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天使と聖女は足元に転がる【赤い毛糸玉】に導かれる  作者: 黒船雷光


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41・クマともの和

 僕は多くの見えない鎖で自分を縛って来た。


 多くの心の傷を負い、治療もせず隠して過ごして来た。

 僕は耐えて頑張って居る自分に喜びを感じていたのかも知れない。


 古賀澤さんに出逢い、僕は耐えて忍ぶ生活と対照的な彼女を見て、憧れた。

 今までは思った事もなかったこの感情が理解できずに戸惑った。


 他の人を見ても、僕は感情を動かすことはなかった…なのに、彼女は赤い毛糸玉で僕を巧みに手玉に取って変えてしまった。


 僕は変わってしまった。


 彼女と一緒に居ると、色んな人が集まってくる。

 勉強が出来る、容姿が良い、運動神経が良い…ありきたりな程々な優等生とは違う彼女の極めようとする真摯な姿勢と揺るぎない実行力は、特別な一芸に秀でることより難しく、明るく朗らかで作らない優しさは特別で、そんな彼女が僕に特別な感情を持って接して来てくれて居ると知って、心動かないはずはない。


 母は少し不器用だけど真面目で優秀で、でも少し変わっている。その外見と性格で助けてくれる人があまり居なかった様だけど、そんな母が変わるきっかけをくれたのも古賀澤さんだった。


 そして、桝村生徒会長。

 憧れるか嫌われるかの公明正大容姿端麗勉学優秀の優等生。分析と行動力に溢れて、嘘が苦手な生真面目人間。会長のすごいところは正解不正解では無く、自分の信念に基づいて物事を判断し、結果に言い訳をしない。


 他人の評価を気にしない。

 そして正面から受け止める。

 疑問をそのままにしない。

 その真っ直ぐであろうとする姿勢が先生生徒に好かれるのだろう。


 僕には会長の様な自尊心も行動力も決断力も無かったけれど、向き合い方を…前に一歩出る勇気を示してくれた。


 千鳥アキラさんは、自らの心の声を聞き逃さない。

 好きなモノを好きと言える勇気。彼女は自分を好きになる努力をしていて、ルールを捻じ曲げて押し通す。


 古賀澤さんや桝村会長の様な大人のルールを守って自己主張する優等生を言語では否定しないが行動力で否定と疑問を突き付ける…


 その人にとって何が一番大切なのか?

 彼女はキチンと間違っていようが決断し突き付ける。彼女からは『心に従え』と勇気を貰った。


 花鶴みゆきさんからは、秘めた想いと優しく見守る第三者の目もある事を学んだ。僕に向けられて来た忌避する視線の攻撃力の高さに耳目を閉じてしまったことで、慈愛と理解の視線も同時に防いでしまい、勝手に孤立してしまったのだろう。


 鹿部ヒロキさんは見た目もその役割も千鳥さんの警護と言うのは分かるけど、厳つい見た目と普段からの行動、その持つ雰囲気はまるで仁王像の様だけど、僕を保健室に運んでくれた時の力強さと同時に優しさを感じて、人には見た目も中身も印象の通りだったとしても、その中には別の二面性が潜むことを気付かせてくれた。


「ありがとうございます【クマとも】の皆さん…僕が僕らしく…と言うのも皆さんと出会って目まぐるしく変化してきました…なので……」


「僕は僕を受け止めてくれる皆さんを信じて、容姿を隠すことをやめて、普通にして行きたいと思います」


 これ迄隠してきていた秘密を晒す勇気。

 だが、ここに集う人たちは少なくとも受け入れてくれるだろう。

 そう、受け入れを拒否しているのは、みんなでなはい。僕自身なのだ。


 マスクを外すと、皆の方を向く。


 みんな笑って受け止めてくれる…と思っていた。

 が、反応は意外なものであった。


 古賀澤さんと千鳥さんは泣いていた。

 花鶴さんは赤面して顔を伏せてしまった。

 桝村会長と鹿部君は驚愕を顔に貼り付けて固まっていた。


 コレは…どう言う反応なのであろうか?

 やはり僕の決断は間違って居たのか?

 戸惑いと悲しみでマスクを戻そうとする。


「待て待てえー健ち!戻すなマスクするなぁ!」

 千鳥さんが僕のマスクを取り上げる。

「け、健ち、お前マジか……」マジマジと見られると、小学校の時の奇特な目を向けられたトラウマが蘇る。


「あ、あの…ま、マスクか、か、返してく、ください」

「うわ、ヤバこれマジ?!…ねぇ健ち、お前のコト食ってイイ?」「え?」

「いただきま〜」

「ダメに決まってます!」「お嬢ソレはマズいです」

 古賀澤さんが割り込み、千鳥さんが鹿部さんに引き剥がされていきます。


「驚愕此処に極まれり…僕や古賀澤さんがパーフェクトヒューマンと呼ばれたのはやっかみ半分のただのレッテル貼りだが、国木戸君、君は完全天使パーフェクトエンジェルと呼ばれるに相応しい」

 桝村会長が真面目な顔をして僕に言う。


「て、天使ですか?」

 花鶴さんが後手サムズアップでイイネしている。

「健ちゃんお母さんが髪切ってた時もマスク殆ど外さなかったから…でも、本当にグッジョブだと思ってる!…もう、完全に『推せる!』カンジ」


『推せる』の意味をイマイチピンと拾えない…僕はネットもほとんど使えないSIMカード無しの端末しかないネット無縁の生活なのは今もそこまで必要を感じず結局そのままだ…

 母は言った『人間は便利、贅沢に触れてしまった瞬間に、そこから離れて元の生活に戻れなくなります…絶対ダメとは言いませんが、取捨選択は慎重に』と。


「す、すいません…『押せる』ってどう言う…」

「少し前から流行っている、ネットスラングに近い用語です。熱中するアイドルやスポーツ選手を応援するファンの行動、特に熱心に経済支援を惜しまない活動を指して『推し活』と言うことが多いですね」


「古賀澤さん詳しいですね…」

 思わず口をついて出る。古賀澤さんはハッとした顔をしてから、少しはにかんで続ける。

「ソレはもう…私はずっと国木戸君推しですから」


「えっ?!」

 ふふっと笑う古賀澤さんの破壊力…

「アキラさんの積極性、私も見習わないと。私は国木戸君を異性として好ましく思っています」


「ちょっと待ったぁ!」


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