな食べ物のこと。


そんな他愛もない話をしながら、電車に揺られていた。


話していると時間が経つのは早い。


気づけば、目的地の駅に到着していた。


電車を降り、今度はバスへ乗り換える。


そして、バスを降りた先に見えてきたのは――。


「着いた!」


「遊園地だ!」


二人の目の前には、大きな遊園地が広がっていた。


開園時刻の十五分ほど前。


すでに多くの人が集まっている。


「夏休みだから、やっぱり人多いね」


「うん。でも楽しそう!」


私たちは遊園地のマップを広げ、最初に乗るアトラクションを決める。


「最初はジェットコースター!」


「その次はメリーゴーランド」


「それからコーヒーカップ!」


「その三つだけでも、お昼くらいになりそうだね」


「じゃあ、お昼はどうする?」


そう話していると、コーヒーカップの近くにあるサブウェイの看板が目に入った。


「ここにしない?」


「いいね! お昼を食べながら、その後の予定を決めよう!」


そうして、今日の最初の予定が決まった。


そして、開園時刻になる。


ゲートが開き、人の流れが一気に動き始めた。


葵が私の方を見て、少しだけ恥ずかしそうに言った。


「ねえ、美琴……」


「ん?」


「はぐれたら嫌だしさ、手……繋がない?」


一瞬、葵の言葉が頭の中で止まった。


「嫌だったら、いいんだけどさ……」


私は少しだけ緊張しながら答えた。


「嫌じゃないよ。確かに、手を繋いでたらはぐれないしね」


「ほんと?」


「うん」


葵が嬉しそうに笑う。


私たちは手を繋いで、遊園地の中へ入った。


繋いだ手が、少しだけ熱く感じた。


でも、不思議と嫌ではなかった。


むしろ――。


少し嬉しかった。


最初に向かったのは、ジェットコースター。


順番を待っている間も、葵と話していると時間はあっという間に過ぎていった。


そして、いよいよ乗り込む。


安全バーが固定され、ゆっくりと車体が上へ上へと登っていく。


「結構高いね……」


「美琴、怖い?」


「ちょっとだけ……」


そう言っている間にも、どんどん頂上へ近づいていく。


そして――。


一気に急降下した。


「わぁぁぁぁ!」


久しぶりに乗ったこともあって、私は思わず大声を上げた。


隣を見ると、葵は両手を上げて楽しそうに叫んでいる。


「美琴、楽しいー!」


その姿を見ていると、私も自然と手を上げていた。


「楽しいー!」


風を切りながら、私たちは二人で笑った。


次に乗ったのは、空中ブランコ。


空中で大きく揺れるブランコに乗りながら、私たちは顔を見合わせた。


「楽しいね~、葵!」


「楽しいね~、美琴!」


二人がほとんど同じタイミングで言った。


思わず顔を見合わせて、笑ってしまう。


言葉にしなくても分かる。


今、私たちは本当に楽しんでいる。


そのことが、なんだか嬉しかった。


次はメリーゴーランド。


さっきまでの絶叫系とは違う、ゆっくりとした楽しさがあった。


馬に乗りながら話をしていると、時間はまたあっという間に過ぎていく。


そして最後に、コーヒーカップ。


二人で乗り込み、勢いよく回り始める。


「美琴、回しすぎ!」


「葵が勝負って言ったんでしょ!」


「目が回る~!」


「私も~!」


二人とも笑いながら、コーヒーカップを楽しんだ。


アトラクションを降りる頃には、少しふらふらしていた。


「……ちょっと回しすぎたね」


「うん……」


顔を見合わせて、また笑った。


そして、私たちはコーヒーカップの近くにあるサブウェイのお店へ向かった。


店内に入り、二人で注文する。


今日は夏の人気商品でもあるタンドリーチキンのサブウェイにした。


しばらくすると、注文したサブウェイが届いた。


二人で顔を見合わせ、手を合わせる。


「「いただきます」」


一口食べる。


「……美味しい」


思わず声が漏れた。


想像していたよりも、ずっと美味しかった。


「美味しい~! 美琴も美味しい?」


「もちろん、美味しいよ~」


葵は嬉しそうに笑っている。


私はサブウェイを食べながら、ふと思った。


一人で食べるご飯も悪くない。


でも、誰かと一緒に食べるだけで、こんなにも違うんだ。


同じ食べ物なのに。


同じ時間なのに。


一緒に笑いながら食べるだけで、こんなにも温かく感じる。


私はまた一つ、知らなかったことを知った。


昼食を食べ終えると、飲み物を飲みながら、この後の予定を話し合った。


「次、何乗る?」


「ゴーカート乗りたい!」


「じゃあ、ゴーカートにしよう」


その後、私たちはゴーカートへ向かった。


乗ってみると、想像していたよりも操作が難しい。


「わっ!」


私は壁にぶつかった。


「美琴、大丈夫?」


「大丈夫! 葵は?」


「私もさっきぶつかったよ!」


二人で笑いながらコースを走る。


上手くいかなくても。


壁にぶつかっても。


ただ二人で笑っていることが楽しかった。


そして、遊園地で最後に乗るアトラクション。


観覧車へ向かった。


待ち時間を終え、私たちは二人でゴンドラに乗り込む。


ゆっくりと上へ上がっていく。


さっきまでいた遊園地が、少しずつ小さくなっていく。


葵が窓の外を眺めながら言った。


「このままずっと、こうして楽しんでいたいね!」


そして、少しだけ笑って続ける。


「また来ようね!」


「もちろん!」


私はすぐに答えた。


「葵さえ良ければ、いつでも行こうね!」


私は窓の外を見ながら続けた。


「こんなに楽しめたの、初めてなんだ」


少しだけ胸が熱くなる。


「ずっと私も、こうしていたい」


その言葉のあと、二人の間に静かな時間が流れた。


さっきまで聞こえていた笑い声も、少し遠くなったように感じる。


隣に座っていた葵が、ふと私に寄り添ってきた。


そして、そのまま私を抱きしめる。


私は驚いた。


でも、葵の表情を見ると、どこか寂しそうだった。


私は何も聞かなかった。


ただ、葵の背中にそっと手を回した。


「急にごめんね……」


葵が小さな声で言う。


「離れたくなくてね……」


「……うん」


その気持ちは、私にも分かった。


私も、この時間が終わってほしくなかった。


「私も……離れたくないよ」


そう言って、葵を抱きしめる。


このまま時間が止まればいい。


そんなことを、私は初めて思った。


やがて観覧車が地上へ戻り、私たちはゴンドラを降りた。


遊園地を出る前、二人で顔を見合わせる。


「また来ようね!」


「また来ようね!」


言葉が重なった。


二人とも少し恥ずかしくなって、顔を見合わせて笑う。


そして、また手を繋いで遊園地を後にした。


バスに乗り、駅へ戻る。


そこから電車に乗り換えて、次の目的地へ向かった。


しばらくして、私たちはプラネタリウムに到着した。


館内が暗くなり、上映が始まる。


天井いっぱいに星が広がった。


「星って綺麗だね~」


「うん。まるで本物みたい」


「これが夏の大三角かな?」


「たぶんそうじゃない?」


「あれはさそり座かな?」


二人で小さな声で話しながら、星空を眺める。


時間が経つのは早かった。


上映が終わり、館内が明るくなる。


「もっと見たかったな」


「うん……」


「またここにも来ようね」


「もちろん」


私たちは、また一つ約束をした。


プラネタリウムを出たあと、近くのスーパーへ向かった。


今夜の夕食にする、夏野菜カレーの材料を買うためだ。


必要な野菜やカレーの材料を揃え、私たちは予約していた山の中のログハウスへ向かった。


ログハウスに到着すると、荷物を置き、二人で手を洗う。


「先にお風呂入っていいよ」


「じゃあ、お言葉に甘えて~」


葵がお風呂に入っている間、私は夕食の準備を始めた。


野菜を洗い、切っていく。


しばらくすると、


「美琴~、出たよ~!」


葵がお風呂から出てきた。


「じゃあ、次は私入ってくるね」


「うん! 任せて!」


私は交代でお風呂に入り、カレーのこともあるので少し早めに上がった。


戻ってくると、葵が台所に立っていた。


「美琴、私もカレー作りたい!」


「え? いいけど……」


「一緒に作ろうよ!」


「うん。じゃあ、お願いしようかな」


野菜はすでに切ってある。


そこで、二人で鍋に具材を入れ、煮込んでいく。


「ちゃんとできるかな?」


「大丈夫だよ!」


「本当に?」


「たぶん!」


「たぶんなんだ……」


顔を見合わせて笑う。


一人で作るよりも、時間があっという間に過ぎていった。


やがて、夏野菜カレーが完成した。


二人でお皿に盛りつけ、テーブルに並べる。


そして、手を合わせる。


「「いただきます」」


一口食べる。


「美味しい!」


「うん、美味しいね!」


旬の野菜が入ったカレーは、とても美味しかった。


でも私は、それ以上に嬉しいことがあった。


一人で作ったときよりも、ずっと美味しく感じる。


きっと、二人で作ったからだ。


「今日の遊園地も、プラネタリウムも楽しかったね」


葵が笑う。


「ずっと続けばいいって思えるくらいにさ」


「本当にそうだね」


私は葵を見る。


「葵のおかげで、こんなに楽しめてる。本当にありがとう」


「うん!」


葵は元気よく頷いた。


「明日も楽しもうね!」


「うん!」


ご飯を食べ終える。


食器を片付けたあと、私はふと思った。


「ねえ、葵」


「ん?」


「少し外に出ない?」


「分かったよ~」


二人でログハウスの外へ出る。


そして――。


私たちは、言葉を失った。


空一面に、星が広がっていた。


さっきプラネタリウムで見た星空とは違う。


ここには、天井もない。


決められた場所に映し出された星でもない。


本物の夜空が、どこまでも続いている。


「あ……」


私は思わず声を漏らした。


夕方に見たプラネタリウムの星座が、すぐに分かるほどだった。


「あれ……夏の大三角だよね」


「うん……」


「さっき見たのと同じだね」


「でも……全然違う」


二人はしばらく、何も言わずに星空を見上げていた。


静かな夜だった。


聞こえるのは、風の音と、遠くから聞こえる虫の声。


やがて、葵が小さな声で言った。


「ねえ、美琴」


「なに?」


「まるで、この世界に私たち二人しかいないみたいだね」


私は空を見上げたまま答える。


「……うん」


私も、同じことを考えていた。


「この世界に、二人だけいるみたい」


それから私たちは、星空を眺めながら今日あったことを話した。


遊園地で乗ったアトラクション。


食べたサブウェイ。


プラネタリウムで見た星。


明日はどこへ行こうか。


そんな話をしているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。


気づけば、一時間近くが経っていた。


「そろそろ戻ろうか」


「うん」


私たちは最後にもう一度だけ空を見上げ、ログハウスの中へ戻った。


そして、気づけば眠る時間になっていた。


部屋には二つの布団が用意されている。


私と葵は、それぞれの布団に入った。


「おやすみ、葵」


「おやすみ、美琴」


私は目を閉じる。


今日一日の出来事を思い返していると、少しずつ眠気がやってきた。


そのとき――。


「美琴……」


「ん?」


目を開けると、葵がこちらを見ていた。


そして、少し寂しそうな顔をしている。


「……一緒に寝てもいい?」


私は少し驚いた。


でも、その表情を見ていると断ることはできなかった。


「……うん。いいよ」


葵が私の布団に入ってくる。


「ありがとう」


同じ布団の中に葵がいる。


それだけなのに、私はなかなか眠れなかった。


葵も同じようだった。


「今日、楽しかったね」


「うん」


「明日はどこ行くんだっけ?」


「都会の方に行く予定だよ」


「明日、何食べようかな?」


「それは、明日決めることにする?」


「そうしよ~‼」


今日楽しかったこと。


明日したいこと。


そんな話をしているうちに、少しずつ声が小さくなっていく。


そして――。


いつの間にか、私たちは眠っていた。

茶葉(ちゃっぱ)と言います‼小説の投稿をしていくので今後ともよろしくお願いします‼


広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、大変助かります。


コメントもぜひお待ちしております‼

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