表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使と聖女は足元に転がる【赤い毛糸玉】に導かれる  作者: 黒船雷光


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/43

7・古賀澤はるかの視点・運命の赤い糸は自分で手繰り寄せます

 日常に溶け込む違和感。


 ましてや、当人しか興味を持たない物が不自然に目の前に現れたら、興味を惹かれないか?


 私の天使、国木戸君が手芸部であったのは、間違いなさそうである。

 彼の中学生のある市の主催する学生手芸コンテストに出展と佳作入賞の記録が残っていた。


 普通に捕まえようとすると逃げる獲物を狩るには…

「罠に限ります」


 私は日本古来から伝わる運命の赤い糸伝説に引っ掛けて、手芸で使う赤い毛糸玉を用意した。

 売り物の状態(かせ糸巻き)ではサイズ、柔らかさ、コントロールのし易さが無かったので、一度解いて転がしたりコントロールするために巻き直した。


 日常に差し込まれる違和感。

 自分だけの興味、そして運命的な演出。


 コレを餌にして絡め取れれば最高。

 いざという時の回収用にマジックで使う細くて肉眼では見えない糸を仕込む。

 コレである程度転がした毛糸玉をコントロール出来るはず。


 恋に溺れた乙女の暴走。

 様々な文学で学びましたが、いざ自分がその状態になるなんて滑稽です。でもその情熱を突き詰めて見るのも経験かなと思い、実行する事にしました。


 試しに通学鞄にリールを仕込み、手元を隠して自然にコントロール出来るかシミュレーションしてみた。

 思っていたより簡単に出来そう。


 ママはそんなウキウキの私を見て和かに笑い、パパは何を企んでいるのか知らんが、学業を疎かにするなと仏頂面をした。


 私は毛糸玉をマジシャンの様に自在に操れる様になり、二年生になっていた。


 新学期が始まり、入学式があり上級生として桝村生徒会長と共に在校生挨拶をした。


 私が「崎高の奇跡」と言われているのは知っている。

 周囲の期待と自分の理想、親の想いを叶えて賞賛されるのはとても気持ちいい。


 私は自分の価値観と周囲の価値観をアジャストして少しだけ期待を上回る行動、そして得た立場を謙虚に受け止めて周囲に優しく配慮する。


 厄っかみはあっても、敵は作らない。


 最後に慈愛を込めて笑顔で「みんなよろしくね」と挨拶すると割れんばかりの拍手があった。


 特進化クラスは精鋭なので、クラス変えも無く教室が変わっただけ。


 クラス替えがあった国木戸君は相変わらず二年生になっても日常のルーティンはほぼ変わらなかった。

 今年の桜は開花が遅れた。劇的なシチュエーションには桜が散り始めた春の通学路は完璧です。


 通学時間も完璧に揃えていよいよ仕掛けた。

 トボトボと通学する国木戸君の前方を歩き、少しずつ距離を近づける。

 慎重に、しかし大胆に。


 以前目を合わせて逃げられた距離になる前に、仕込みの赤い毛糸玉をさりげなくリリースする。


 後ろを歩く国木戸君が反応したのが分かる。

 私は思わず心の中でガッツポーズ。

『やったわ古賀澤はるか!』


 浮かれた瞬間、糸の操作を誤って私の足元にまで転がってきてしまった。

 足元直ぐに赤い毛糸玉が転がっていれば、誰だってその視界の違和感に気づく。


 私は、いかにも「何でこんなところに毛糸玉が?」という顔をして、操作していると気付かれない様に私から少しづつ離れる様にする。

 目線を毛糸玉から外してゆっくり振り返り、後ろを見る。


 完璧。国木戸君の表情の不思議そうな視線と私の視線が交差した。

 私は控えめに会釈する。国木戸君は顔を真っ赤にして視線を伏せてしまう。

 その可愛さに思わず笑みが零れる。


 彼の視線が外れた瞬間をみて、すかさず毛糸玉を私は回収し、素知らぬ顔をして第一回の接触を終了した。

 あの意地らしい天使の笑顔は、私に極上の癒しを与え、作戦にハマっているこの達成感はこれまでのどんな成功体験よりも嬉しかった。


 私はちょっとおかしいのだろうか?


 国木戸君は放課後図書室に残って、一人で時間を潰しているのも当然知っていた。


 学生としての彼の情報は生徒会役員の特権をつかい、実地調査も含めて行動パターンもほぼ把握していた。なんなら、明日の予定を先に日記に書けるくらい。

 ふふ、『国木戸君未来日記』…素敵だわ。


 彼は夕日が入ると少し日差しが厳しい窓際に常に座るのをルールにしていた。

 そして、閉館時間までギリギリ粘る。


 私は、学校内の彼の行動は把握しているが、さすがにプライベート、つまり通学路を離れた後に彼がどうしているかは、調べることはしなかった。

 彼がどんな生活をしているのか、どこに住んでいるのか、家では何をしているのか…もちろん知りたい気持ちもあったが、そこは触れないようにしている。


 知るのは、彼の口から語ってほしいというのもあった。

 だから、彼と話してみたいと思った。


 彼を観察して最初に気づいた、彼の制服含めた身なり。

 清潔に気をつけている様だが、着古した制服は何度もほつれた部分を修復した跡がある。稀に図書室で糸を使って補修している様だった。そのしぐさも可愛かった。

 そう、プライベートは未だ聞き出せていないけど、彼が苦労人であるのはすぐに分かった。恵まれて育った私には分からない彼の苦労や、行動の怯え、自信のなさを受け入れて愛でたい…


 私は彼が本を探して書棚を模索し始めたタイミングを計って、再度毛糸玉の餌を撒く。

 彼はまたしても気づいて今度は躊躇なく拾おうとしてくる。


(今よ、はるか!)


 彼の死角から毛糸玉を拾おうと手を伸ばす。

 その柔らかそうな手に触れるチャンス!


 だが、接触直前に彼は私の手に気づいて「え?!」と言いながら手を引いてしまった。残念!

 私も遅れて『予想外』という顔をして驚いて見せる。

 互いの顔が意外と近い。彼の美しい瞳が私を映してきらりと輝いている。

 私の口角が急激に上がるのを無理やり抑え込んで、冷静を装い赤い毛糸玉を拾い上げて「これは貴方の?」とゆっくり尋ねる。


 さあ、どう答えるの?というワクワクが止まらない。


 拾おうとして手を伸ばしてしまったからか、先に持ち主かと誘導尋問されたからか、単に動揺しているだけか分からなかったが、国木戸君は控えめに「はい」と答えて困った顔をした。


 彼の声を初めて聴いた。何て予想通りの優しい響きなのか…ボーイソプラノだった彼が、思春期の声変わりですこし高音が出なくなってしまった感。

 キンキンしないけど、低すぎず可愛らしい。


「えっと…あなたは手芸か何かされるの?」

 手芸という言葉に動揺する国木戸君。かわいい。


「たしか…朝も毛糸玉を見て…」すかさず誘導する。ここ迄近づくことが出来たのであれば話題を広げて搦め手だ。


「その時も…目が合いましたよね?」

 あざとく私の仕草で印象付ける。

 彼は、硬直して私を見てどんどん顔が赤くなる。かわいい。


「あれ?違った?」

 あまり虐めてしまっても二度と近寄れなくても困るので、一旦水入りして国木戸君には反芻する時間を与えないと…とりあえず、朝のことを意識してくれているのか反応を伺う。

「はい…い、いえ……えっと、違わないです」


「ごめんなさい、急に話しかけちゃって…」

 今回はここ迄。

 立ち去ろうとすると、うっかり糸を外し損ねていた私は毛糸玉を回収してしまっていた。…立ち去り際振り返ると、彼は放心状態で気づいていなかったのでホッとしてその場を後にした。


 図書室を後にして、撤収したもう一つの理由としては、生徒会役員としての役目を果たさなければならなかったため。最近桝村会長が私に期待しているのか、一年先輩としての威厳を示したいのか分からないが、干渉が多い。


 もちろん生徒会役員としての役目は理解しているし、彼以外の書記、会計、風紀、監査のメンバーも学業と並行して役目をこなす。

 基本的には社会に出るに当たり、学校という舞台での支配者側のシミュレーションをする集まりと言える。


 私は一年生の時に、生徒会の副会長に推挙され、就任するに当たりパパに言って一つ習い事を辞めさせてもらった。


 生徒会の役員の仕事は、国木戸君の情報を得るためにも引き受けた部分はあるが、それ以外の学校行事や部活活動、学校の先生方のポジションを俯瞰できる素晴らしい環境であった。


 私は、生徒会で副会長という立場を完ぺきにこなした。

 会長である桝村宗一郎を支え、実務をこなしつつも、サポート役に徹した。

 手柄を盗られるという感覚は無い。私は一歩引いて副という立場を全うする。


 要は敵を作らずパフォーマンスを発揮して有用性を示すことが摩擦を少なくし、自分の能力を高め確固たる地位を得るのに十分なステータスを得られるのだ。


 遅くなった夕日に染まる時間から夜の帳が降りる。

 すると何と言う巡り合わせか、国木戸君がトボトボと前を歩いているではないか!


 私はハヤる気持ちを抑えてゆっくりと後を追う。

 駅に着く直前、上り電車到着の警報が鳴り、遮断機が下り始めてそこで国木戸君がダッシュしたら追いつけなかったのだが、彼は期待通りに遮断機を無理矢理渡り切ることはせずに立ち止まってくれた。


 私は小さなガッツポーズを心の中でして彼の後ろ隣に立つ。


 足元に赤い毛糸玉を転がす。

 動揺する国木戸君。


「あら、奇遇ですね」

 声を掛けると本当に驚いた様に彼は飛び上がった。

 かわいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ