6・古賀澤はるかの視点・私が見つけた天使
新学期、新しい春。
二年生になった。
私は、駅から逆行して桜並木を眺めながら登校する、この道がすき。
学校以外がほとんどない田舎な風景だけど、落ち着いた雰囲気、歩いている人はほぼ観音崎高等学校の生徒ばかり。
通学は独りでいつも自分のペースで歩く。
一年生から既に在籍していた特進科クラスは退屈だけど、みな自分が特別だと思って見えないプライドという壁で貴重な青春のひと時を寄せ付けないのが良い。
私もあまり和気あいあいとした仲間の振りをして互いをけん制し合うよりは、個人の独立した凛とした佇まいで孤独に徹します。必要以上に馴れ合いは否定派だし。
遠巻きにチヤホヤされるのも、その間合いが微妙で無視することに決めた。
お陰でクールビューティーと言われて、勝手にイメージが作り上げられていくのでそのまま放って置いた。
美貌やスタイルのことを噂されているのも知っていた。
髪の毛を染めたり、パーマを当てたり、スカートの裾を捲ったりと挑発的な着崩しは、視覚効果のインパクトで誤魔化しているように見えて私は嫌いだった。
なので、私はあえて着崩さず、スタイルを維持して無駄のないサイズで着こなし、スカートの裾も膝下迄あり清楚でルールを破らず完璧に着こなして自分をアピールした。
ファッションはいずれにしても女子の攻守を兼ねた武装だ。立ち姿に隙が無ければ近寄る相手も気圧されて離れる。
今日の私はどう見えているかしら?
私は同じ電車で駅を降りて通学する、一人の同学年の少年を、いつからかとても「意識」していた。
彼は、常に大きなマスクをして下を向き、肩身を狭くしてとぼとぼと通学していた。
暗くて誰も近づきたがらない雰囲気を出していて、実際いつ見ても周囲に誰かが居たことを見たことがない。
初めて彼を見たのは、まだ一年生で入学した間もなくのことだった。
私と真逆だな…と、卑下非難するつもりもなくただそう思った。
彼の制服は、そもそもボロボロで、中古を着ていることはすぐに分かった。サイズも少し合っていない気がする。
ボロボロなのだが、細かいところまで丁寧に補修されていることに気づく。
彼は背が小さく、背筋を伸ばして立っても160cmは無いだろう。
ふわふわした癖のある茶髪は、癖っ毛で脱色などではなく地毛なのであろう…日の光に照らされた部分が透けて金色に光る。
前髪が伸びて目元までかかり、瞳はあまり見えないが、瞳も太陽に反射すると琥珀色に明るく光る。
一度だけ偶然彼が電車内で混雑の時にマスクが外れて付け直す瞬間を目撃した。
一瞬だが、見えた空の素顔は単純に小さくて愛らしく、とてもかわいいと思ってしまった。
おどおどとして自信のない感じ、大きな瞳が周囲を観察する様にキョロキョロとせわしなく動いている。男性とは思えない程繊細そうで美しい指先。
肌も普通の普通の日本人と比較しても1トーン白く明るく、やはり太陽に当たると陽炎のように揺らぐ茜色に透ける明るさと繊細さを持ち合わせている。
多少なりとも美を追求する私の目には、持って生まれた美しさがここまで完璧に具現化した姿を私は初めて見た気がする。
『きゃぁ~天使だわ!天使がこの学校には居るわ!』と私はポーカーフェイスを装い心の中で祝杯を挙げた。
それからは、彼のことに関して、調べ捲った。
完全にストーカーだけど、完全に悟られずに遂行して見せた。
彼は友達が居なかった。いつも独り。
彼は、その完璧な整った天使の容姿を好きではなさそうだった。
寧ろ呪いとさえ感じているようにも見えた。
本人には聞けなかったので、特進クラスの同級生の男子に、質問してみたことがある。「自分が水準以上の美しさを持っていたらどう思うか?」
男子生徒の男子という部分で美しさを求める可能性は低いのではないかという返答だった…整っていることは望ましいが、美ではなく精悍さや、強さを求める傾向があるのではないかと…
ただ、聞いた相手は特進クラスの勉学が得意な学生だ。自分が無いものを求めて評価していることを考えたら…と考えると、求めた回答という印象でもなかった。
その少年のその自信のなさからくる怯えた行動は、更に私の母性を刺激した。
有体に言って、私はその少年の虜になったと言えるだろう。
彼の名前は国木戸健一。名前だけなら純日本人だが、見た目はルネサンス期の宗教画に描かれた天使そのものに見える小柄の青年だ。
私はどうやって彼とどうやって接触すべきか日々調査を進めた。
調査はストーキングとバレると面倒なので、完璧なプランを組んだ。
少なくとも学校内での移動、行動はパターンに分析が可能だ。
後ろを尾行するような分かりやすい追跡など、街中で行っても勘が良い人なら直ぐにバレるというものだ。
私は馬鹿ではない。
だが、国木戸健一という対象に対しては、完全に憑りつかれていたと言っていいだろう。…まあ、それを盲目的な愛…とは言わずに、狂気とも言えることを知っていて止められないのであるから、それは愚かな行為とすれば、バカになっていたと言える。
彼は独りぼっちだったので、行動パターンは他人に左右されないため、非常にルーティン化して把握しやすかった。
トイレに行く時間、お昼を食べるタイミング、教室移動、登校時間、帰宅時間…慎重にしかし無駄なく時間をかけて把握した行動パターンは、次の日の日記を書いてすべて未来予知ができる…レベルに把握ができた。
だが、肝心の個人の接触タイミングがつかめなかった。
一度偶然を装って彼とのすれ違いを試みたことがある。
彼は私の姿を視認すると、アッサリ彼は踵を返してUターンして逃げてしまった。ストーキングがバレているのかと思うほどの危機感を感じる反応でショックを受けた。
他の人、特に男子生徒はすれ違いに少し流し目でもすれば、その男子は信じられない幸運に巡り合ったと言わんばかりの反応をした。
私は他人に嫌われるようなことはしていない…近づけない様にもしているが、嫌悪されるような要素は持っていないはずだ…
その時、一年先輩の桝村生徒会長にうっかり流し目を試したところ、効果が強すぎて彼は私につき纏う様になった。
仮にも生徒会長である彼を無下に否定でもすれば流石に彼のファンからは恨まれるだろうし、適当にいなす為に生徒会に入ることにした。
生徒会に入ってよかったのは、生徒の情報の収集に事欠かないことであった。学生にプライベートなどないのだなとも思ったが。
国木戸健一は中学の時に、手芸部に所属していたことをそこで知った。
「これは使えるかもしれない」私はほくそ笑んだ。
様々な資料の閲覧ができる生徒会だったが、私としても役に立つことを証明しておかないと、後々面倒に巻き込まれないとも限らない。そつなくこなし、桝村会長には適度に恩を売っておいた。




