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天使と聖女は足元に転がる【赤い毛糸玉】に導かれる  作者: 黒船雷光


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37・国木戸家の過去と校長室の攻防

 校長室に集まっている人々は、神妙な面持ちで母の語る過去を聞いている。


「良い機会なので、健一にもキチンと説明するためにもお話します」


 エミリアが嫁いで地元でも昔から厄介者扱いを受けていた夫、健一の父は、地元に根付いた国木戸家すらその扱いに過去苦労して来た事もあり、放って置こうと不干渉でいたが、そこに美しい娘、しかも外国籍となり騒然となった。


 地元に根付く、つまり地域にソレなりの影響力を持つ地主的な立ち位置にあるため、血族としての結びつきは強い。

 その結束力と統率力は当然、権力と利権にさえ及ぶ。


 そんな中の鼻つまみ者が突然地元に縁もゆかりも無い外人とくっ付いてしかも継承者迄作るとなれば、のタレ死んでくれと放置もできず、取り込もうと動く。


 父は地元の荒くれ漁師達とは仲が良かったので、そのまま漁業組合に組み込んで監視下に置こうとするが、束縛を嫌う父からすればルールは破る為にあり、鎖は引き千切るものであった。


 一方妻であるエミリアも国木戸家の血筋として息子健一を迎え入れると強制され、強烈な違和感を感じた。


 家族が住むに困らないようにと土地と家も与えられ、さまざまな便宜を図ってもらえた。

 実家からも留学先で勝手に子供作って結婚等反対を受けて縁を切っていたので、素直に喜んだ。


 国木戸家は地元では名が通っている地主の血統であったが、長く続く系譜故に家長の権力集中と利権に溺れる風潮が次世代の台頭を許さず、結果跡取りがうまく育たず貧窮していた。


 故に健一をエミリアから引き離し管理しようと画策する。


 当初は違和感を感じつつも、夫の家族であるし、外様で文化的な違いだと受け入れようと努力したが、違和感は日毎に強くなり、夫の性格もあり、訣別する事を選ぶ。


 夫は独立して船を持ち、独自のルートで漁業を開拓に乗り出し、エミリアも勉強を再開して医者は無理でも看護師の資格を取って家計を支える算段を付ける。


 勿論簡単では無かった、家事育児に加えて資格試験の勉強…だが、エミリアは筋金いりの頑固者だった。

 父もそこに惚れ込んだのだろう。


 父母の努力は結果に結びつき、充分な独立性を持って世話になった手切金とも言うべきお金を積んで袂を分けようとすると、本家が急激に態度が変わった。


 この頃の事は僕も何となく覚えている。

 僕自身が他人を信じられなくなるキッカケだったかも知れない。実家の祖母の優しさと厳しさの両面の極端さが怖かった。


 そしてあの事故が起きた。

 葬儀は組合で盛大に行われた。

 そこには未だ当時地元地方議員だった桝村健太郎氏も弔辞が寄せられていた。

 親族は議員を中心に集まり、何やら相談していた。


 そしてエミリアにある提案をする。

 目の色が変わり、次に顔色も変わる。

 激昂するのは保険金の管理と健一の国木戸家の当主として向かい入れる養子縁組の話であった。


 血族の都合の良い立ち回りに縁が切れるなら保険金等手切金でくれてやるが息子は渡さないと言うエミリアに桝村議員が冷徹な宣告をする「不法滞在外国人として強制送還させる事もできる…と」


 エミリアはそんな家族血縁の縛りがあってたまるかと反論する。すると死んだ他の乗組員の慰謝料を請求すると、全ての保険金と権利を奪って借金だけがエミリアに残った。


 エミリアは逃げずに受けて立ち、借金と健一だけが手元に残った。


 ◇


 その話を聞いて、周囲の大人は黙り込む。


「何もかもう、無茶苦茶ですな…」

 アキラさんの父親が言う。

「その様な理不尽は、ヤクザの世界でも中々最近はお目にかかりませんな…」


「私は健一さえ居てくれればソレでいいのです」

 だからほっといてくれと言う主張は拒否と孤高と決意が滲んでいると思う。

 母が僕をを何より大切に思ってくれている、父親との想いがあるから名前は捨てないが、他は全てから訣別した覚悟に涙が滲む。


「分かりました…何かあれば、ご主人は知らない人間なわけでは無いので。何よりウチの娘の大切な…ご友人って事なので」


 その時少しだけ母の表情が動いた。


「千鳥…」「アキラです!お母さん!」「おかぁ…?いえ、アキラさん」

 食い気味に突っ込んでくるアキラさんに飲まれる母。

 普段、母が相手に飲まれることは滅多にない…ちょっと珍しいと言える。


「アナタは健一の事を、『友達』って言ってくださるのかしら?」

「勿論デス!むしろ結婚してお嫁さんになりたいくらい!」


 隣でヤクザ顔負けのゴツい千鳥誠治弁護士が飲みかけのお茶を吹く。

 千鳥さん…もとい、アキラさんは本気で言っているのだろうか?


「アキラ!パパは許さんぞ!」

「私が何でパパに無理を承知でこんなお願いしているのか少しは考えてよ!」

 意外と本気でした。


 母はそのやり取りを見て、僕を見てから言う。

「お互いが惹かれ合うなら私は止めません」

 え!?いや、流石に止めるとか…言わないけど、常識的な…いや、母は非常識を貫いてここに居るのだ。


「さっすがモンチ…いや、健一君のお母さん!大好き!!」

 抱き付かんと言う勢いのアキラさんを制して母は言う。

「私は『お互いが惹かれ合うなら』と言いました。健一?」


 突然キラーパスが来た。

 千鳥父の殺意とアキラさんの期待、周囲の興味の視線が集中する。

「え?いや、あの…」呆然と経緯を見送っていた僕は言葉に詰まる。

 アキラさんの事を差し置いても、この話し合いの中心に居るのは間違いなく僕で、当事者なのに僕は何も決断も判断も出来ずにいた。余りの事に混乱していたと言える。


「ぼ、僕は…未だ自分にさえ…せ、責任を、も、持つ事が出来、出来ないので…と、友達と言う今の枠組みから先が…想像出来ません」


「ほほう、腕っぷしは期待できないが、素直で心意気は良いな。娘が好ましく思う気持ちは分からなくない」

「でっしょーパパ、流石に分かってんじゃん。じゃあモン…健一君よろしくね。ちゃんと将来を見据えて友情の上に愛情を育てましょ!」

「アキラ調子に乗るな」


「そうです!アキラさん抜け駆け無しです!」乱入してきたのはいつの間にか姿が見えなかった古賀澤さんだった。


「校長先生、そこのモニターにはFOCUS写せますか?」


「え?いや…どうだろうか?」慌てる天野校長。

 すかさず黒木先生が「大丈夫ですよ…ほら校長、このケーブルをそっちに刺してカメラはそれ」

 テキパキとセットする。


「何だよはるかぁ〜抜け駆けなんてしてないって…」

 ちょっとおちゃらけるアキラさんを意に介せず、FOCUSにアクセスして誰かを呼び出す古賀澤さん。

 桝村会長も何処かに電話していて、バンドサインを古賀澤さんに送る。

 もう一画面呼び出し画面になる。


 ほぼ同時に壮年が二人画面に映る。

「おや、大臣…三浦の公安事業以来ですな」

「古賀澤建設の…」

 そして三画面目に映る僕らに目を移すと

「はるか、説明してくれるんだろうね?」

「宗一郎、そこに居るのか?」

 桝村大臣と古賀澤建設代表と言う超VIPがそこに映っている。


「手短かに行きますお父様。お父様は三浦の再開発事業に入札して大型案件として、それまで地元圧力で困難だった再開発事業を一手に担いましたが、その時の地元議員として桝村大臣に口利きをして貰い、地元住人の反発を説得して着手しましたよね?」

「十年前の話だぞ?」

「質問に答えて下さい。大臣もです」

「な、一介の女子高生に答える内容なのかね?」

 いきなり話を振られて少し驚く桝村大臣。


「父さん、政治家としての矜持もあるかも知れませんが、僕の友達も絡む大切な話です。国民のために働く事を政治家として掲げるなら、個人でも国民です」

 会長も食い下がる。


「言う様になったな…私も忙しい、時間も掛けられないから手短かに答えよう。答は『イエス』だ。父として息子の要望に、答えたと思ってくれたまえ」

「その土地の協力者は国木戸家では無かったですか?」

「「なっ?」」

 そのハミングが答だった。


 古賀澤さんが語る。

「公共事業は予算が大きく、ゼネコンは何としてでも着手したい。しかし、国の事業なので住人の反対があると強行は出来ません。そこで行われるのが地元住人への説明、説得です」

 古賀澤さんは桝村生徒会長に目線でパスを出す。

「う…あ、大概は地元の町内会等の組合との交渉になる事が多い。その際交渉条件が提示される」


「その時に元々地元の有力者だった国木戸家が先頭に立って交渉したが、他の住人を全て説得して委任状を書かせて全権持って交渉する事になった。しかし、その委任状を書かせるのにどんな手段を使ったのか?」

 古賀澤さんの独壇場だ…皆固唾を飲んで見守る。


「工事に入った際に国からは保証金が入るが、窓口独占の為の先行投資に使われたお金、ソレが…」


「あの人の保険金…」母はただ驚愕の真実を突きつけられ愕然としていた。


「私は、地元民の協力を求める立場にあったが、特定の民意にだけ優位に働くようなことはしていない…当時は大臣ではなく地方選挙区の出身でしかなかったから、ちゃんと向き合ったのだ…そこに誰かの犠牲があったなどという事実は私は知らない」


「いいえ、ご存じだったはずです…なぜなら、健一君たちの葬儀に参加されて弔辞も述べていらっしゃいますよね?その事実は残っています…この学校の図書室にも」


「な…そんなことを調べていたのか…君は?」

 そこを驚いて口をはさんだのは桝村生徒会長だった。


「そうして、地元住人の意見は合意がなされたとされ、湾岸の再開発計画および、駅前のショッピングモールの拡大事業が…父が受けることに成功した…他超王手ゼネコンを回避して、身に余る受注を古賀澤建設が受けれたのは…何かからくりがあった」


「おい、はるか!お前は何を言っているんだ?!何か証拠でもあるのか?」

「そのセリフ…探偵もので大抵犯人が口にするヤツですよね…」古賀澤さんは父親に対してさえ止まらない…


「直接的な証拠はありません…」

「はるか…探偵ごっこはその辺りにしておきなさい、お父さんはちゃんと真面目に働いてお前を育てているんだ…後ろめたいことなどしていない」


「ここに、建設発注書の写しがあります」

 古賀澤さんは一枚の写真を画面共有する。

 そこには美容院建設の為の『建築確認申請書』が写っている。

 申請書には古賀澤建設と古賀澤さんの父親の名前「古賀澤芳樹(よしき)」が記載されている。

 店舗責任者は「花鶴早苗(さなえ)」とある。

 するとおずおずと花鶴さんが古賀澤さんの後ろから校長室に入ってきた。


「おかさあんのお店は昔健ちゃんと一緒に通った学区内だったんだけど、ある日突然お店は引っ越すってなったの。そんなにウチ儲かっているとは思えなかったけど、子供だったから分からなかったんだ。でも私、本は好きだったから色んな本を読んで勉強したから…」


 花鶴さんの説明では丁度元のお店の場所が区画整理の立退要請の場所であった。みゆきちゃんのお母さんは当たり前だけど、最初は抵抗した。子供の頃から住んでいる土地だったし。


 結果的に国木戸家本家の脅迫めいた説得と、わずかな手切れ金…そして最後は古賀澤建設からの手続き含めた新しい美容院の建設支援「全てをお任せいただいたら悪いようには致しません」と地元よりも少し繁華街よりの良い土地に新規建築を店舗許可込みで行われた。


「そのこと自体は違法では無いのかもしれないが、地元住人の特定の一般人を介して利益関係が絡む取引は収賄罪などが成立する可能性がありますな…」

 弁護士でもあるアキラさんのお父さんが目をキラキラさせながら参入する。


 僕の家系は思っていた以上に色々問題を抱えている様だ…

「こ、この件に関しては以後弁護士を立てて対応させていただく」

 と目の前に弁護士がいる中で、古賀澤さんの父上と会長の父上も通信を切ってしまった。


 こうして【クマとも】の不思議な縁は親の代まで絡んで複雑さを描き出したが、結果的には母の「こういうのが面倒で全てを断ち切った」という一言で収束した。


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