『君と過ごす夏』第10話『美琴の家での会話』
「そういえば、美琴。この夏休みって、これから何か予定あるの?」
葵に聞かれて、私は少し考えてから答えた。
「明日から四日間は補修があるんだ。だから、あまり時間は取れないかもしれない」
「補修かぁ……大変そうだね」
葵はそう言ってから、少しだけ私の顔を見つめた。
「でも美琴、その話をしてるとき……なんだか、しんどそうだよ?」
「……私、そんな顔してた?」
「うん……」
葵は少し考えるようにしてから、ゆっくり口を開いた。
「美琴に助けてもらう前に、私、公園の木陰で休んでたんだ」
「うん」
「そのとき、補修に向かってる美琴を見たの」
私は黙って葵の言葉を聞いていた。
「そのときの美琴、何も楽しそうじゃなかった。すごく苦しそうな顔をしてたよ」
葵は少し悲しそうな表情を浮かべる。
「今にも壊れてしまいそうなくらいに」
その言葉を聞いて、胸が少しざわついた。
そんなに、顔に出ていたか…
私は今まで、自分では隠せていると思っていた。
誰かに心配をかけないように笑って、大丈夫なふりをする。
それが、いつもの私だった。
でも――。
「……葵」
「なに?」
「今まで、私がどんなことを考えて生きてきたのか……話してもいい?」
自分でも驚いていた。
こんなことを誰かに相談しようと思ったことなんて、今まで一度もなかった。
それなのに、葵には話してみたいと思った。
「もちろん! 私でよければ聞くよ!」
葵は笑ってくれた。
私は少しだけ息を吸って、話し始めた。
「私ね……他の人が楽しめることを、心から楽しめたことがないんだ」
葵は何も言わずに聞いている。
「相手の気持ちが分かってしまうから、その言葉や笑顔にどんな感情が込められているのかまで気づいてしまって……それが、ずっと苦しかった」
言葉にしてみると、自分が思っていた以上に苦しかったことに気づいた。
「それに……私は何がしたいのか、何が好きなのかも分からなくて」
声が少し震える。
「人の気持ちは分かるのに、自分の気持ちが分からないんだ」
私は俯いた。
「だから……葵から見た私の顔は、死んでいたのかもしれないね」
しばらく沈黙が続いた。
すると葵は、優しく私の頭を撫でた。
「今まで、大変だったね……」
その声は、とても優しかった。
「美琴は優しいから、人の気持ちを先に分かってしまって……それで苦しかったんだね」
そして、少しだけ笑ってくれた。
「しんどい話を、頑張って話せて偉かったね」
その瞬間、視界が滲んだ。
また、涙がこぼれた。
でも、今度の涙は前とは少し違った。
初めて自分の気持ちを誰かに話せた。
それだけで、胸の奥にあったものが少し軽くなっていくような気がした。
「……また泣かせちゃった」
葵は少し慌てた様子で私を見る。
「少し、楽になった?」
私は涙を拭いながら、小さく頷いた。
すると葵は、また私をそっと抱きしめてくれた。
私はしばらく泣いていた。
やがて涙が落ち着いてくると、少し恥ずかしくなって葵から離れた。
「……また助けてもらったね」
私は小さく笑った。
「本当に、ありがとう」
「私は美琴の力になれて嬉しいよ!」
葵はいつものように笑った。
「落ち着いて良かった~!」
その笑顔を見て、私も自然に笑った。
そのとき、私は気づいていた。
葵と出会ってから、少しずつ何かが変わっている。
今まで灰色に見えていた世界に、少しずつ色がついていくような感覚。
嬉しいと思える。
楽しいと思える。
誰かに自分の気持ちを話してみたいと思える。
そんな感情が、少しずつ私の中に生まれている。
葵と出会ったことで、私の世界は変わり始めていた。
ほんの少しずつ。
茶葉と言います‼小説の投稿をしていくので今後ともよろしくお願いします‼
広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願いします。
また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、大変助かります。
コメントもぜひお待ちしております‼




